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22.終焉の試練

光の一切届かない闇の空間をノアは走り続ける。


山脈の岩の割れ目から地下へと侵入して追憶の試練を突破したノアは地下へと下り続ける。


「また行き止まりか……」


自然にできた岩の割れ目がそう都合良く地底に続いているはずもなく、先程からノアは何度も行き止まりに当たっていた。


そして、その度に……


「『壊撃(ガルム)』」


突き当たりの岩を破壊した。


「……やはり、単純な破壊力なら虚無よりも破壊の方が上だな。静滅銀刀(ゼグル)を使えたなら話は変わるが……あれは随分と特殊な武器だ。当時の力を完全に取り戻さなければ実質的に生成不可能だろうな」


『縁記追想』の中でノアとアルゼルスが見たあの灰色の刀。


あれを見た時のノアはあれを擬似神装の一種だと思っていたようだが、静滅銀刀(ゼグル)はその次元の武具ではない。


少なくとも記憶を取り戻した今のノアならその理由も知っている。


「それにしても、記憶や力を封印していたとはいえ、この力の劣りよう……流石にここまでは想定外だ。技術だけで補える『光の剣戟』すらも満足に使えていないとは……」


今世のノアは刃を交える瞬間に発動させるという方法で『光の剣戟』を使っていた。


それも確かに紛れもなく『光の剣戟』ではある。


だがこの程度では前世のノアの技量の再現にもならない。


「幸い、虚無の権能や身体能力と違って技量は記憶に依存する。『光の剣戟』をほぼ完全に取り戻せたのは良い結果であることに違いはない」


追憶の試練で記憶を融合できたのは運が良かった。


記憶を閲覧するだけなら多少上手くはなったとしてもそれはただの模倣でしかない。


『光の剣戟』を極めるレベルにまで達していたノアの力の十分の一を引き出すのがやっとだ。


概念系統の能力ではなく、あくまでも技術でそれなのだ。


虚無の権能の使い方を模倣するだけでは根本的な強化には繋がらない。


だからこそ記憶を取り戻せたことは大きい。


大元の力が戻っていなくとも現時点の力だけでも相応の強さを発揮できる。


(ただ……その状態でも全盛の終焉神相手では分が悪そうだ)


今は八神はノアに権能の半分程を譲渡している状態だ。


いくら力の使い方を熟知していたとしても、その状態では全盛には遠く及ばない。


故に試練内ではノアの方が有利であることは間違いない。


(だが、果たしてそれで試練になるのか……?)


終焉神の試練は戦闘だと本人が言っていた。


記憶を取り戻したノアの強さは以前の比ではない。


「確かにあの時なら及ばなかっただろうが、権能が半分程度しかないこの世界の神に負けるとはあまり思えないが……っと、そろそろか」


深度的には地底世界もすぐそこだろう。


ノアはもうすぐ試練が始まるのだと思考を切り替える。


ノアの目の前にはもう何度目かも解らない大岩の壁。


だが、今回はそれもどこか違うように感じ取っていた。


「……この岩壁、創造神の力が吹き込まれているな……霊域核を守る為の結界のようなものだろう。アルゼルスの言っていた神しか立ち入れない結界……それがこれだな」


概念的にも物理的にもこれまでにない程頑丈な壁だ。


その壁を前に、ノアは少し前のことを思い出す。


(……どこか夕闇の遺跡の扉を彷彿とさせるな。あれは扉として開けることのできる構造になっていたし、概念的な結界もなかったが……物理的な面で見れば同等か)


あちらは世界の中核を担う界律神装である白雪───ユキを保管しておく為。


こちらは世界の根源である霊域核を保管しておく為。


どちらも世界にとって最重要とも言える存在だ。


「これを容易く破ったんだから、界滅爪……アルファルドの力も規格外と言えるな。少なくとも俺の知っているアルファルドの力じゃない」


2万年前はここまでではなかったのだろう。


同じ壊滅の権能でも、その強弱というのは存在している。


どうやらデュランの死の力は昔の方が強かったようだが、アルファルドの壊滅の権能は逆。


時が経てば経つ程、力を増しているようだ。


「……『無の混沌(ラグデネア)』」


追想を思い出したのか、アルゼルスと共に見た場面で使っていた方法で『無の混沌(ラグデネア)』を行使する。


「記憶を取り戻した今からすれば造作もないな」


虚無によって生じた混沌は右手の先へと集中し、岩壁の結界をノアが通れる程度の大きさ分消滅させた。


周囲への影響も全くなく、あくまでもその場所だけ無に帰させたのだ。


「コントロールも問題ない。後の問題は力の最大値が未だに低すぎるということだが……まあこれは今のところ時間をかけるしかないか」


ノアが自身にかけた封印はノアですら解けない程強力だ。


何せ、虚無の権能の力である『全てを無に帰させる』という方法でさえ封印をなかったことにはできないのだから。


(無には無で対抗するのが一番だが……今の俺の無は出力が弱すぎて話にならない。すぐに解けるような封印ではないということだ)


同じ系統の力が衝突した場合、より強い方が打ち勝つ。当然の理屈だ。


今のノアよりも昔のノアの方が格段に強いため、今はまだ封印を解くことができないのである。


「そちらは今はいい……今は試練だ」


意識を目の前の空間に戻す。


単純に光が届いていないというのもあるが……

「これは……空気が重いな」


その空間に飛び込んだ瞬間に感じたこと。


(プレッシャーとでも言うべきか……不吉な空気がより一層強くなった。元々この空間にはそんな力はなかったはず。つまり、これは界滅爪か終焉神のどちらか……あるいはどちらもの仕業か)


どちらにせよ、今のノアにとっては驚異となることに違いはない。


地底世界とは言うが、要は地下に広がる空間のことだ。


神以外は立ち入ることができない結界があったに過ぎない。


そしてその結界すらも、界滅爪によって崩壊しかけていた。


「……」


ノアは底が見えない程深い地底の中で自由落下する。


「深いな……ヴァンデラの最下層の比ではないレベルだ」


夕闇の遺跡も同様だ。


あの二つはここまでの深さはなかった。


しばらくしてようやく底が見えてくる。


落下の時間から考えて、深さは数十キロは軽く超えているだろう。


ノアは音もなく地底世界の地面へと着地する。


そうして、気づく。


「……この場所、神気が……」


神の身体……神体からしか発せられない魔力とは違う特殊な気配、神気。


おかしなことに、この地底世界ではそんな神気が空間そのものから感じ取れた。


「まさか、この空間そのものが神……?少なくとも八神レベルではなさそうだが……」


考えられる可能性としてあるのは、ガロンと同様に偽神として確立されているということぐらいだろう。


ガロンと違い、地底世界は意思を持たずに空間そのものを偽神として定義づけられているというのはあるが……


「……まあ何にせよ、ここは特別な空間というわけだ」


霊域核の格納庫の役割を果たしていた場所なのだ。普通であるということの方がおかしい。


「これまで通りなら、神域特有の光があるはずだが……」


今のところその光は見られない。


「かなりの広さがあるみたいだな……少し探索してみるか『照光(エルトア)』」


そう決めたノアは光源を生成し、地底世界の地面を歩く。


この空間を支える巨大な柱が幾千本もあり、地面は整備も何もないただの岩。


見た目はただの地下空間でしかない。


それでもこの空間は確かに神として確立されている。


「不思議な感覚だな……文字通り、ここは神の内部というわけか」


空間が神ということはそうなのだろう。


そんな中、ノアは一つの大きな神気を感じていた。


「まだ遠いが……あの場所だけ神気が固まっている。試練はあそこか」


神気は魔力と同様、目に見えないものだ。


だが同時に感じ取れるものでもある。


目視こそできずとも、どの位置で発せられたものなのかは探知できるのだ。


ノアはしばらく歩き、その場所まで辿り着く。


その場所は空間そのものが光を放ち、周囲を照らしていた。


「これ程の光……これまでの試練はここまでではなかった気がするが……?」


必要ないと感じてか、ノアは発動させていた光源魔法を解除する。


そうした瞬間、神気を発していた光は一層強く輝き───


「───試練、ね」


ノアは、神域に足を踏み入れていた。


「しかしまあ、これはまた……」


今回の神域も追憶の時と同様、毛色が違っていた。


大元が純白であるということに変化はない。


純白とは創造神の……ひいては界律神の力を象徴する色だ。


そんな純白に……まるで墨汁を垂らしたかのような黒い斑点のようなものが、この神域にはいくつもあった。


(……あの斑点……あの部分だけ、創造の権能が機能していないのか。あそこにあるのは文字通り『終焉』……それを象徴するのは……漆黒と影)


黒い斑点は世界にとっての影だ。


創造神や再生神の力が強ければ強い程、対を為す破壊神と終焉神の力も増していく。


その中でも、『終焉』……『物事全ての終わり』を指すこの権能はまた別格だ。


(考えてみれば解る話だ。創造が創り、破壊が壊す……これは完全な対と言っても良い。だが、再生と終焉は釣り合っていない。いくら再生の権能の中に『生誕』という概念まで内包されていたのだとしても、それは終焉と釣り合う根拠には弱すぎる)


───創造は創るだけ。


新たに一から生成することは可能でも、無から有を創り出すのには莫大なエネルギーが必要だ。


創り出すものによっては創造神では魔力も権能の強度も足りない。


そうなった場合、足りない力は何処から補うか───


簡単だ。命を削るしかない。


───破壊は壊すだけ。


『何かを壊す』という力なら破壊が適任だろう。


ただ、壊した先───すなわち壊れた後のことについてはこの力は専門外なのである。


───再生は治すだけ。


世界の修復という観点ならこの力は有用だろう。


だが、力の強度を見るならあまりにも脆弱だ。


レイシェルが八神最弱なのも、きっとそれが原因。


───生誕は産むだけ。


再生の権能の真髄……派生ともとれるこの力は、大元は創造に似ている。


違うのは生命に関するかということだ。


そして『終わり』というのは生命だろうとなかろうと、等しく全てに訪れる。


故に、『弱い』のだ。


それに対して終焉はどうだ。


先程の通り、終焉というのはあらゆる存在全てに訪れるものだ。


物質だろうと、生命だろうと、そこに関係は一切ない。


権能の効果対象範囲が限りなく広いのだ。


創造の権能によって創り出されたものも、再生の権能によって修復されたものも、その派生の生誕の力によって産み出されたものも───


その一切に、『終焉』は等しく降りかかる。


それ故の、最強。


八神は持つ権能の強度や総量は完全に同等だ。


故に力の強さは権能に内包された力の根幹や、その権能の効果対象の量によって決まる。


そして、終焉の権能はその全てが他の権能から一線を画していた。


(……ようやく解った気がする。ヴェレイドがどうして八神最強を自称したのか……力の片鱗、更にその末端でさえもこれなんだ。前世から力を大幅に落としている今の俺の力では勝てるかどうかも怪しい)


実際、虚無の権能は深化し続ければ他の権能の影響を一切受け付けない存在になる。


前世のノアの解放していた力であれば、少なくともこの世界の神に干渉されることはなかっただろう。


だが、今はその力の大半を封印してしまっている状態だ。


こんな状態で、果たして勝てるのか───


「……あれは」


ノアは気配と神気を感じ取り、その場所を向く。


そこにいたのは黒髪黒目の青年。


どこか軽薄そうな印象を受ける貼り付けたような笑顔をしているが、その眼は一切笑っていない。


全ての終焉……終わりを見つめるような、漆黒に染まった瞳だった。


「───ようノア、待ってたぜ」

「───終焉神、ヴェレイド」


その男は紛れもなく、終焉神ヴェレイド。


八神最強を自負する神が、そこにいた。


ノアは遂に八神最強と邂逅する───


すみません。本当はこの4ブロックで3章完結まで持っていきたかったのですが、文章がかなり多くなってしまい、時間がかかりそうなのでもう一つブロックを分けようと思います。

ご容赦下さい……

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