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失恋して凹んでいたら異世界で聖剣の主になってしまいました!?  作者: ルビィ


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第1話 失恋しちゃった

 とある公立中学校の柔道場は放課後の部活の真っ最中だ。


 胴着をつかもうと伸びてきた右手を上体を捻ってかわす。

 その袖を引き込みながら相手の懐に潜り込み、畳を蹴る。

 次の瞬間、相手は綺麗な弧を描いて畳に激突していた。


「おおお~決まったー!」

「さすが莉央(りお)! 男子相手でも負けないよね!」

「えへへ……」


 褒められてまんざらでもない気分を照れ笑いで隠す。

 身体を動かすことだけは自信あるんだよね~。


 私は相庭莉央(あいにわりお)、中二。

 少しだけ夢見がちなごく普通の女の子だ。


「よーし、今日はここまで!」


 部長の声がひびく。

 柔道部の今日の活動は終了だ。


「莉央」


 少し開いた柔道場のドアから声をかける人影があるが、皆話していて気づかない。


「ったく手加減しろよ相庭。女子のくせに強すぎだろ!」

「何々? 私がめっちゃ強くてカッコイイってこと!?」

「ちげーよ!」


「莉央。相庭莉央!」


 今度は皆が振り返った。

 扉の前に立っていたのは私の幼馴染の橘颯太(たちばなそうた)だった。

 颯太はまだ二年生なのに生徒会長を務めるほどの優等生。

 長い前髪が眼鏡にかかってふわりと揺れる。

 汗臭い柔道場には不似合いな麗しい姿に女子から黄色い声が上がった。


「キャー橘くん!」

「貴公子様よ」

「橘先輩!」


 知的でクール系イケメンの彼は”貴公子様”などと呼ばれ女子に絶大な人気があるのだ。

 それもこの立ち姿を見れば納得するしかない。

 かっこ良すぎるんだよ。モデルか? 顔もスタイルも良くて頭も良いとかズルすぎだよね? どこから見てもいろんな意味で隙がない。


「颯太!」


 そんな彼に私は勢いよく駆け寄った。


「えっ、何で!? もしかして私がカッコイイからって見に来てた!?」

「は? 寝言は寝て言え。職員室に行ったら伝言頼まれたんだ。数学の宿題出してないのお前だけだとよ。留年したくなかったら今日中に提出しろ。以上」

「えええっ! あ、あんな難しいの皆もやってないと思ったのに! 嘘! 私だけ!?」

「あれが難しい? なるほど。なら留年した方がいいな。出す必要ないぞ。じゃ」

「ちょっ、颯太! 待って待って~!」


 クールな外見を裏切らないクールな対応に焦って背中を追いかければ、次の曲がり角の向こうで待っていてくれた。

 クールだけど、本当に冷たいわけじゃない。それくらい知ってる。

 だって幼馴染なんだもん。


 颯太は渋々ながら私の宿題に付き合って向かいの席に座っている。

 放課後の教室に今は二人きりだ。

 やわらかい風が窓から入り颯太の髪が少しだけ揺れる。

 眼鏡の奥では色素の薄い琥珀色の瞳が私の手元を覗き込んでいる。


 うん、やっぱりどこから見ても綺麗だなあ。

 貴公子様と言われるだけある。めっちゃ絵になる。

 特に少し俯き加減のこの角度、……いいなあ。

 ……などと思っていたら急に目が合った。


「おい、どこ見てる。解けたのか?」

「はっ、ま、まだ…ええとこれがこう…」


 焦って数学の問題に意識を向けながらもチラッと颯太を見上げる。

 睨まれた。


 口調はぶっきらぼうだけど、頼めば宿題も教えてくれる。

 颯太はやさしい。小さな頃に出会ってからずっと。


 私はそんな颯太がずっと大好きだった。


「終わった~! ありがとう颯太! 神! 何かおごるね!」

「……そんなことより迷惑かけないように勉強してくれ……」


 飛び跳ねて喜ぶ私を見て、颯太は溜息をついて前髪をかき上げる。


「じゃあこれ提出してくる。颯太ももう帰るんでしょ? 一緒に……」

「いや、俺は」

「あ、颯太くん、やっぱりいた」

 

 声で振り返ると、後ろのドアから私のお姉ちゃんが入ってくるところだった。

 姉の後には、三年生で生徒会役員の男子がついてきている。

 姉も役員なので何か生徒会の用事があるのかもしれない。


「お姉ちゃん?」


 二人は教室に入ってくると颯太に向き合った。

 姉はちょっと困り顔になって颯太に謝る。


「また莉央が迷惑かけてたんでしょ。悪いわね颯太くん」

「いや、それより予算案の修正どうなった?」

「一応できたけど生徒会長に確認してほしくて」

「ああ、もう終わったから今から行くよ」


 姉と颯太の会話に慌てて割って入る。


「あ、生徒会あったんだ? ごめんね! 付き合わせて」


 颯太と一緒に帰れると思っていたけど、生徒会があるなら仕方ない。

 残念がっていると、姉の隣にいる男子の小さなつぶやきが聞こえてきた。


「相庭の妹って……これ? あんまり似てないんだな」


 ……これ?

 見上げると男子の視線が胸のあたりにあるのに気づく。

 私は身長は高いけどハッキリ言って胸は全くない。ほぼ平らだ。

 一方姉に目を向けると、そこにはたわわに実った二つの大きな果実が……。


「ちょっ、どこ見て言ってます!?」

「わ、ちが、な、何も見てないよ! お、俺先戻るから!」


 怒り出した私を見て、失礼な男子は焦って教室から飛び出していった。

 ふと見ると、目の前で颯太が小さく吹き出して笑いをこらえていた。


「颯太まで何笑ってんのよ!」


 うつむいてまだ震えている颯太をかばうように姉が間に入る。


「まあまあ莉央、気にすることないわよ。まだ中二なんだからこれから大きくなるから」

「中一の時にはもうCカップだったお姉ちゃんに言われても説得力ないよ」

「え……?」


 おそらくCカップに反応してだろう、颯太が姉の胸に視線を向けたのを私は見逃さなかった。

 そして姉の鋭い視線が私に向く。


「莉央、乙女の秘密を男子の前で暴露しないのよ」

「何が秘密よ。見りゃわかるじゃん」


 ふくれっ面ですねる私。

 呆れて溜息をつく姉。

 まだ肩を揺らしている颯太。


「はあ……。じゃあ私たち生徒会室にいくから。気をつけて帰るのよ」

「はーい」


 二人を見送って、帰り支度をする。

 あの男子はともかく……颯太まで笑ってた。


 やっぱり颯太も胸の大きい子がいいのかな?

 だとしたら……私全然望みないじゃん!


 一人で鞄をかかえ教室を出ようと扉に近づいた時、廊下から複数の女子が話しているのが聞こえてきた。


「見た? さっきすれ違ったの生徒会長の貴公子様と役員の相庭先輩よね!」


 はっとして動きを止め、つい聞き耳を立てる。


「見たに決まってるよ~! も~どっちも目の保養よ。眼福。あの二人お似合いよね~」

「二人が付き合ってるって噂、本当かな」


 え!?


「そうとしか思えないって! さっきの二人の顔見たでしょ」

「やっぱりそうか。それで相庭先輩の妹がひがんじゃって、いつも二人の邪魔してるのね」


 は!?

 はああっ!?


「うん……今日も無理やり宿題手伝わせてたみたいよ。柔道部の友達から聞いたから間違いないよ。貴公子様は優しいから好きな子の妹に言われたら断れないもんね」

「やだ、貴公子様可哀想~!」

「そういえばさ、貴公子様って子供のころいじめられたことがあったらしいの。そのいじめっ子もあの妹だったんじゃない?」

「あー柔道場でよく男子のこと投げ飛ばしてるんでしょ。ありそう! きっとそうだよ!」


 女子たちの声が遠ざかって静かになっても、私はしばらく呆然としていた。


『あの二人お似合いよね~』

『妹がひがんじゃって、いつも二人の邪魔してるのね』

『無理やり宿題手伝わせてたみたい』

『貴公子様可哀想~!』

『いじめっ子もあの妹だったんだよ』


 嘘……颯太とお姉ちゃん付き合ってたの?

 確かによく一緒にいるけどあれは生徒会があるからで……。

 ううん。それは聞かなきゃわかんないからとりあえず置いといて!

 それより!


 ……私、邪魔してた?


 確かにさっきも宿題手伝ってもらったけど無理やりじゃ……。

 …………あれ?

 もしかして……無理やりだった?


 颯太のセリフを思い出す。

『……そんなことより迷惑かけないように勉強してくれ……』


 迷惑だった……?

 今までずっと……?


 ……私は颯太に勉強教えてもらって、嫌いな勉強も楽しかった。

 だから颯太も同じように楽しんでると思い込んでたけど……。

 考えてみたら、颯太は一言も私といて楽しいとか言ったことないような……。

 私が一人で楽しんでただけで、颯太は本当は迷惑だと思ってた……?


 今まで信じていた世界が足元から崩れていく。


 あり得る……。

 ていうか、改めて冷静に考えてみるとそうとしか思えない……。


 夕暮れの帰り道を一人でトボトボ歩いた。

 ぼんやりした視界に公園が見える。

 颯太と初めて出会った公園だ。


 あれは確か私が5歳の時だった。


 ・・・・・


 木の下に座っている男の子が見えた。

 初めて見る子だ。

 目がくりっとしてて、こんな可愛い子、今まで見たことない。


 可愛さに見惚れながら近づこうとすると、丁度その時に頭上の枝から毛虫が降りてきた。


「いやあーーー! ああ、あたし虫ダメー!!!」


 ちょうど顔の位置にきたそれに悲鳴をあげて飛びのきひっくり返った。

 男の子は目をまん丸にして驚き、立ち上がって私に手を差し伸べてきた。

 クスッと笑う。

 天使みたいに可愛い!


「小さい虫は怖いんだね?」

「だってだってだって…怖いもの! え? 怖くないの? すごいね君! えっと……」

「颯太。颯太だよ」

「颯太……。あ、あたし、莉央!」


 颯太の手を取って立ち上がると、男の子の顔がすぐ近くにある。

 そのとっても綺麗な目が私を見ていた。


「莉央ちゃん? 大丈夫。虫くらいなら僕が追い払うよ」

「本当……!?」


 王子様だ……!

 天使みたいな王子様が、私を虫から守ってくれる!

 私は憧れの眼で颯太を見つめていた。


 ・・・・・


 初恋だった。

 一目惚れだ。

 私は今でも虫だけは苦手だ。

 その大嫌いな虫をいとも簡単に追い払ってくれるという王子様。

 好きにならないわけがない。


 あの虫が出て来た記憶が強烈すぎてそれ以外は覚えてないのよね……。

 私がいじめてたとか言ってたけど、あんな可愛い王子様を私がいじめるわけないじゃん! ……多分。


 いじめてないよね……?

 そういえば、最初ちょっと怯えた顔してた気がするけど、まさか……ね?

 あ、でも昔ガキんちょどもを追い回してたことがあるようなないような……え?

 まさか……?


 ヤバい。だんだん自信がなくなってきた。


 もし……もしもよ、私がいじめてたんだとしたら……超最悪じゃん!

 私は自分のした都合の悪いことはすっかり忘れて、仲のいい幼馴染気取りで。

 そのまま同じ中学に行って、両想いまではいかなくても、まあまあイイ感じに付き合えてると思ってたのに!


 風が冷たくなってきた。

 じんわり涙があふれる。

 

 私は颯太がずっとずっと大好きだけど、颯太は全然そうじゃなかったんだ。

 私は、昔いじめてたくせに無遠慮につきまとってくる迷惑なだけの幼馴染で……。


「お嬢さん」


 お姉ちゃんに比べて綺麗じゃないし胸もないし頭も悪いし……。

 ああ、バカじゃないの私!

 どう考えたってお姉ちゃんの方がいいに決まってる!

 なんでそんな当たり前のことに気がつかなかったのよ!?


「あの~、そこのこの世の終わりみたいな顔したお嬢さん、聞こえてます?」

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