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26話 ~Last~

 



 夜のココクロ村の静寂を切り裂いたのは、酒臭い息をした護衛の「大司教様が転落されたぞ!」という報せでした。


 その声は瞬く間に村中を駆け巡り、深夜にもかかわらず、松明の火がいくつも灯る大騒動へと発展しました。


 村の男たちは総出で険しい崖下へと駆り出され、泥にまみれた捜索が開始されました。夜明けを待たずして発見されたバレルは、案の定、物言わぬ無惨な肉塊と化していました。


 翌日には隣街から教会の使者が急行し、バレルの遺体は丁重に回収されました。数日にわたる現場検証の末、下された結論は「泥酔による不慮の事故死」。


 使者たちが帰り、対応に忙殺された村人たちがようやく安堵の息を吐いたその時、村長であるカフェミルクが静かに口を開きました。


「この村を出ることにしたよ」


 驚愕する村人たちを前に、彼は穏やかな笑みを浮かべて続けました。実は前から決めていたことなのだ、と。


 年老いた身を案じる息子夫婦から、医者のいる自分たちの街へ来るよう、何度も説得されていたのだと語りました。村長はどこか吹っ切れたような表情で、村を後にしました。


 しかし、平穏が戻ったのも束の間でした。


 見慣れぬ身なりの良い男たちが、突然大挙して村へ押し寄せてきたのです。彼らは王都にあるプーチャル教総本山から派遣された特別調査団だと名乗りました。


 バレルの件は事故として決着したはずだと困惑する村人をよそに、彼らは「調査は不十分だ」と断言し、村に居座り始めました。


 調査が長期化するにつれ、教会が連れてきた大工たちによって、村には不釣り合いなほど立派な宿泊施設や井戸が整備されていきました。


 調査への協力には礼金が支払われ、農作物は飛ぶように売れる。村にはかつてないほどの金が降り注ぎ、見違えるような発展を遂げていきました。


 喜びに沸く村人たちでしたが、同時に底知れぬ薄気味悪さも感じていました。


 すでにバレルの遺体はないというのに、調査員たちは崖の上だけでなく、村中の至る場所を、文字通り草の根を分けるような執拗さで調べ回っていたからです。


「何をしているのか」と問うても、彼らは貝のように口を閉ざし、ただ冷徹な眼差しであちこちを探し回るばかりでした。


 その異様な光景は数ヶ月に及び、やがて調査員たちは、何一つ目的を果たせなかったことを物語る苦渋に満ちた顔で引き揚げていきました。


 嵐の後のような静けさが戻り、潤った懐に満足していた村人たちを襲ったのは、「奇病」でした。


 最初の犠牲者は村の老人でした。骨が異常に脆くなり、軽く転んだだけで足の骨を粉砕したのです。


 当初は「年寄りだから」と片付けられましたが、次に発症したのは四十二歳の壮健な男でした。手をついた拍子に、いとも容易く手首の骨を折ったのです。


 新しく村長に就任したグレンドンは、すぐさま医者の派遣を近くの街に要請しました。


 当初は「すぐに向かう」との返答がありましたが、予定日を過ぎても医者は現れません。二度、三度と繰り返される必死の要請に対し、やがて返事すら来なくなりました。


 グレンドンは、自分たちが見捨てられたことを悟りました。


 正体不明の奇病を抑える最も確実な方法は、治療法を見つけることではない。蓋をすること。それ以上蔓延しないように蓋をして、病が自然に消えるのを待つことだと。


「ココクロ村は大司教に呪われている」


 噂は尾ひれをつけて広がり、村へ近づく人はいなくなりました。


 ひとり、またひとりと死んでいきました。


 ココクロ村は、やがて地図からその名を消しました。


 あの崖の上には、銘の無い粗末な石碑が一つだけ設置されています。風の強い日には、笛のような音を立てて鳴くそうです。


 圭太を追放した人は死にました。


 圭太を無能と笑った人も死にました。


 一人残らず死にました。





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