3.夜のサービスエリア――白い光の下で
一時間ほど走った頃、二人は小さなサービスエリアに立ち寄った。深夜で、店はほとんど閉まっている。自動販売機の白い光だけが、駐車場の隅を硬く照らしていた。
コーヒーを買い、車の外に出ると、夜の空気は冷たく、静かだ。雨上がりの匂いがして、遠くの木々が黒い影になって立っている。
そのとき、アラクネアがぽつりと言った。
「……あの子たち、もう寝てるわね」
それは仕事の話ではなかった。フィラデルフィアにいる、幼いジェイムズとマックのことだった。
二人はまだ小さく、親の仕事の意味など分からない。ただ、帰宅が遅い夜が増えると、翌朝の顔が少しだけ曇る年齢だった。そんな些細な変化が、二人には刺さった。国家の安全という抽象が、子どもの寝息という具体に変わった瞬間だった。
「起きてたら、帰りが遅いって怒られるな」
一瞬だけ、二人は微笑んだ。あまりに短い時間だったから、笑ったというより、息が緩んだだけかもしれない。だが、その緩みはすぐに消えた。
「明日も、同じように出勤すると思ってるでしょうね」
「……うん」
この時、二人ははっきりと感じていた。もう、元には戻らない、と。
その“元に戻れない”感覚には、仕事だけではなく生活も含まれていた。
子育てと両立できない働き方そのものが、彼らを外へ押し出す一因になる。
のちに会社で福利厚生や子育て支援を異常なほど重視する原点が、この夜の途中ですでに芽を出していた。




