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「…餞別?」


ダヒルは首に掛けた帯状の布を自慢げに摘まんで見せた。


挿絵(By みてみん)


「ネオの刺繍って御利益がありそうな気がするのよ。身に着けたら、宝探しが上手くいくかなーって。

ほら、昔ネオが村を出る時貰った腰帯。これのお陰で俺、あれからずっとトカゲ釣り名人だったんだぜ」


トカゲ釣りとは、川に住む水トカゲを縄で釣り、大きさを競う、村の男の子がよくやる遊びである。警戒心が強いため、大きな水トカゲを捕まえた子は「トカゲ釣り名人」と皆からちょっとした英雄扱いを受けるのだ。子供達は各々、独自の仕掛けを考案し、釣り場選びや縄の投げ方にも工夫を凝らす。

腰帯は八歳の時、ネオが王都へ奉公に行く際「餞別が欲しい」と言ったダヒルにあげたものだ。腰に巻く帯にノズオウという水草で染めた糸で、翡翠(ひすい)色の水トカゲの刺繍が入れてある。

「御利益がありそうな気がする」その言葉に心当たりがあったネオはドキリとしたが、顔には出さなかった。


「それ腰帯でしょ。何で首に巻いてるの」

「これが村で最先端の着こなしなの。俺しかやってないけど」


子供用の腰帯は大きくなった身体には寸足らずだ。感覚がずれているのでは無く、十年も昔の贈り物を身に着けるための策なのだろう。そう思いたい。


「トカゲ釣り名人はダヒルの努力の結果だと思うけど。…僕の刺繍は高いよ。王家御用達の店から独立したんだからね」

「すいません。出世払いでお願いします。そして親友価格でお願いします」


ダヒルの調子の良さは健在であった。ネオは一つ溜息を()くと、真剣な目でダヒルを見た。


「ダヒル、覚悟はある?」

「覚悟?」

「オーキー国は歪んでる。子供の頃は神父様が言うように、神様と色んな国を統一した王様のお陰で平和で安全なんだと思ってた。でも、それぞれが(つむ)いできた文化を潰して、平らに(なら)した上に築かれた平穏なんて、ある訳ないんだよ」

「ネオ?」


ダヒルはギョッとした。

ネオが突然国を批判することを言い出したのだ。警邏隊の耳に入れば、冗談では済まされない。


「今の言葉を聞いて、僕を危険思想のイカれた奴だと思うなら、黄金都市の事なんか忘れて、帰るべきだ。僕にも二度と関わらない方がいい」

「ネオ、お前… どうしたんだよ」

「色々あったんだよ。十年もあれば」


ネオの常磐(ときわ)色の瞳はほの暗かった。少年の頃の動植物を見つめる好奇心に(あふ)れた透明な輝きは無かった。ダヒルはネオの感情を「色々あった」の中に感じ取った。やるせないような、哀愁に似た感覚だ。

きっと()し難い秘密を抱えている。


「俺だって色々あったっての。親友じゃん。その色々を分かち合いましょうよ」

「………」


ダヒルはわざと軽い言葉で返した。だがネオの表情は暗いままだ。


「…今、無理矢理一つにしたせいで生れた歪みが少しずつ現われてきてる。黄金の鳥も、その歪みのような気がするんだ。騒動が…うまく言えないけど、なんだか変な熱気なんだ」


ダヒルは首を(ひね)る。ネオの言いたいことがよく分からなかった。


「え?どういうこと?歪みって何だよ。『パライアの火』は教会で聞く話だぞ?国のえらーい神父サマが話してんだぜ。探られちゃマズい!なんてあるもんか」


ネオはどうかなと、首を振った。


「国のえらーい神父サマたちはさ、探られると思っていなんだよ。だって、みんな『パライアの火』はお伽話だと思っているんだから。欲望と恐ろしい力で滅んだ黄金都市なんて作られた話の中だって、子供だって思っているんだから。

探ろうと思っている人なんて居ないんだから。

もし、本当に黄金都市が地面の下に眠っているのなら、他の国の歴史をダヒルは起こそうとしてるんだよ」


ダヒルはあっと声を漏らした。夢に浮かれて考えていなかった。犯罪者として名を残すかもしれない。そのことに気付いたのだ。

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