50 切り上げられた宴
一行は粗末ながらも応接室に招かれ、汝唐と面会した。顔琉、額彦命は興味深そうに話に聞き入っている。審判の隣には汝水が張り付いて酒を勧める。一方、沈伸、朗郎には手下の男衆が酌をして不満顔だ。
「よお、兄ちゃん。両手に華で羨ましいのお。そっちの姉ちゃん。こっち来て俺らにも酌してや」
両脇を何故か汝水、甄梅に挟まれた審判に朗郎がいちゃもんをつける。別に望んでこういう席順になった訳でもないのだが。汝水は渋々席を立ち、二人の相手をする。すると空いた席に粛がささっと座った。
「おい、審判、知ってるか? あの爺さん、黒山四霊獣の一人、顔狼牙だ。本人は名を騙ってるだけだなんて言ってるが、多分間違いない」
審判はうわの空で、そうかとだけ言った。
「何だ。あまり驚かないのな。やっぱり知ってたのか。本当、いい友達だよ」
「いや、初耳だ。でも、顔琉殿がただ者じゃないとは思ってたよ。むしろ正体が分かってすっきりした」
「へえへえ。どうせ俺は鈍いですよ」
粛はふて腐れて酒を呷った。審判は顔琉の正体より、今後が気懸かりだった。汝唐は今しがた審判にした話を顔琉にも語り、やはり青熊に身を置いてくれるよう口説いているようだ。
「みどもの命あるうちに、まさか顔狼牙に会うことになるとは思いませなんだ。まさしく天の配剤。是非、お連れの方々と共にこの青熊を導いて下され。我々は貴方様に従いましょう」
「なるほどのお。お前さん達も随分難渋しておるようじゃのお」
顔琉は顎鬚を弄び、暫く逡巡して立ち上がった。
「豎子よ」
ほら来たと審判は思った。が、顔琉は予想外のことを言い出した。
「山を下りるぞ。そこの門番。長居したくば心ゆくまでするがよい。儂らはおいとまさせて貰う」
汝唐が血相を変える。
「お、お待ち下され。何か我々の態度で気に障ることがあったのでしょうか。ならばお詫びいたす。不服があれば申して下され」
「何も。ただ、お前さん達の素性はどうあれ、今は賊徒じゃ。賊なら軽々に助けなど請うな。大方、お前さん達は高幹の手下になって難儀しておるのであろう。だからといって、儂らのような海の者とも、山の者ともつかぬ者に従うのもどうかと思うぞ。それではいつまで経っても同じことの繰り返しだ」
顔琉は吐き捨てるように言って帰り支度を始めた。
「お前達も何をしておる。長居は無用じゃ。さっさと帰るぞ」
顔琉に急かされて一同は慌てて立ち上がる。粛は不満をこぼすが審判は意外だった。かえって好都合だったのだが、顔琉の意図を知りたかった。すると汝水が立ち上がり、
「待っておくれよ、審判さん。もう行っちまうのかい。もう少しいてくれてもいいじゃないか。アンタだけでもいいから」
沈伸、朗郎が横槍を入れる。
「俺らがいてやるがな。姉ちゃん、酒切れてるで」
「顔狼牙先生、後は僕等がしっかりやっときますさかい、安心しておくんなはれ」
どうやら二人は朝までやりあげるつもりらしい。一行は青熊に引き留められるも、そそくさと根城の集落を後にした。再び五人になったところで、後ろから彼等を呼び止める声がした。審判はすぐに分かった。声の主は福だった。




