終話(第一部完結)
はじめまして。カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。
いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
とりあえず最初の目標通り10万字は達成しました。
ここまでお付き合い下さった方には、感謝しかありません。まだまだ完結には程遠く‥‥‥続きを書きたい気持ちと、あまりに読まれなかったことへの反省の気持ちがごちゃ混ぜでして‥‥‥。
そんな気持ちをリセットするため、いったん別の作品を書いてみようかと思ってます。
投稿した際にまたお会いしましょう。
週末にあったことを振り返るだけで頭が痛くなる。
俺が激ヤセした土曜日は、両親が帰宅してからが大変だった。
豹変した俺の容姿を目にした両親が大パニックに陥り、泡を吹いて倒れたのだ。目を覚ました後は、違法な薬物に手を出したと言って母親が110番通報しようとしたり、不治の病を疑った父親が119番通報しようとしたりで、それはもう台風というよりハリケーンが直撃したような大騒ぎだった。
寝て起きたら激ヤセしていた。
もう少し正確に言えば、痩せてから全身に筋肉がついている状態で、いわゆる細マッチョと称される体型になっていた。
当然、俺がこうなった理由には心当たりがあった。
それは異世界の俺が、フェンリルの血を浴びてワーウルフになったことが関係しているのだろう‥‥‥。
まさか異世界の出来事が、元の世界の俺にまで影響を与えるとは考えてもみなかった。
芹那が、ただ寝て起きただけの俺の行動を証言してくれて、両親は渋々納得? してくれたのだったが、日曜日のほうがもっと酷かった。
何を思ったのか両親が、「駿が社会復帰を果たした」と親戚じゅうにふれ回った結果、祖父母以下の親戚一同が山田家を訪れて、その後は‥‥‥嗚呼、思い出しただけで頭痛がぁあああ!
著しくコミュニケーション能力が低下している俺には、ただただ拷問のような時間だった。
それに久しぶりに会った祖母は、俺を前にしてなぜか合掌してたような‥‥‥もしかしたら俺ってもう死んでんのかな。
―――そして迎えた月曜夜。
俺は出勤中なのだが‥‥‥激ヤセした俺の姿を見た春宮が一体どんな反応をするのだろうかと考えて足が重かった。
大笑いされるのはまだいいとして、気味悪がられたりして嫌われないかと不安になる。
いや、待て。春宮に嫌われるっておかしいだろう。豚呼ばわりされて蔑まれているんだから、今更だ。今夜は思考が迷走していた。
今の俺は奴隷商人に捕まって監獄に入れられ強制労働を強いられているんだ。その奴隷商人に好かれようが嫌われようが関係ないだろう。
それでも遅刻しないようにコンビニの駐車場へ到着したまではよかった。そこから色々なことを考えてしまい体が動かない。
そういえば芹那はどこへ行ったのだろうか? 今日も朝から出掛けていたが‥‥‥。
驚くような俺の変化に戸惑いながらも、早い段階で現実を受け入れてくれたことはありがたかった。その後は俺のほうから顔を合わせるのを極力避けていて‥‥‥今までのことを聞かれるのでは、と身構えていたのだ。が、芹那は芹那で、日中は色々と忙しそうにしていて、どこかへ出掛けている様子だった。
正直、ホッとしていた。今更俺が話せるようなことは何もない。
自動ドアが開いて、見慣れた顔が覗いた。
俺たちの前のシフトの面々が、バイトを終えて出てきたのだ。
と、いうことは引継ぎを終えた春宮が、すでにバイトを始めているということだ。
スマホで時間を確認すると、遅刻はしてない。それでもバイトの時間ギリギリだった。―――そうだな、あれこれ考えていても仕方がない。俺は両手で自分の両の頬を強めに叩いて気合を入れた。
「しゃあーせぇー」
思い切って店内に入ると、やる気のない挨拶に迎えられた。
客はいつものように数えるほどしかいない。店員の態度は悪いし、よく潰れないと思う。
春宮はというと、既にレジに立っていた。
俺はやる気のない挨拶に迎えられ‥‥‥!? って、春宮は俺の正体に気づいてなかったのか。
それに俺の顔を一瞥して、おっ! みたいな顔をした。どういう心境だったのかは後で聞くとして、俺はそのままバックヤードへ―――。
「そこは関係者以外立ち入り禁止」
俺の正体に気づかない春宮が、すっと表情を消し声を掛けてきた。
やばい―――戦闘モードに移行した!? 俺を敵と認識してんのか!?
「俺、関係者。山田、山田です。ちょっと痩せちゃって‥‥‥山田だから」
「はぁあ!?」
「だから、山田‥‥‥山ぴーだけど」
「はぁあああーーーん!? テメェ~イミフなこと言ってんじぇねぇーぞ。警察呼ぼうかぁあああ!?」
いや、マジで怖いんですけど春宮さん。
ちょっとは弁解の余地があってもいいと思うんだけど‥‥‥。
「俺、山ぴーだって。ちょっと痩せすぎちゃって‥‥‥はは、ははは」
「ははは、じゃねぇーから! こわ!? イケメンだからって何でも許されるとか思ってんじゃねぇーかんな! いますぐ消えなきゃホント警察呼ぶぞ! ったくこんな時に山ぴーいねぇーとか‥‥‥あいつ後から拷問だかんな」
「ちょ、ちょっと待って。いま恐ろしい単語が聞こえたんですが‥‥‥ホントに俺は山ぴーだって。ほらよく見て、山ぴー、俺だよ俺!」
身振り手振りで必至に食い下がる俺。そんな様子に春宮は怪訝な表情を崩さないまま、それでも俺の顔をしっかり確認してくれた。
「‥‥‥マ、ジ、か!? ホントに山ぴー? えぇえええーーー!!! いやマジで山ぴーかよ‥‥‥‥‥‥おまえ痩せすぎだろ、死ぬんじゃねーのか!?」
俺だとわかった春宮は、客の目を気にする余裕もなく絶叫した。
その後、バックヤードで着替えたぶかぶかの制服でレジに立っていると、チラチラと春宮の視線を感じた。それもそうだろう‥‥‥人相が変わりすぎてるよな、俺‥‥‥。
それでも春宮の視線がなんだか気になった。
隣のレジに立っている春宮に顔を向けると、慌てて俺から目を逸らす。何かが怪しい。
「激ヤセだからね。やっぱり気になる、かな」
「はぁあ!? な、何が‥‥‥!? えぇーっと‥‥‥じ、自意識過剰なんじゃねぇーのか!? 自分でカッコいいって思ってんじゃねぇーぞ!」
「お、俺はそんなこと―――」
プイと前を向いた春宮の顔が、なんだか赤いような気がした。ぶつぶつと、「どストライクじゃねぇーか」などと独り言を呟いている。―――野球が趣味なのかな、春宮さん。だったら父ちゃんと話が合う。
と、そこへ自動ドアが開いて新たな客の姿―――もとい俺の幼馴染が入ってきた。
「芹那‥‥‥?!」
「あっ、また来たのかよぉ」
純粋に客として入ってきたのなら、それは大変失礼な話である。
ジーンズにパーカーというラフな格好で、つかつかとまっすぐ俺のレジまでやってきた。
「今夜からよろしくお願いします」
「えっ!?」
「駿と一緒にバイト。会社辞めたから働かなくっちゃ」
「あぁあああ!? おばーちゃんが―――違った。オーナーが言ってた新人って、おばさんのことかよぉ!?」
週末、芹那が忙しそうに見えた訳がわかった気がした。履歴書を買いにいったり、オーナーの面接を受けていたのだ。
「おばさんじゃありません。お姉さんです」
「芹那、別にここじゃなくても‥‥‥」
「散々逃げ回ってたあなたに、それを言う資格があるのかしら?」
芹那に睨まれると、俺の背筋が自然と伸びた。
「ありません」
「そっ。じゃあ先輩方、改めてよろしくお願いします」
そう言って頭を下げた芹那がバックヤードに消えた。
「駿、どうすんだよぉ?」
「どうするって言われても‥‥‥うん!? 春宮さん俺の呼び方が―――」
「―――うっさいなあ! あんたなんか駿で十分だろぉおー!」
「いや、そのままだし」
「あぁあああーーー! おばーちゃんに言って、あのおばさんは絶てぇー昼間のシフトにしてやっからぁあああ!」
引きニートだった俺は、気がつけば2つの世界で生きていた。
異世界ではワーウルフに変身し、元の世界は御覧の通りの状況だ。
この先、色々と波乱含みではあるけれど、少なからず仲間もできた。もともと欲深い俺は、この2つの世界を懸命に生き抜こうと思う。(第一部完結)
読んで頂きありがとうございました。
第一部完結です。
もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。




