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9.愛の薔薇讃歌、初披露(教会)
そして音が満ちる。
ラブ・ヴィッキー・ティニーの声が礼拝堂に上がったとき、アラクネアは息を止めた。
歌は英語。だが意味は、言葉より先に届く。愛。情熱。信頼。絆。それらが、声と呼吸で編まれていく。
二番の歌詞に入ったところで、照明が動く。演出通り、ラブ・ヴィッキーの斜め後ろ。セレナーデ・ローズ・フェアリーに光が落ちる。
ストラディヴァリウスの音は、刃物のように刺さらない。それなのに、胸の奥を正確に触る。泣かせるための音ではない。“守られていると気づかせる音”。
アラクネアは思う。
——この歌は、今日のためじゃない。未来のためだ。
園児が歌える歌。家族が育つ歌。そして、会社ができた時、その会社の理念の心臓として残る歌。
歌が終わった瞬間、拍手はすぐには起きなかった。空気がまだ、歌の中にあった。
やがて、FBIの同僚が小さく拍手を始める。それが波のように広がっていく。大きくはない。だが確かに、祝福だった。




