27話 母と呼ばれる理由
ベディビアと言う騎士を案内すると言って、アスランは王宮の方へ馬を走らせた。そしてそれについて行くベディビア。
馬をパクられたライオネットは俺を抱きながら、エリザベート様と通りかかった馬車を半ば脅して王宮へ向かった。
王宮では既に、何と引きずり出されたダニエルが、震えながら後ろ手に縛られ、ランスロットの前に跪かされていた。
「もう一度聞く、本当に貴様は我が妻アリス襲撃には加担していないのか?」
「し! 知らない!! 僕は何も知らない!!」
「ならば何故貴様はあんな所に隠れていた、関係無いと言うなら第一王子がこの有事にこの場に居ないのは不自然だ」
その時、扉の外からいきなり飛び込んで来た男性と女性の二人。
「いた! あいつですよ!! あいつがダニエルです」
アスランはその伯爵家嫡男と言う立場で襲撃犯の大体の事を掴んでいた。それを途中ベディヴィアに伝えていた。
その瞬間冷酷な殺気を撒き散らした女性が飛び出し、剣を抜きダニエルに襲いかかった。
「待てベディビア!! まだ殺すな!!」
「ち!」
ベディビアが抜いた剣は、ダニエルの左肩に突き刺さり、そのままダニエルは吹き飛んだ。5メートル程ダニエルは吹き飛び、そのまま肩を押さえながら、大騒ぎを始めた。
「痛い! 痛い! 血が! 血が出てる!! 回復魔法をかけてくれ!!」
「騒ぐなこのゴミが!!」
「ぐぼ!!」
更にベディビアは顔面に強烈な蹴りをぶち込んだ。
「何故邪魔をするんですか父さん。母さんは憔悴しきっていた。自分の足で立てない程に・・・・今にも死んでしまいそうな程に。皆殺しにした方が速い!!」
そのベディビアの言葉を聞いたラウンズ達の殺気が更に拡がった。
「ところでさ? そんな母さんほっといてお前は何でここにいるの? ベディビア」
その騎士の怒気は、周囲の騎士達とは明らかに異なる程恐ろしい物だった。普通の人間ならそれだけで気絶してしまいそうな物で、ラフィールは震えながらも思った。
『この騎士が、恐らくランスロット陛下と並ぶ、帝国最強のナイトオブラウンズの中でも、最強の3人と言われる一人だわ。恐ろしい・・・・』
「‥‥‥第二王子と言う奴に預けて来たわ。悔しいけど母さんはその方が安心していたの」
「う! そうなんだ‥‥‥」
その騎士は怒気が引っ込み、悲しそうな顔で俯いた。何か可愛い程だった。
「トリスタン、それは説明したぞ。フィーネは全てを忘れてしまっている」
「うん、解ってるよ、でもきついよね」
「それにベディビア、俺達の理想を忘れるな。其奴は必ず殺す、だがそれをフィーネに気付かれちゃだめだ。フィーネが悲しむような事は絶対にするな」
「‥‥‥解りました、お父さん」
「ベディビア、ライオネット王子と母上は此方に向かって居るのだな?」
「向かっています、兄さん。時期に付くでしょう」
「ならば此奴らの取り調べは後だ。こいつにはまだ聞くことがある、一応回復しておいてやれ。王女ラフィール、地下牢を借りるぞ」
「此方でやって置きましょう。ダニエルは謀叛人の疑いがあります! 誰か! ダニエルを回復後に地下牢へ入れなさい!」
「は!」
ライオネット王子に抱かれて王宮へつくと、白い鎧をきた帝国騎士達が跪いていた。そしてランスロットが来た。こ、こいつら全員あの夢で見たガキ共だ。
「アリス、迎えに来るのが遅くなってしまったね、許して欲しい。ライオネット王子、僕が後を引き継ぐよ。僕の妻だ」
「解りました、ランスロット殿下」
「安心して、アリス、必ず君を世界一幸せにしてみせる」
「お母さん」
俺はコケそうになった、抱き上げられてるのでコケられないが・・・
「母上・・・間違い無い、母上だ!」
色々と聞きたい事や言いたい事は山ほど有るが、とりあえず黙って俺はランスロットに抱かれた。そしてランスロットはそのまま玉座に座った。
ここお前の国じゃねえだろと言う突っ込みは、もう少し体力が回復してからにしようと思う。
「少し横になるかい? アリス、何なら僕が添い寝してあげようか?」
「‥‥‥ランスロット・・・殿下、その前に聞きたい事がある・・・有ります」
「出来れば君はもう僕の妻何だ。普通に話してくれると嬉しいんだけどね?」
「だからその前に、幾つか知っておきたい事があるんです。それが解れば、俺は殿下の女になりますよ」
「解った、なんだい?」
「知りたい事は沢山あるけど、取り急ぎ知っておきたい事は3つ。まずランスロット殿下は、俺のもう一つの名前を知ってますか?」
「そうだね、知っているよ」
「聞かせてください」
「まさかとは思うけど、記憶は?」
「ない、だけど聞いておきたい」
「解った、君には実はもう二つ名前がある」
「・・・・やっぱり、何もかも知って俺を迎えに来たんですね」
「やはり少しずつ記憶が戻りはじめてるのかな?」
「いや、記憶じゃ無いと、思います。夢で、色々・・・・名前を聞かせてくださいよ」
「もう一つの名前はフィーネ、そして、アストライア、それが君の名だよ」
やっぱりそうか‥‥‥あれは単なる夢じゃ無かった。
「もう一つ、もしそのフィーネに子供が居るとして、その子の名前は?」
「アリスフィーネだよ」
マジでどんぴしゃかよ‥‥
「俺は何故二人になったのかな?」
「記憶を補完するためだよ。フィーネ自身がそうしたんだと思う。僕が・・・僕が君を守れていれば」
「それは違う父上! 私達にあの時もっと力が有れば!! 母上をこんな風には」
「そうだ! 僕達が母さんに甘え過ぎてたんだ!」
「あー! やめやめ!!」
「母さん?」
「そう言う辛気くせえのは無しだ! 俺はそう言うのを聞きたかったんじゃねえ。まあいいや、何れゆっくりと聞かせて貰う。とりあえず俺がランスロット様の妻に、お前らの母親になれば丸く納まるんだろ? なってやるよ」
「母上!」
「母さん」
「ママぁぁぁぁぁぁ!」
はあ・・・何だよこりゃ? 親父じゃなくてお袋かよ? こんなでかいガキが居るとかあり得ねえだろ?
まあ一つだけ解ったのは、あいつは俺で、俺はあいつだ。おまけに此奴らの涙は本物だ。
仕方ねえ、とりあえず11人の母親でもやってみるか‥‥‥
何か一人だけちっこいのが居るな‥‥‥
「ごめんな、皆の事覚えて無くて、でも待っててくれたんだよな。だから俺も一生懸命思い出すよ。今出来る事ってこれ位だけど、これで許してくれ」
そういって一人一人抱きしめて見た。信じられない事に、大の大人、一名除くが俺に抱き付いて来て大泣きしていた。それは正に子供のそれとしか思えなかった。
「所でちょっと聞きたいんだがアリス」
「何?」
「同じく君を待ち続けた僕には何も無いのかな?」
「あれ? ランスロット様知りませんでした?」
「何をだい?」
「母親って何時如何なる時も子供優先何ですよ? 旦那は二の次何です」
「‥‥‥そ、それは知らなかったな、そ、そうか・・・だがそれなら僕は実力行使をさせて貰うよ」
本当に実力行使に出やがったこの野郎。まだよく動けねえ俺にキスをするはずっと抱っこしやがるは、舐めた所に手を伸ばしやがるはで、多少暴れた所で放しやがらねえ。
仕方なく諦めモードに俺は入る事にした。その後開放されて俺はベッドに寝かされた。
暫く俺の傍にランスロット様がいた。なのでその後の疑問点も俺は聞く事にした。
「ランスロット様、仕事に戻らなくて良いのか?」
「僕はこの日の為に一万年以上待ったんだ。彼奴らも同じだけどね。でも最初は僕と君だった。もう二度と君を放したくない。だから君を再び失うかもしれないと言う恐怖が和らぐまでは、傍に居させて欲しい」
「一万年以上‥‥‥」
一万年以上? てことはあの夢は一万年以上前の出来事だって言うのか!?
「解ったよ。それでさ、俺さっき変な夢を見たんだ」
「どんな夢だい?」
「俺はマーメイドだった」
「!? ………そ、それで?」
「ランスロット様は騎士見習いだったんだ。ランスロット様は騎士試験に合格したら、俺を迎えに来てくれると言ってたな」
「あ、ああ、そうだね………」
なんだ!? 震えている? この化け物みたいな男が・・・・・
「何か俺はそれがとても楽しみで、その知らせが待ち遠しくて、陸の近くまで上がっちまったんだよな」
「く! ‥‥そ、そうか」
やべぇ・・・いきなり殺気が、マジで怖え・・・この後も聞いて大丈夫なのか?
だが聞かなければ何も解らねえままだ。
「そ、そうしたらドジって俺奴隷商人に捕まっちまってさ、その後直ぐに死んじゃったんだ・・・」
だがその時、ランスロットから言いしれぬ程の恐ろしい殺気が弾けた。
え!? おい、マジかよ・・・俺がこんなに・・・怖い、マジで恐ろしい。俺が、恐怖してるのか・・・
俺が動けない程に物凄い殺気がランスロットから放たれた。俺は恐怖でもう声すら出せない。
「く、くそぉ!! くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す!! 殺してやる!! うおぁぁぁぁぁ!! 俺のぉぉぉ!! 俺のフィーネをあんな風に、絶対に殺してやる!! 2度と甦れない程凄惨に、惨忍に!! 未来永劫に魂までも引き裂いてくれる!!」
マジか!? これ禁句だったのか? だが恐怖で体が強張る、マジで動けねえ。恐ろしい、俺はこれ程の恐怖を前世も含めて初めて感じた。
そこにトリスタンとガウェインが飛び込んで来た。
「父さん!!」
「取り押さえろ! トリスタン!!」
「父さん! 母さんが居るだろう!? もう大丈夫何だよ! 母さんは必ず僕達で守る! もう何処にも行かない!! 行かせない!!」
「そうだ! 母さんが怯えてるだろう!! こんなに震えてる!! 母さんを恐がらせちゃだめだ!!」
二人に抑えつけられていたランスロットは、ガウェインの言った俺が怯えてると言う言葉に反応して、ようやく静まった。
「あ、ありがとう、トリスタン、ガウェイン」
「うん、母さんもしかして、母さんが居なくなった時の事を・・・」
「ああ、夢で見たんだ。それで聞いてみたんだよ、妙にリアルだったから・・・」
「ガウェイン、父さんを部屋に、母さんには僕が話すよ」
「解った、父さん、少し休んでくれ、一緒に行こう」
「はあ、はあ、はあ、はあ、すまない、アリス、少し頭を冷やしてくる。恐がらせてごめん」
「いや、俺のほうこそごめん、嫌なこと思い出させて」
「大丈夫だ‥‥‥君はそこに居る、そこに居るんだ、もう大丈夫なんだ」
頭を右手で押さえながら、ランスロットはフラフラとして部屋から出て行った。
「なあ、トリスタン・・・」
「最初は頻繁にああなって居たんだ。母さんが死んだあの日から。何年も発作のように」
「なあトリスタン、俺って、マーメイドだったの?」
「そうだよ、僕達は口減らしで海に捨てられ、殺されそうになった所で、マーメイドだった母さんに助けられたんだ」
「口減らし!?」
「もうどれくらい前だったか忘れたけど、少なくとも一万年以上前の話しだよ。
当時はこの大陸に帝国もフォルテシアもボストニアも無くてね、小さな国が幾つも有って、国同士覇権を争って居たんだ。僕達はその中の一つ、イライアスと言う国の少年兵だった。まだ10才だったよ。
当時はどの国も長く続く戦乱で、もう大人の男達は居なかった。だから僕達みたいな身寄りの無い奴隷の子供は皆、戦争で兵士に駆り出されたんだ」
「ヒデエ‥‥‥なんて無茶苦茶しやがる」
「やっぱり母さんは母さんだね、あの時もそうやって怒っていたよ」
イライアスは丁度その頃、ライラックと言う国と戦争をしていた。だが戦況は悪化し、イライアスは撤退をする事になったらしい。 イライアスもライラックも海洋国家であり、戦場は近隣の島々で点在して行われていた。
そして撤退途中で食料のつきたイライアスの兵士達は、それこそ口減らしの為に、トリスタン達少年兵を海に投げ捨てた。
そこでマーメイドだった俺が、そのトリスタン達を救い、近くの小島に連れて行ったようだ。
「だけどそこはね、まあ‥‥母さんと父さんが逢い引きしていた島だったんだよ」
「な! ‥‥‥そうなのか」
「その当時父さんはライラックの兵士だったんだ。僕達がイライアスの少年兵の格好をしていたから、父さんは当然斬りかかるよね。だけど母さんはそんな父さんに激怒したんだ。
この島は俺の島だ! だからこの島の法律は俺が作った!! ここに他国の戦争を持ち込むな!! ここでは誰もが仲良く笑って過ごすんだ!! ってね。
結局その小さい島は母さんの国だから、父さんもそれに逆らえない。僕達はその母さんの島の初の国民になったんだよ」
「‥‥‥なんか俺ガキ大将みたいだな」
「うん、まちがいなくガキ大将だったよ。そこでは母さんが魚を捕って来てくれて、僕達にご飯を作ってくれた。僕達はそこで父さんに剣を習った。いずれ強い兵士になって、母さんに堕落した贅沢な毎日を過ごさせると言う使命を僕達は負ったんだよ」
「ガキを兵士にして‥‥‥堕落」
なんて最低な屑マーメイドなんだ、どうやら俺らしいけど‥‥‥
「でも母さんは僕達の本当の母さんだった。一番幼かったモルドレッドはよく熱を出したんだ。ずっと抱きしめて歌を歌ってくれた。僕達が怪我をしたら直ぐに回復魔法をかけてくれた。好き嫌いをしたら怒ってもくれた。
僕達はそこで初めて母さんを手に入れたんだ。そこで過ごす日々は本当に天国だったよ。小さな島で、何も無い所だったけど、彼処には家族が皆笑って暮らせる暖かさが有ったんだ。
どんな国に居るよりも幸せな毎日だった。父さんと母さんがいて、兄弟達がいて。その中心は何時も優しい母さんだった、母さんが居たからあの幸せな日々が有ったんだ」
かなり毒舌なマーメイドっぽかったけどな‥‥‥
「でも、でも!! そんな母さんを彼奴らが奪ったんだ!!」
くっ!! こいつもかよ!? 恐ろしい・・・なんてヤバい殺気なんだ!
「あっ‥‥‥ごめんね、母さん、これじゃ父さんと同じだね。で、でも悔しかったんだよ、この手で殺してやりたかった。島に戻って来た父さんが抱いて居たのは、冷たくなった母さんの躯だったんだ‥‥‥本当に悔しかった、僕達の大切な母さんを彼奴等が。あの時僕達にもっと力が有れば、あの時父さんを迎えに行こうとしてた母さんを力ずくでも止めておけば」
泣いてる‥‥‥そうか‥‥‥やっぱコイツラも、それを取り戻す為に俺の血を飲んだのか。
「ごめんな・・・もう何処にも行かねえから」
「うん‥‥‥絶対僕たちが母さんのあの島を帝国に作って、目一杯堕落させてあげるからね!」
「お、おう‥‥‥ま、任せたぜ」
はあ・・・決めた、母親なんざやった事ねえが、俺は此奴らの本当の母親になる。此奴らは俺のガキだ。
どう考えても俺の方が遥かに年下だけど‥‥‥




