静寂と女の戦い
俺は何てことをしてしまったんだ。
どうも気合いを入れすぎておかしな方向に意識がスイッチしていたようだ。
咄嗟に腕を引いたおかげで体が一回転したくらいで外傷はないようだが、猫耳は目蓋を閉じ気絶している。
アネッテが天幕を開けたままの格好で硬直していた。
アクアは驚きながらも、こうなると思ってましたよと、俺から半歩後ろにいた位置から動かずに何ともいえない表情をしていた。
昨日の夜、アクアはお酒をお代わりしにいったときに猫耳と会話する機会があった。
猫耳を生やした、女性と女の子の間位の年齢の少女スティナは、身長は私と同じ150cm位で髪は透き通るような銀髪を肩に掛かる位にのばしている。
コロコロと静かに笑いながら焚き火の側で兵士を労っている姿をみると、親しみやすいのだろう、兵士のアイドルの様な存在らしい。
綺麗な顔立ち、親しみやすい温厚的な性格、華奢で守ってあげたくなるような小さな体。
女日照りの兵士達に人気が出ない筈が無かった。
それにあの小さな体の割には大きな胸部である。
Cでしょうか?私は自分のものと見比べながら恨めしそうに彼女を見るのでした。
聞くところによると、フリーダムなお国柄らしい。
そのため策謀を巡らせ誰かを蹴落としたりだとか、毒を盛られたり盛ったりするような世界とは無縁の暮らしをしていたようだ。
そんなことを考えていると、私の視線に気づいたのか兵士達に一言断って、焚き火から離れてこちらに早足で向かってきた。
「今日は助かりました」
若干砕けた態度で話かけてきました。
いえ助け合うのは当然のことですから、だとか当たり障りのない返事をしようとすると、目をキラキラと輝かせながら私の手を取ります。
私はその様子に困惑していると、スティナさんは矢継ぎ早に私に質問しました。
「騎士様はおいくつでいらっしゃるのでしょうか?あの甲冑は一体?趣味はもっていらっしゃるのでしょうか?好きな女性のタイプは?将来を決めた相手はいらっしるのでしょうか?子どもはお好きでしょうか?好きな食べ物や飲み物は?…」
その様子に私はまたか…とマスターの毒牙にかかってしまった女性にどう対応するのか考えていました。
私のマスター、相羽翔は良くもてます。
別に特別顔が整っているだとか、気配りが上手いだとか、話が面白いだとか、そういうあからさまなモテポイントを持っている訳ではないのに、どういう訳か良くもてます。
多分女性をたぶらかすフェロモンか、噂に聞く主人公体質でも持っているのでしょう。
あのアネッテという女性もマスターを見る目が時折異常に優しいしかなり要注意です。
「スリープ」
私は「教授」の魔術のことや、酔いによる勢いも手伝って、気づかれないように魔術を唱え問題を先送りにするのでした。
「おい大丈夫か?」
俺は猫耳を助け起こしながら声をかけた。
すると猫耳は、ぱちっとその翡翠のような色の瞳を開いて俺の姿を認めると。
「騎士様ぁ!!」
と俺の首に手を回し抱きついてきた。
俺は胸板にあたる豊かな感覚と甘い匂いに思わずにへらと鼻の下を伸ばしてしまう。
「!!私のマスターから離れてください!!」
アクアが猫耳を引き剥がそうとしている。
「嫌です!!やっと運命の王子様に出会えたのですから邪魔しないでください!」
意外と猫耳は力強く俺に絡みついて離れない。
アクアはどう頑張っても引き離せないと感じたらしく、ならばと猫耳の反対側から俺に抱きつく。
俺はもう何が何だかわからなくなって思考停止に追い込まれていると、救いの声が聞こえてきた。
「姫様、ショウさんが困っておられますよ?姫様!スティナ様!!」
アネッテの狐耳が怒っていますよっ!!と大きく広がり威嚇していた。(ようやく俺は猫耳の名前がスティナであることを知った)
正気に戻ったのかスティナさんは、コホンと咳払いを一つつき。
「私の名前はアルム精霊王国、第2王女スティナです」
以後お見知りおきをと、いまだに俺にしがみついたまま名乗った。
威厳など微塵もなかったし、全然正気に戻ってもなかった。
アネッテはどこからかハリセンを取り出すと、主人であるスティナに「スパァン!」と容赦なくふり降りおろす。
ようやくスティナは正気に戻ったのか俺から手を離し、本題に入っていくのだった。




