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(第八章 就職前の冒険旅行)

就職は、大学からの推薦で早い段階に決まった。

特にやりたい仕事があったわけではない。年収と福利厚生が良さそうだという理由で決めた。

一流企業ではなかったが、そこそこ食べていければ十分だと思っていた。

就職までの三か月間、アルバイトで貯めたお金で世界旅行に出かけようと考えた。本当は世界一周旅行をしてみたかったのだが、地理の勉強をあまりしてこなかったせいか、行きたい国が思い浮かばない。仕方なく、アメリカに行くことにした。

ロサンゼルスやカリフォルニアを訪れ、日本人街をうろうろしていた。大きな夢を抱いて出てきたものの、英語がほとんどできない慎吾にとっては、それでも精一杯の冒険だった。

それでも、黒人に絡まれて怖い思いをしたり、タクシー代をぼったくられたり、汚いホテルに泊まって命の危険を感じたりと、さまざまな経験をした。結局、日本が一番いい国だと気づくために行ったようなものだった。

食べ物も、人も、街並みも、日本の方がずっと良く感じた。海外でも作り笑いで「ハロー」と言えば仲良くなれるような気がしていた。しかしアメリカでは、相手がどんな人なのか分からない。声をかけると、相手の様子で危ない人かどうかがなんとなく分かる。

タクシーの運転手がやたらと賑やかに話しかけてくるのも、客と話していないと不安なのだという。様子のおかしい相手だと感じたら、すぐに逃げられるように警戒しているらしい。

アメリカ人はみんな明るくて陽気だ。黒人も話してみると愛嬌があって可愛い。少し慣れてきた頃、煙草の火を貸してほしいと近づいてきた黒人に、気軽にライターを差し出した。すると突然、刃物で脅され、百ドルを奪われてしまった。

お金を持っていてよかった。もし無一文だったり、お金を出さなかったりしたら、命を取られていたかもしれないと後から聞き、震え上がった。海外に出るたびに、日本は安全で豊かな国だと思い知らされる。

金髪の女性とどうにかなりたいという下心もあったが、背後にどんな組織がいるのか分からないと思うと、下手な冒険はできなかった。留学した友人たちは、悪い仲間に誘われて薬や女を経験して帰ってくる。しかし、知り合いもおらず英語もままならない自分には、無事に日本へ帰るだけで精一杯だった。

食べ物も、ハンバーガーかホットドッグばかりだった。意外にもケンタッキーは見つけることができなかったが、日本にまだ上陸していないハーゲンダッツやバーガーキングは気に入り、毎日のように通っていた。

レストランはメニューの見方が分からず、チップの計算にも慣れない。そのため、もっぱらファーストフードかスーパーマーケットで食料を買い、ホテルで食べていた。

好きな場所に、好きなだけいられる贅沢な時間は、あっという間に過ぎていった。お金や土地勘、英語にも少しずつ慣れてきた頃、帰国しなければならなくなった。

いつかまたまとまったお金ができたら、もう一度旅に出よう。

慎吾はそう思いながら、日本へ帰る飛行機に乗った。


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