9、金策で食料ゲットだぜ作戦?
orz 今回のエピソード本当はもっと後のはずが、
「腹減った何か食わせろや~!」
と登場人物たちが煩く騒ぐので繰り上げますた。言われてみれば空腹は我慢し続けられない切実だよな…
◆金策で食料ゲットだぜ作戦
── 小屋で暮らすセレンとアーサニクは、動物たちの助けを得て快適な環境で、3年後の白い結婚と円満離婚を目指した ──
しかし、小屋での静寂は、時に重く彼女の肩にのしかかるようになった。
いくら乳姉と、黒豹や動物たちが常に護衛として守っていてくれてはいても、今のままの状態では毒殺よりも先に、いつかその内餓死してしまうかもしれないと考えた。
何しろ、不埒な輩は男性だけとは限らなかった。セレンと陛下の本人たち同士の契約上の約束毎を知らないのをいいことに、側妃や女官や侍女たちにまで嫉妬され、嫌がらせをしてくるようになったのだから。
そのような嫌がらせをしてくる者達がいる中で、セレンの心の支えになるのは、アーサニクと黒豹のマーキュリーと小屋に集まる動物たちしかいないから。
しかし、その小屋での生活で真っ先に困ったのが、食料事情についてである。
掘っ立て小屋まで、料理を運んできてくれる者がいないと気付いたのは、小屋に来た初日から。
そこで、セレンは厨房に出入りしているネズミに場所を聞き出し、慌てたアーサニクが懐に隠したネズミに案内されながら、料理を取りに厨房を探し出して行くと、異物や生き物の死骸を混入されていたり、足を掛けられて全部床にぶちまけて無駄にされたり、泥やゴミをかけられたりするのだ。
「食べ物を粗末に扱うのは、王国の人達とやり方が同じなのね。ああ、何てもったいないことをするのよ……」
窓の外では、晩夏の気配が、緑の木々をそろそろ曇らせ初めていた。
「セレン様、朝食です」
乳姉であり護衛騎士でもあるアーサニクが、慎重に木の盆を運んできた。焦茶色の髪を短く切り揃えた彼女は、わざと男の格好をしているおかげで、噂ではセレンの愛人と呼ばれながらも堂々とした態度でいるが、今は憂いの色を瞳に宿している。
盆の上には、薄いスープと硬いパン一切れ。それだけしかなかったから。
「また、昨日と同じだけど、それでも充分ね♪」
セレンは微笑んだが、その笑みにはどこか寂しげな影が差した。
アーサニクは唇を噛みしめて恐縮した。
「厨房では、皇妃殿下の分の食材は
『贅沢三昧を好む悪女には不要』
として、他の使用人たちに分配されてしまっているようなのです。私が兵士たちと一緒に食事をする時、こっそりと分けてもらっているこれだけしかご用意できず申し訳ありません」
セレンはため息をついた。彼女の悪評 ── 傲慢で盗み癖があり、男なら誰でも襲うというでっち上げの噂 ── が、ここ帝国の王宮の中でも広まっているせいだ。おそらく、側妃達の仕業だろう。
「申し訳ありません。せめて私がもう少し融通を利かせていれば……」
「気にしないで、アーサ。これでも祖国の晩餐会で食べていたものよりはずっとましだもの」
そう言いながら、セレンはスープを一口すすった。味はほとんどない。
「それに、アーサのせいだけじゃないから。この小屋にあった備蓄品の小麦粉と塩。動物たちが持ってくる木の実や果物、私も食べれる野草を近くの林や森からなんとか確保してるから」
「ですが、今は季節的に植物が豊富な時期ですが、時期に冬が来てしまったら……」
「う~ん、それもそうね……冬が近づいてきたら、動物たちが持ってくる木の実もなくなるのよね。おそらく……横領されているだろう品質保持費のせいで、食料も尽きるでしょうし」
品質保持費が回ってこないと気付いたのは、セレンの被服や最低限はあるはずの生活費などの支給が、全くない事からもわかるというもの。
「王宮でもそうだったけど、帝国にも、手癖の悪い使用人っているのね……」
このままでは寝床や着物は丁寧に修繕したり、アーサが見つけてきてくれた使用人用の予備品置き場から拝借したり、他はなんとか洗濯しているからともかく。
問題は食事についてなのだ。
毒物や異物ばかりでは、動物たちが運んでくる木の実や木の根も、冬の季節になれば、いずれ食べれる植物の量も減ってしまうことだろう。
護衛騎士の乳姉は他の兵士たちと混ざって食事ができるが、セレンの食べる分については……優しいセレンは、アーサニクの分の食事を分けてもらっていることに対してさえ心を痛めた。このままでは到底、精神的に耐えれなくなるのではないだろうか。
これでは遠からず餓死してしまうのではと。
しかし、セレンの声は次第に力強くなった。
「私には(前世の知識と)王国であなたと育った時に培った、薬草と毒草の知識があるわ。動物と心を通わせる能力も……」
彼女は振り返ると、アーサニクを見る。ベールの隙間から覗く赤い瞳が、強い意志の光を放つ。
「金策を考えましょう。食料を手に入れる方法を。誰にも頼らず、私たちだけで生き抜く方法を」
アーサニクの唇がほのかに緩んだ。それは、幼い頃からずっと見てきたセレンの真の姿だからだ。逆境に屈せず、前を向いて歩き続ける少女の。
「はい、セレン様。お手伝いします」
その時、小屋の窓をこつこつと軽く叩く音がする。
外を見ると、一羽の小鳥が枝に止まり、セレンを見つめている。彼女は窓を開けると、小鳥に手を差し伸べた。小鳥は恐れることなく彼女の手の平の上にちょこんと飛び移った。
「見て、アーサ。私たちには、まだ味方がいるみたいよ」
セレンは小鳥に優しく囁くと空へと放した。
小鳥は一声ピピ~ッと鳴いて、森の方へ飛んでいく。
「さあ、計画を立てましょう」
セレンはテーブルに向かい、羊皮紙と羽根ペンを手に取る。
「まずは、庭で育てているハーブの価値を調べることから始めましょうか。それから……」
彼女の声は小屋に静かに響き、新たな決意に満ちていた。不遇な環境も、理不尽な待遇も、すべて乗り越えて生きていくという決意が。
窓の外では、黒豹が姿を現し、金色の瞳でセレンを見守っていた。黒豹は低く唸ると、再び森へと消えていった。セレンのために、食料を探しに行くつもりなのだろう。
こうして、セレンとアーサニクの「金策で食料ゲットだぜ」作戦が、静かに始動した。誰にも頼らず、ただ2人と動物たちだけの力で、冬を乗り越え、生き抜くための戦いが。
しかも原作通りなら、小屋での不便な生活、側妃達の痛がらせによる食糧事情など、直ぐに宰相なり、誰かを通じてなりに訴え出てさえいれば、現状が直ぐに改善していたはずなのだ。たとえお飾りの皇妃だろうと、「月影の館」に移動することができ、孤独に耐えながらも、もう少しまともな生活を送れたはずなのだから。ただし毒入りの食事を提供されて、徐々に弱っていく人生を伴ってではあるが。
しかし、転生者セレンは違う。自力で小屋での生活を維持し続けてしまったから。
ただそのおかげで、悪戯され続ける食事に毒が盛られていようとも、悪女と信じてセレンの食事を喜び勇んで勝手に分配した使用人たちの具合が悪くなろうとも、全ては自業自得なのだから。
*****
翌日。
彼女の手元には、昨夜から編み続けていた髪飾りが完成間近となった。鳥の羽根と綺麗な色や形の小石、そしてゴミ捨て場などから動物たちが運んできた色とりどりの布切れなどが、思いがけず美しいアクセサリーに生まれ変わっていた。
「できたわ、アーサ。動物たちが、近くの不用品置き場やゴミ箱から、リサイクル……じゃなくって、再利用したり、加工できそうなものを拾ってきてくれたのよ。ほら、試しに1個、髪飾りを作ってみたんだけど。どうかな?」
「セレン様。これは素晴らしいです。それにこの材料なら、庶民でも手が出る値段で提供できますね」
「あはは。大袈裟な。でも、そう言ってもらえるのなら、これを街で売って金策して、食料を何とか手に入れられないかな?」
「セレン様。私も木彫りが得意なので、お手伝いします」
「じゃあ、私は刺繍と、装飾品作りと、そうそう、ハーブや薬草も状態や品質が良ければ高く売れるって、動物たちから教えてもらったんだ。成長の早い香草も育て始めたから、そちらも頑張るね……でも、ごめんね、アーサ。私なんかに付き合ってもらったから……」
「セレン様。私も帝国までついて行くと決めた時に言いましたよね。ずっと一緒に、傍におりますと」
こうして、内職で金策して食料ゲットだぜ作戦のおかげで、2人の食事場は少づつなんとか改善しそうであった。
しかしそれでも……いつかは限界はくるだろうが。
*****
一方。セレンの小屋には、2人の「影」がつけられていた。皇帝の命令は「監視だけせよ」だったが、彼らはその言葉を都合よく解釈してしまった。
「またベールを被って小屋に籠もっているよ」
1人の影が欠伸をする。
「何の変化もない。監視する意味があるのか?」
もう1人は木の枝に寄りかかり、目を閉じる。
「あの悪女が何か企んでいるとも思えん。そもそも、あの粗末な小屋から出られるわけがないだろうし」
彼らは知らなかった。セレンが黒豹マーキュリーの幻影術によってベッドに臥せっているように見せかけ、実際には地下の隠し通路からたまに抜け出していることを。
「就寝中まで監視する必要はないだろう」
最初の影が再び口を開く。
「俺も少し休む」
「同意だ。起きて庭に出るまで何も起こらんだろう」
こうして、2人の影は任務を怠り、セレンが城を抜け出すのを見逃し続けた。彼らが監視しているのは、黒豹が作り出した幻影 ── 枕を布で包んだだけの代物 ── だと気付かず。
*****
その日も、セレンは洗面所兼浴室で着替えた。
皇妃としての黒いベールを外し、ドレスを脱ぎ、代わりに灰色の粗末なドレス ── 使用人たちが着るお仕着せの1つを、普通の地味なワンピースに縫い直した物 ── を身にまとう。
《準備はいい?》
黒豹マーキュリーが金色の瞳を輝かせながら確認する。
セレンはうなずく。
「ありがとう、黒豹様。あなたの幻影術がなければ、ここから出ることさえできなかったわね」
黒豹は優雅に頭を縦に振ると、目が再び光る。
すると、ベッドの上には、セレンが病気で臥せっているかのような幻影が浮かび上がった。呼吸までがリアルに再現される。
《次は認識阻害術だね》
マーキュリーが囁くように語りかける。
《よし。これで誰にも見えなくなったよ》
セレンの周りの空気が微かに歪んだ。彼女自身には何の変化も感じられなかったが、他人の目には彼女の姿は見えなくなっているはずだ。
「じゃあ、行きましょうか」
2人 ── 正確には1人と1匹 ── は小屋の床板をそっと開ける。
下には隠された階段が続いていた。セレンとアーサニクたちが「収納庫」と思い込んでいた場所は、実は秘密の抜け道への入り口だったのだ。
これも、隠し通路を行き来するネズミたちが教えてくれたおかげだ。
当初は、隠し通路を隅々まで良く知る古参のネズミの案内なしでは、街まで続く出口まで行き来できなかったが、今ではすっかり道を覚えたマーキュリーが先導してくれるようになり、そこにセレンが続いて歩くようになった。
暗く湿った通路を何分も歩き、やがて城壁の外へと出る。
出口は町外れの古い井戸の裏側に隠されていた。
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