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恋の味

グロテスクな表現を含むのでそこは注意です!終始どろどろとしています。

ホラー(?)とドロドロ恋愛です。

耐性がある方宜しくお願いします!

  僕はただ平穏に生きる大学生。僕には心から溺愛する彼女がいる。大げさかもしれないが”命を掛けて守れる”と言い切れるほどには愛してる。彼女は優しくて可愛くて聖人君子とまではいかないかもしれないが僕はこれ程良い正確をしている人を見たことがない。そう、こうして今目の前で笑っている。彼女のことだ。

「どうしたの?耀(よう)くん?」

「あっなんでもない。ごめんちょっとぼーっとしちゃって...。」

 つい彼女に魅入られて話を聞くのを怠ってしまった。いけない、こんなのでは彼氏失格だ。

「ふふっ最近暖かくなってきたからかな?なんだか私もふわふわしちゃうんだ。」

 そんな僕を今日も彼女は柔らかい笑顔で返してくれる。

「そっか。ごめん、それでなんの話しだったけ?」

 なるべく傷つけないように聞き返す。

「お店、私の友達が紹介してくれたんだ。」

「お店?」

「そう、最近できたカフェ?らしいんだけど有名な土地にあるのに全然人がいない穴場なんだって。」

 嬉しそうに話す彼女を見て可愛いなと思いつつ僕はそんな店あったか?と思考を巡らせた。そして人がいないというのは穴場ではなく単純になにか欠点があるからではないかと考えた。嬉しそうにしているのに申し訳ないが未来で彼女が落ち込む姿なんて見たくない。たとえ今ここで彼女を傷つけることになっても言わなければ、僕は勇気を出して言う。

「いいね。でも、それはなにかお客さんが嫌な思いをして来なくなったっていう可能性はない?」

 そういうと彼女はまたニコリと微笑んで、言うと思った、となんだか得意げに言った。

「大丈夫、その友達も行ったけど普通に店員さんも優しくて、料理も美味しいんだって。嗚呼、勿論写真映えもするらしいよ。」

 彼女は写真を僕に見せた。フレンチカントリー風の店内は程よく日差しが差し込んでいて明るい。確かに雰囲気は良さそうだ。僕の勇気はただの灰と化してしまったが良さそうな店が見つかってなによりだ。

「と、言うことは...」

「連れてって!」

「勿論さ!」

 彼女の頼みとあらばそれを叶えない道理はない。僕は即決で決めた。

 その後集合場所と時間と日にちを決めて僕達は授業に戻った。


 それから土日になって約束の日がやってきた。

 僕は最寄りの駅の出口で彼女___紗英(さえ)を待った。

 それから数分後、聞き慣れた足音が駅の階段を登ってきた。

「耀くん、おはよ。」

「紗英、おはよう。早かったね。」

 いつも僕は集合の十五分前には来るようにしている。だから今日紗英が来るのはかなり早いと言える。それだけカフェに行くのを楽しみにしているのだろうか。

「うん、耀くんと行くの楽しみにしてたんだ。」

「それじゃあ行こうか。」

歩くたび彼女の甘い匂いがする。なんだがドキドキして手をそっと握ると彼女は優しく握り返してくれた。僕はとても嬉しくなった。恐らく世界中を探してもこれ程の幸福はないだろう。

 僕達はそのまま大通りを歩く、暫く歩いて彼女は

「ここを曲がった所だよ。」

 と教えてくれた。一等地である場所に立っているので土地代は相当なものだろう。経営は回っているのだろうか...。

 そうして手を繋いだまま僕は半ば彼女に引っ張られるようにしてついて行った。

 そこは裏通りというには広いような、表通りというには暗い場所だった。しかし上から日差しが差し込んでいて外観は写真通りという印象だ。

 眼の前まで着くと手を離し扉を開ける。ベルがチリンと音を立てた。僕は中に入るのではなく扉を開けて彼女を先に中に入れる。大好きだからこそこういう配慮を忘れたくない。彼女が中に入った後続いて僕も中に入る。店内はこれも写真通りで本当に映えそうな店内だ。

「いらっしゃいませ。」

 中にいた店員らしき人が声をかける。中は横にカウンター、奥に調理室となっていて右側にはおしゃれなテーブルや椅子が並んでいた。横の窓からは光が入ってはいなかったが時間帯の問題だろう。それに天井にある天窓からは溢れんばかりの光が差している。

「二人で、」

 僕は二人と表すように指を二本立てて言った。

「お好きな席へお座りください。」

 店員さんの声は少し冷たいような落ちつた声で、優しい口調のはずなのに恐怖感を感じてしまうような声だった。静かさを感じるような声色だからだろうか。

 僕達は店内を見渡す。席はいくつかあってそれぞれおしゃれだが僕はある一点に視点が入った。

「あれ、カップル席だって。」

 そこにはカップルのお客さん専用と書かれた紙が置いてある席があった。その席だけは木目調ではなくアイアン製だ。アイアン製と言っても無骨な感じではなくお洒落な雰囲気に仕上がっている。少し特別感があると僕は感じた。

「本当だ!私達にぴったりだね。」

 彼女はそれを見ると嬉しそうに軽く飛び跳ねた。そしてウキウキした様子で席に向かった。そして僕達は彼女を奥に、自分は手前側に座る。テーブルの下にはアイアン製の荷物置きもある。配慮が行き届いて心地よい。それにアイアン製とは珍しいとも思う。僕達は自然に荷物を置いた。

 それを見届けたからか先程の店員がこちらに向かってくる。どうやらここの店員は彼女一人だけのようだ。人がいないからこそできるのだろう。

「お越しくださってありがとうございます。当店メニューというものが無くてその日のセットだけとなっていますがよろしいですか?」

 よく見ればその店員はどこかの制服の上からエプロンをしているだけだった。

___学生?バイトか?

 気になって見ていたらまた話しを聞き逃すところだった。

「あっはい。あの、因みにお値段はいくらほどで?」

 目を瞑って作り笑いを浮かべている店員は一瞬真顔になる。店の雰囲気はいいが店員がいまいちだな。そう思ったがその真顔は怖さもあるが美しさもあって少し惹かれてしまう。

 それを見つめていると視界の端で頬を膨らませている彼女が目についた。僕は直ぐ様ジェスチャーで謝ると再び店員に目を向けた。今度はちゃんと会話をするために目を合わせる。

 気づけば店員は先程の作り笑いを浮かべている。やはり不気味だ。

「お代は結構です。」

「え?」

 思わず聞き返してしまう。

「ダダ...ということですか?」

「はい。」

 怪しい。

「なにかイベントってことですか?」

 紗英が口を挟む。

「まぁ、そんなところでございます。以上でよろしいでしょうか?」

「はい。」

 僕がそう告げると店員は丁寧に頭を下げて奥の調理場へ下がった。


「ねぇ今のうちに写真取ろうよ。」

 おかしい、調理場から音がしない。さっきの店員といいなにか怪しい。いや、しかし怪しいだけでまだなにも害悪があるわけじゃない。折角紗英が嬉しそうなのにそれを崩したくなかった。

「あっ嗚呼、そうだな。」

「どうしたの耀くん?さっきからなんか暗いよ?気分悪いなら帰ろうか?」

 彼女が心配そうにこっちを見てくる。可愛い。

「なんでもないよ、ちょっと店員さんが怖くて...。」

「大丈夫だよ。ちょっと人付き合いが苦手なだけだよ。」

 彼女が言うならそうなんだろう。一旦気にしないことにして僕は彼女の写真撮影を手伝った。

 暫くして料理が運ばれてきた。その頃には僕達は写真撮影を終えてお互い席に座っていた。美味しいと聞いたからどんなものかと思えばそれはとても目に入れられるような代物ではなかった。

「...。」

「美味しそう!」

 彼女は美味しそうなものでも見えているのだろうか、手を合わせ目をキラキラとさせている。

 眼の前に置いてるのはどう見ても人間が食べて良いものじゃない。グロテスクな物体。見てるだけで吐き気がする。遠目で見ればそれはパスタかなにかに近いかも知れない。だけどそれは血管のようで血のようなものが絡まりついて上には髪の毛らしきものが散らばっている。それはなんだかベチャッとしていてあまり嗅いだことがない鉄の匂いがした。

 これはやばい。警察に電話...体を動かそうとして気がついた。

 動けない。呼吸はできてる、目も動く、だけど手足は動かなかった。逃げられない。せめて口を動かして彼女に危険を伝えようとする...が僕の口から出たのは逃げろという単語ではなく。

「美味しそうだね!」

 何故だ?僕は焦る。どうしよう、こんな物を口にした時には人間終了だ。

「どうかされましたか?陦?邂。繝代せ繧ソ繧ェ繧ケ縺ョ陬ス縺ァ繝医ャ繝斐Φ繧ー縺ォ縺ッ繝。繧ケ縺ョ鬮ェ縺ョ豈帙r菴ソ逕ィ縺励※縺翫j縺セ縺吶?。」

 なんと言ったのか僕にはわからない。けど確実にヤバいことだけはわかる。店員は貼り付けた笑顔のまま理解不能な言葉を言い切った。そして全ての言葉を言い切った後目を開くその目は真っ黒いはずなのになにかが渦巻いていて吸い込まれるような感覚になった。これ以上彼女を見ていては自分が持たない、そう思って目線を逸らす。僕の不安を煽るように明るかった空は曇天になった。空の鳴る音がする。

 僕はなんとしてでも食べるまいと思って動かない体に力を入れる。

「大丈夫です。ちょっと緊張してるみたいで...。」

「そうですか。ではごゆっくりなさってください。」

 店員は身を返して調理場に戻っていった。

「いただきまーす。えっ凄い美味しい!」

 僕が食べるまいとしている間に彼女はそれを口に運んだ。鉄の匂いが一気に広がる。本当になにか別の物に見えているようだ。

 すると何故だろう、体が勝手に動いた。手は一緒に運ばれてきたフォークを手にとってその血管を巻き始めた。

 嫌、嫌だ。食べたくない、やめてくれ。

 そう必死に叫んでも体は言うことを聞かない。僕は成す術なくそれを口に運んだ。

  口の中を噛んだ時の血の味、あれの何倍もの味が口の中に広がる。やはりべちゃべちゃとしていて血管を噛み切った時の食感がなんとも言えない。口の中に髪の毛が張り付いて噛み切れない。まさに地獄の心地だ。しかしそれは止まることはなく次、また次とそれは口の中に入る。飲み込んだその度に僕は吐き気を催した。体が動かないから吐くことはないがそれが食道を通って胃に入るのがわかるぐらい不快さがある。

「耀くん美味しいからって食べすぎ!もっとゆっくり食べようよ。」

「ははっごめん。美味しくてつい、」

 駄目だ。止まらない。こんなモノをゆっくり味わった方が不快だ。

「あっそうだ。この間の授業でねー。」

 彼女は笑って話しをしながら食べ進めていく。話す時に時折見える口の中は血で真っ赤に染まっていた。


「あーあ。食べ終わっちゃった。次の料理、なにかなー?それにしてもラッキーだよね。こんな美味しい料理ただで食べられるだなんて。」

「そうだね。友達さんに感謝しなきゃ。」

 やっぱり駄目だもう僕が僕じゃないみたいだ。僕は抵抗することをやめてできるだけ早くこの地獄が終わるのを待つだけだ。

 

 食べ終わったのを見計らったように次の料理が運ばれてくる。

 紗英はまた楽しそうに話しながら食べていく。僕は話しが全くわからない、だけどこの体は勝手に答えていった。

 次に来たのは血が絡まった生肉とそれと一緒に串に刺さった目玉。

 その次は肺の中に内臓を詰めたなにか、それの次は骨髄の上に生爪が散らばったモノ。

 それを美味しいと言って僕と紗英は永遠に食べ進めていった。いつまでこの地獄は続けばいいんだろうか、そう思っていると紗英が言った言葉が耳に入る。

 「次で最後だって。」

 よかったこの地獄から解放される。その後は警察に駆け込んで保護してもらおう。相手は一人だ。恐らく逃げられない。次だ、次さえ終われば...

 様子が変だ。今まで楽しそうに笑っていた紗英の顔が真っ青になる。どうしたんだろう。そう思っていると彼女は口元を押さえて立ち上がる。

「ごっごめん。耀くんちょっと御手洗い行って来る。」

 紗英はそれを言い終わらないうちにトイレに向かって駆け足で行った。

 もしかしたら紗英は今この現状が見えるようになったのかも知れない。そう思っていたら体が動くようになった。手を軽く握る。動く。よかった。次なんて待てない紗英が帰ってきたら今すぐにでもここを出よう。

  きっと彼女はすぐ出てくるだろう。そう、思っていた。

___来ない?

 それから二十分近くも経ったのに一向に出てくる気配がない。それに店員の気配もなくなった。僕は逃げられる準備はいつでもできている。店員がいないということはこの隙に僕だけでも逃げられれば警察を呼んできてどうにかできるのではないだろうか。だけど僕は思い出す。

「紗英のことは命に変えても守る___。」

 僕はそう呟いた。ただ待つだけなんてできない。嫌な思いをさせるかもしれないけど一度様子を見に行こう。

 僕は勇気を出して立ち上がる。いざとなったらあの店員を害する覚悟を決めて。

 トイレは僕達のいる位置からだと見えない。僕がそこへ行こうと足を踏み出した時。感じてしまった。

「最後は新鮮なメスの冷凍してシャーベット状にした心臓と新鮮な内臓をふんだんに使用したデザートとなっております。」

 僕は焦る。メス、新鮮。嫌な妄想が頭に浮かんだ。どうか気の所為であってくれ。僕はそれを見たあとは店員のことなんか忘れて走り出した。

 走ってトイレの前までやって来る。

「紗英、いるか!?」

 返事が無い。もしかしてと思ってドアノブに手を掛ける。すると何故か鍵がかかっていなかった。僕はそっとドアを開ける。

 僕は眼の前に広がる参状に絶句した。

「さ、え...紗英!?」

 紗英はトイレの前で崩れるようにして横になっていた。それはいい、それはいいが床には大量に血が流れて靴が血溜まりの中へと入っていた。彼女を見る、腹は骨が見えるほどに切り裂かれ内臓が全て取り出されている。当然先程見た心臓もない。目は光が無く瞳孔は開ききっていた。

 僕は恐怖からかその場に座り込んだ。服が血溜まりの中に入り服が血を吸う。

 腹は無理矢理引き裂かれたのだろう。ギザギザとした切れ目を引き千切られた皮膚がそれをものがったっている。

 死んだ...そう思った。その直後僕は気づく。紗英の唇が少し動いたことに。それは本当に動いていて絞りだすように声を出した。

「なんで...なんで、助けなさいよ!そんな所に座ってないで!私が折角付き合ってあげたのに、なんの恩返しもないわけ!?死にたくない、別れられるって聞いたから来たのに、なんでよ!?」 

 小さく喋りだしたと思えば物凄い勢いで怒鳴りだした。そもそも内臓を引きずり出されているのに何故話せるんだ。けどそれ以前の僕は唖然としてしまう。

「僕、のこと好きじゃなかった、のか...?」

 彼女は消して怒鳴るような人じゃなかったはずだ。付き合ってあげた?つまり今までのあの笑顔は全て嘘だったのか。いや、嘘だ、そんなはずないだって紗英は...

「ははっアンタ見たいなブスのなんの取り柄もないやつを誰が好きなると思ってるわけ?」

 その瞬間好きだった気持ちが一気に冷めた。

 そうか、君はそんな人だったのか。僕は、僕は本気で愛していたのに...。君の本心はそれだったんだ。

 もういいや、思い返せば”こいつ”はただ我儘の八方美人じゃないか。僕の目が腐りきっていた。ただそれだけ。僕はあんなに良くしてあげたのに君はそうやって裏切るのか。

 僕はもう彼女に対する愛情なんてなくなってしまった。今あるのはただの怒りだけ。

 僕は彼女に馬乗りになる。その醜い口を塞ぎたくてしかたなかった。

 そいつは驚いた顔をする。だがすぐに目を見開いた。

 なぜなら、簡単な話だ。僕が殴ったから。内臓がないのに喋るなんてただの化物じゃないか。

「やめっ、ごめん、ごめんなさい。そんな、あ゛ぁ」

 謝ってももう遅い僕は夢中で殴った。殴る度に骨が軋む音がして拳からは血があふれる。だがそんな事は関係ない。今はただこいつの声を聞くことすら不快だ。

 一頻り殴って、ある瞬間に骨が砕ける音がした。恐らくこいつの顎の骨が砕けたのだろう。気がつけば、それは言葉を発することはなくなっていた。

「ははっ...こんなのまさに地獄じゃないか。」

 もはや笑いしか出てこない。

 僕はふらふらと立ち上がる。だがまだ怒りは収まらない。靴でそいつの頭を全力で踏みつける。どこかから汚い悲鳴が上がったが、それはもう僕の耳には届かない。一呼吸置いて僕は身を返す。もういい、ここを通報するのは辞めよう。今は家に帰って一人になりたい。

「どこへ行かれるのですか?」

 耳元から声が聞こえる。驚いてそちらを向くと店員が立っていた。

「君か...僕は帰らせてもらう。」

 そう告げて帰ろうとするが、体が突然動かなくなった。理由は単純、肩を掴まれたから。それだけならまだいいその見た目からは想像のつかない力で押さえつけられている。

「言ったじゃないですか。命を掛けて守れるのだと。」

「え?」

 なんでそれを...そう言おうとした瞬間突然下に落ちる。

 足が使えなくなったから?それともなにか転ぶようにしたから? いいや違う。無いんだ。足が。

 少し遅れて痛みがやって来る。体制が保てない。血がどくどくと流れて行くことだけはわかる。痛みで正気を保てていないことだけは確かだ。切ったんだ彼女が。彼女の手には大きなナタが握られている。不思議と彼女は無表情で冷たく僕達を見ていた。

 逃げたい。だけど逃げられない。死ぬのか?このまま。嫌だ。死にたくない。だってまだ親に恩返しだってしてないし...あいつだあいつの性だ。あいつがこんな所に俺を連れてきたから。

「あはははははははっ、そうだ、死ね、皆んな死ね。アンタだけ生きてるなんて許せない。道連れだよ。あははは」

 先程砕けたはずの顎が動いて声を発する。僕は恐怖と怒りに同時に襲われる。

「うるさいですよ。」

「あははっあ゛、ばぁ」

 包丁が彼女の脳天を刺す。そして今度こそあいつは狂気に満ちた顔をして動かなくなった。僕はただなにもできずに

「死にたくない...」

 と呟くだけ。店員は彼女の首根っこを掴んで引きずりながら僕のところまでやってくる。その間、僕は床に倒れているだけでなにもできない。兎に角痛くて悶絶することしかできなかった。僕の視界に写るのは屍と化した元彼女だけ。やがて近くまでやってきたその店員は僕の頭を掴んで彼女と一緒に引きずっていく。

 運ばれている間血は流れ続け、段々と視界がぼやけてくる。これが生の終わりというやつなのか。ようやくわかった。アイアン製だったのはその場で殺しても血が拭き取りやすいようにしていただけ。トイレが座席から見えないのはバレずに殺すため。全ては殺人を犯してその肉をまた次の客に提供する、そしてその肉をまた...。

 嗚呼なんでこんなことになってしまったのだろう。平和だった日常が恋しい。普通に生きて普通に死ぬのだと思っていたし、まさかこんな悲惨な死に方をするだなんて夢にも思っていなかった。

「醜いモノですね。貴方は最初から愛されてなんていなかったし、貴方の本心だって恋で盲目になっていただけ。だから嫌いなんです。人間は、」

 僕を引きずりながら店員はそう呟いた。何故だろう僕は殺されかけていて、これから殺されて料理にされると言うのにもっとこの少女のことが知りたくなった。その不気味な影は過去の出来事へ繋がっているような、目の前で僕を殺さんとする少女に僕は魅了された。

 彼女は僕達を調理場の奥へ引きずった。もうどうやっても逃げることなんてできない。

 ナタを手に取りこちらへと歩みを進める。目はおかしくなってるはずなのに彼女の憐れむような悲しむような光のない目が頭から離れなかった。死の瀬戸際でその死が放つ魅力に引きずり込まれる。

 そうだきっと僕は恋をしてしまったんだ。


 最後の光景は彼女が振り上げたナタと店のドアが開かれる音だった。




____20✕✕年、東京

 そこでは変死体が発見された。警察の調べによれば彼らは付き合っていたという。死体は死後数時間しか経過していないにも関わらず内臓と一部の肉だけがくり抜かれていたそうな。


 私はニュースを見て絶句した。だってそれは私が殺したようなものだったから。私は紗英が嫌いだ。性格はとんでもなく悪いくせに皆んなに慕われて、恋焦がれられて、疎ましかった。だから私は半分冗談だったけど噂を教えた。紗英はいっちょ前に彼氏がいるくせにそいつが気に入らないから別れたいなんて言う。だから教えてやったんだ。付き合った者同士が行くと殺される店を。本当にあるなんて思わなかった。殺してやりたいほど憎んでいたのに今となってはただ涙を流すだけ。昔はあんなに仲よかったのに、なんてことを思い出した。

「なんで、私は...。」



 いくつもの恋が世を渡っている世界。故意によって導かれ恋によって命を落とした二人が生まれ変わって別の世界で救われることを祈るしかできない。



読んでくださってありがとうございました。

この店員さんは異端者共の両奇譚に出てくる人外の話の一部です。この子が見てみたいと思った方はぜひそちらも読んでみてください!(この子が出てくるのは後の方です。)

よければこれからも宜しくお願いします!

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