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21話

 


<特殊スキル『無能』が発動しました>


 発動を念じた瞬間、脳内に響く無機質な音声とともに、視界に青白い光の十字カーソルが現れました。


 それはFPSゲームなどで標的を狙う際に表示される「照準」に酷似していました。


 十字カーソルは常に視界の中心に固定されており、圭太が顔を動かすと、吸い付くように連動して動きます。


(これで……付与する。くらえ!)


 標的であるバレルの背中に狙いを定め、強く意志を込めたその刹那――青白い光は警告色のような深紅へと変わりました。


<『無能』の付与に成功しました>


(よっしゃ、成功だ!)


 深紅のカーソルは、バレルの肥大した背中に吸い込まれるようにして消えました。バレルは用を足し終えたのか、身震いをひとつしてズボンをたくし上げる仕草を見せます。


「?」


 成功の通知は確かに聞こえました。しかし、目の前のバレルには特に変わった様子は見られません。


 劇的な爆発が起きるわけでも、急に苦しみ出すわけでもない。

 ただ平然と、そこに立っているだけです。


 沸騰していた興奮が、急速に冷めていくのを感じました。


 とんでもない異変が起きると勝手に期待していましたが、現実には静寂が続いているだけです。


(……落ち着け。冷静になれ)


 自分に言い聞かせ、鑑定で得た情報を反芻します。「無能」の効果は、ステータスの90%ダウン、そして「不運」。


 今、バレルの肉体強度は赤ん坊同然まで落ち込んでいるはずです。ならば、どうする?


 答えは決まっています。


 ――村長からもらったこの短剣で、あいつを突き刺す。


 細く、長く息を吐きます。


 あんな体形で、能力を削がれた男がまともに戦えるはずがありません。絶好のチャンス。魔物や猛獣には勝てずとも、あいつになら勝てる。


 すなわち、「人を殺す」ということ。


 予想だにしなかった急展開に、再び心臓が早鐘を打ち始めます。


 いけるのか?

 殺せるのか?

 ……「人間」を。


 獲物を狙う狩人であったはずの圭太は、自らの覚悟という見えない敵に追い詰められていました。







最後まで読んでいただきありがとうございました。


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