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67話 ジャンの機略

バトル回です。

残酷な描写があります。

 60人の軍隊は道なき道を歩く。



 先頭と左右はパーソロン族が警戒し、同胞団は奇襲に備えて少数に別れつつ進む。


 道中では何度かマーリージャ族の斥候と接触したが、俺たちの陣容を見て驚いて逃げていくだけだ。


 マーリージャ族は恐らくは人口300人弱。

 大きな集落と小さな集落に別れており、大きな方が200人程だという。


 俺たちはすでにマーリージャ族の戦士を十数人は葬っており、全体でも戦士の数は多くは無いだろう。

 ちなみにエルワーニェでは戦える男は全員が戦士だ。


「ジャン、斥候を逃がしていいのか?」

「知られたところで変わらねえよ……大した守りを固める時間はねえし、迎撃に来るなら寧ろ楽だ」


 そんなもんかと俺は納得し、歩を進める。


 結構、歩いたが……先はまだ長いのだろうか?

 日は既に真上に差し掛かるところだ。


「ニアール、先は長いのか?」

「ああ、やはり集団の歩みは遅い。まだ半分だな」


 ニアールの言葉を聞き、ジャンは「うーん」と考え込む。


「夜戦はまずいぜ、敵には地の利がある。適当なところで早めの夜営にするぞ」


 ニアールは「こんなに近くでか」などと呟きながら目を瞑った。

 恐らくこの人数が休める場所を思い出しているのだろう。


「あまり近いと敵の夜襲が来る。日も高いし、盾を並べて陣地を作ろう」


 ジャンはあくまでも慎重である。

 いざという時はいくらでも賭けに出るが、好機が来るまでジャンはじっと待つことができる。



 俺たちはニアールの案内で洞穴にたどり着く。

 さすがに洞穴に全員は入れないので、出入り口に簡単な柵と盾を組み合わせて陣地とした。


 夜中にもマーリージャ族の接近はあったようだが、こちらも交代で警戒をしており小競り合いにもならなかったようだ。


 ちなみに俺はジャンとロロに洞穴の奥に詰め込まれていた。


 戦闘音で飛び出さないようにという配慮らしいが……なんだかなあ。


 ちなみに、ニアール含め、パーソロン族の男たちは俺の扱いを見て「貴い身分だから大事にされているのだろう」くらいの認識らしい。


 アレな子扱いされているとは思われていないらしく、ホッとした。



 交代で警戒をし、朝を迎えた。


 ジャンとニアールは早朝から何やら話し込んでいた。

 ニアールが驚いた顔をし、ジャンがケラケラと笑う。


 話し合いが終わったようだ。

 ジャンが笑みを浮かべ、こちらに向かって来た。


「バリアン様、小さい集落を狙うぞ。距離は離れていないし、どうやらマーリージャは大きい集落に戦力を集めている」


 ジャンがここに来ての作戦変更を申し出てきた。

 まあ、俺は構わないし、小さい集団なので命令変更の混乱なども少ないだろう。


「別に構わんが……根拠は?」

「勘だな」


 ジャンがニヤリと笑う。

 頼もしい顔つきだ。


「なら間違いない、小さい方を狙うぞ」


 恐らくはジャンの勝負勘が攻め手を見つけたのだ。

 戦場往来の勝負師の勘だ。

 侮ることは出来ない。

 瞬時の閃きこそが勝敗を決し、生死を分かつことはいくらでもある。



 俺たちは作戦を変更し、進軍を始めた。




………………




 驚いた事に小さい集落には戦力が殆ど残されていなかった。


 俺たちの姿を見るや逃げ惑う女子供、そして時間を稼ぐために必死に抵抗する留守の男たち。


 彼らの抵抗は空しく、瞬く間に集落は陥落した。


 ジャンの勘は当たったのだ。


 俺は勇んで集落に突撃したが、残っていたのは走れないような老人や負傷者のみであった。


 これでは俺の戦いをパーソロン族にアピールできない。

 俺はガッカリした。


 ニアールは俺のしゅうとなのだ。

 強さアピールの1つもしたかったところだ。


 腹立ち紛れに2人ほど撲殺したが、観念しきっていて面白くも何ともない。


「ジャン、つまんないぞ」

「いいじゃねえか。こっちは1人もやられてねえぞ」


 その通りだが、違うのだ。

 俺は初対面の時のニアールが槍を投げたみたいに、カッコよく決めたいのだ。

 俺はぶー垂れていたが、ジャンもロロも取り合わない。


 ニアールたちパーソロン族は山を駆け、逃げた女子供を出来るだけ捕獲し、集落へ連れ戻した。


 ジャンは強姦や略奪はほどほどにして、女子供を縛り上げて数珠繋ぎにし、連行する。


「奴隷にするのか?」


 俺が尋ねると、ジャンはニタリと笑う。


「コイツらはよ、同族の繋がりを大切にしてるだろ?」

「ははあ、分かった」


 ピンと来た。

 俺は「さすがはジャンだ」と笑う。


「2人とも、悪い顔してますよ」


 ロロが「やれやれ」と苦笑した。




………………




 その日の内に俺たちはマーリージャ族の集落に到達する。

 集落は渓谷を利用し、攻め口が一方向しかない構造だ。


 渓谷の地形を上手く生かした構造で、集落の中に高低差がある。

 迂闊に攻め込み、上から石や槍などを投げられては堪らない。



 俺たちは、やや離れた所に据え置き式の盾を並べて陣とした。


 ジャンが選んだのはややVの字になった横陣。

 鶴翼とまではいかないが、包囲攻撃を狙ったものである。

 地形に起伏があるためにやや歪な陣形だが、ジャンは気にもならない様子だ。


 集落の防衛の為だろう、周囲には立ち木などの遮蔽物は無く、集落の前には簡単な木柵を備えている。


「なかなかの守りだな」

「ええ、あちらは木の断面が白い……急拵えにしては立派なものです」


 俺とロロは呑気にマーリージャ族の集落を眺めていた。


 既に俺たちの姿は発見されており、マーリージャ族の男たちは柵の前や集落の高台で待ち構えている。


「良し、先ずは1人だ」


 ジャンが連行してきた女を1人、解放した。


 女は散々に弄ばれた後に連れ回され憔悴(しょうすい)しているが、縄をほどかれ、戸惑いながらも集落へ走る。


「殺れ」


 女が中程まで走った後にジャンがシンプルな命令を下す。


 女はクロスボウの的となり倒れた。

 捕虜の中から「ああーっ」と落胆や怒りの籠った嘆きが聞こえた。


「次は子供だ」


 ジャンの命令で子供が連れ出される。

 子供の母親らしき女が半狂乱になって暴れたので、ジャンは「もういい、殺せ」と命じた。


 子供はすぐに物言わぬ姿となり、陣中に女の絶叫が響き渡る。


「チッ、面倒くせえ……適当なのを走らせろ」


 イラついたジャンの命令で違う女が解放され、集落まで走らされた。


「まだだ。俺がやる」


 ジャンは弓を構え、女が集落に入るギリギリで射殺した。


 集落から怒号が響き渡り、数人の男たちが堪らず飛び出したようだ。


 怒りに燃える男たちは投げ槍を構えて駆け寄るが、ジャンは無慈悲にクロスボウで狙い撃ちさせた。


「次は子供だ。女に騒がせるなよ」


 ジャンは冷酷にいい放ち、解放された子供が泣きながら走った。




………………




 それからは最早、一方的な虐殺だった。


 もともと、攻め口を一方向とするために、他に出入り口が無い集落である。


 激昂したマーリージャ族の男たちは女や子供を救うために飛びだし、半包囲陣形のクロスボウに斃れていく。


「あーあ、(から)め手が無いと悲惨だな……城塞都市ポルトゥも考えなきゃな」

「うーん、ポルトゥの場合は山の間道も有りますしねえ」


 俺とロロは弓を使いながら呑気に会話をする。

 ロロは中々の弓の上手で、離れた敵にも狙いをつけて射る。

 早さは無いが、ロロらしい丁寧な射撃だ。


 俺は強い弓を使い、アバウトな狙いで矢を放つ……なんとなく集団に射かけるのだ。

 褒められたものでは無いが連射ができるので、これはこれで敵の数を減らしている。



 余談ではあるが「搦め手」とは城や陣地の裏口のことである。


 搦め手は攻城戦で疲弊した敵軍を逆襲して追撃、潰走させるために使われることが多い。


 ちなみに正面は「大手」と呼ぶ。


 大手で敵を防ぎ、搦め手で敵に逆襲する。

 日本の城郭に多い構造だが、アモロスで生まれ育ったロロにはピンと来ないようだ。


 話が逸れた。

 バリアンに戻そう。



「おっ、たくさん来たな」


 マーリージャ族の集落から30人ほどの男たちが突撃をしてきた。


 彼らはスクラムのように密集し、決死の形相である。


 クロスボウや弓の前に次々と斃れるが、とうとう射線を突破する者が現れた。その数は4人だ。

 正に吶喊(とっかん)と呼ぶべき雄叫びを上げ、傷つきながら走り続ける。


 彼らは雄叫びを上げながら槍を投げつけ、陣地に突入した。


「射つな! 味方に当たるぞ!」


 ジャンの声が聞こえる。


 傷ついたマーリージャ族の勇士たちは手斧や剣を振り回して暴れ続ける。

 狙いは捕虜の解放のようだ。


「ガアアアッ!」


 俺は暴れる先頭の男を体当りで突き飛ばす。

 そして続く男たちに向けてメイスを振り上げた。


 マーリージャ族の勇士たちには俺のメイスは届かなかったが、彼らは俺に気をとられ、足を止めた。


 これが命取りになった。

 彼らが生き残るには走り続ける必要があったのだ。

 足が止まれば囲まれる。


 俺に突き飛ばされた男も、足を止めた男も、同胞団に包囲されて殺された。


 残る1人はロロが討ち取ったようだ。


「良し、敵陣に突入するぞ!! 伍を崩すな! 5人で懸かれ! クロスボウは上にも注意しろ!!」


 ジャンが次々に指示を下し「突入!」と檄を飛ばした。


「ウオォォォォォッ!!」


 俺は雄叫びを上げて走る。


 しかし、ニアールたちパーソロン族が速い。

 彼らは軽装であり、山で鍛えた健脚は凄まじい。


 見る見るうちに俺は引き離されていく。


……嘘だろ!? ニアール、速すぎだろ!?


 俺が遅いわけではない。

 パーソロン族が速すぎるのだ。


「フオォウ!!」


 ニアールが甲高い掛け声と共にマーリージャ族の陣地に突入した。

 次々とパーソロン族の男たちが続く。


「続け!後れを取るな!!」


 俺も負けじと数秒遅れで突入した。


 前方には槍を構える敵が見える。

 恐らく乱戦になったので構えた槍を投げれなくなったのだろう。


 俺はそいつに狙いをつけて駆け寄り、メイスをフルスイングした。

 胸を全力で叩くとソイツは勢いよく半回転し、後頭部を地面に叩きつけて絶命した。


 俺はソイツを肩に担ぎ上げ、上からの盾にしながら駆け出した。

 パーソロン族の戦いや、高台からの投石を無視して一番大きな屋敷を目指して走る。


 すると高台からの攻撃が俺に集中した。

 俺は岩かげに身を潜め、周囲を観察する。


 高台から男たちが下り始め、屋敷を守るように陣を組み始めたようだ。


 ……ふん、余程守りたいらしい……女や子供か……


 俺はあえて身を晒し、攻撃を集中させた。

 するとその隙にパーソロン族の男が高台に迫り、攻撃が緩む。


 高台からの攻撃が無ければ攻略は容易い。


 次々に同胞団が追い付き、屋敷の前で陣を組む敵をクロスボウで射殺した。


 彼らは屋敷を守るようにしていたものの身を守る遮蔽物も無く、クロスボウの射撃の前に成す術もなく全滅した。



 ここに、マーリージャ族の集落は陥落したのである。



 パーソロン族の男たちが屋敷に突入し、泣き叫ぶ女たちを引きずり出した。


 ……勝ったな……


 俺はニヤリと笑う。


 ジャンが同胞団を煽り、勝利の鬨が上がる。


 後はお待ちかねのパーティの時間だ。


 皆が思い思いに弾けて騒ぐ。

 富や女は早い者勝ちだ。



 その中でニアールは1人、マーリージャ族の死体を確認していた。


「どうした?」

「バリアンか……マーリージャの族長の胸を裂いて心臓を食らいたいのだが……分からんのだ……おっコイツだな」


 見れば立派な首飾りをした男だ。

 ニアールは嬉しげにマーリージャの族長の胸を裂いた。


「この名誉を与えてくれたバリアン、お前に感謝を。お前は天神の使いだ」


 ニアールは抉り出した心臓を俺に捧げるように掲げ持つ。


「食うか?」

「いや、遠慮しとく」


 ニアールの申し出を辞退して、俺は空を見上げた。



 ……天神、ね……何だったんだろう……アレは……



 俺が集落に目を移すと、マーリージャ族の屋敷が燃え始めているのが見えた。


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