↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
43/93

2.I-95――目を合わせない会話

高速道路――I-95に入る。フィラデルフィア郊外の自宅、アダソン宮殿まで、約二百二十キロ。夜間なら二時間半から三時間。ラジオはつけなかった。ワイパーが一定のリズムでフロントガラスを叩き、濡れた路面を刻むタイヤの音が、低い唸りになって車内に満ちる。街の灯りが少しずつ遠ざかり、視界は黒と白の線だけになっていく。


しばらくして、アレックスが口を開いた。


「……今日の判断、正しかったと思うか?」


アラクネアはすぐには答えなかった。フロントガラスの向こう、暗い道路を見つめたまま、静かに言う。


「“正しい”わ。でも、“守られた”とは言えない」


沈黙が落ちる。ワイパーの音だけが、会話の隙間を埋めていく。


「私たちは国家を守っている。でも、その国家の都合で、真実が削られる瞬間を、今日も見た」


ハンドルを握るアレックスの手に、わずかに力が入る。


「正しい判断をしても、組織の論理でねじ曲げられることがある」


しばらく走ってから、彼は低く続けた。


「……それでも、ここにいる限りは従うしかない。だが――」


アラクネアが言葉を継ぐ。


「この子たちが生きる世界は、その“ねじ曲げ”の上に作られていくのよね?」


空気が変わった。仕事の話のはずが、急に家の方へ引き寄せられる。フィラデルフィアにいる、眠っている二人の子どもの顔が、まだ見えないのに浮かぶ。


アラクネアは、言い切る前に一度息を吸ってから言った。


「国家を離れても、倫理を失わない道はないの?」


長い沈黙のあと、アレックスは答えた。


「……ある。ただし、自分たちで背負う覚悟が必要だ」


「肩書きも、守られた立場も?」


「全部だ」


それ以上、言葉は要らなかった。誰が先に決めたわけでもない。会議室で結論を採るように合意したわけでもない。けれど、この時点で、二人の中ではほとんど決断が固まっていた。


それはFBIを否定するためではなかった。

むしろ“卒業”に近かった。

FBIが悪いのではない。自分たちが、組織の枠の中で最後まで思想を通せないと悟った。国家を守るという言葉が、二人の中で、もはや国家の枠だけでは足りないものになっていた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。