↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後悔

開いてくださりありがとうございます。本当に長いので少しずつ読んでください。

15歳にもわかる程度の下ネタが出てきます。(直接的な表現はありません)

読まないことをお勧めします。

兎に角暗いです。本当に暗いです。これは誰かの過去の話。

よろしくお願いします。

 お母さんはいつから帰って来なくなったんだっけ。

 妹は泣いてお腹が空いたと叫んでいる。僕はそれを宥めるしか出来ない。もし仮に僕がご飯なれるならいくらでも食べさせてあげられるのに。

 もう疲れた。お母さんはきっとそろそろ帰ってくる。

 その時ガチャリ音がした。薄暗いマンションの中に光が入ってくる。

 お母さんの声がする。この声はおそらく酔っているのだろう。そして相変わらず知らない男の人を連れていた。

「お願い。もうどうしようもなくて頼れるのは貴方しかいないのぉ。」

 またでた。泣き落とし。ねぇなんで気がつかないの全部、全部嘘なのに。またどうせお得意の泣き落としだろう?

「しょうがないなぁ。じゃあ今夜はいいよね?」

 気色悪い。二度と可愛い妹の前でそんな言葉を吐くな。

「うん!もうお金もなくてこのままじゃ子供達が死んじゃうから。」

 また嘘だ。本当は大量にお金がある。自分にしか使わないから僕らの分がないんだ。それにそうすれば泣き落としの効果だって跳ね上がる。

「〇〇ちゃんは本当にいいお母さんだね。」

 嗚呼、可哀想に。お前もきっと捨てられるよ。僕らみたいに、ゴミ箱に捨てるみたいに。

 こうやってお母さんは何度も繰り返していた。

 お父さんと離婚してからお母さんは僕達に冷たくなった。多分お父さんに浮気されてそのまま離婚して心が壊れたんだと思う。

 引っ越してからよく男を連れてくるようになった。何日も帰って来ない日だってある。当然お金なんて置いていかないからいつも腹が減っていた。

 お母さんにとってもう僕らのことは男を釣るための道具に成り下がったんだと思う。

 妹は腹を空かしてよく泣き叫んだ。でも食べ物なんて無いしお父さんにだって頼れない。

 こんな日常を続けていればいつか死ぬ。それがいつかなんてわからないけどただそれが怖かった。最悪妹さえ生き残ってくれれば僕は死んだっていいと思っている。

 学校なんていつから行っていないんだろう。友達は元気かな。給食だけでもいいから食べたい。

 いつの間にかお母さん達は寝室へ消えた。気持ち悪い。一度だけ隠れて何をしているのか見た事がある。吐きそうだった。

 妹だけには見せるまいと心に誓った。

 そうだ。僕にはやることがあった。

「お兄ちゃん、行かないで...」

「ごめん、行かないと生きていけないんだ。」

 香水のキツい匂いのする鞄に手を伸ばす。二人はきっと行為に夢中で気がつかないと思うけどなるべく音を出さないように移動した。

 鞄を漁って財布に手を伸ばす。お母さんは大体あまり現金を持っていない。だから沢山は取れないけれどせめて少しだけお金を抜き取った。盗むのはダメだって知ってる。だけどそうしないと妹を守れない。

「お兄ちゃん、盗んじゃダメだよ?」

「しーっバレるから」

 僕はそっと財布をしまって部屋の隅にいる妹のところに戻った。

「秘密だよ。」

「うん。」

 可愛いな。なんでこんなに痩せ細ってしまったんだろう。年齢は多分だけど7歳本当なら友達と小学校に行くはずだった。僕は何歳だったか忘れた。けどそんなことはどうでもいい。妹が笑顔で笑ってくれたらそれでいいんだ。

 しばらくして二人が出てきた。

「今日はありがとう。楽しかったよ。後でお金あげるからね。」

「うんありがとう♡また明日ね。」

 結局二人の間に愛なんてないんだろうな。彼にとって僕らが生きていようと死んでいようとどうでもいいんだ。ただいるから哀れんで良い人を演じようとしているだけ。赤い糸も運命もくだらないものに過ぎない。言うならば出まかせ。生きてきてそう思った。

 お母さんは男を見送る。するとさっきまでの笑顔が一変した。

「あーアイツまじキモい。金取れなくなったら終わりね。私可哀想すぎ、どっかに本当の恋なんてないのかしらどいつもこいつも体目的ばっかり。」

 この言葉を聞くのは何度目か。似たもの同士が集まって何やってるんだか。恐らくお母さんはまともな職にはついていないんだろう。帰ってくる時は大抵酒と香水の匂いしかしないのだから。

「お母さん、お腹空いたよ。」

 いつの間に動いたのだろう。さっきまで部屋の隅でじっとしていたのに今は母の近くにいる。危ない。僕は咄嗟に立ち上がって妹に駆け寄った。

「ああ!?大体アイツさえいなけりゃこんなことになってねぇんだよ!なんで私がお前らの面倒見なきゃいけねぇの!?とっとと死ねよ。この穀潰しっ!」

 テーブルの上に置いてあったグラスを投げつける。なんとか間に合った。妹に覆い被さって庇った。

「一丁前に庇いやがってっちっまぁいいお前らがいるから金が取れるんだ。ちっとは感謝してやるよ。そのまま餓死するまではなぁ!あははは」

 汚い笑い声だ。そうだ、お母さんを殺せば全部どうにかなるんじゃないか?いや、ダメだそんなことしたら妹が悲しむ。だけどいつか妹がお母さんを要らないと言える日が来たら絶対に殺してやる。

 僕はこの日そう誓いを立てた。


それから数日、お母さんとあの男はやっぱり言い合いになった。因みに殆どお金が取れなかったので買えたのは近所にあるパン屋の切れカスだけだ。

「綺麗なのは見た目だけ、だな。嗚呼気持ち悪りぃ。お前自分がいい女だと思い込んでるだろ?お前にそんな価値ねぇよ。」

「は?五月蝿いわね。最初から人として見てないくせに、とっと出てけ。」

 五月蝿いのはお前だよ。叫びやがって。

 本当にこれで何度目だ。また同じ繰り返し、そうやって傷ついたところに優しくされて入れ込んでまた喧嘩して。いい加減飽きないのか。

 兎に角余裕なんて無かった。こう言う日は大体殴られるから。妹を守ることしか頭にない。全くどっちが母親なんだかわからないな。


 そしてやっぱりお母さんは僕らを殴った。罵声を浴びせてキレて怒鳴って蹴って。散々言っておいてなんだがやはり怖かった。僕は中学一年生だったと思う。体は小さい方だったから大人になんて敵うわけなかった。

 痛い。昔はお母さんが大好きだった。だからそれだけ暴力を振るわれるたび罵声を浴びせられるたび心も体も痛くてしかたなかった。

 

 そうやって僕達は日に日に追い詰められていった。妹にも伝わったんだと思う。だから泣く日が増えてその分殴られることも増えた。

 ある日とうとうお金を盗んでいたことがバレた。怖かった。何が起こるんだろう。ただ震えて耐える事しかできなかった。

 ごめんなさい。あの時お母さんじゃなくてお父さんについて行けばよかったのかもしれない。お母さんが可哀想で一緒に行くだなんて言わなければこんなことにはならなかった。

 許してください。もう戻せない事ぐらい。分かってるんだそんなことは。

 妹は今までにないくらい泣いた。叫んだ。守れない。必死になって守ったって引っ剥がされてただ涙を流して見ている事しかできなかった。

 情けない。本当に自己嫌悪したってしょうもない、けどそれしかできなかった。


 それからしばらくお母さんは帰って来なかった。僕にとってはもう誰も信用できなかった。だから家に閉じ篭もる事しかできなくて全てが嫌になっていた。

 二日、三日と時間は過ぎている。

 冷蔵庫の中にあった何かで食い繋いだ。幸い母が帰って来ない日はテレビがあるので妹が暇だとぐずり出すことは無かったが僕は何もできなくて気が狂いそうだった。

 

 また一日が過ぎた。今日はお母さんが帰ってきた。しかも珍しいことに誰も連れていない。天地がひっくり返ったかと思った。だって普段僕らの前ではずっと機嫌が悪かったからなのに今日は本当に気分がいいらしい。

「ただいま。今日ね本当に優しい人と会ってね。運命だと思ったの。今度連れてくるね。」

 優しい。ここ数年で見たこともないほど優しかった。一体お母さんに何があったんだ。

 その日はお母さんがご飯を作ってくれた。駄目だ。あんなにも嫌いになったのにこんなちょっとの優しさでまた好きになってしまう。お母さんに甘えたい。

 だってまだ子供だ。本当に嫌いにはなれないんだろう。

 わかってるのにそんな日が長く続かないことくらい。長く続いたとしてそれがいつか壊れる日は来ると言うのに僕はお母さんを恨めなかった。

 次の日お母さんはその人を連れてきた。今までの人とは違う普通の人。チャラくも気持ち悪くもない。

 その人は僕らの前に屈むと優しく言った。

「君たちのお母さんとお付き合いしています。よろしくね。」

 頭を撫でる。この人は違う、そう感じた。

 その日は気持ち悪いこともせずにただ話をして帰っていった。お母さんの顔つきも違う。少し若返ったみたいだ。恋するとはこういうことなのか。

 久しぶりに布団で寝た。

 次の日もその次の日もその人は来た。

 お母さんは幸せそうだった。

 その人は僕らにも優しかった。妹は玩具だって貰ってた。ご飯だって食べれるようになった。母は見違えるようになって昔の生活に段々と戻っていった。妹玩具で遊んで僕は迂闊だと思いつつその人を信用していった。

 愛が欲しかった僕にとってそれはもう幸せだった。

 きっと今回は上手くいく。これでやっと普通の生活に戻れる。そう思っていた。

 僕は笑顔にようやくなれそうなのに妹はあの人を避けるようになった。正確には怯えるようになったと言う方が正しいのかもしれない。

 僕には原因がわからなかった。なにか嫌なことをされたのかと聞いても

「お母さんが悲しくなっちゃうから」

 といって全然話してくれない。

 気がついたのはあまりにも遅かった。妹は自分が何をされているかもわからず被害に遭っていたんだ。

 ごめんなさい。赤の他人なんて信用するもんじゃなかった。ただお母さんが幸せそうにしていてそれを壊したく無かったんだろう?それで黙ってたんだろう?ごめんなさい。

 どうしようもないほどに自己を嫌悪した。

 なんでわかったかなんて妹から目を離していないからなにかあるなら夜だと思って起きていたんだ。

 最悪なのはそれをお母さんも知ってて流してたということだ。

 妹はあの男の人に寝室へ連れていかれた。覗かなくても音が聞こえる。耳を塞ぎたくなった。これを毎晩続けているのかと思うと悪夢でしかない。

 妹の甲高い悲鳴が聞こえる中、ただ独りで寝室の扉を見つめる事しかできなかった。

 妹が苦しんでる中自分が呑気に寝ていたのだと考えると恐ろしくてたまらない。

 妹は守ると決めたんだ。僕が死んででも守らなきゃそう思って日が登って降りて夜中僕は男の人に言った。

「妹の代わりに僕がやります。だから妹には手を出さないでください。」

 妹は奥で震えている。僕は男と妹の間に入って言った。

「アンタ何言って...」

 お母さんが怒った声で僕を見る。ここ最近は機嫌がよかったからこんな顔で見つめられるのは久しぶりだ。

「大丈夫。君のことはずっと気になってたんだよ。女の子見たいで可愛いからさ。」

 そう言って僕の長い髪に触れた。怖くて動けない。だけど決めた事だ。逃げたくない、もう逃げられない。

 僕は背中を押されて寝室に入った。妹が後から叫んでいる。お兄ちゃんと呼んでいる。

 子供紛いで申し訳ないけど大丈夫。君のことは絶対に守ってみせる。だから泣かないでくれ。大丈夫。僕がいるから。

 人を救った、そう思って耐えた。

 気持ち悪かった。痛かった。

 記憶がほとんどない。

 彼をほんの一瞬でも信用したのが愚かだった。でも大丈夫、夜はきっと明けるから。大丈夫、朝は来る。そうすればきっとこの地獄も終わる。

 結局愛なんてなかったな。

 もう大きくなったんだわかってたそれくらい。ただ少しだけ希望を持ったんだ。

 こんな世界で育つ妹はもっと大変だ。僕はちゃんと愛せているのか自信はないけどせめて少しだけ救いがあったっていいだろう。

 僕は意識を途中で飛ばした。

 朝になったらちゃんと服を着て布団で寝ている。隣には妹が寝ていた。少しだけ寝息を立てて愛らしいと思う。

 一瞬夢だったんじゃないかと思った。今この家には僕達以外誰もいない。

 本当なら君となんてことない普通の日々を過ごせていたのに。そんな日々を過ごしたかったと心から思う。

 何度目かわからないけれど

「ごめんね」

 と妹に謝った。そっと頭を撫でる。これでいい。ちょっとずつ普通に近づいてきている。僕が、僕さえ我慢すればいい。僕が耐えれば妹はきっとまた笑える。

 僕はその日から地獄に耐え続けた。

「はぁはぁ、はぁ...。」

 駄目だ。怖い。

 毎回のように飛ぶ意識それを半ば無理矢理起こされてまた地獄が始まる。

 男が僕の髪を触るたび、耳元で囁くたび。鳥肌が立つ。恐怖で腰が抜けて動けない。

 いつの間にか日は飛んでいて平和な昼がやってくる。

 ただ妹は日に日に元気になっていくことは確かで。唯一の救いと言っても過言ではない。

 でもそれだけじゃどうにもならなくて精神はすり減っていく一方だ。

 お母さんは料理を残していくようになったけど僕はそれを食べる気にはならなかった。

 それどころか無理矢理食べても苦しくなって、妹にバレないように洗面台で吐いた。

 お母さんはなんであんな男と一緒にいるのだろう。子供の体を差し出しておいてなんとも思わないでいられるのか。

 いや彼女にとって僕らは彼女の道具にすぎないんだ。ただ相手の機嫌を取るための玩具でしかないんだな。何もかも嫌になりそうだ。

 大人ってなんだ?

 汚れた僕は大人になったのか?

 こうなったのも全部自分のせいだ。

 

 お母さんと妹の関係は本当によくなった。偽善にしか見えないやり取りをしているなか僕は不埒なことされている。

 こんな未来だと教えられずに生きた僕が悪かったのか。

 ずっと後悔している。

 生まれてきてごめんなさい。

 息をしていてごめんなさい。

 

 どれだけ懺悔したって神なんていないんだろう。救ってなんてくれないんだろう?

 だって夜は来てしまうから。

 



 いつからだ。いつから妹のことを純粋に愛せなくなった?

 始めて体を売った日からどれぐらいたった?

 妹とお母さん、それにあの男は本当の家族のように毎日を過ごしている。当然僕も普段は普通に過ごせてる。ただ学校にはいけないし、お母さんは妹がいない所では僕のことを穢れてると言って罵った。僕がやなきゃ昔みたいになるくせに。

 でも僕は単純だから偽りだとわかっていても妹の前の母が好きだった。

 昔があるから完全には嫌いになれなくてそれが嫌だった。

 妹は両方から愛情を貰って何一つ不自由なく過ごしている。疎ましいなんて口が裂けても言えない。妹は僕が代わりにやってるなんて微塵も知らない。本当になんのためにやっているだ。馬鹿みたいじゃないか。

 違う、違うのに本当なら笑っていてくれるだけでよかったのに、いつから自分はそんな強欲になったんだ。

 愛おしい、はずなんだ。

 命に代えても守りたいはずなんだ。

 はずだったんだ。


 今は少しでも早くこの地獄から解放されたかった。偽りの平穏を手に入れたところでどうせ崩れるんだから。

 許して、誰でもいいから一瞬でもいなくなってしまえばいいなんて思わなければよかった。

 僕は殴った。

 妹を。

 きっかけは些細なものだった。ただ少し意地悪をされただけ、いや、意地悪なんかじゃないただの気づかいだ。ろくに食べられない僕のことを気遣って無理にでも食べさせようとして…

 嗚呼、なにをやってしまったんだ。

 当然僕は怒られた。久しぶりに殴られた。

 痛い。

 だけど殴られた瞬間の妹の絶望した表情が一番痛かった。

 やってはいけないことをやってしまった。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめっ」

「あんたのせいで!嫌われたら、どうすんのよ!ごめんね。痛かったよね。お兄ちゃんのせいでね。」

 僕を殴った。妹を目の前で抱きしめた。妹は痛いのか悲しいのか泣いている。僕のことを抱きしめてくれたのなんてもう記憶にないくらい昔だというのに。

 おかしくなったんだ。

 許してくれなんて言わない。許されることじゃないから。妹はなにも悪くない。本当に何も悪くない。

 もうしない、もうしないよ。

 ねぇ言えたよ。ちゃんと謝れたよ。見て、お母さん。

  


 結局僕はその日、妹に謝れなかった。

 何か言おうとしても言葉が出てこなくて、無条件に愛してくれた唯一の人から嫌われるのが怖くて口は開いたのに喉から音が出なかった。

 ごめんなさいと謝れなかった。

 怖かったんだ。いつも口押さえつけられて無理矢理舌を絡めてくるから。思い出して怖くて反射で殴った。

 いつもだったら勝てないわかってるから何もしない。ただ相手の機嫌が悪くなって妹の幸せが壊れないように相手が喜ぶようにした。

 その日だってまた被害に遭って。

 苦しかった。

 痛かった。

 もうやだよ。

 誰でもいいから助けてよ。

 お母さん。


 首を絞められた時はどうしようかと思った。まさかそんなことされるなんて思わなかったから。

 死んだらどうするんだよ。

 きっと山にでも埋めるんだろうな。

 もしかしたら学校の先生とか行ってたパン屋の人が気づいてくれないかな。

 ないな。そんな事。

 横見る。いつも寝ているはずの妹がいない。

 先に起きたんだろうか。珍しいこともあるものだ。

 昨日は悪い事をした。謝ろう。

 いつも寝ている部屋からリビングに行こうと扉を開ける。

 言い争ってるのだろうか。声が聞こえる。お母さんの声、それは罵倒したりとかそう言うものじゃなくて懇願するように聞こえる。

 扉を全ては開けないで少しだけ開いて様子を見た。

「いやぁあ!お母さん、助けて!」

 妹が叫んでる。手を掴まれて引きずられるような形で妹は必死に抵抗していた。

「お願いこの子をあげたらまだ一緒にいてくれる?」

「いいよ。ただあの子はまだ殺しちゃ駄目だからね。僕の玩具なんだから。」

 あの子って誰だ?僕か。

 最早名前ですら呼ばれないんだな。

 妹からもお兄ちゃんと呼ばれているから名前を呼ばれたのは本当に昔だ。

 覚えている名前があってるのか怪しくなってくる。

「あの子はもう駄目よ。殆ど食べないもの。」

 多少は気遣ってくれているのだろうか。道具としての価値がないからやめろと言っているだけか。

「大丈夫、突然変異はそう簡単には死なないから。一緒にいたいんだろ?だったらわかるよね?

 そんな必死になるなよ。大丈夫、このまま何もなかったら結婚だって考えてあげる。」

「本当に?お願いよ。もう貴方しかいないの。ちゃんと私のことを見てくれる人は貴方が初めてだから。」

「愛してるよ。」

 今までのような嘘のお願いじゃない。本当の懇願。

 どうしてそこまで心酔するんだろう。僕は彼らの関係を微塵も知らない。お母さんは自分を愛してもらう為に僕らを使ってるんだろう。だけどあの男が求めているのは僕ら子供だ。

 そんな場合じゃない。

 妹が連れていかれそうになっている。どうしよう。

 あれ、でも、


 妹がいなくなれば僕はもう耐える必要がないんじゃないか。


 何を言ってるんだ自分は。違う、そんなの許されるわけない。

 妹は何も悪いことなんてしてない。

 寧ろ僕にとって心の支えだった。

「お兄ちゃんっお兄ちゃん助けて!お兄ちゃん!」

 見ている僕に気づいたのか妹は叫んだ。

 僕が行ったって助けられるわけない。

 どうすれば。

 お母さんはこっちにきて無理矢理開いた扉を閉めた。

 お兄ちゃんと呼ぶ声がどんどん遠ざかる。

 どうして僕は何もできないんだ。

 恨めしいなんて嘘だ。こんなに泣き叫んで僕を読んでいる。

 ごめん。

 いつの間にか歪んでしまったんだ。

 君がいなくなってようやく気づいた。

 上っ面の平穏は一瞬の幸せは君がいたから成り立っていた。

 いなくなればいいなんて一瞬でも思ったことを後悔している。

 あいつの家で君は無事なのだろうか。

 そんなはずない。

 何もできなかった。

 会いたい。

 ごめんねだって言えてないんだ。あんな酷いことしてもお兄ちゃんって呼んで頼ってくれたのに僕はそれを裏切った。

 ごめんなさい。

 戻せない。戻せるならいくらだって昔に戻したい。

 でも駄目なんだ。


 君がいないから僕はなにも出来なくて扉の前で独りただ待ってる。

 君は帰って来れるのか?

 いなくなったからわかる。君がどれだけ僕にとっての救いだったか。

 細い平和を少しでも笑顔にしてくれてありがとう。

 神様ごめんなさい。僕が強欲だったから妹を取ったんですよね。もうそんなことはしないから、

 どうか妹を返してください。


 僕はもう笑えなくなった。

 鏡を見て映るのは生気のない瞳だけ。何も食べてないというのに痩せる細ることはなくてそれがすごく気持ち悪かった。

 妹を取ったの言うのに男は毎晩やって来た。

 返してくださいと言っても聞く様子はない。

 何もないか苦痛かの二つしかない。

 自分が生きているのかわからなくなった。

 妹がいなくなった今自分はなんの為に生きているんだろう。

 このまま生きていてもいつか飽きられて殺される。

 期待を込めて生きたのにそれは一瞬でも叶うことはなかった。

 なんの為に生きればいい?なにを希望に生きればいい?謝っても戻ってこないモノがある。

 昔の生活も妹もきっと戻ってこない。

 それからはもう死んだように生きていた。

 

 数日経って、流石に男も飽きたのかつまらなそうな顔をした。

 僕の命ももうそろそろ終わりだろうか。

 どうやって死ぬんだろう。いつも見たいに首を絞められて殺されるのか後は餓死するか、刺されるか。

 痛くないのがいいな。

 もうずっと痛かったから。

「君の妹は生きてるよ。大丈夫なにもしてない。ただ幸せに生きてるんだ。どうだい?これで少しは遊んでくれるかな?」

 嘘だと思った。どうせ嘘だ。期待なんてするもんか。

「信用して欲しいんだけどなぁ。ね?」



 次の日から男は写真を持ってくるようになった。

 日にちを確認する限り間違いない。妹は生きてる。更に男は言った。

「後一週間耐えたら合わせてあげるよ。」

 謝れる?妹に、ごめんなさいと伝えられる?

 細い希望が降って来た。

 無視できなかった。

 懇願するように言った。

「お願いします。僕頑張るから、だから、どうか、妹に合わせて。」

 あと七日

 六日

 五日

 .

 .

 .

 日数は経った。

 今日だ。

 会える。

 頑張った。頑張れた。ちゃんと耐えたよ。

 お母さんと男が目の前にいる。

 なのに妹はそばにいなかった。

 

 なんで?嘘だったのか?

 そこで気が付いた。またやってしまったと。

 追い詰められた状況で少しでも希望が見いだされたらそれに縋ってしまう。

 理性では駄目だってわかってるのにそれを止める術を知らなかった。

「妹は!?嘘だったの?」

「違うよ。」

 男は大きなスーツケースを持ってくる。無骨で大きい。背丈の小さい子供なら入りそうだ。

 男はやけに笑いながらスーツケースを開ける。

「う、そ…。」

 中にいたのは無理やり押し込まれた形跡のある妹。

 問題はそこじゃない。

 胸には包丁が刺さっている。凝固した血が現れて生まれて初めて嗅ぐ死臭がした。

「そんな…死んで…違う、なんで。」

 力が入らない。その場に崩れ落ちる。

 だけどなんとか這って妹の近くまで行く。

 目には涙を流した痕跡があった。

 痛かっただろうに。怖かったよな。

「もう、死体なんて処理大変じゃぁん。」

 お母さんが言った。何故か顔には笑みがこぼれ出ている。

「僕がどうにかできるから。約束だ。結婚、してあげてもいいよ。」

「やったぁ。よかった。あのうざい餓鬼でも私の役に立てるんだね。これで本当に家族だわ。」

 それは嬉しそうに、大変嬉しそうに、”彼女”は言った。

 嘘だ。嘘だ。嘘だ。

 現実じゃない。きっと夢だ。

 死んだ?妹が?

 なにかの冗談だろう。

「ほら、会えたよ、。よかったね。」

 絶望とはこういう時に使うらしい。

 嗚呼、死んだんだ。本当に失ってしまったんだ。なにもかも。

 息の仕方すら忘れる。現実なんて理解できなかった。

 ごめんなさい。あんな別れ方して、助けを求められても助けられなくて。

 なにをすればいい。なにをすれば許される。

 絶望した僕の顔を見て男は笑った。

「その顔が見たかったんだ。」

「ちょっやばすぎ。」

 いかれてる。

 こいつが殺したのか、妹を。



 もういいよな。

 兄ちゃん頑張ったよな。



 妹の体に刺さった包丁を抜いた。包丁越しに伝わる感触が気持ち悪い。

 楽しそうに二人は話している。

 そっと近づいて男の心臓があると思わしき場所を刺した。

 血が飛びる。感触が伝わる。

 気持ち悪い。

 ただただ気持ち悪い。という感想しか出てこない。

 その後のことはあんまりよく覚えてない。

 怒りに任せて刺して刺して、抵抗されたはずなのにそんなの気にならないくらいその時は力が出た。

 勝てるはずないのにいつのまにか血塗れになった部屋の中心に僕は立っていた。

 女は叫んだと思う。

 男よりは簡単だった。五月蠅かったのは問題だ。腰が抜けたのかほとんど動かなかったし楽と言えば楽だった。

 妹の死体を見た時はなんともなかったくせに。妹のことを人間として見ていなかったのか?


 さようなら、お母さん。


 妹のそばに行く。冷たい。心臓だって動いてなかった。

 夢じゃない。本当に死んでしまった。

 生まれてごめんなさい。

 こんなことになるんだったら最初から産まれてこなければよかった。

 僕のせいじゃない、そう思うしかない。

 けど本当はわかってる。全部僕が招いたことだ。

 なにも残ってない。

 全部崩れて無くなった。

 神なんていなかった。

 できることはそう多くない。

 玄関が叩かれている。大きな声もする。

 妹がいくら泣いたって誰も来なかったくせに。

 きっと通報されてるんだろうな。

 僕は犯罪者にでもなるのだろうか。そうして生きたとしてなにがある?

 なにもない。

 生きる理由がなにもない。

 僕はきっと地獄に行くから君はもう会えないね。

 さようなら。

読んでくださりありがとうございました。数々の作品の中から見つけてくれてありがとうございます。

この男の子は異端者共の両奇譚に出てくる誰かの過去です。

よければ本編も読んでみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。