第七話 才能という名の重荷
「セラフィマお嬢様。大丈夫ですか?」
リリアが心配そうに顔を覗き込む。
気が付くと、俺は医務室のベッドに寝かされていた。
……恐らく、魔力切れとかそんなものだろう。
そういえば、この世界に来てから『魔力の限界』なんてものを真面目に考えたことがなかった。
あったのか。そういう概念。
「気が付きましたか。セラフィマ様」
白衣を着た初老の男性がこっちへ来る。
――誰だ?
こんな顔見たことない。
「申し遅れました。」
男は軽く一礼した。
「宮廷治療師のアルフォンスと申します」
宮廷治療師?そんな役職あったのか。
「どうもはじめまして。ソルヴァティアていこくだいさんおうじょ、セラフィマ ヴァン ソルヴァティアです!いごおみしりおきを!」
俺はそう言いながらベッドの上で軽く会釈する。
今回も可愛くできた。
我ながら大した演技力だと思う。
……中身がおっさんだと知られたら即処刑だろうが。
アルフォンスは一瞬目を細めたが、すぐ穏やかな表情に戻った。
「お若いのに、見事な礼儀ですな。さすが王家のお方」
「えへへ」
俺は手で鼻の下を擦るような動作をしながら照れたふりをする。
アルフォンスはベッドの横の椅子に腰掛けると、手のひらをこちらへ向けた。
「命の灯火を守る光よ、砕けた肉を繋ぎ、失われし力を戻せ 超回復」
アルフォンスの手から緑っぽい淡い光がふわりと灯る。
まるで、日の光に当たっているように感じる。
アルフォンスが心配無さそうに言う。
「魔力切れですね。まだ、お身体は若いです。無理はなさらないように」
やはり魔力切れか。こればかりは鍛えるしかないな。
「セラフィマお嬢様、あんなに大きい炎を出されたなら当然です」
リリアが額を抑えながら呆れたように言った。
「そんなにおおきかったです?」
俺は首を傾げる。
本人的には、そこまで大したことをしたつもりはない。
アルフォンスが少し考えるように顎に手を当てた。
「ええ。正直申しまして。驚きました」
その言葉は穏やかだったが、リリアの視線は一瞬だけ鋭くなる。
「ですが安心してください。しばらく休めば問題ありません」
そう言うと、アルフォンスは立ち上がる。
「王女様の魔法は……とても美しい炎でした」
その言葉を残し、医務室を出ていった。
――美しい、か。
リリアがため息をつく。
「フィーマ様、本当に無茶をなさらないでください」
「むちゃしてません!」
俺は頬を膨らませる。
だが内心では、別のことを考えていた。
アルフォンスの最後の視線。
あれは――
ただの医者がしてはいい目ではなかった。
―――
俺とリリアは少し医務室で休んだ後、自室へと向かった。
「リリア。私は魔術の才はありますか?」
ふと気になったので聞いてみる。
「……正直に申し上げます。今の時点でも中級魔導士に匹敵します」
「ですがフィーマ様は、そんなものでは終わりません」
リリアの目は至って真面目で透き通っている。
「そうであって欲しいものですけどね……」
俺は続ける
「リリア、で正直なところ私に才能はあるのでしょうか。」
はいと言って欲しい。その答え以外答えないで欲しい。
リリアはトーンを低くして答えた。
「フィーマ様。はっきり言うとフィーマ様は才能がありすぎます。――そして賢すぎます。」
「そして何よりも……」
リリアはため息のような、一息をつく。
「フィーマ様の才能が有ろうと無かろうとリリアはフィーマ様の味方です。」
あぁ、嬉しい。その感想しか出なかった。
俺は決心する。
この世界に転生してきた時『何者か』になろうと決めたんだ。だから、やるしかない。
―――
自室でしばらくした頃、ドアをノックされた。
十中八九リリアだろう。
リリア以外はこの部屋に近づかないからな。
「入っていいですよ」
俺はいつも通り答えた。
が、想像と違った顔が部屋に入ってくる。
「フィーマ。今時間いいか?」
入ってきたのはリリアではなかった。
――ユリウスだ。
どう言うことだ?俺何かやったか?
あっ、朝のことか。あれは可哀想だった。でもそれだけでわざわざ来るか?
なら、なんのために兄は来たんだ?
ユリウスは思い切った顔で言う。
「単刀直入に言う。フィーマ、お前は何者なんだ?」
こいつ気づいているのか?
はたまた、魔法のことか?
どっち?どっちだ???
「おにいさま、なんのことでしょうか?フィーマにはわかりません」
はぐらかすしかできることはない。
ユリウスはしばらく黙って俺を見ていた。
まるで、何かを測るような目だ。
「……そうか」
それだけ言って、ユリウスは小さく息を吐く。
「いや、すまない。変なことを聞いたな」
なんだそれは。
納得した顔じゃない。
むしろ――確信を深めた顔だ。
ユリウスは部屋の中をゆっくり見回す。
「今日の魔法、見たぞ」
来た。
やっぱりそっちか。そっちでよかった。
ユリウスは続ける。
「とても……三歳の魔法じゃない」
ユリウスの声は責めるものではない。
だが、逃げ道を塞ぐような静かな圧がある。三歳児に向けるべきではない圧が。
「おにいさまはフィーマのことをうたがっているのですか?」
俺は首を傾げる。三歳の顔で。
ユリウスは少しだけ笑った。
た。
「疑っているわけじゃない」
一歩近づく。
「――警戒しているだけだ」
部屋の空気が一瞬だけ重くなる。
「フィーマ。才能は時に人を壊す」
朝、言っていた言葉だ。
「だがな」
ユリウスは俺をまっすぐ見た。
「もし、お前が――」
ユリウスは息を呑む。
「この国を壊すならば、俺はフィーマ、お前と敵にならなければならない」
優しく、慈悲深い声だった。
だが、それが俺を責めているようで逆に怖い。
ユリウスはふっと笑う。
「安心しろ今、俺はお前の味方だ」
そう言いユリウスはセラフィマに背を向けた。
ドアの前で止まり、最後に一言だけ残した。
「だから考えておけ。フィーマ」
「お前は、どちら側の人間なんだ?」
ドアは静かに閉まる。
窓の外を見る。
この帝国。
この巨大な国は――いつか必ず壊れる。
その時。
俺は――
「どちら側なんだろうな」
小さく呟いた。




