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第3話:殺気(愛)に満ちた聖域連行と、はじめての共同作業

「危険です! この少年は、あまりにも強大で不浄な魔力に汚染されている……。今すぐ聖域へ隔離し、厳重な保護――もとい、監視下に置かねばなりません!」


 アパートの瓦礫の中で、聖女クラリス様が凛とした声で宣言した。

 その顔は、氷のように冷たく……そしてリンゴのように真っ赤だった。


「ちょ、ちょっと待ってください聖女様! 僕、ただの無能なんです! 隔離なんて、そんな大層な……!」

「黙りなさい! 貴方は……貴方の存在は、世界(の私の心)にとってあまりにも劇薬なのです!」


 ((((((なにあの子、上目遣いで僕なんて言わないで! 可愛すぎて心臓が破裂しちゃう! 今すぐ抱きしめて頬ずりしてそのまま教会へ連れ去りたいんだけどおおお!!))))))


 凄まじい音圧の『絶叫』が僕の脳を揺らす。

 けれど、僕の耳に届く彼女の言葉は、相変わらず冷酷な死の宣告だった。


「……連れて行け。……逃がさぬ。……私の手で、処刑(愛)してやる……」

「ひ、ひぃぃぃぃ! やっぱり処刑場に連れていかれるんだぁぁぁ!」


 僕はガタガタと震えながら、聖騎士たちに囲まれる。

 だが、僕の腰に腕を回して離さない存在がもう一人。


「ふふん、聖女様。この子は私と契約したのよ? 地の果てまで、ベッドの中まで付いていくわ。隔離するなら私もセットでお願ね?」


 勝ち誇った顔のリリスが、僕の肩に頭を乗せて甘い吐息を吐く。

 聖女様の目が、一瞬で据わった。


「不浄な魔族が……。その汚らわしい腕を、その子から離しなさい……ッ!」

「((((((どけよ泥棒猫おおお! そこは私の場所よ! 私の腕枕で眠るはずの子なのよ! 死ね! 爆発しろおおお!!))))))


 もはや爆音を通り越して、周囲の家々の窓ガラスがピシピシと音を立てて割れ始めている。

 僕は死神(魔族)と処刑人(聖女)に挟まれ、生きた心地がしないまま街へと連行されることになった。


 ◇


 王都の目抜き通りを通って、神殿(聖域)へ向かう一行。

 そこでさらなる地獄が待っていた。


「な、なんだ……!? 動物たちが……!?」


 異変はすぐに起きた。

 僕が通りかかった瞬間、道端の野良犬、屋根の上の猫、さらには空を飛ぶ鳩までもが、一斉に動きを止めたのだ。


 次の瞬間。


「ワンワン!」「ニャー!」「クルルルッ!」


 街中の動物たちが、まるで磁石に吸い寄せられる鉄屑のように、僕を目がけて猛然と突撃してきたのだ。


「うわあああ!? 動物たちまで僕を殺しに来たぁぁぁ!」


 僕には、彼らが僕を食い殺そうとしているように見えた。

 だが実際は、僕から漏れ続けている『10年熟成の魅力(匂い)』に本能を狂わされた動物たちが、「撫でて!」「飼って!」「抱きしめて!」と求愛の体当たりを仕掛けてきているだけだった。


「……チッ、有象無象がダーリンに群がらないでくれる?」

「((((((汚い野良犬どもがああああ! 私のアルトに触るなあああ!! 触っていいのは私だけなのよおおお!!))))))


 ここで、天敵同士のはずの二人が動いた。

 リリスが凄まじい魔圧を放って動物たちを威圧し、クラリス様が神聖な結界を展開して物理的に僕をガードする。


「……消えろ。……この子は、私の獲物(宝物)だ……!」


 クラリス様が剣を引き抜き、殺気(のような照れ隠し)を振りまきながら野次馬や動物を蹴散らしていく。

 その姿は、僕の目には「獲物を横取りさせない独裁者」にしか見えなかった。


「……ひっ。死神と処刑人が、僕をいたぶるために共闘してる……。逃げ場なんて、どこにもないんだ……」


 絶望に打ちひしがれている間に、一行は王都で最も堅牢な守りを誇る『大神殿』の奥深くへと到着した。


 ◇


「ここです。ここなら、外部の不純な干渉ライバルを一切受けません」


 案内されたのは、厚さ一メートルの石壁に囲まれ、何重もの魔法結界が張られた『最奥の聖室』。

 本来は国宝を安置する場所らしいが、今の僕にはただの独房に見えた。


「さあ、ゆっくり休みなさい、アルト。……今夜は、じっくりと調査(観察)してあげますから」

「((((((ついに……ついに個室! 二人きり(+一匹)! 押し倒していいかな!? 合法だよね!? 神様も許してくれるよねええええ!?))))))


 聖女様の顔が、かつてないほど真っ赤に上気している。

 彼女の心の声は、もはや神殿の鐘の音よりも大きく響いていた。


「……死ね。……今ここで、果てろ。……もう、逃がさない……」

「……あ、あはは……。神様、やっぱり助けてくれないんだね……」


 僕はついに膝から崩れ落ち、白目を剥いて意識を手放しそうになった。

 ドアが重々しく閉まる音。

 密室に残されたのは、僕と、僕を食べようとする魔族と、僕を呪い殺そうとする(と本人は思っている)聖女。


 僕の、あまりにも「愛されすぎた」生活が、今ここから始まろうとしていた。


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