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(第二十三章 コロナによって変貌する社会)

ペストのように畏れられたコロナは、最初細菌兵器なのだと思われていた。かつて、第二次世界大戦の頃に流行したスペイン風邪のように。世界中に広がり、戦争までも停止させたという逸話まである。スペイン風邪が初めて見つかったのはアメリカの軍事基地の近くの町だったらしい。ただ、戦争下で、情報閉鎖されていた時だったので、スペインだけ報道されて、この名がついたという説もある。コロナも中国武漢で見つかり、軍事基地の近くだったので、研究されていた生物兵器が漏れ出したのだと言われ、パニック状態になった。陰謀説がSNSの中で実しやかに拡散され、臨床実験もじゅうぶんされていないワクチン接種が義務づけられた国々もあった。日本は、本人の意思を重視されたが、他人をどうにかコントロールしたがる人は、いつの時代にも多い。まるで、正義の味方のように、コロナを敵視し、都会から来る人を、ことごとくコロナ菌のように扱い、石を投げたり破壊する心違いの人もいた。不安なら家にこもって、誰とも接触しなければいいのに、わざわざ町に出て取り締まり説教する面倒な人物まで出てきた。マスクをつけないと怒り、ワクチンを打たないとバイキン扱いをした。本も読まない、自分で判断しないでマスコミや風評便りに生き、何の責任も取らない迷惑な人ばかりがあふれていた。そして、店を閉め、買い物以外は家から出ないよう、取り締まる者さえいた。経済が低迷するのも当然だった。町が、ひっそりと成りを沈めていたら、働く意欲もなくなった。もう一度、店をするには、すべてが使い物にならないくらい、道具もさびついてしまった。コロナを恐れて何もしなかった人は、ただ衰退していくしかなかった。

しかし、SNSが苦手だった日本の五十歳過ぎの人たちも、会社に行くことができないのでズーム会議や家での作業を強いられて、スマートフォンやコンピューターを使えるようになったのは進歩だった。ずっと前から考えられていた、田舎でも仕事ができるようになった。これで、過疎化も止められると、かすかな希望も生まれた。東京から淡路島へと会社を移転したところもあった。コロナによってダメになった所もあったが、繁栄した業種もあった。コロナのための必需品や、医療費、消毒液やマスクなどなど。コロナが終われば、使わないだろうものもひとときブレイクした。

エステも最初は誰も来なくなったが、家で引きこもり、退屈したお客様たちが戻って来た。全くの個室で、除菌とマスクの装着をして、コロナ対策をしていた中目黒のサロンは、逆に忙しいくらいだった。コロナ太りした女性たちが、ヒマをもてあまし、自分みがきに目覚めたからだ。学園のサロンには誰も来なくなったので、すべて閉鎖された。情報発信はラインで、セミナーなどはズームで行われるようになった。資格は地元の認定サロンで取得するようになった。

2010年はリンパのコンテストもできなかった。日本中のイベントやお祭りが、ほとんどすべて中止されていた。

日本の医療技術は、ある意味素晴らしい。そして、社会福祉も整っている。海外では医者にかかることができなくてばたばた死んでいるのに、生活保護者でも国が医療費を払ってくれるのでじゅうぶんな治療を受けることができる。こんな国は他にはない。貧しい国では餓死する人もいるというのに、日本人は働かなくても国があらゆる方法で最低限の生活は保障してくれる。海外にいると、日本の素晴らしさに気づく。

しかし、長寿国日本は、死のうとしてもカンフル剤で生かされ死ぬことも許されない地獄のような老後に湯水のような国家予算を使っているのではないのかとさえ疑いたくなる。

安全性もわからないワクチンの害も目をつむり、無症状でも陽性だとカウントして恐怖を植え付ける。「毎年、インフルエンザで2万5千人も死んでたんやで。なのに、昨年は8千人しか死んでないんやて。死人減ってるやん。どういうこと?」と、佐竹部長が貿易部門が、低迷しているのでボヤいていた。海外からの観光客もいなくなった。あれほど賑わっていた観光地もがらがら。夜遅くまで飲み歩く人はいなくなった。


2022年は久しぶりに横浜の大会場でコンテストが再開された。しかし、そこには、川口親子の姿はあったが、小林と慎吾の姿はなかった。二人は遠くヨーロッパで暮らしていた。あのダブル受賞した年に旅立って、その後コロナのせいで帰国することができなくなったからだ。フランスでリンパエステを広めたいと話していたが、頓挫してしまった。中目黒のサロンは川口親子に任せて行ったので、たまにズーム会議をしているので支障はない。慎吾のマンションは、不動産会社に任せている。月々に入る家賃代は、生活費の足しになる。二人の間に、かわいい男の子ができたことは日本の誰も知らない。ハネムーンに行ったイギリスで人工授精が成功したことも。コロナ前に生まれて、フランスで育っていることも秘密にしている。

どちらにしても、まだ鎖国状態の日本には帰れない。若く見える二人だったので、海外なら小さな男の子がいても周囲の誰もいぶかったりはしない。まだまだ、コロナやオミクロンの脅威が世界を停止させている。日本にいても、きっと外にも出られないで窮屈な思いをしていたに違いない。いいタイミングで日本を脱出したものだと思う。今は、どこの国にいてもSNSが発達しているので、子どもの勉強も心配はない。リンパエステの情報もライブで受け取っている。慎吾と由美の口座には、一定のお金は振り込まれているので、生活には困らない。今は、初めての子育てに夢中で、楽しくて仕方ない。自分の子どもというものが、こんなに可愛くて、かけがえのない者だとは知らなかった。もしかしたら、この子が成人するまで生きていないかもしれない。それでも、この一瞬を大切にして生きていきたい。死が家族を分かつ日が来ても、後悔はない。今、人生の黄昏時の、本当に色鮮やかな美しい風景のなかにいるみたいだった。


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