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正法眼蔵  作者: Eliphas1810
77/94

正法眼蔵 安居

先師、天童古仏、結夏、小参、云、

平地、起、骨堆。

虚空、剜、窟籠。

驀、透、両重関。

拈却、黒漆桶。


しかあれば、得、這巴鼻子、了、未免、喫、飯、伸、脚、睡、在、這裏、三十年なり。

すでに、かくのごとくなるゆえに、打併、調度、いとま、ゆるくせず。

その調度に、九夏安居あり。

これ、仏仏、祖祖の頂寧頁、面目なり。(「寧頁」は一文字の漢字と見なしてください。)

皮肉骨髄に親曾しきたれり。

仏祖の眼睛、頂寧頁を拈来して、九夏の日月とせり。

安居、一枚、すなわち、仏仏、祖祖と喚、作せるものなり。

安居の頭尾、これ、仏祖なり。

このほか、さらに、寸土なし、大地なし。

夏安居の一橛、これ、新にあらず、旧にあらず、来にあらず、去にあらず。

その量は、拳頭量なり。

その様は、巴鼻様なり。

しかあれども、

結夏のゆえに、きたる、虚空、塞破せり、あまれる十方あらず。

解夏のゆえに、さる、帀地を裂破す、のこれる寸土あらず。

このゆえに、

結夏の公案、現成する、きたるに相似なり。

解夏の羅籠、打破する、さるに相似なり。

かくのごとくなれども、親曾の面面、ともに、結、解を罣礙するのみなり。

万里、無、寸草なり。

還、吾、九十日飯銭、来なり。


黄檗死心和尚、云、

山僧、行脚、三十余年。

以、九十日、為、一夏。

増一日、也、不得。

減一日、也、不得。


しかあれば、三十余年の行脚眼、わずかに見徹するところ、九十日、為、一夏安居のみなり。

たとえ増一日せんとす、というとも、九十日、かえりきたりて競頭参すべし。

たとえ減一日せんとす、というとも、九十日、かえりきたりて競頭参するものなり。

さらに、九十日の窟籠を跳脱すべからず。

この跳脱は、九十日の窟籠を手脚として足孛跳するのみなり。(「足孛」は一文字の漢字と見なしてください。)

九十日、為、一夏は、我箇裏の調度なりといえども、仏祖の、みずから、はじめて、なせるにあらざるがゆえに、仏仏、祖祖、嫡嫡、正稟して今日にいたれり。

しかあれば、夏安居にあうは、諸仏、諸祖にあうなり。

夏安居にあうは、見仏見祖なり。

夏安居、ひさしく、作仏祖せるなり。

この九十日、為、一夏、その時、量、たとえ頂寧頁量なりといえども、一劫、十劫のみにあらず、百、千、無量劫のみにあらざるなり。(「寧頁」は一文字の漢字と見なしてください。)

余時は、百、千、無量、等の劫波に使得せらる。

九十日は、百、千、無量、等の劫波を使得するゆえに、無量劫波、たとえ九十日にあうて見仏すとも、九十日、かならずしも劫波にかかわれず。

しかあれば、参学すべし。

九十日、為、一夏は、眼睛量なるのみなり。

身心、安居は、それ、また、かくのごとし。

夏安居の活鱍鱍地を使得し、夏安居の活鱍鱍地を跳脱せる、来所あり、職由ありといえども、他方、他時より、きたり、うつれるにあらず、当所、当時より起興するにあらず。

来所を把定すれば、九十日、たちまちに、きたる。

職由を摸索すれば、九十日、たちまちに、きたる。

凡、聖、これを窟宅とせり、命根とせりといえども、はるかに凡、聖の境界を超越せり。

思量分別のおよぶところにあらず。

不思量分別のおよぶところにあらず。

思量、不思量の不及のみにあらず。


世尊、

在、摩竭陀国。

為、衆、説法。

是時、将、欲、白、夏、乃、謂、阿難、曰、


諸大弟子、人、天、四衆、我、常、説法、不、生、敬仰。

我、今、入、因沙臼室中、坐、夏九旬。

忽、有、人、来、問法之時、

汝、代、為、我、説、

一切法、不生。

一切法、不滅。


言、訖、掩、室、而、坐。


しかありしより、このかた、すでに、二千一百九十四年(、当日本寛元三年乙巳歳)なり。


堂奥にいらざる児孫、おおく、摩竭、掩、室を無言の証拠とせり。

いま、邪党、おもわくは、

掩、室、坐、夏の仏意は、それ、言説をもちいるは、ことごとく実にあらず、善巧方便なり。

至理は、言語道断し、心行所滅なり。

このゆえに、

無言、無心は、至理にかなうべし。

有言、有念は、非、理なり。

このゆえに、掩、室、坐、夏九旬のあいだ、人跡を断絶せるなり。

とのみ、いい、いうなり。


これらのともがらのいうところ、おおきに世尊の仏意に孤負せり。

いわゆる、もし言語道断、心行所滅を論ぜば、一切の治生産業、みな、言語道断し、心行所滅なり。

言語道断とは、一切の言語をいう。

心行所滅とは、一切の心行をいう。

いわんや、この因縁、もとより、無言をとうとびんためには、あらず。

通身、ひとえに泥水し入草して、説法、度、人、いまだ、のがれず、転法拯物、いまだ、のがれざるのみなり。

もし児孫と称するともがら、坐、夏九旬を無言説なりといわば、還、吾、九旬坐夏、来というべし。

阿難に勅令して、いわく、

汝、代、為、我、説、

一切法、不生。

一切法、不滅。

と代説せしむ。

この仏儀、いたずらに、すごすべからず。

おおよそ、掩、室、坐、夏、いかでか無言不説なりとせん?

しばらく、もし阿難として当時、すなわち、世尊に白すべし、

一切法、不生。

一切法、不滅。

作麼生、説?

縦、説、恁麼、要、作、什麼?


かくのごとく白して世尊の道を聴取すべし。

おおよそ、而今の一段の仏儀、これ、説法、転法の第一義諦、第一無諦なり。

さらに、無言説の証拠とすべからず。

もし、これを無言説とせば、可憐、三尺、龍泉剣、徒、掛、陶家、壁上、梭ならん。

しかあれば、すなわち、九旬坐夏は、古転法輪なり、古仏祖なり。

而今の因縁のなかに、時、将、欲、白、夏とあり。

しるべし。

のがれず、おこなわるる、九旬、坐、夏安居なり。

これをのがるるは、外道なり。

おおよそ、世尊、在世には、あるいは、忉利天にして九旬安居し、あるいは、耆闍窟山、静室中にして、五百比丘ともに、安居す。

五天竺国のあいだ、ところを論ぜず、ときいたれば、白、夏安居し、九旬安居おこなわれき。

いま、現在せる仏祖、もっとも一大事として、おこなわるる、ところなり。

これ、修、証の無上道なり。

梵網経中に、冬安居あれども、その法、つたわれず。

九夏安居の法のみ、つたわれり。

正伝、まのあたり、五十一世なり。


清規、云、

行脚人、欲、就、所所、結夏、須、於、半月前、掛搭。

所貴、茶湯、人事、不倉卒。


いわゆる、半月前とは、三月下旬をいう。

しかあれば、三月の内に、きたり、掛搭すべきなり。

すでに、四月一日よりは、比丘僧、ありきせず。

諸方の接待、および、諸寺の旦過、みな、門を鎖せり。

しかあれば、四月一日よりは、雲衲、みな、寺院に安居せり、庵裏に掛搭せり。

あるいは、白衣舎に、安居せる。

先例なり。

これ、仏祖の儀なり。

慕古し、修行すべし。

拳頭、鼻孔、みな、面面に、寺院をしめて、安居のところに掛搭せり。


しかあるを、魔党、いわく、

大乗の見解、それ、要枢なるべし。

夏安居は、声聞の行儀なり。

あながちに、修習すべからず。


かくのごとくいう、ともがらは、かつて仏法を見聞せざるなり。


阿耨多羅三藐三菩提、これ、九旬安居坐夏なり。

たとえ大乗、小乗の至極ありとも、九旬安居の枝、葉、華、果なり。


四月三日の粥罷より、はじめて、ことをおこなうといえども、堂司、あらかじめ四月一日より、戒臘の榜を理会す。

すでに、四月三日の粥罷に、戒臘牌を衆寮前にかく。

いわゆる、前門の下間の窓外にかく。

寮窓、みな、連子なり。

粥罷に、これをかけ、放参鐘ののち、これをおさむ。

三日より五日にいたるまで、これをかく。

おさむる時節、かくる時節、おなじ。

かの榜、かく式あり。

知事、頭首によらず、戒臘のままに、かくなり。

諸方にして頭首、知事をへたらんは、おのおの首座、監寺とかくなり。

数職をつとめたらんなかには、そのうちに、つとめて、おおきならん職をかくべし。

かつて住持をへたらんは、某甲西堂とかく。

小院の住持をつとめたりといえども、雲水にしられざるは、しばしば、これをかくして称せず。

もし師の会裏にしては、西堂なるもの、西堂の儀なし。

某甲上座とかく例もあり。

おおくは、衣鉢侍者寮に歇息する。勝躅なり。

さらに、衣鉢侍者に充し、あるいは、焼香侍者に充する。旧例なり。

いわんや、その余の職、いずれも師、命にしたがうなり。

他人の弟子の、きたれるが、小院の住持をつとめたるといえども、おおきなる寺院にては、なお、首座、書記、都寺、監寺、等に請するは、依例なり、芳躅なり。

小院の小職をつとめたるを称するをば、叢林、わらうなり。

よき人は、住持をへたる、なお、小院をば、かくして称せざるなり。

榜式、かくのごとし。


某国 某州 某山 某寺 今夏 結夏 海衆 戒臘 如後

陳如尊者

堂頭和尚


建保元戒

某甲上座 某甲蔵主 某甲上座 某甲上座


建保二戒

某甲西堂 某甲維那 某甲首座 某甲知客 某甲上座 某甲浴主


建暦元戒

某甲直歳 某甲侍者 某甲首座 某甲首座 某甲化主 某甲上座 某甲典座 某甲堂主


建暦三戒

某甲書記 某甲上座 某甲西堂 某甲首座 某甲上座 某甲上座


右 謹具 呈 若 有 誤錯 各 請 指揮 謹状

某年 四月三日 堂司比丘 某甲 謹状


かくのごとく、かく。

しろきかみに、かく。

真書にかく。

草書、隷書、等をもちいず。

かくるには、布線の、ふとさ両米粒許なるをその紙、榜頭につけて、かくるなり。

たとえば、簾額の、すぐ、ならんがごとし。

四月五日の放参罷に、おさめおわりぬ。

四月八日は、仏生会なり。

四月十三日の斎罷に、衆寮の僧衆、すなわち、本寮につきて煎点、諷経す。

寮主、ことをおこなう。

点湯、焼香、みな、寮主、これをつとむ。

寮主は、衆寮の堂奥に、その位を安排せり。

寮首座は、寮の聖僧の左辺に安排せり。

しかあれども、寮主、いでて焼香、行事するなり。

首座、知事、等、この諷経におもむかず。

ただ本寮の僧衆のみ、おこなうなり。

維那、あらかじめ一枚の戒臘牌を修理して十五日の粥罷に僧堂前の東壁にかく。

前架のうえにあたりて、かく。

正面のつぎの、みなみの間なり。


清規、云、

堂司、預、設、戒臘牌、香、華、供養。

(在、僧堂前、設、之。)


四月十四日の斎後に念誦牌を僧堂前にかく。

諸堂、おなじく、念誦牌をかく。

至晩に、知事、あらかじめ土地堂に香、華をもうく。

額のまえに、もうくるなり。

集衆、念誦す。

念誦の法は、大衆、集定ののち、住持人、まず、焼香す。

つぎに、知事、頭首、焼香す。

浴仏のときの、焼香の法のごとし。

つぎに、維那、くらいより正面にいでて、まず、住持人を問訊して、つぎに、土地堂にむかうて問訊して、おもてをきたにして、土地堂にむかうて念誦す。

詞、云、


竊、

以、薫風、扇、野。

炎帝、司、方。

当、法王、禁足之辰。

是、釈子、護生之日。

躬、裒、大衆、粛、詣、霊祠、誦持、万徳、洪名、回向、合堂、真宰。

所祈、加護、得、遂、安居。

仰、憑、尊衆、

念、


清浄 法身 毘盧遮那仏。(金打。)

円満 報身 盧遮那仏。(金打。)

千百億 化身 釈迦牟尼仏。(金打。)

当来 下生 弥勒尊仏。(金打。)

十方 三世 一切 諸仏。(金打。)

大聖 文殊師利菩薩。(金打。)

大聖 普賢菩薩。(金打。)

大悲 観世音菩薩。(金打。)

諸尊 菩薩摩訶薩。(金打。)

摩訶 般若 波羅蜜。(金打。)


上来、念誦、功徳、並、用、回向、護持、正法、土地、龍神。


伏、願、

神光、協賛、発揮、有利之勲。

梵楽、興隆、亦、錫《たまわる》、無私之慶。


再、

憑、尊衆、

念、


十方 三世 一切 諸仏。

諸尊 菩薩摩訶薩。

摩訶 般若 波羅蜜。


ときに、鼓、響すれば、大衆、すなわち、雲堂の点湯の座に赴す。

点湯は、庫司の所弁なり。

大衆、赴堂し、次第、巡堂し、被位につきて、正面、而、坐す。

知事一人、行、法事す。

いわゆる、焼香、等をつとむるなり。


清規、云、

本、合、監院、行事。

有、改、維那、代、之。


すべからく念誦以前に写、榜して首座に呈す。

知事、搭、袈裟、帯、坐具して首座に相見するとき、あるいは、両展三拝しおわりて、榜を首座に呈す。

首座、答拝す。

知事の拝と、おなじかるべし。

榜は、箱に袱子をしきて、行者にもたせゆく。

首座、知事をおくり、むかう。


榜式。


庫司 今晩 就 雲堂 煎点 特為 首座 大衆

聊 表 結制之儀

伏 冀

衆慈 同 垂

光降

寛元三年 四月十四日 庫司 比丘 某甲 等 謹 白


知事の第一の名字をかくなり。

榜を首座に呈してのち、行者をして雲堂前に貼せしむ。

堂前の下間に貼するなり。

前門の南頬の外面に榜を貼いる板あり。

このいた、ぬれり。

殼漏子あり。

殼漏子は、榜の初に、ならべて、竹釘にて、うちつけたり。

しかあれば、殼漏子も、かたわらに押貼せり。

この榜は、如法につくれり。

五分許の字にかく。おおきに、かかず。

殼漏子の表書は、かくのごとく、かく。


状 請 首座 大衆 庫司 比丘 某甲 等 謹 封


煎点おわりぬれば、榜をおさむ。

十五日の粥前に、知事、頭首、小師、法眷、まず、方丈内にもうでて人事す。

住持人もし隔宿より免人事せば、さらに方丈にもうづべからず。

免人事というは、十四日より、住持人、あるいは、頌子、あるいは、法語をかけるを方丈門の東頬に貼せり。

あるいは、雲堂前にも、貼す。

十五日の陞座罷、住持人、法座より、おりて、階のまえに、たつ。

拝席の北頭をふみて、面、南して、たつ。

知事、近、前して両展、三拝す。

一展、云、

此際、安居、禁足、獲、奉、巾瓶。

惟《これ》、仗、和尚法力、資持、願、無難事。


又、一展、叙、寒暄、触礼三拝。

叙、寒暄、云、者、展、坐具、三拝、了、収、坐具、進、云、

即、辰、孟夏、漸、熱。

法王、結制之辰。

伏、惟、

堂頭和尚、法候、動止、万福。

下情、不勝、感激之至。


かくのごとくして、その次に、触礼三拝。

ことば、なし。住持人、みな、答拝す。

住持人、念、

此、者、多幸、得、同、安居。

亦、冀、

某(首座、監寺)、人等、法力、相資、無諸難事。


首座、大衆、同、此式、也。

このとき、首座、大衆、知事、等、みな、面、北して、礼拝するなり。

住持人ひとり、面、南にして、法座の階前に立せり。

住持人の坐具は、拝席のうえに展ずるなり。

つぎに、首座、大衆、於、住持人前、両展三拝。

このとき、小師、侍者、法眷、沙弥、在、一辺、立。

未得、与、大衆、雷同、人事。

いわゆる、一辺にありて、たつ、とは、法堂の東壁のかたわらにありて、たつなり。

もし東壁辺に施主の垂、箔のことあらば、法鼓のほとりに、たつべし。

また、西壁辺にも立すべきなり。

大衆、礼拝おわりて、知事、まず、庫堂にかえりて主位に立す。

つぎに、首座、すなわち、大衆を領して庫司にいたりて人事す。

いわゆる、知事と、触礼三拝するなり。

このとき、小師、侍者、法眷、等は、法堂上にて住持人を礼拝す。

法眷は、両展三拝すべし。

住持人の答拝あり。

小師、侍者、おのおの、九拝す。

答拝なし。

沙弥、九拝、あるいは、十二拝なり。

住持人、合掌して、うくるのみなり。

つぎに、首座、僧堂前にいたりて、上間の知事牀のみなみのはしにあたりて、雲堂の正面にあたりて、面、南にして、大衆にむかうて、たつ。

大衆、面、北して、首座にむかうて、触礼三拝す。

首座、大衆をひきて入堂し、戒臘によりて巡堂、立定す。

知事、入堂し、聖僧前にて大展礼三拝して、おく。

つぎに、首座前にて触礼三拝す。

大衆、答拝す。

知事、巡堂、一帀して、いでて、くらいによりて、叉手して、たつ。

住持人、入堂、聖僧前にして焼香、大展三拝、起。

このときは、小師、於、聖僧、後、避、立。

法眷、随、大衆。

つぎに、住持人、於、首座、触礼三拝。

いわく、住持人、ただ、くらいによりて、たち、面、南にて、触礼す。

首座、大衆、答拝、さきのごとし。

住持人、巡堂して、いづ。

首座、前門の南頬より、いでて、住持人をおくる。

住持人、出堂ののち、首座以下、対、礼三拝して、いわく、

此際、幸、同、安居。

恐、三業、不善。

且、望、慈悲。


この拝は、展坐具三拝なり。

かくのごとくして、首座、書記、蔵主、等、おのおの、その寮に、かえる。

もし、それ、衆寮僧は、寮主、寮首座已下、おのおの、触礼三拝す。

致、語は、堂中の法に、おなじ。

住持人、こののち、庫堂より、はじめて、巡寮す。

次第に大衆、相随、送、至、方丈。

大衆、乃、退。

いわゆる、住持人、まず、庫堂にいたる。

知事と人事しおわりて、住持人、いでて、巡寮すれば、知事、しりえに、あゆめり。

知事のつぎに、東廊のほとりにある人、あゆめり。

住持人、このとき、延寿院に、いらず。

東廊より西におりて、山門をとおりて、巡寮すれば、山門の辺の寮にある人、あゆみ、つらなる。

みなみより西の廊下、および、諸寮に、めぐる。

このとき、西をゆくときは、北にむかう。

このときより、安老、勤旧、前資、頤堂、単寮のともがら、浄頭、等、あゆみ、つらなれり。

維那、首座、等、あゆみ、つらなる。

つぎに、衆寮の僧衆、あゆみ、つらなる。

巡寮は、寮の便宜によりて、あゆみ、くわわる。

これを大衆相随送とはいう。

かくのごとくして、方丈の西階より、のぼりて、住持人は、方丈の正面のもやの住持人のくらいによりて、面、南にて、叉手して、たつ。

大衆は、知事以下、みな、面、北にて、住持人を問訊す。

この問訊、ことに、ふかかるべし。

住持人、答、問訊あり。

大衆、退す。


先師は、方丈に大衆をひかず、法堂にいたりて、法座の階前にして、面、南、叉手して、たつ。

大衆、問訊して退す。

これ、古往の儀なり。


しこうしてのち、衆僧、おのおの、こころにしたがいて人事す。

人事とは、あい礼拝するなり。

たとえば、おなじ郷間のともがら、あるいは、照堂、あるいは、廊下の便宜のところにして、幾十人も、あい拝して、同、安居の理致を賀す。

しかあれども、致、語は、堂中の法に、なずらう。

人にしたがいて、今案のことばも、存す。

あるいは、小師をひきいたる本師あり。

これ、小師、かならず本師を拝すべし。

九拝をもちいる。

法眷の、住持人を拝する、両展三拝なり。

あるいは、ただ大展三拝す。

法眷の、ともに、衆にあるは、拝、おなじかるべし。

師叔、師伯、また、かならず、拝あり。

隣単、隣肩、みな、拝す。

相識、道旧、ともに、拝あり。

寮、堂にあるともがらと、首座、書記、蔵主、知客、浴主、等と、到、寮、拝、賀すべし。

単寮にあるともがらと、都寺、監寺、維那、典座、直歳、西堂、尼師、道士、等とも、到、寮、到、位して拝、賀すべし。

到、寮せんとするに、人、しげくして、入寮門に、ひまをえざれば、榜をかきて、その寮門に、おす。

その榜は、ひろさ一寸余、ながさ二寸ばかりなる白紙に、かくなり。

かく式は、


某寮 某甲

拝 賀


又の式、


巣雲 懐昭 等

拝 賀


又の式、


某甲

礼 賀


又の式、


某甲

拝 賀


又の式、


某甲

礼 拝


かく式、おおけれど、大旨、かくのごとし。

しかあれば、門側には、この榜、あまた、みゆるなり。

門側には左辺に、おさず。

門の右に、おすなり。

この榜は、斎罷に、本寮主、おさめ、とる。

今日は、大小、諸堂、諸寮、みな、門簾をあげたり。

堂頭、庫司、首座、次第に煎点、ということ、あり。

しかあれども、遠島、深山のあいだには、省略すべし。

ただ、これ、礼数なり。

退院の長老、および、立僧の首座、おのおの、本寮につきて、知事、頭首のために、特、為、煎点するなり。

かくのごとく、結夏してより、功夫、弁道するなり。

衆行を弁肯せりといえども、いまだ夏安居せざるは、仏祖の児孫にあらず。また、仏祖にあらず。

孤独園、霊鷲山、みな、安居によりて現成せり。

安居の道場、これ、仏祖の心印なり、諸仏の住世なり。


解夏、七月十三日、衆寮、煎点、諷経。

また、その月の寮主、これをつとむ。

十四日、晩の念誦。

来日の陞堂。

人事、巡寮、煎点、並、同、結夏。

唯、榜状詞語、不同、而、已。

庫司、湯榜、云、

庫司、今晩、就、雲堂、煎点、特、為、首座、大衆。

聊、表、解制之儀。

伏、冀、

衆慈、同、垂。

光降。

庫司、比丘、某甲、謹、白。


土地堂、念誦、詞、云、

切、

以、金風、扇、野。

白帝、司、方。

当、覚皇、解制之時。

是、法歳、周円之日。

九旬、無難。

一衆、咸、安。

誦持、諸仏、洪名、仰、報、合堂、真宰。

仰、憑、大衆、念。


これよりのちは、結夏の念誦に、おなじ。

陞堂罷、知事、等、謝詞に、いわく、

伏、喜、

法歳、周円、無諸難事。

此、蓋、和尚法力、廕庇。

下情、無任、感激之至。


住持人、謝詞、いわく、

此、者、法歳、周円。

皆、謝、某(首座、監寺)、人等、法力、相資。

不任、感激之至。


堂中、首座已下、寮中、寮主已下、謝詞に、いわく、

九夏、相依。

三業、不善、悩乱、大衆。

伏、望、慈悲。


知事、頭首、告、云、

衆中、兄弟、行脚、須、候、茶湯罷、方、可、随意。

(如、有、緊急縁事、不在、此限。)


この儀は、これ、威音、空王の前際後際よりも、頂寧頁量なり。(「寧頁」は一文字の漢字と見なしてください。)

仏祖の、おもくすること、ただ、これのみなり。

外道、天魔の、いまだ惑乱せざる、ただ、これのみなり。

三国のあいだ、仏祖の児孫たるもの、いまだ、ひとりも、これをおこなわざる、なし。

外道は、いまだ、まなびず。

仏祖、一大事の本懐なるがゆえに、得道のあしたより涅槃のゆうべにいたるまで開演するところ、ただ安居の宗旨のみなり。

西天の五部の僧衆、ことなれども、おなじく、九夏安居を護持して、かならず、修、証す。

震旦の九宗の僧衆、ひとりも破、夏せず。

生前に、すべて、九夏安居せざらんをば、仏弟子、比丘僧と称すべからず。

ただ因地に修習するのみにあらず、果位の修、証なり。

大覚世尊、すでに一代のあいだ、一夏も闕如なく修、証しましませり。

しるべし、果上の仏、証なり、ということを。

しかあるを、九夏安居は修、証せざれども、われは仏祖の児孫なるべし、というは、わらうべし。

わらうに、たえざる、おろかなるものなり。

かくのごとく、いわんともがらの、ことばをば、きくべからず。

共語すべからず。

同坐すべからず。

ひとつ、みちを、あゆむべからず。

仏法には、梵壇の法をもって悪人を治するがゆえに。

ただ、まさに、九夏安居、これ、仏祖、と会取すべし、保任すべし。

その正伝しきたれること、七仏より摩訶迦葉におよぶ。

西天二十八祖、嫡嫡、正伝せり。

第二十八祖、みずから震旦にいでて、二祖、太祖、正宗普覚大師をして正伝せしむ。

二祖より、このかた、嫡嫡、正伝して、而今に正伝せり。

震旦にいりて、まのあたり、仏祖の会下にして正伝し、日本国に正伝す。

すでに正伝せる会にして、九旬坐夏しつれば、すでに夏、法を正伝するなり。

この人と共住して安居せんは、まことの安居なるべし。

まさしく、仏、在世の安居より嫡嫡、面授しきたれるがゆえに、仏面祖面、まのあたり、正伝しきたれり。

仏祖身心したしく証契しきたれり。

かるがゆえに、いう、

安居をみるは、仏をみるなり。

安居を証するは、仏を証するなり。

安居を行ずるは、仏を行ずるなり。

安居をきくは、仏をきくなり。

安居をならうは、仏を学するなり。

おおよそ、九旬安居を、諸仏、諸祖、いまだ違越しましまさざる法なり。

しかあれば、すなわち、人王、釈王、梵王、等、比丘僧となりて、たとえ一夏なりというとも、安居すべし。

それ、見仏ならん。

人衆、天衆、龍衆、たとえ一九旬なりとも、比丘、比丘尼となりて、安居すべし。

すなわち、見仏ならん。

仏祖の会に、まじわりて、九旬安居しきたれるは、見仏来なり。

われら、さいわいに、いま、露命のおちざる、さきに、あるいは、天上にもあれ、あるいは、人間にもあれ、すでに一夏安居するは、仏祖の皮肉骨髄をもって、みずからが皮肉骨髄に換却せられぬるものなり。

仏祖、きたりて、われらを安居するがゆえに、面面、人人の、安居を行ずるは、安居の面面、人人を行ずるなり。

恁麼なるがゆえに、安居あるを千仏万祖というのみなり。

ゆえ、いかん? となれば、

安居、これ、

仏祖の皮肉骨髄、心識、身体なり。

頂寧頁、眼睛なり。(「寧頁」は一文字の漢字と見なしてください。)

拳頭、鼻孔なり。

円相、仏性なり。

払子、拄杖なり。

竹箆、蒲団なり。

安居は、あたらしきをつくりいだすにあらざれども、ふるきをさらにもちいるには、あらざるなり。


世尊、告、円覚菩薩、及、諸大衆、一切衆生、言、

若、経、夏首、三月安居、当、為、清浄、菩薩、止住。

心、離、声、聞。

不、仮、徒、衆。

至、安居日、即、於、仏前、作、如是言。


我、比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、某、

踞、菩薩乗、

修、寂滅、行、

同、入、清浄実相、住持。

以、大円覚、為、我伽藍、身心、安居。

平等性智、涅槃自性、無、繋属、故。

今、我、敬、請、

不、依、声、聞、

当、与、十方如来、及、大菩薩、三月安居。

為、修、菩薩、無上、妙覚、大因縁、故、不、繋、徒、衆。


善男子、

此、名、菩薩示現安居。


しかあれば、すなわち、比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、等、かならず、安居、三月にいたるごとには、十方如来、および、大菩薩とともに、無上、妙覚、大因縁を修するなり。

しるべし。

優婆塞、優婆夷も、安居すべきなり。

この安居のところは、大円覚なり。

しかあれば、すなわち、鷲峰山、孤独園、おなじく、如来の大円覚、伽藍なり。

十方如来、及、大菩薩、ともに、安居三月の修行あること、世尊のおしえを聴受すべし。



世尊、於、一所、九旬安居。


至、自恣日、文殊、倏、来、在、会。


迦葉、問、文殊、

今夏、何所、安居?


文殊、云、

今夏、在、三所、安居。


迦葉、於、是、集、衆、白椎、欲、擯、文殊。


纔、挙、犍稚、

即、見、

無量仏刹、顕現、

一一仏所、有、一一文殊、有、一一迦葉、挙、椎、欲、擯、文殊。


世尊、於、是、告、迦葉、云、

汝、今、欲、擯、阿那箇、文殊?


于、時、迦葉、茫然。



圜悟禅師、拈古、云、

鐘、不撃、不響。

鼓、不打、不鳴。

迦葉、既、把定、要津。

文殊、乃、十方、坐断。

当時、好、一場、仏事。

可、惜、放過一著。

待、釈迦老師、道、欲、擯、阿那箇、文殊?

便、与、撃、一椎、

看、佗《かれ》、作、什麼、合殺。



圜悟禅師、頌古、云、

大象、不遊、兎径。

燕、雀、安、知、鴻鵠?

拠、令、宛、若、成、風。

破、的、渾、如、囓、鏃。

遍界、是、文殊。

遍界、是、迦葉。

相対、各、厳然。

挙、椎、何所、罰?

好、一箚。

金色頭陀、曾、落、節。



しかあれば、すなわち、世尊、一所、安居、文殊、三所、安居なりといえども、いまだ不安居あらず。

もし不安居は、仏、及、菩薩にあらず。

仏祖の児孫なるもの、安居せざるは、なし。

安居せんは、仏祖の児孫、としるべし。

安居するは、仏祖の身心なり、仏祖の眼睛なり、仏祖の命根なり。

安居せざらんは、仏祖の児孫にあらず。仏祖にあらざるなり。

いま、泥、木、素金、七宝の仏、菩薩、みな、ともに、安居三月の夏坐おこなわるべし。

これ、すなわち、住持、仏法僧宝の故実なり、仏訓なり。

おおよそ、仏祖の屋裏人、さだめて、坐、夏安居三月、つとむべし。


正法眼蔵 安居

寛元三年乙巳、夏安居、六月十三日、在、越宇、大仏寺、示、衆。

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