↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エズメ・ロイド教授の回顧録  作者: 書庫裏真朱麻呂
第二章 魅入られた令嬢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/28

28、漁(すなど)る者たち

 ヒルダは偽物の侍女を睨みつけ、その腕をしっかりと掴んだまま、アデレード嬢に声をかけた。

「アデレード嬢、貴女の本当の侍女は無事です。貴女がこのまま、お気を確かにお持ちでいらっしゃるならば、すぐに助けることも出来るでしょう」

 その言葉は気休めのつもりで発したのではない。ヒルダの使い魔は猫型妖精(ケット・シー)の王オシアンだ。死の気配に敏感な彼が何も言わなかったのだから、アデレード嬢の侍女は生きているはずだ。

 それよりもヒルダが恐れていたのは、ショックを受けたアデレード嬢が失神することだった。気を失った状態の人間は、悪霊どもにとっては死体の次に扱い易いものだから。

 そして、もう一つの心配といえば。

(出来れば、この偽の侍女は生け捕りにしたいんだよな。ボンボンショコラが、死せる海の女神の魔法を広めている奴の狙いを知りたがっているから……)

 だが、これ以上破魔の力を相手に流し込めば、誤って消滅させてしまいそうだった。まるで、水を吸ってしまった薄い紙を、破らぬようにそっと摘み上げた時のような気分。

 なお悪いことには、先程のピットヴァイパー男爵の霊が、再び近付いて来る気配もしていた。

(私の片手が塞がったのを見ていたな。狡猾な奴だ)

 令嬢の前でなければ、舌打ちしていたかもしれない。

 さて、そろそろ誰かが加勢してくれそうなものだがな、とヒルダが思っていると、純白の長い毛並みを持つ大きな猫が、寝室のドアの隙間からするりと駆け込んで来た。

「ヒルダ様。王命により、加勢に参りました」

    *         *

 朝食の間では、風精霊(シルフ)が暖炉に置かれた鏡の前に、魔力の糸を結び付けた印章指輪(シグネットリング)を置いたところだった。

「釣り竿は僕自身だ。これで、すぐに釣れるよ」

 しかしエズメには、気になることがあった。それは、鏡の大きさが朝食の皿ほどしかないことだった。

「風精霊(シルフ)さん。これほど小さな鏡で大丈夫なの?」

 風精霊(シルフ)は首を傾げた。

「何か心配でも?」

「釣り上げる時に、悪霊の身体が鏡の縁(ふち)につかえてしまわないかしら?」

 エズメは至って大真面目にそう尋ねたのだが、風精霊(シルフ)は軽やかな笑い声を立てた。

「君って、そういう面白いことも言うんだね。……鏡の縁につっかえる悪霊か。想像すると笑いが止まらなくなりそうだよ」

 その反応に、エズメは少しばかり気を悪くした。すると、風精霊(シルフ)は彼女の表情に気付いたらしい。すぐに笑うのをやめ、申し訳なさそうな顔をした。

「ごめん、何か怒らせたなら謝るよ。……お願いだから、僕のことを嫌いにならないで」

 捨てられた仔犬のような顔を向けられたエズメは、一つため息をついた。全く、彼の顔が少しも好みではなくて、おまけに平手打ちで結婚が決まるような慣習など持っていなければ良いのに。

「とにかく、鏡の縁に悪霊がつかえる心配がないのなら結構ですわ」

 エズメが冷ややかにそう言うと、風精霊(シルフ)は慌てた様子を見せた。

「ごめん、まさか本気で言ってるとは思わなかった。大丈夫、もっと小さな鏡でも問題なく釣れるんだから。……どうしたら良いかな。そうだ――」

 風精霊(シルフ)が何か言いかけた時、暖炉の上の鏡から、白い男の手が伸びて来た。

「風精霊(シルフ)さん――!」

 エズメが声を上げると、風精霊(シルフ)は、くすっと不敵に笑った。

「見ていて」

 彼は、男の手が指輪を掴んだ瞬間に糸を引いた。そして見事に男の霊そのものを鏡から引きずり出し、そのまま釣り糸で雁字搦めに縛り上げてしまった。

 縛り上げられた亡霊は、紛うことなきピットヴァイパー男爵だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヒルダはオシアンに言われたように、出来れば偽の侍女を消滅しないように生け捕りにしたいんだ……手加減しながらもなかなか難しいんですね^^; エズメのツッコミが笑わせるためと思ってしまったんだよね。普通…
亡霊を釣るって面白い発想ですね。 笑ってしまったシルフの気持ちも分からなくないような(´ω`) エズメの心の声は結構可愛い感じですよね、乙女❤︎ ヒルダの方はやはり男前です!!ヒルダ素敵♡ いつも素…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。