正法眼蔵 帰依三宝
禅苑清規、曰、
敬、仏法僧? 否?
(一百二十問、第一)
あきらかに、しりぬ。
西天、東土、仏祖、正伝するところは、恭敬、仏法僧なり。
帰依せざれば、恭敬せず。
恭敬せざれば、帰依すべからず。
この帰依、仏法僧の功徳、かならず、感応道交するとき、成就するなり。
たとえ天上、人間、地獄、鬼、畜なりといえども、感応道交すれば、かならず、帰依したてまつるなり。
すでに帰依したてまつるがごときは、生生、世世、在在所所に増長し、かならず、積功累徳し、阿耨多羅三藐三菩提を成就するなり。
おのずから悪友にひかれ、魔障にあうて、しばらく断善根となり、一闡提となれども、ついには続善根し、その功徳、増長するなり。
帰依、三宝の功徳、ついに、不朽なり。
その帰依、三宝とは、まさに、浄信をもっぱらにして、あるいは、如来、現在、世にもあれ、あるいは、如来、滅後にもあれ、合掌し低頭して、口にとなえて、いわく、
我、某甲、
従、今身、至、仏身、
帰依、仏、
帰依、法、
帰依、僧、
帰依、仏、両足尊、
帰依、法、離欲尊、
帰依、僧、衆中尊、
帰依、仏、竟、
帰依、法、竟、
帰依、僧、竟。
はるかに仏果、菩提をこころざして、かくのごとく僧那を始発するなり。
しかあれば、すなわち、身心、いまも刹那、刹那に生滅すといえども、法身、かならず長養して、菩提を成就するなり。
いわゆる、帰依とは、
帰は、帰投なり。
依は、依伏なり。
このゆえに、帰依という。
帰投の相は、たとえば、子の、父に帰するがごとし。
依伏は、たとえば、民の、王に依するがごとし。
いわゆる、救済の言なり。
仏は、これ、大師なるがゆえに、帰依す。
法は、良薬なるがゆえに、帰依す。
僧は、勝友なるがゆえに、帰依す。
問、
何故、偏、帰、此三?
答、
以、此三種、畢竟、帰所。
能、令、衆生、出離、生死。
証、大菩提。
故、帰。
此三種、畢竟、不可思議、功徳なり。
仏は、
西天には、仏陀耶と称す。
震旦には、覚と翻す。
無上正等覚なり。
法は、
西天には、達磨と称す。
また、曇無と称す。
梵音の不同なり。
震旦には、法と翻す。
一切の善、悪、無記の法、ともに、法と称すといえども、いま、三宝のなかの帰依するところの法は、軌則の法なり。
僧は、
西天には、僧伽と称す。
震旦には、和合衆と翻す。
かくのごとく称讃しきたれり。
住持三宝。
形像、塔廟、仏宝。
黄紙朱軸、所伝、法宝。
剃髪、染衣、戒法儀相、僧宝。
化儀三宝。
釈迦牟尼世尊、仏宝。
所転法輪、流布聖教、法宝。
阿若憍陳如等五人、僧宝。
理体三宝。
五分法身、名、為、仏宝。
滅諦無為、名、為、法宝。
学無学功徳、名、為、僧宝。
一体三宝。
証理大覚、名、為、仏宝。
清浄離染、名、為、法宝。
至理和合、無擁無滞、名、為、僧宝。
かくのごとくの三宝に帰依したてまつれるなり。
もし薄福少徳の衆生は、三宝の名字、なお、ききたてまつらざるなり。
いかに、いわんや、帰依したてまつることをえんや?
法華経、曰、
是諸罪衆生、以、悪業因縁、過、阿僧祇劫、不聞、三宝、名。
法華経は、諸仏、如来、一大事、因縁なり。
大師、釈尊、所説の諸経のなかには、法華経、これ、大王なり、大師なり。
余経、余法は、みな、これ、法華経の臣民なり、眷属なり。
法華経中の所説、これ、まことなり。
余経中の所説、みな、方便を帯せり、ほとけの本意にあらず。
余経中の説をきたして法華に比校したてまつらん、これ、逆なるべし。
法華の功徳力をこうむらざれば、余経、あるべからず。
余経、みな、法華に帰投したてまつらんことをまつなり。
この法華経のなかに、いまの説まします。
しるべし、三宝の功徳、まさに、最尊なり、最上なり、ということを。
世尊、言、
衆人、怖、所逼、多、帰依、諸山、園苑、及、叢林、孤樹、制多、等。
此帰依、非、勝。
此帰依、非、尊。
不、因、此帰依、能、解脱、衆苦。
諸、有、帰依、仏、及、帰依、法、僧、
於、四聖諦中、恒、以、慧、観察、知、苦、知、苦集、知、永超、衆苦。
知、八支聖道、趣、安穏、涅槃。
此帰依、最勝。
此帰依、最尊。
必、因、此帰依、能、解脱、衆苦。
世尊、あきらかに、一切衆生のために、しめしまします。
衆生、いたずらに所逼をおそれて、山神、鬼神、等に帰依し、あるいは、外道の制多に帰依することなかれ。
かれは、その帰依によりて衆苦を解脱することなし。
おおよそ、外道の邪教にしたがうて、
牛戒、鹿戒、羅刹戒、鬼戒、瘂戒、聾戒、狗戒、鶏戒、雉戒、
以、灰、塗、身、
長髪、為、相、
以、羊、祠、時、
先、呪、後、殺、
四月、事、火、
七日、服、風、
百、千、億華、供養、諸天、所欲願、因、此、成就。
如是等法、能、為、解脱因、者、無有、是所。
智者、所不讃。
唐、苦、無、善報。
かくのごとくなるがゆえに、いたずらに邪道に帰せざらんこと、あきらかに甄、究すべし。
たとえ、これらの戒に、ことなる法なりとも、その道理、もし孤樹、制多、等の道理に符合せらんは、帰依することなかれ。
人身、うること、かたし。
仏法、あうこと、まれなり。
いたずらに鬼神の眷属として一生をわたり、むなしく邪見の流類として多生をすごさん、かなしむべし。
はやく仏法僧の三宝に帰依したてまつりて、衆苦を解脱するのみにあらず、菩提を成就すべし。
希有経、曰、
教化、四天下、及、六欲天、皆、得、四果、不如、一人、受、三帰、功徳。
四天下とは、東西南北洲なり。
そのなかに、北洲は、三乗の化、いたらざるところなり。
かしこの一切衆生を教化して阿羅漢となさん、まことに、はなはだ希有なり、とすべし。
たとえ、その益ありとも、一人をおしえて三帰をうけしめん功徳には、およぶべからず。
また、六天は、得道の衆生、まれなりとするところなり。
かれをして四果をえせしむとも、一人の受、三帰の功徳の、おおく、ふかきに、およぶべからず。
増一阿含経、曰、
有、忉利天子、五衰相、現、当、生、猪中。
愁憂之声、聞、於、天帝。
天帝、聞、之、喚、来、告、曰、
汝、可、帰依、三宝。
即時、如、教。
便、免、生、猪。
仏、説、偈、言、
諸有、帰依、仏、
不墜、三悪道、
尽、漏、
処、人、天、
便、当、至、涅槃。
受、三帰、已、
生、長者家、
還、得、出家、
成、於、無学。
おおよそ、帰依、三宝の功徳、はかり、はかるべきにあらず、無量、無辺なり。
世尊、在世に、二十六億の餓龍、ともに、仏所に詣し、みな、ことごとく、あめのごとく、なみだをふらして、もうして、もうさく、
唯、願、哀愍、救済、於、我。
大悲世尊、
我等、憶念、過去世時、於、仏法中、雖、得、出家、備造、如是、種種、悪業。
以、悪業、故、経、無量身、在、三悪道。
亦、以、余報、故、生、在、龍中、受、極大苦。
仏、告、諸龍、
汝等、今、当、尽、受、三帰、一心、修、善。
以、此縁、故、於、賢劫中、値、最後仏、名、曰、楼至。
於、彼仏世、罪、得、除滅。
時、諸龍等、聞、是語、已、
皆、悉、至心、尽、其形、寿、各、受、三帰。
ほとけ、みずから諸龍を救済しましますに、余法なし、余術なし、ただ三帰をさずけまします。
過去世に出家せしとき、かつて三帰をうけたりといえども、業報によりて餓龍となれるとき、余法の、これをすくうべき、なし。
このゆえに、三帰をさずけまします。
しるべし、三帰の功徳、それ、最尊、最上、甚深、不可思議なり、ということ。
世尊、すでに証明しまします。
衆生、まさに、信受すべし。
十方の諸仏の名号を称念せしめましまさず、ただ三帰をさずけまします。
仏意の甚深なる、だれが、これを測量せん?
いまの衆生、いたずらに各各の一仏の名号を称念せんよりは、すみやかに三帰をうけたてまつるべし。
愚闇にして、大功徳をむなしくすることなかれ。
爾時、衆中、有、盲龍女。
口中、
膖爛、満、諸雑蟲、
状、如、屎尿。
乃至、穢悪、猶、若、婦人根中、不浄。
臊臭、難、看。
種種噬食。
膿血、流出。
一切身分、常、有、蚊、虻、諸悪毒蝿之所唼食、
身体、臭所、難、可、見聞。
爾時、世尊、以、大悲心、見、彼龍婦、眼、盲、困苦、如是、問、言、
妹、
何縁、故、得、此悪身?
於、過去世、曾、為、何業?
龍婦、答、言、
世尊、
我今此身、衆苦、逼迫、無、暫時、停。
設、復、欲、言、而、不能、説。
我、念、過去三十六億、於、百千年、悪龍中、受、如是苦、乃至、日夜、刹那、不停。
為、
我、往昔、九十一劫、於、毘婆尸仏法中、作、比丘尼、
思念、欲事、過、於、酔人、
雖、復、出家、不能、如法、
於、伽藍内、敷施、牀褥、数数、犯、於、非梵行事、以、快欲心、生、大楽、受、
或、貪、求、他物、多、受、信施。
以、如是、故、於、九十一劫、常、不得、受、天人之身、恒、三悪道、受、諸焼、煮。
仏、又、問、言、
若、如是、此中、劫、尽、妹、何所、生?
龍婦、答、言、
我、以、過去業力、因縁、生、余世界、彼劫、尽、時、悪業、風、吹、還、来生、此。
時、彼龍婦、説、此語、已、作、如是言、
大悲世尊、
願、救済、我。
願、救済、我。
爾時、世尊、以、手、掬、水、告、龍女、言、
此水名、為、瞋陀留脂薬和。
我、今、誠実、発、言、語、汝、
我、於、往昔、為、救、鴿、故、棄捨、身命、終、不、疑念、起、慳惜心。
此言、若、実、令、汝、悪患、悉皆、除、瘥。
時、仏世尊、
以、口、含、水、灑、彼盲龍婦女之身、
一切悪患臭所、皆、瘥。
既得、瘥、已、
作、如是、説、言、
我、今、於、仏、乞、受三帰。
是時、世尊、即、為、龍女、授、三帰依。
この龍女、むかしは毘婆尸仏の法のなかに、比丘尼となれり。
禁戒を破すというとも、仏法の通塞を見聞すべし。
いまは、まのあたり、釈迦牟尼仏にあいたてまつりて三帰を乞、受す。
ほとけより三帰をうけたてまつる、厚、殖、善根というべし。
見仏の功徳、かならず、三帰によれり。
われら、盲龍にあらず、畜身にあらざれども、如来をみたてまつらず、ほとけにしたがいたてまつりて三帰をうけず、見仏、はるかなり、はじつべし。
世尊、みずから三帰をさずけまします。
しるべし、三帰の功徳、それ、甚深、無量なり、ということ。
天帝釈の野干を拝して三帰をうけし、みな、三帰の功徳の甚深なるによりてなり。
仏、在、迦毘羅衛、尼拘陀林、時、釈摩男、来至、仏所、作、如是言、
云何、名、為、優婆塞、也?
仏、即、為、説、
若、有、善男子、善女人、諸根、完具、受、三帰依、是即、名、為、優婆塞、也。
釈摩男、言、
世尊、
云何、名、為、一分優婆塞?
仏、言、
摩男、
若、受、三帰、及、受、一戒、是、名、一分優婆塞。
仏弟子となること、かならず、三帰による。
いずれの戒をうくるも、かならず、三帰をうけて、そののち、諸戒をうくるなり。
しかあれば、すなわち、三帰によりて、得戒あるなり。
法句経、云、
昔、有、天帝、自、知、命、終、生、於、驢中、
愁憂、不已、曰、
救苦厄者、唯、仏世尊。
便、至、仏所、稽首、伏、地、帰依、於、仏。
未起之間、其命、便、終、生、於、驢胎。
母驢、鞚、断、破、陶家、坏器。
器主、打、之、遂、傷、其胎、
還、入、天帝身中。
仏、言、
殞命之際、帰依、三宝、罪、対、已、畢。
天帝、聞、之、得、初果。
おおよそ、世間の苦厄をすくうこと、仏世尊には、しかず。
このゆえに、天帝、いそぎ世尊のみもとに詣す。
伏、地のあいだに命、終し、驢胎に生ず。
帰仏の功徳により、驢母の鞚、やぶれて、陶家の坏器を踏破す。
器主、これをうつ。
驢母の身、いたみて、託胎の驢、やぶれぬ。
すなわち、天帝の身に、かえり、いる。
仏説をききて初果をうる。
帰依、三宝の功徳力なり。
しかあれば、すなわち、世間の苦厄、すみやかに、はなれて、無上菩提を証得せしむること、かならず、帰依、三宝のちから、なるべし。
おおよそ、三帰のちから、三悪道をはなるるのみにあらず、天帝釈の身に還、入す。
天上の果報をうるのみにあらず、須陀洹の聖者となる。
まことに、三宝の功徳海、無量、無辺にましますなり。
世尊、在世は、人、天、この慶幸あり。
いま、如来滅後、後五百歳のとき、人、天、いかがせん?
しかあれども、如来、形像、舎利、等、なお、世間に現住しまします。
これに帰依したてまつるに、また、かみのごとくの功徳をうるなり。
未曾有経、曰、
仏、言、
憶念、過去無数劫時、毘摩大国、徙陀山中、有、一野干。
而、為、獅子所逐欲食、奔走、堕、井、不能得、出。
経、於、三日、開、心、分、死、而、説、偈、言、
禍哉。
今日、苦、所逼。
便、当、没、命、於、丘、井。
一切万物、皆、無常。
恨、不、以、身、飴、獅子。
南無、帰依、十方仏。
表知、我心、浄、無己。
時、天帝釈、
聞、仏、名、粛然、毛、竪、
念、古仏、
自、惟、
孤露、
無、導師、
耽著、五欲、自、沈没。
即、与、天八万衆、飛、下、詣、井、欲、問詰。
乃、見、野干、在、井底。
両手、攀、土、不得、出。
天帝、復、自、思念、言、
聖人、応、念、無、方術?
我、今、雖、見、野干形、斯、必、菩薩、非凡器。
仁者、向説、非凡言。
願、為、諸天、説、法要。
於、時、野干、仰、答、曰、
汝、為、天帝、無、教訓。
法師、在、下、
自、処、上、
都、不修、敬、問、法要。
法水、清浄、能、済、人。
云何、欲、得、自、貢高?
天帝、聞、是、大慚愧。
給侍諸天、愕然、笑、
天王、降趾、大無利。
天帝、即時、告、諸天、
慎、勿、以、此、懐、驚、怖。
是、我、頑蔽、徳不称。
必、当、因、是、聞、法要。
即、為、垂下、天宝衣、接取、野干、出、於、上。
諸天、為、設、甘露食。
野干、得、食、生、活望。
非意、禍中、致、斯福。
心、懐、踴躍、慶、無量。
野干、為、天帝、及、諸天、広、説、法要。
これを天帝、拝、畜、為、師の因縁と称す。
あきらかに、しりぬ、仏、名、法、名、僧、名の、ききがたきこと。
天帝の、野干を師とせし、その証なるべし。
いま、われら、宿善のたすくるによりて、如来の遺法にあうたてまつり、昼夜に三宝の宝号をききたてまつること、時とともにして、不退なり。
これ、すなわち、法要なるべし。
天魔波旬、なお、三宝に帰依したてまつりて患難をまぬがる。
いかに、いわんや、余者の、三宝の功徳におきて積功累徳せらん、はかりしらざらめやは?
おおよそ、仏子、行道、かならず、まず、十方の三宝を敬礼したてまつり、十方の三宝を勧請したてまつりて、そのみまえに焼香、散華して、まさに諸行を修するなり。
これ、すなわち、古先の勝躅なり、仏祖の古儀なり。
もし帰依、三宝の儀、いまだかつて、おこなわざるは、これ、外道の法なり、としるべし。
または、天魔の法ならん、としるべし。
仏仏、祖祖の法は、かならず、そのはじめに帰依、三宝の儀軌あるなり。
正法眼蔵 帰依三宝
建長七年乙卯、夏安居日、以、先師之御草本、書写、畢。
未及、中書、清書、等。
定、御再治之時、有、添削、欺。
於、今、不可、叶、其儀。
仍、御草、如此、云。




