13残念イケメン「成宮弘毅」
美羽に振り回されつつも、彼女の胸に秘めた想いに触れ、兄として向き合おうと決めた翌日。
俺は、親友の弘毅の家に来ていた。
昨日の今日だったせいか、美羽からは「どこ行くの?」と少し疑いの目を向けられたけど、スマホのメッセージ画面を見せたら、ようやく納得してくれた。
浮気を疑われたサラリーマンって、こんな気分なのかもしれない。
まだ結婚もしてないのに、そんなことを考えながら家を出て、今に至る。
弘毅の部屋の床にあぐらをかいて、ラノベを読んでいると、彼が思い出したように声をかけてきた。
「そういえば、柳瀬さんとのデート、どうだった?」
「ああ、うん。はじめてにしては、すごくよかった。……っていうか、できすぎなくらい」
弘毅の言葉に、昨日の出来事が鮮明によみがえる。
女の子とデートなんて初めてだったから、緊張しすぎて何度も言葉が詰まった。
それでも、笑って話せて、映画も楽しくて間違いなく最高の一日だった。
「……もしかして俺、柳瀬さんと相性抜群なのでは?」
口をついて出た言葉に、弘毅が吹き出す。
「あははっ。一回のデートでそこまで言えるって、よっぽどよかったんだね。
……で、相性といえば。義理の妹とはどうなんだい? 最近、話聞かないけど」
「そのことなんだけどさ……」
弘毅には、俺に義妹ができたことだけは話していた。
でも、美羽が学校では関係を隠したがっていたから、名前までは言っていなかった。
「義理の妹は極度の人見知り」と言って、遊ぶのも基本外か弘毅の家にしていた。
昨日、“兄として向き合う”と決意したとき、もう隠しておくのは違うと思った。
美羽にも相談して、「親友の成宮くんならいいよ」と許可をもらったので、今日は正直に話すつもりだった。
「今まで黙ってたけど――俺の義妹、小野寺美羽なんだ」
弘毅の顔が、見る見るうちに固まる。
「……え? どういうこと?」
「そのまんま。俺たちのクラスメイトで、柳瀬さんの親友の小野寺美羽。あれが、俺の義理の妹」
「…………本当に?」
まだ信じられないといった顔の弘毅に、俺はうなずいた。
「ちょっと待っててよ」
そう言って立ち上がると、弘毅はクローゼットを開け、小さな金庫を取り出した。
ダイヤルを回し、慎重に中を開ける。
そして、神棚にでも供えるような慎重さで、それを俺の前に置いた。
数量限定、抽選販売、伝説のフィギュア。
俺たちが発売当時、何度応募しても外れて手に入らなかった、あの“幻の一品”。
“アークセイバー・ユニオンVer.1/7スケール”の限定フィギュア。
弘毅はそれを大金をはたいて、独自のルートで手に入れたものだ。
「これ、あげるよ」
「……は?」
オークションに出せば十万は下らない代物。それを、何の前触れもなく差し出してきた。
「いや、なんで急に……」
「足りない? なら、あといくら積めばいい?」
「いや、だからなんで!?」
意味がわからず問い返す俺に、弘毅は真剣な顔で詰め寄ってきた。
「頼む! 一日だけでいいから、俺とお兄ちゃん変わってよ!
クラスメイトが義妹とか、どんな徳を積んだらそんなイベント発生するの!?
しかも、あの小野寺さんだよ! 柳瀬さんと双璧をなす、我がクラスの超絶美少女! ねぇ、お願い! 半日でもいい!」
「お、落ち着け弘毅! 変われるわけないだろっ!」
弘毅は見た目も性格も穏やかなイケメン。
だけどその内側は、筋金入りの拗らせオタクだ。
しかも重度のシスコン。妹は尊い存在であり、決して一線を越えてはならない、そんな独自の美学を持っている。
だからこそ、義妹ものには異様なまでの執着を見せる。
以前、俺が「妹ができる」と言っただけで、発狂しかけた程だ。
そして今回は、その比じゃなかった。
弘毅は床を転げ回りながら、叫んでいる。
「神は不公平だ! なぜ俺に義妹はいないんだ!」
弘毅が落ち着くまで、一時間以上。
部屋には、フィギュアと絶望の残響だけが静かに残っていた。
「落ち着いたか……?」
ようやく静かになった弘毅に声をかける。
「うん……ごめん」
アハハ、と乾いた笑いをこぼすその顔は、どこか憔悴していた。
「本当にビックリだよ……でも、なんで今まで内緒にしてたんだい? 名字も違うし」
「美羽がそうしたいって言ったんだ。
名字も変えずにいた方が都合がいいってさ。母さんも職場では旧姓のままだし」
俺自身、若松って名字にこだわりはない。
それに、美羽と兄妹ってことを隠すにも、その方が何かと便利だった。ただ、それだけの理由だ。
「ふーん……小野寺さんと家族なのに、学校じゃあんな感じなんだ?
家でも同じなのかい?」
「いや、家では普通に話すし、仲も悪くないよ。単純に恥ずかしいのと、関係を隠すためってだけ」
「なるほど。ツンデレってやつか。なんて羨ましいんだ……!
でも、智也は大丈夫なのかい? 小野寺さんと同じ家で過ごしていて」
「どういうことだよ?」
要領の得ない弘毅の問いかけに眉をひそめる。
「好きな相手の親友と一緒に住んでるって気まずくないかい?」
「ああ、まあ確かに気まずいのは確かだけど……」
昨日の美羽と話したことを思い出す。
美羽なりに俺との距離を縮めようとする健気さと、家族をとられたくないから学校では邪険にする。子供っぽくも温かいその素直さとわがままが混じった彼女の様子を。
「大切にしていきたいと思ってるからな、兄貴として」
俺の言葉を聞いて、弘毅がふっと笑う。
「そうかい……俺からは聞かないけど色々あったんだね?」
俺もそれに笑って返す。
「まあな」
「最初はすれ違う義理の兄妹……それが打ち解けあって絆を深める……なんて羨ましい展開なんだ、うっううう」
「お、落ち着け弘毅! 血が繋がってなくても普通の兄妹だからな? 特になんかあるわけもいんだからな!」
危険だ。
もし弘毅に、家での美羽との“バグった距離感”を話したら――
たぶんこいつは、正気じゃいられなくなる。
……死んでも、家でのことは話すまい。
俺のためにも、弘毅のためにも。
ほんと、こいつほどイケメンの無駄遣いをした男なんて見たことない。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークと★で応援お願いします✨
反応いただけたら、続きもどんどん投稿していきます!




