第29話 世界で一番幸せな少年
蛇足。これ以上の物語は八代湊には必要ない筈だった。この世に存在する全ての罪を、自身の消滅を以て纏めて消し飛ばした。
それ以上は要らない。それ以外は必要ない。
俺は神の子じゃ無い。結局、俺は俺を信頼している人しか救えない。全員をまるごと救おうとするのは、侵略者と一緒だ。
他人の領分に土足で踏み入り、人の努力を一瞬で無に帰し、満足そうな顔で自らの為した事を誇る。そんなクソ野郎になるくらいなら、これぐらいの代償は必要だ。
この世界には沢山の神がいるのに、全てを救おうとすることは良くなかった。元から破綻していたんだよ、お前は。
感謝も伝えた。やることはやった。だというのに!!!
「どこまで強欲なんだよ、テメェらは!!!」
体が消滅しない。むしろ、首無しの胴体は勝手に立ち上がり、すっくと頭を腕に抱え始めていた。まるでデュラハンだ。
そうこうしているうちに、自らの意思空しく首と頭は繋がり始め、失われた神力も回復してしまった。
歯車。世界という醜い意思が、たった一人に全てを押しつけようとする。死は、ただの状態異常だと言わんばかりにその勢いは止むことは無い。
(ポーションがある訳でも無いのに、よく言うよ)
「だって、私達がポーションなんだもん」
上の方から声がした。人払いの結界の気配と同時に、事務所の天井が青白いキャンバスを映し出す。
「は?」
湊と関わりのある者達が、一斉にテレポートしてきた。
一瞬の隙を突かれ、湊の体は環奈が放った局所時間停止魔法によって自由を奪われてしまった。
「何でって、こうなった原因は君にあるんだよ?君が連絡を送らなければ、私達がこうすることも無かったんだよ?」
罪は、人類によってすでに犯されていた。神の役割を阻むという罪が。
俺は、この世界に義理を通すこと自体が間違っていたのか…?怒りがふつふつと湧いてくる。
「”連絡でも入れないと恨まれる”とか思っていたのだろうが、そんなことをすれば俺達が止めにくる事ぐらい分かっているだろう?」
高坂、お前は何をしたり顔で言っているんだ?記憶の中のお前はもっと一匹狼だった筈だぞ!!
「ふざけるな!!これ以上神の子を作らせてたまるかってんだよ!!俺が全部背負えば、これ以上誰も苦しまなかったんだ。最後に満足して死ねたんだよ!!!」
皆、呆気にとられたような顔をしている。そうか、やっと分かってくれたか。
だが、その次に紡がれた言葉は湊を絶望へと叩き落とした。
「「「「「「「「童貞の癖に???」」」」」」」」
今すぐ舌を噛みきって死ぬ事は出来た。神にはそれが出来る力がある。だが、そうはしなかった。
「まだ十五の野郎に一体何をほざいてやがりますか?俺はまだ、責任取れるお年頃じゃないんだよ。特に睦!!君、悪魔の天敵が何なのか分かった上で聞いてるんだよな?」
「当たり前じゃない。私、湊には負けても良いって決めてるんだから」
頼むからこの世に未練を残すような事を言わないで欲しい。いや、逆に死ぬ覚悟が決まったと言っても良い。
「俺も好きだったよ。でも、早すぎたんだ。それに至るまでの経験がまだ僕たちには足りな」
「結局!!!!あなたは死ねないの!!!!颯真君にあなた言ったじゃない。宇宙が滅んでも、俺は生きているって。私達は、貴方たちに生きて欲しい。自分の罪は、自分で償えるって。何も使命のためだけに人生を全部使わなくたって良いじゃ無い。それ以外に何か大切な物があるはずよ」
「そんなに言うなら、やって見せろ!!お前らの欲望で世界が変わるって事を見せてみろよ!!!何も終わっちゃいない。天使達と決戦だってこれからの筈だ!!!」
「それならもう終わっているわよ」
意味が分からなかった。
「あなたは私達の力で生き返ったと思っているけど、ほとんどはあなたがやったのよ?あなたが彼処まで死を望んだから、あなたの力はそれに応えた。死の裏返しは、生。酷い話よね。まあ、それが天界に伝わったというだけで彼らと戦争をする理由はもう無いのよ」
俺の矛盾がそんなことを?マルコの様に細工をされたわけでは無く?信者の意向を少しぐらいは聞けよ、この馬鹿神がぁっ!!と言うような感じなのかもしれない。
「ちょっと待った!!あの天使達は!!俺はまだ彼らと話を出来て居ない!!」
「あれは偵察用の分身体よ!!光輪を出さなかったのは、動き回る必要が無かったからよ。まあ、後光は身動きが取りづらい割に、影響力は大きいからね」
「じゃあ、あの殺意は?あれは一体何だって言うんだ?」
「それは、軽いジャブのような物でしょ。浮かれて変なことするんじゃないぞ、って」
自分に見えていない物。一人では出来ない事。それだけで、この世界を生きていくのは十分な理由になるのかも知れない。
「分かった。少しの間ぐらいは言うことを聞くよ。俺も信者となった皆に返したい物が出来たからな」
「それは?」
睦が聞いてくる。信者と言ったことに対する嫌悪感はないようだ。よし、これからもそういじってやろう。
「秘密だ。じゃあ、お前らに一つ言っておくことがある。見返りを求める前に、この事務所を滅茶苦茶にした代金を払って貰うのが先だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
湊の怒号が辺りに響き渡る。
「建てて貰ってその言い草は無いと思う」
「湊は、もっと社会の波に揉まれた方が良いと思うわ」
「そうだよ!!これだから童貞は」
霞、響子に麗奈。今の発言を後悔させてやるとしよう。
「黙れエロエロ三銃士」
「「「何ですって?」」」
「おーおー。信者さまは強欲な様で。それじゃあサービスしときますよっと!!」
直後、事務所は元通りになった。 ただ、一つだけ異変があった。
「「「何じゃこりゃあ!!!」」」
メイド服を着せられた信者達。
「それで玄関前の掃除をして来て下さい。俺には出来ない事があるってお前らが教えてくれたんだ。それぐらいの事はしてもらいます」
急な敬語に皆は押し黙った。ぶち切れた湊はもう止まらない。
「やってくれますよね?」
「「「はい…」」」
少年はいずれ完璧へと至る。でも、出会ってきた人との関わりを絶つようなことはしないだろう。完璧な者はこの世に存在しない。
他者と関わることは、自らの調和を崩すのと同義だ。だが、それを崩すからこそ進化することが出来る。
ふう、と湊は一息吐いた。守りたい者達が、ワチャワチャと楽しそうにしている。俺はこれを後何回繰り返せるのだろうか?
いっぱい学んだ。何も要らないと思っていた自分は、何かを知らないまま死ぬとこだった。
僕はぼくを好きになれていたはずだ。いつの間に俺になっていたけど、まだ、僕の心は残って居るはずだ。
だって、今を生きれているんだから。誰かが残した希望を紡げているんだから。自分に嘘は吐いていないんだから!!!
「ありがとうな」
誰にも聞こえ無い、そして誰にも聞こえるような声で少年は皆に感謝を伝えた。
「「「「「「「「こちらこそ」」」」」」」」
生き急いでいた神はもういない。そこには、これからを楽しもうとしているありふれた少年が笑顔で佇んでいるだけだった。
完
こんにちは。春人です。
「僕はぼくを好きになりたい・リビルド版」、楽しんで頂けましたでしょうか。この作品はリビルド版と書いてある通り、元となった作品が存在します。
そこでは出来なかったことや、成長した姿をこの作品で感じて頂けたら嬉しいことこの上ありません。誤字脱字は、…精進致します。
あまり話しすぎると余韻を感じられなくなってしまうかも知れないので手短に。
最後の展開は私自身悩みました。幾つかの候補があり、その内の一つは前の話で終わりというものもありました。あそこで終わらせるのも個人的には賛成でしたが、湊の主観だけで物語が終わってしまうのは少し勿体ないような気がしました。
それ程までに悩みました。皆様にとってこの決断がどう作用するかは分かりません。前の案が良かったという人もいるでしょう。
それはそれで嬉しいです。メリーバットエンドのような、バットエンドのような、ハッピーエンドのような、、、何か。そんな作品があっても良いと思います。
最後に、これまで読んで下さった読者の皆様に感謝を伝えたいです。この作品は、多くの人に支えられた完成しました。私が出会ってきた色々な作品や、応援してくれた家族、先生、友人、後輩。そして、X(旧:ツイッター)で交流をして頂いている皆様。本当に感謝しています。
今度は私の番です。「僕ぼく」に出会えて良かった。そう思ってくれる人が一人でもいたら幸いです。
ではまた、次の作品でお会いしましょう。
春人




