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10.光の対策

ガロンとの決着をつけ、権能を継承したあの日から三日が経過した。


二人の戦いによってグラエム外郭に落ちた岩によって耕作地の二割近くが吹き飛んだが、グラエムの1000万近い人々にはこれまでと変わらない食料を供給できている。


いつこのような事態が起こっても都市が耐えられるように、結界門が創られた二千年前から備蓄されていたのだ。


それは一重にエルナの功績である。


未だにグリアノスとヴァリディギウスの残した破壊の傷は癒えないが、それでも人々は少しずつ前を向こうとしていた。


そんな中、幾度もの死闘を乗り越えたノアは───


「……使い方は間違いじゃなかった」


星線の使い方をずっと検証し続けていた。


ノアは都市復興には関与せず、次の戦いに向けて己のできることを試し続けている。


死者を悼むことは今のノアには許されていない。


故に、ノアは狂王との戦闘によって生じた死者の追悼をまだしていなかった。


その時間がないからだ。


だが、それによって得られた結果も多い。


まず星線を繋いだ先との間に中継地点を設け、それを中間の三点目とすることには苦労もせずに成功している。


屍のガロンが使わなかっただけで、これはきっとデフォルトの機能なのだろう。


応用ですらない。


やはりノアが知らなかっただけでこれが本来の使い方なのだ。


「問題となるのはヴァディア相手にどう使うか、だが……」


ヴァディアの持つ力の片割れ、光によって星の力を奪取される可能性がある。


権能そのものを奪うことはできないだろうが、星の光を流用される可能性はかなり高い。


ヴァディアは基本的に雷の力で戦うとはいえ、戦闘中に使えるものは使ってくるはずだ。


そういう技量や運も使ってくるタイプの戦闘狂だとノアは知っている。


何か、ヴァディアにも干渉できない地点に星線を繋げられれば良いのだが……


「……やはり、厳しいのか?」


自問を続けるノア。


何故ノアがこれ程までに星線……星と常闇の権能に拘るのか。


それは強さとは無関係の、繋がれた意志の話。


「もう決めたこと……今更覆しはしない」


虚無、殺意、界律……これらも織り交ぜつつ戦った方が勝率が上がることはノアとて解っている。


それでも、ノアはヴァディアとの戦いでは星と常闇の権能だけでヴァディアに勝利したいのだ。


「これがデフォルトなら、きっと応用できるはず……」


それ故にこの権能を象徴する星線の新たな使い方を模索する。


(星線を繋ぐことができるのは空間や物質、魂のような、非物質であろうとも存在しているもののみ……非存在、概念などには星線でも干渉できない……そもそもその前提が正しいのか……?星線そのものが非存在なのに……?)


前提を疑うことは新たな力や使い方を生み出すのに大切なことだ。


それが実際に可能なのかはまた別の話ではあるが……


(星線は俺の魂……すなわち虚無に繋げることができていた。だが、それはあくまでも魂として存在していたからだ。俺の魂は存在しないと同時に存在している。故に触れられる……それならば、触れられないものは何だ……?)


ガロンは矛盾を辿ってノアの魂を探り出した。


それは単にガロンの技術によるものというのも大きいだろうが、あくまでも星線の能力はガロンのものと今ノアが持つもので違いはないはず。


つまり、技量の問題であって理論上はノアにも可能なのだ。


そこで懸念される点はただ一つ。


(実体のないものに繋げることは可能……ならば光や雷にも通用する。後は……時間か)


星線は空間に張り巡らせるもの。


過程は中間地点を三点目に繋げることで操作可能だが、いつどのタイミングで、ということまでは操作できない。


理編の醒星(ア・ルデンド)』であれば繋いだ結果を瞬時に得られるが、それは過程を飛ばして結果を具現化させるのであって過程そのもののタイミングを決めることは不可能。


「……『理編の醒星(ア・ルデンド)』で結果を引き寄せてもヴァディアならば対応してくるか……?」


結果を瞬間的に引き寄せるというのは確かに強い。


なぜならそこにタイムラグが()()()()()()()からだ。


魔法を発動させた瞬間に結果が起こるのだから。


ただ、ヴァディアは単純な物理速度が異常なまでに速い。


結果そのものを拒むことは不可能だったとしても、ノアの繋いだ星線の通りにならない可能性は有り得るだろう。


「強い……が、全てを解決できるような力じゃないか」


星線は基本的に万能な力だが、敵の強さ、そして能力の相性によってはこのような不便さが際立つ。


星線の元となる星に光が含まれているのも不安要素だが……


(目に見えない……感じることもできない概念そのものに星線を繋げることができれば、きっと選択肢は広がる)


ヴァディアの力に対抗するためには様々な要素を考慮しなければならない。


真っ向から戦えば速度で負けるのだから。


故にノアに求められるのはヴァディアの権能への対策と搦め手の模索だ。


「……何にせよ、光を対策しないとどの戦法も話にならないか」


光の権能は当然それだけでも強力な力だが、今回問題なのは星との相性だ。


そこを第一に対策しなければ今考えている星線の応用方法についても無意味となる。


「光、星……常闇……」


常闇であれば光とはほぼ対極……あるいはそれ以上となる。


常闇であれば対応はできる。


「……だが、星線は常闇だけでは使えない」


星線はあくまでも星と星を繋ぐ線であり、常闇はその土俵に過ぎない。


星線を引く空間……それが闇でなければならず、線までも常闇でやろうとすれば周囲の闇に溶け込んで線としての機能が失われてしまう。


「……いや待て、そもそもの星線の能力は……」


そこでノアは思い出す。


星線を繋いだ未来は確定されるという現象が、ただの副産物でしかないということに。


「夜闇で覆った世界のルールを定める……それこそが、星線の本来の力、だったな」


理すらも改変可能ならばいくらでもやりようはありそうだ。


「とはいえ、過信するのは良くない」


いくらガロンの権能が強力といっても限度はある。


光の権能を持つヴァディアが相手では星線を直接繋げられないであろう点は揺るがないことも含め、こちらの力が強くとも油断してはならない。


「……やはり速度か」


ヴァディアの最も厄介な点……それは他でもないヴァディア自身の速度である。


ノアの知る限り、ヴァディアは光速の数倍はいとも容易く超える。


対して今のノアは最速でも光速の二倍か三倍。全く追いつけない程ではないが、ヴァディアはそこから更に二倍以上速いだろう。


雷撃は光よりも遅い為、注意していれば簡単に躱せるが……


「……あいつは全ての攻撃に己の速度を付与できるからな。雷すらも光速を軽く超えるとなると、かなり面倒だ」


ヴァディアの攻撃の全てがノアの速度を大きく上回る。


反応こそ可能でも、その速度の攻撃を高密度で放たれたなら余裕は間違いなくなくなるだろう。


「もっと使い方を練らなくては……」


そこまで考えた時だった。


─────


文字通りこの空間が……世界が揺れた。


「こ、れは……?」


───()()()


遠くで聞こえるガラスが割れたような音。


その瞬間、ごく僅かに感じる死の気配……


ノアはそれの意味する事象を理解するのに数秒を要した。


「結界の……破壊……」


何者かによってこのグラエムを完全に覆う結界、そしてそれを維持する結界門が破壊された……


そうでなければ神造の産物が壊れるわけがない。


いくら外に死の概念が蔓延しているからといって、その程度で侵食される程弱くはなかったはずだ。


だがそれを……壊された。


それをやったのはヴァディアかアルファルドか……おそらくはどちらかだろうが……


「ッ!」


今はそのようなことを考えている場合ではないと言わんばかりにノアは新庁舎を飛び出す。


遥か上空へと飛び上がり、一つの魔法を展開した。


星天の常闇(アルデ・ディヴィス)』だ。


死の概念によって住民に被害が出る前にノアは星と常闇の権能によって擬似的な結界を造ろうとしていた。


「間に合えッ!」


もう間もなく人類に影響が及ぶレベルの死が都市全域に降りかかる。


被害ゼロは無理かもしれないが、それでも可能な限り被害を減らす為にノアは星線を格子状に編んでいった。


「『雷神衝(デザリア)』ッ!」


───だが、それは敵にとっては隙にしかならない。


「が───ッ!?」


その衝撃は相も変わらず暴力的。


ノアであっても大きく怯む程には爆発的な威力を秘めている雷の魔法だ。


それを放ったのは当然───


「ヴァディアッ!」

「久しいな、前王よッ!」


雷と光の権能の所持者……穿界軍元帥、ヴァディアだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「チッ……」


数秒してノアの星線による疑似結界は完成し、ノアとヴァディアはその外で再度対峙する。


(一撃、隙だらけの状態でモロに食らってしまった……)


ノアの胸には大きな風穴が空いていた。


雷により焼かれ出血こそしていないが、心臓と両肺はもう機能していない。


雷撃による超高熱で焼かれた為か、その熱は再生の権能すらも阻害していた。


(……あまり状況は芳しくないな)


それでもノアは冷静を保つ。


痛みや衝撃はノアを止めるブレーキにはなり得ない。


「……二万年ぶりか、ヴァディア」


再生にはもうしばらく時間がかかってしまう。


その時間を稼ぐわけではないが、通用する力を模索する為にノアは会話をするという選択を取った。


「そうだな、前王ノア……卿とはいずれ、本気で滅ぼし合いたいと考えていた」


ノアがあの世界で皇帝をしていた時代、ヴァディアはアルファルドに敗北し、その軍門に下った。


アルファルドがノアの配下になっていたこともあり、自動的にヴァディアはノアの配下にもなったのだ。


故に、直接的に戦ったことはなかった。


「……念の為聞いておくが、ガロンを滅ぼしたのはお前でいいんだな?」


まず間違いないが、本人の口からそれを聞く必要があるとノアは考えていた。


その問いに対し、ヴァディアは……


「その通りだ。あの神は陛下を除き、我が戦ってきたどの存在よりも強かった。我がその強さに敬意を表するのが、その証拠だ」


ヴァディアは別に悪人ではない。


自身やアルファルドの理想の障害となる存在を滅ぼすことに躊躇がないだけで、善悪の区別ができる程度に良識はある。


その上で、ヴァディアは敵を滅ぼす……自身がこの世界にとっての悪ということを理解しながら。


それ故に、ノアはその人柄にはむしろ好感すら持っていた。


……ただ、盟友を滅ぼされたこととは別だ。


「それが聞けて良かった。俺も躊躇なく、お前を滅ぼせる」


ノアは白雪を鞘ごと腰から外し、ひとつの魔法陣を描いた。


それはただ単に物質を収納できるもの。人によって容量に差はあるが、誰でも簡単に使える基本魔法の一つだ。


「───悪い、ユキ。お前の出番はここじゃない」


ノアはその魔法陣の中に白雪を仕舞った。


「ほう?いくら前王とはいえ、我を前に武器を持たぬとは……何を考えている?」


ヴァディアはかつてのノアの戦い方をよく知っている。


魔法も織り交ぜるが、基本的には武具を使って戦うということを。


だからこそ、ノアのその行動を不可解に思っていた。


「───勘違いするなよ、ヴァディア」


だが、ノアには今、白雪でも静滅銀刀(ゼグル)でもない武器があった。


継承された権能……それに内包されていた、常闇の剣……


「───『宵の星剣(アルデバラン)』」


ノアの目の前に現れるのは闇で構成された一振りの長剣。


星と常闇の権能によって顕現される武具───宵の星剣(アルデバラン)だ。


それを目にしたヴァディアは僅かに目を見開く。


「それは、ガロンの……」

「それだけじゃねぇよ」


ノアの言葉が響き、剣を象っていた闇がより一層深くなる。


それだけでなく、次第に形状すらも変化させていった。


ノアが常闇を操ったことで形を変えた宵の星剣(アルデバラン)───


その武具の名は───


「───『常闇の星刀(ガロ・アルデバラン)』」


剣は形を変え、一振りの刀へ。


常闇で構成された刀……その刀身には一本の白い線が刻まれていた。


それはまるで星線を象ったような……


「そうか……継承した常闇を、卿が深化させた……その上で武具としての形状を操作、か……」


一瞬呆気に取られるヴァディアだったが、ノアがガロンの権能を継承したということを理解すると小さく笑ってみせた。


「くくく……なるほどな。よく解った……卿はこの戦いにおいて、ガロンの力だけで我を下そうというわけだな」


愉快だと言わんばかりに笑みを浮かべつつヴァディアが言葉を吐く。


対称的に、ノアは一切の表情を浮かべることなく冷静に言葉を返した。


「そうだ……俺は権能と共に、ガロンの意志も受け継いだ。だからこそ、俺は証明する……ガロンが力を出せていたならば、お前如きに負けることはなかったのだと」


表情や声色は無感情、だがその意志は証明の為に燃え続ける。


盟友は、本来ならばこれだけ強かったのだと。


「───そうか」


ノアの意志を見たヴァディアは両手を大きく広げる。


そうして、宣言をした。


「良かろう。ならば我は、卿を真正面から打ち砕くッ!」


ノアとガロンを、その意志を滅ぼすと。


「さあ───始めようか」

「ああ───来るが良い」


能力の厄介さは確実にノアに分がある。


素のフィジカルは圧倒的にヴァディアが上。


ノアはその圧倒的な速度を追う必要があり、ヴァディアは常闇や星線を突破する必要がある。


どちらも一筋縄ではいかないだろう。


だが、それでも───


「この力で、お前を滅ぼす」

「二万年越しに、卿を血の海に沈めよう」


次の瞬間、光速で迫る闇とそれ以上の速度の雷電が衝突し、世界は衝撃で震撼した。


超光速の激戦の幕が上がる───


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