【御前会議_08】円卓は踊る、コアラは行進する
時空の狭間。円卓は今日も浮かんでいる。
今回は本会議。田中問題と光莉の思想問題——二つの議題を一気に決着させる。会議室の空気は、これまでになく張り詰めている。
会議前・中継セクター
雇い主(ネクタイを直しながら)「……いよいよだな」
カレシ「いよいよですね。田中問題は非公式会談で固まりましたが、光莉の思想問題——これが最後の山場です」
雇い主「……うむ」
カノジョ(コアラのマーチの袋を差し出しながら)「はい。コアラのマーチ、あげるね。緊張してるみたいだから」
雇い主「……うむ」
(一つ頬張る)
カレシ「あ、普通に受け取りましたね」
雇い主(淡々と味わい)「……これか。二人とも頼むぞ。カレシ、これ一個食べておきなさい」
カレシは首を傾げながらも、一つ口に入れる。
カノジョ「……美味しくなかったのかな?」
カレシ(咀嚼しながら、何かを考えるように)「いえ、違うと思います。でも——」
彼は手帳に何か書き留めた。
御前会議・本会議
長老、隊長、博士、青年、女将が着席。壁際にはカノジョとカレシ。中央の空席は、今日は特に静かだ——まるで、何かを待っているかのように。
女将「では、本会議を始めましょう。まずは——田中問題です。非公式会談【御前会議07】で固まった案について、改めて確認します」
雇い主「うむ。田中は『外伝』と『喫茶店』に『無名な人』として登場させ存在感を持たせる。カフェあおいという場の持つ熱量、そして田中の場への執着という熱量を、未来へ繋げる」
長老「無論、異論はない」
隊長「長老に同じく」
青年「非公式会談の議事録見ました。異議なしっす」
博士「『無名な人』というアプローチは、論理的にも非常にクリアです。私も賛成します」
女将「では、田中問題——全会一致で承認されました」
拍手が起こる。
女将「続いて——光莉の思想問題です。雇い主さん、提案をお願いします」
雇い主「……その前に、カノジョ君。コアラのマーチを皆さんに配ってくれるかな」
唐突な指示に、カレシが固まる。カノジョは嬉しそうに立ち上がる。
カノジョ「は~い! やったー! みんなでお菓子会ね!」
カレシ(小声で)
「こ、これは何も聞いてない展開です……」
カノジョがコアラのマーチを配る。長老は怪訝な顔をしつつ受け取り、隊長は困惑し、博士は分析するように見つめる。女将は微笑みながら受け取った。
雇い主「さあ、皆さん。一つ口に運んでみてください。光莉が受け手になることに異論はないと思う。あとは現代と未来をどう繋ぐか——思想的に、そして読者に」
(全員が一つ食べ終わるのを確認して)
「カレシ君、感想をくれるか?」
カレシ(慌てて立ち上がる。一瞬の間に思考を整理する)
「…………は、はい。内側にはドロッとしたチョコ、外側はサクッとしたスナック感。口に入れると見事に溶け合って、絶妙な美味しさです。つ、つまり……」
雇い主「よろしい。カレシ君、座って」
(一同の困惑をよそに、ボードの前に立つ)
「つまり——現代の燃えたぎる熱量が内層、未来の鋭敏なるシステムが外層。これらが合わさった瞬間、高次の思想へ昇華する。これが私の設計図だ。カノジョ君、そこのケースから原稿を皆さんに配ってくれるか」
カノジョ「え? お菓子会はもう終わりなの?」
(渋々、用意した原稿を配る)
原稿は四部作に分かれていた。監査役と学生にも配られ、全員が読み始める。
しばらくの沈黙。
長老(読み終えて)「……ふーむ。なるほど。伝わったよ。君の熱量がね」
一同が頷く。
博士「しかし、これを一体どうやって読者にお届けするのですか? 確か、田中問題は『外伝』と『喫茶店』の同時投稿ですよね」
雇い主「考えがある」
(ボードに書き始める)
1.『喫茶店』↔『外伝』
(田中:無名な人)
2.『外伝』↔『計画』
(光莉:旅路)
3.『読者地図』↔『計画』『外伝』
(計画:彼女の不在)
4.『観測者』↔『読者地図』『計画』『外伝』
(神から人間へ)
■バトンリレー
『喫茶店』→『外伝』→『計画』→『読者地図』→『観測者』
→すべてが『時空』に繋がる
雇い主「そして——新しい仲間とともに、ここに戻ってくる」
一同、言葉を失う。
長老「……本当に、そこまでやるのか」
雇い主「うむ。それが熱量だ」
長老「……分かった。承諾しよう」
隊長「長老、既に閉じている『計画』が再び世に放たれますが」
長老「女将の『喫茶店』にしてもそうだ。この熱量に我々が一肌脱ぐのは至極全う。己の我を語るなど笑止千万!」
隊長「仰せの通ーり!」
博士「段階的にこれらの作品が繋がり、読者に届いていく——。『読者地図』まで繋げて頂くとは身に余る光栄」
青年「ということは、彷徨うカレシとカノジョも降りてきて繋がるんすよね。感無量っす!」
雇い主「……うむ」
女将(深く息を吐いて)
「すべてがこれから始まるのね。皆さん、光莉の思想問題、そして読者への繋ぎ方について雇い主からご提案がありました。賛同致しますか?」
長老が立ち上がり、拍手を打つ。
長老「賛成だ!」
一同の拍手が続く。
(ワントーン声が高くなる)
女将「では、光莉の思想問題の決議をもって——『彼女の時空』を私たちの仲間として承認することでよろしいでしょうか? 賛成の方は拍手を!」
一同、立ち上がって拍手する。カレシとカノジョも満面の笑顔で拍手。
カノジョ「やったー! これで全部決まったんだね!」
カレシ(手帳を閉じて)「……全ての接続が完了しました」
その時だった。
中央の空席が——ゆっくりと浮かび上がってきた。誰も座っていない。でも、その席だけが光を帯び、周囲の空気を震わせている。
学生(目を閉じながら)
「……来る。来るよ、もうすぐ」
監査役(端末を手に)
「第7回創生会議——田中問題、光莉の思想問題、共に全会一致で承認。創生への全接続が完了しました。『彼女の時空』を正式に『彼女の』シリーズ作品とすることを、ここに宣言します!これをもって、本日の御前会議は閉会!承認式の日程は追って連絡する」
一同の拍手が鳴り止まぬ中、
雇い主(空席を見つめながら)
「…………ようやく来たか」
学生(中央の空席に向かって)
「………スター、ですか?」
会議室の空気が、静かに変わった。何かが始まる予感が、全員の胸に広がっている。
次回、スター誕生に続く。
――セッション確立。
(会議後の中継セクター)
雇い主が戻ってくる。背筋は伸び、表情は晴れやか。今回は完全な達成感に包まれている。
カレシ「おめでとうございます。正式に、『彼女の時空』が我々の仲間に加わりました!」
カノジョ(クラッカーをパンッと鳴らしながら)「おめでとー!」
雇い主「いやあ、君たちにも本当に世話になったよ」
カレシ「しかし、まさか本会議で急に振られるとは思いもしませんでした。……あれは冷や汗ものでした」
雇い主「ふふ。君がなんと説明しようと、答えは出ていたのだがな。一瞬の思考から生まれるアイデアを大切にしたかったんだよ」
カレシ(手帳に書きながら)「なるほど。一瞬の思考、ですね。それにしても、段階的同時展開※とは。これから忙しくなりますね」
雇い主「カノジョは、何か不服か?」
カレシ(小声で雇い主に)「実は、皆さんにコアラのマーチを配ったため、自分の分を食べ損ねて、拗ねているようです」
雇い主(袋に手を入れながら)「ほら。ポテロング、キットカット、チーズビット、きのこの山・たけのこの里、チロルチョコ、そしてコアラのマーチ。カノジョ、ありがとう。これまでのお菓子たちだ」
カノジョ「うわっ、これ全部くれるの? わーい、わーい!」
すっかり機嫌を取り戻す。
その時、カレシの端末が震える。
カレシ「監査役からメールです。『会議で使用したコアラのマーチの経費請求は承認。会議後購入された六種類のお菓子の経費請求は却下』とのことです」
雇い主「うぐっ……甘くなかったか」
カノジョ(お菓子を抱えながら)「でも、これで六種類ゲットしたもんね! どれから食べよっかなー」
――セッション終了。




