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7.誓いと指輪、そして“姓”
神父の声が礼拝堂に響いた。石の壁が、言葉を反射して戻す。祝福のためではなく、誓約のために。
アレックスが誓う。アラクネアが誓う。
指輪を交換する。彼女の指に金属の冷たさが触れた瞬間、FBI本部での“今”だけの時間が、初めて未来へ伸びたのを感じた。
後方の席で、FBI同僚が静かに息を吐く。誰も騒がない。だが、目が温かい。
姉の一人がハンカチを握りしめている。末っ子が遠くへ行くのが寂しいのではない。末っ子が、こんな場所で“自分の足で”立っていることに泣いている。
神父が言う。
「アラクネア・アダソン」
その姓が呼ばれた瞬間、彼女の胸に重さが落ちた。怖い重さではない。守るべきものの重さだった。
アレックスが、ほんの少しだけ彼女を見た。
「……大丈夫ですか」
彼女は小さく頷く。
「はい。あなたが、嘘をつかないから」
彼は、わずかに笑う。
「あなたもです」




