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 太陽が明々(あかあか)と青空を祝っている。


 かけがえのないこの天体は、私を醤油とバターで焼こうとしているにちがいない。シャツの(えり)とネクタイで締めた首まわりからはそのうち、(うま)みたっぷりの肉汁がほとばしるだろう。


 暑さをこのように思うほど、頭のネジの二、三本がいよいよ(ゆる)もうとしている。


 履歴書は、持った。開け放したカバンのチャックに手を突っ込み、クリアファイルと二つ折り用紙の感触をたしかめる。証明写真の裏に名前は、おそらく書いた。あの小さな写真の裏に名前を書く理由は、はがれてしまった際、他と区別できるようにするためだという。もし書き忘れたとしても、目ざとい面接官から「君の写真には名前が書いてないな」と言われることは、ほぼない。指先でもう一度、貼られてある写真も確かめると、必要な書類についてはひとまずよしとした。


 東京あんしん第一ビル五階に午後三時集合。近くの日本庭園で、鯉にエサをやるくらいの余裕がある。

 鯉は芸能人だな。そんな考えがふと降りてくる。多彩な色づき、風雅な身のこなし、そして()らさず報酬をつかむ獲得力。あきらかに品種改良によるのだろうが、少なくとも、汚れた川の真っ黒い魚に好んでエサを与える人はまずいない。


 気づけば、脚は日陰を求めて路地裏へ向いた。世間には、時刻ギリギリに着き、その場にすぐ(のぞ)める人がいるが、うらやましい。そんな精神統一の仕方を私は知らない。一、二時間前行動は常であり、無駄だとわかりながらも「何か」を当てにして、今日も立ち寄る場所を気まぐれに探す。


 西松レストラン。ここに決めた。


 ケヤキだろうか、個人経営であるのが一目でわかる朽ちた材質の扉。経年とモダンな刷新(さっしん)がぶつかり合い、かろうじて資本主義の波に流されずにいる。ブラックボードの立て看板に店名とランチメニューが書かれていて、その粗末さが街の片隅の息遣いを感じさせる。


 初見の店であり、入るのにややためらうが、京都の色町などではない、と自分をたしなめてから、ゆっくりとドアノブを引いた。


 中は空いていて、静かだった。ボンジョビが爆音でかかってはおらず、スイスの湖畔(こはん)を思わすチェロが人と調理の匂いを穏やかにふるわせている。


「お好きな席へどうぞ」ウェイトレスの声に抑揚(よくよう)はなかった。不機嫌そうではないが、ある期間において溜めた不満が小さな玉となって体内に点在している、そんな悲痛を思わす感情の薄さであった。


 私はこのときいつも人差し指を立て、一人であることを知らせる。しかし、女性は私を見るや即、厨房(ちゅうぼう)に引っ込んでしまい、その所作が十分に伝わったか知ることはできなかった。


 冷房はしっかりと効いていて、手垢のついた言い方ではあるが、生き返った心地がした。窓際の四人掛けの席はすでに男女の客が占めていて、私は遠慮も込め、入り口横、壁際にある二人掛けの席に身をおさめた。

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