正法眼蔵 古仏心
祖宗の嗣法するところ、七仏より曹谿にいたるまで四十祖なり。
曹谿より七仏にいたるまで四十仏なり。
七仏、ともに、向上、向下の功徳あるがゆえに、曹谿にいたり、七仏にいたる。
曹谿に向上、向下の功徳あるがゆえに、七仏より正伝し、曹谿より正伝し、後仏に正伝す。
ただ前後のみにあらず。
釈迦牟尼仏のとき、十方諸仏あり。
青原のとき、南嶽あり。
南嶽のとき、青原あり。
乃至、石頭のとき、江西あり。
あい罣礙せざるは、不礙にあらざるべし。
かくのごとくの功徳あること参究すべきなり。
向来の四十位の仏祖、ともに、これ、古仏なりといえども、
心あり。
身あり。
光明あり。
国土あり。
過去、久、矣あり。
未曾過去あり。
たとえ未曾過去なりとも、たとえ過去、久、矣なりとも、おなじく、これ、古仏の功徳なるべし。
古仏の道を参学するは、古仏の道を証するなり。
代代の古仏なり。
いわゆる、古仏は、新古の古に一斉なりといえども、さらに古今を超出せり、古今に正直なり。
先師、曰、
与、宏智古仏、相見。
はかりしりぬ、天童の屋裏に古仏あり、古仏の屋裏に天童あることを。
圜悟禅師、曰、
稽首、曹谿真古仏。
しるべし。
釈迦牟尼仏より第三十三世は、これ、古仏なり、と稽首すべきなり。
圜悟禅師に古仏の荘厳、光明あるゆえに、古仏と相見しきたるに、恁麼の礼拝あり。
しかあれば、すなわち、曹谿の頭正尾正を草料して、古仏は、かくのごとくの巴鼻なることをしるべきなり。
この巴鼻あるは、これ、古仏なり。
疎山、曰、
大庾嶺頭、有、古仏。
放、光、射、到、此間。
しるべし、疎山、すでに古仏と相見す、ということを。
ほかに参尋すべからず。
古仏の在所は、大庾嶺頭なり。
古仏にあらざる自己は、古仏の出所をしるべからず。
古仏の在所をしるは、古仏なるべし。
雪峰、曰、
趙州、古仏。
しるべし。
趙州、たとえ古仏なりとも、雪峰もし古仏の力量を分奉せられざらんは、古仏に奉覲する骨法を了達しがたからん。
いまの行履は、古仏の加被によりて、古仏に参学するには、不答話の功夫あり。
いわゆる、雪峰老漢、大丈夫なり。
古仏の家風、および、古仏の威儀は、古仏にあらざるには、相似ならず、一等ならざるなり。
しかあれば、趙州の初中後善を参学して、古仏の寿量を参学すべし。
西京、光宅寺、大証国師は、曹谿の法嗣なり。
人帝、天帝、おなじく、恭敬、尊重するところなり。
まことに、神丹国に、見聞まれなるところなり。
四代の帝師なるのみにあらず、皇帝てずから、みずから車をひきて参内せしむ。
いわんや、また、帝釈宮の請をえて、はるかに上、天す。
諸天衆のなかにして、帝釈のために説法す。
国師、因、僧、問、
如何、是、古仏心?
師、云、
牆壁、瓦礫。
いわゆる、問所は、這頭、得、恁麼といい、那頭、得、恁麼というなり。
この道得を挙して問所とせるなり。
この問所、ひろく古今の道得となれり。
このゆえに、
華開の万木百草、これ、古仏の道得なり、古仏の問所なり。
世界起の九山八海、これ、古仏の日面、月面なり、古仏の皮肉骨髄なり。
さらに、また、
古心の行仏なるあるべし。
古心の証仏なるあるべし。
古心の作仏なるあるべし。
仏古の為、心なるあるべし。
古心というは、心、古なるがゆえなり。
心仏は、かならず、古なるべきがゆえに、古心は椅子、竹、木なり。
尽大地、覓、一箇、会仏法人、不可得なり。
和尚、喚、這箇、作、甚麼? なり。
いまの時節、因縁、および、塵刹、虚空、ともに、古心にあらずということなし。
古心を保任する、古仏を保任する、一面目にして両頭、保任なり、両頭、画図なり。
師、いわく、
牆壁、瓦礫。
いわゆる宗旨は、
牆壁、瓦礫にむかいて道取する一進あり、牆壁、瓦礫なり。
道出する一途あり。
牆壁、瓦礫の、牆壁、瓦礫の許裏に道著する一退あり。
これらの道取の現成するところの円成、十成に、
千仭、万仭の壁、立あり。
帀地、帀天の牆、立あり。
一片、半片の瓦、蓋あり。
乃大乃小の礫尖あり。
かくのごとくあるは、ただ心のみにあらず、すなわち、これ、身なり、乃至、依正なるべし。
しかあれば、作麼生、是、牆壁、瓦礫? と問取すべし、道取すべし。
答話せんには、古仏心と答取すべし。
かくのごとく保任して、さらに参究すべし。
いわゆる、牆壁は、いかなるべきぞ?
なにをか牆壁という?
いま、いかなる形段をか具足せる? と審細に参究すべし。
造作より牆壁を出現せしむるか?
牆壁より造作を出現せしむるか?
造作か? 造作にあらざるか?
有情なりとやせん? 無情なりや?
現前すや? 不現前なりや?
かくのごとく功夫、参学して、たとえ天上、人間にもあれ、此土、他界の出現なりとも、古仏心は牆壁、瓦礫なり。
さらに一塵の出頭して染汚する、いまだあらざるなり。
漸源仲興大師、因、僧、問、
如何、是、古仏心?
師、云、
世界、崩壊。
僧、曰、
為、甚麼、世界、崩壊?
師、云、
寧、無、我身。
いわゆる、世界は、十方、みな、仏世界なり。
非仏世界、いまだあらざるなり。
崩壊の形段は、この尽十方界に参学すべし。
自己に学することなかれ。
自己に参学せざるゆえに、崩壊の当恁麼時は、一条、両条、三、四、五条なるがゆえに、無尽条なり。
かの条条、それ、寧、無、我身なり。
我身は、寧、無なり。
而今を自惜して、我身を古仏心ならしめざることなかれ。
まことに、
七仏以前に、古仏心、壁、竪す。
七仏以後に、古仏心、才、生す。
諸仏以前に、古仏心、華開す。
諸仏以後に、古仏心、結果す。
古仏心以前に、古仏心、脱落なり。
正法眼蔵 古仏心
爾時、寛元元年癸卯、四月二十九日、在、六波羅蜜寺、示、衆。




