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夜に灯を、魔法に祈りを  作者: 佐藤飴子
第一章 花に露を
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ネクタイを緩めてはいけない

- 私は、きたいに応えなければならない

- 時間に合ったあいさつをすること

- 爪をかんではいけない

- 室内では走らないこと

- 年上には敬語をつかうこと

- 本を床におかないこと

- 妹たちと言い合いになっても手を出さないこと

- ひまつぶしとしてありの巣をほじくることをせんたくしてはならない

- 朝にちゃんとおきること

- うそをつかないこと


……


- 鞄を机の上に置かないこと

- 決められた時間の十分前に行動すること

- 家族の話をしないこと

- 穏やかな言葉で話すこと

- 話を聞いていると思わせるために相槌を忘れないこと

- 相手が知っているであろう言葉を使うこと

- 最善の方法に気付いても周囲が気づいていなければ周囲と同じ方法をとること

- 相手の感情を優先し合わせること

- 降水時は上着を他者に貸すこと

- 動物を殺してはいけない

- 教室に入ってきた羽虫はいい

- 相手が時間や労力などを割いて自身に何かを施そうとしたときは結果に関係なく感謝の言葉を述べること

- 誰かの目があるうちは規則に従わなければならない

- 納得できない規則だとしても異を唱えてはいけない

- 小花は摘んでもいいが、大きな花は手折ってはならない

- 目の前で他者が違反をしていてもこれ見よがしに注意しないこと

- 読む本を選ぶときは自身の年代を対象にしたものにすること

- 誰かと喧嘩したときは相手が先に手を出すように仕向けること

- 嫌いなものがあっても顔に出さずに食べること

- 相手が黙ったら話しかけないこと

- 髪の毛をむやみやたらと触らないこと

- 親を亡くした子どもというのは世間からみて同情する対象であるとともにその同情をそのまま伝えてはいけない対象でもある

- 死んだ人の話はその人が死んだ日以外にしてはならない

- 親を亡くした子どもの前で生死の話をしてはならない、親の話をしてはならない

- 困ったときは周りの大人と同じ表情をしておくこと


……


- 常に他者からどう見られるかを忘れないこと

- 羽虫が入ってこないよう空いている窓は閉めること

- 借りたものは丁寧に扱い、持ち主には丁重に接すること

- 自分の悪口を偶然聞いたという話は世間話ではない、話さないこと

- 自身の行動の理由を聞かれても即座に答えられるようにそれらしい理由を事前に考えておくこと

- 成果を褒められても周りのお陰だと静かに返すこと

- 容姿を褒められてもそこで終わりにはせず、何かしら相手の容姿を褒め返すこと

- 自分たちが食べる魚や牛の死と実験に使用した動物の死は、世間の人々にとって等しいものではない

- 人形など、何かしらの生命を模した物は割れ物のように扱うこと

- 相手が気に入っているものが例え馬鹿らしくとも表には出さないこと

- 動物、子ども、老人が何かを求めているときは積極的に手を貸すこと

- 法律と規則は一字一句間違いのないように覚えること

- 服はシワがつかないように置くこと

- 基本口角を下げてはならない

- 自分の考えそのままを話さないこと

- 人によって態度は変えずとも言葉は変えること

- 誰かと歩くときは一番遅い人に歩幅を合わせること

- 誰かと二人きりの時、相手が悲しんでいれば悲しそうに、怒っていれば怒りの感情表現をすること

- 語尾を指示の形ではなく提案の形にすること

- 相手の体調が悪いときは必ず心配の言葉をかけたのちに速やかに自室に帰すこと

- 目の前の相手より飲み物を早く飲み切らないこと

- 人の名前を間違いのないように覚えること

- 大抵の人が悲しいと思うであろう出来事に遭遇したときは悲しそうな顔をすること

- 知っていることを教えられても知らなかったように振る舞うこと

- 何かを教えるときは自身の知識としてではなく、伝聞として教えること(なるべく)

- 勧められたものは例え気に入らなくとも気に入ったと伝えること

- 相手が真実を知りようもない場合は嘘をついて円滑に場を進めてもいい

- 気づかれないように誰もが寝た夜に行動すること

- もし気づかれてもいいように事前に準備しておくこと

- 協力者を増やす時はなるべくその相手の意思を尊重すること

- 人に優しくすること


……


- 深く呼吸すれば大抵の不調は一時的に治まる

- ネクタイを緩めてはいけない

- 後輩が金銭に困っている様子であれば相手に気負わせることないように言葉を選び援助すること



_________________________________________



 古い手帳に今日は三行ほど書き足し、閉じる。幼い頃からの手帳、都度書き足しているためか表紙に書かれた題名と名前は掠れて読めなくなっている。だが書き直す必要性はないためそのまま本棚の隅にねじ込んだ。


 夜もかなり遅い。人々は既に眠りに落ち、夢でも見ているのだろう。

 他の寮生に気づかれないようそっと扉を開け外に出る。新月で何も見えない廊下を記憶だけで歩く。何度も往復した道だ、曲がるべき曲がり角までの残り歩数ぐらい把握している。


 左に曲がる。靴音がやけに大きく響いているように聞こえるが、これぐらいでは誰も起きない。

 ただ歩く、目的の場所まで。


_________________________________________



 教室の窓から外を眺めると、青々と茂り出した木々の葉が涼しそうな風に揺られていた。教壇に立つ教師はそんなことは気にも留めず小難しい方程式について黒板に図をかきながら説明している。


 グレゴールはネクタイを大きく緩め、首元を仰ぎ、窓を開けようか悩んだのちにやめた。

 空を見上げるとこれもまた青かった。しかしそんな日々ももうすぐ終わるだろう。もう数週間もすれば毎日じめじめとした時期になるのか。嫌だなあ。


 既に灰色の厚い雲が空を覆い始めていることに気がつかないまま、グレゴールはよく分かりもしない説明を手元に書き写していた。

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