49 青熊騒動
「おいコラァ。ここにおわす御方をどなたと心得る。恐れ多くもさきの黒山の副頭目、顔狼牙様にあらせられるぞ。頭が高あい」
ただの案内役の沈伸、朗郎が高幹の名と顔琉の威を借りて、時代がかった口上で青熊をひれ伏させる。
「おい門番。此奴等も同じ高幹殿の配下であろう。無駄に反感を買うこともあるまい」
「あきまへんがな。顔狼牙先生。こういう手合いはビシッと気合を入れへんと、すぐに増長しよるんですわ。ここは僕らに任せて下さい」
傍で聞いていた粛と額彦命は鼻白むばかりだ。すると奥から汝水達と共に審判、甄梅が姿を現した。
「おう、豎子に娘っ子。息災だったようだな。安心したぞ」
顔琉が顔を綻ばせつつ手を挙げた。その表情を見た時、審判は胸にこみ上げるものを感じたが、
「我々は大丈夫です。この方達は賊とはいえ、仁義をわきまえた方達でしたから。さあ、共に山を下りましょう」
渡りに船とばかりに審判がそそくさと青熊の元を離れようとしたが、そうはさせじと汝水が割って入った。
「お待ち下さい。私どもの勘違いとはいえ、このまま貴方方を帰しては青熊の面目が立ちませぬ。お連れの方も、どうかお頭に会って頂きとうございます」
やめろ。あんた達の面子なんてどうでもいいんだと審判は心の中で叫んだが、沈伸、朗郎が冷や水を浴びせる。
「おっ。エエ女がいるやんけ。そうやなあ。夜更けにこんな山奥まで来てやったんやし、酒でも振舞って貰わな割が合わへんで」
すると粛も追随する。
「そいつはいい。二人がここでどんな待遇を受けたのか知りたいしなあ」
「うむ。儂も興味あるぞ。会うてくれと言うなら、借金取りでもなければ会わぬ手はあるまいて」
嗚呼。審判は天を仰いだ。




