第一章 目覚めた悪役令嬢
目が覚めたとき、私は白い天蓋の下にいた。
まるで童話の世界だ──そう思った次の瞬間、私の頭に記憶が流れ込む。
『王太子の花嫁』──前世で私がハマっていた乙女ゲームだ。
主人公の平民のセリーナが、冷酷な王太子のアルバンに惹かれ、貴族社会の偏見を乗り越えて愛を勝ち取る、という王道ストーリー。
そして、その物語の最大の障害──傲慢で意地悪な貴族令嬢、ソフィア・ネファリス・フレイヴェエン。
「まさか……まさか、まさか……」
そう、その悪役令嬢が、今の私だ。
鏡に映るのは、銀髪に紫の瞳を持つ、まさにゲームに登場した通りの悪役令嬢。
身につけているドレスも、ゲームに出てくる立ち絵そのもの。
「つまり……私は、ソフィア・ネファリス・フレイヴェエンとして、この世界に生まれ変わった……?」
そして、このゲームの悪役令嬢の運命は──主人公のセリーナ・レンティをいじめ、王太子に求婚を申し込むが断られ、失意のあまり悪事を重ね、国を裏切り、最終的に追放される。
破滅ルート確定。
「……無理、無理無理無理! 残業すらしたくないのに、なんで死ぬ選択肢を取らなきゃいけないの!」
私は布団の中で丸くなり、しばらく悶絶した。
だが、すぐに立ち直る。
「待って。私はこのゲームの全展開を知っている。ということは……破滅ルートを回避できるのでは?」
主人公をいじめなければいい。
王太子に近づかなければいい。
そして、できれば早々に国外に逃げよう。
そう決めた瞬間、私の憂鬱な毎日が始まった。