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エズメ・ロイド教授の回顧録  作者: 書庫裏真朱麻呂
第一章 グリードル屋敷の惨劇

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11/14

11、「たいせつなもの」だと思うから

 エズメが驚いているうちに、水槽のガラスの向こうにヒルダの姿が現れた。彼女は上手く身体を浮かせると、水面に浮かぶマグノリアの花を手に取り、何食わぬ顔で上がって来た。

 そして、マグノリアの花をエズメに差し出した。

「はい、エズメ」

「……ヒルダ、貴女どうして?」 

 エズメの問いに、ヒルダは悪童のように笑って答えた。

「だってこれは、エズメにとって大切なものだと思うから」

 エズメは首を振った。

「私にとっては、貴女の方がずっと大切よ。お願いだから無茶はしないで」 

 ヒルダはきょとんとしていた。

「無茶したつもりはないんだけどな。ケルピー討伐で服を着たまま湖に落ちるなんて、よくあることだし。……もしかして、怒っているのか?」

 言葉の途中から心配そうにエズメの顔色を窺うヒルダの頰を、エズメは軽く摘んだ。

「心配したのよ。もう、そんなにずぶ濡れになって。ただでさえ今日は寒いのに、風邪を引いてしまうわ」

 オシアンが無言で指を鳴らし、魔法でヒルダの髪と服を一瞬で乾かした。

「ありがとう、ボンボンショコラ」

 オシアンは従僕のようにヒルダに一礼したが、やはり何も言わなかった。


――実を申せば、某も菊松も、御子様方に再び御目にかかることを諦めかけておりました。

――また、お二人に御目にかかることが出来るならば、これ以上なき幸せにございまする。

――それもこれも、皆々様のお蔭にござりまする。

 廊下を歩く間、角之進と菊松が、わざと弾んだ声でそう話し、エズメもそれに相槌を打つ。だが、その場の雰囲気は、少しも明るくならない。せっかく無事に討伐が終了したというのに、オシアンが黙り込み、ヒルダが気まずそうにしていたからだ。

(オシアン公のこれは、不機嫌ではなくて、かけるべき言葉が見つからない、という感じね)

 オシアンがヒルダに対して並々ならぬ想いを向けているらしいことは、その様子を見ていればすぐに分かる。ヒルダのために手ずから食事を用意するなど、幾ら使い魔だからといって、王であり、公爵でもある者のすることではない。それに、ヒルダに向ける、あの眼差し。――かつて、同じ眼差しをヒルダに向けていた若者の面影が脳裏をかすめ、エズメはそれを振り払うように首を振った。亡き兄のことを思い出すと、今でも涙が滲みそうになるのだから。


「オシアン公。先程『騒動屋』のことを仰っていましたが、『騒動屋』は、まだこの近くにいるのでしょうか?」

 エズメがそう尋ねると、オシアンは否定した。

「あれらは、一度取り引きをした相手の元には、二度と現れない。妖精の王たちの不興を買っているという自覚があるのだろう、一つの場所に長居をすることもないようだ」

 ヒルダが恨めしげにオシアンの顔を見上げた。

「喋れるなら、私にも何か言ってくれても良いと思うんだけどな」

 オシアンの顔に、一瞬だけ朱が走った。しかしそれはすぐに消えた。彼はやはり、ヒルダには何も言わなかった。

 エズメはヒルダに声をかけた。

「ヒルダ。とにかく早く宿に戻りましょう。大事な話は、他所様のお宅でするものではないでしょう?」

 屋敷の人々を死に追いやった邪悪なものの駆除は完了し、浄化も済んだ。これ以上、この場所に留まる必要もない。

「……帰ったら、お説教か?」

 ヒルダが、今度はおずおずとオシアンの顔を見上げた。昨夜、ノックもなしにオシアンの部屋に入った件でオシアンから叱られたヒルダだが、どうやらそれが相当堪えたらしい。

「一度、二人で話し合うべきよ、ヒルダ。……ドアは少し開けておけば問題ありませんわ、オシアン公。部屋の外ではありますが、私もドアの側に待機致しますから」 

 ヒルダを大切な者だと思うから、エズメはそう提案した。

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― 新着の感想 ―
喋らないオシアンも新鮮です。 ヒルダも自重するようになるのかも? (´ε`)
オシアンはヒルダに怒っている、という感情ではなく…なんですかね。でもそういう時に態度であらわすのも少し可愛いなぁと思えてしまいますね♪
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