第二章 主人公は意外に地味だった
王宮の舞踏会が開かれる日。
ゲームでは、ここでソフィアはセリーナのドレスを破り、王太子の前で彼女を辱める──という、破滅への第一歩を踏み出すイベント。
だが、私はその場に現れず、風邪を理由に欠席した。
「ソフィア様、本当に大丈夫ですか? お顔色が……」
「ううん、大丈夫。ただ、ちょっと……憂鬱で」
侍女に心配されながらも、私は部屋でじっとしていた。
次の日、噂は舞踏会で起きた出来事が侍女の口伝いに流れ込んでくる。
「セリーナ様がドレスを破かれて泣いていたそうですが、王太子様が自らのマントをかけて救ったとか」
「でも、誰がドレスを破ったのかは不明らしいですね」
「まさかソフィア様では……?」
「とんでもない! ソフィア様はその時会場にはおりませんでした」
侍女が必死に擁護してくれるのはありがたいが、私は内心で冷や汗をかいていた。
「……危なかった。もし行ってたら、多分、いや絶対、イベントが起こってたわ……」
そして、数日後。
私はついに、主人公であるセリーナと対面することになる。
王立図書館で、彼女は一人、分厚い歴史書を前にして眉をひそめていた。
「……『戦乱の時代における税制改革』? そんな本、誰が読むの……」
私は思わず声をかけてしまった。
セリーナはびくっとして振り返る。
「あ、あの……平民の身分で宮廷にいる以上、知識で差をつけないと……」
その顔は、ゲームのCGほど華やかではなく、むしろ地味で、眼鏡をかけていて、髪も乱れていた。
え?
この子、めっちゃ真面目なだけじゃん。
ヒロインのはずが、ただの努力家で、内気な女の子。
もしかして……ソフィアがヒロインをいじめてたのは、王太子に気に入られたい一心じゃなくて、単に嫉妬……?
いや、待って。
今はそんなことを考えてる場合じゃない。
「あの……すみません、つい声をかけてしまって」
「い、いえ……ソフィア様が話しかけてくださるなんて、光栄です……」
「……光栄って……」
なんでこんなに卑屈なの?
私はふと、この世界の構造に気づいた。
貴族と平民の差。
差別と偏見。
王太子に好かれることが、平民女性の唯一の出世ルートであること。
セリーナは、ただ生き抜きたかっただけだ。
そして、ソフィアは──そのシステムの中で、悪役を演じさせられていた。
……憂鬱だな。




