最終話
魔王も聖女も流されているだけということが分かり、怒りがメラメラと私の中で渦巻く。私は主体性の無い人は大嫌いなのだ。しかも、この2人は壮大に周囲を巻き込んで…
私も流されていないとは言えないけれど、父や母は流されるような人生は歩んではいない。いつも喧嘩ばかりだけど、ちゃんと自分の意思で愛する人と結ばれている。幾多の困難を乗り越えて、貴族と平民が結ばれているのだ。
私が怒っている間にイメージが終わり、また光球がたくさん浮かんでいる場所に戻って来た。多分、ここから元の世界に戻れると思うのだけど……
周囲を見渡すと、壁に大きな宝石が埋め込んである。ここから出られるのかな?
と思い、触ってみると眩ゆい光に包まれた……
気がつくと、私が魔王の傷を治したところだったようだ。周囲に人が集まり、心配そうに私を注視していた。
「レイチェル、大丈夫か?」
すっかり傷が治った魔王は私の顔を覗き込む。
「大丈夫です!」
大きな声で応え、そして気をとりなおして周囲に宣言する。
「天の声が聞こえました。この聖剣を壊します!」
なにしろ、今のドラフォレスでは私も聖女という扱いになっているのだ。この宣言に反論できるのは、ドラフォレス王か、もしくは私がただの依り代だと知っている、魔王と聖女のみ……
魔王はなんだか考え込んでいるようだったが、聖女は私のそばに来て皆に聞こえないような小さな声で反論を始めた。
「そんなことをしたら何が起きるか……」
「少なくとも、聖剣が無くなれば、あなたたちも自由になれるのでしょう!?」
「それでも、その聖剣が無くなれば、ドラフォレスを守れなく……」
「そんな力なんて要りません。私たちは私たちでなんとかしますから!」
聖女が更に何か言いたげではあったが、それを一蹴して黙らした。
聖剣なぞ無くともドラフォレスを襲う国難に耐え得るだけの知恵を人間が持てば良い。その叡智が人間にはある。今回の噴火の避難成功が何よりの証拠だ。
さて、聖剣を壊すとは言ったものの、どうすれば良いのか……
とりあえず石にでもぶつけてみようか……
ぶつけて傷一つ付かないようだと、天の声の信憑性の方に傷が付きそうだなあ……
悩んでいる私の肩を誰かが叩いた。アルベルト様だった。
「聖剣を壊すんだね?」
「はい」
「なら、行こうか」
「え? 何処に?」
「決まっているだろう。聖剣の中にだよ」
アルベルト様は私の持っている聖剣に触れた。聖剣の淡い光がアルベルト様を包み込む。アルベルト様が触った辺りを見ると、宝石が埋め込まれていた。
ああ、そうすれば入れるのか……
ていうか、私もそうやって入っていたのかもしれない。入るときは無意識だったけど、出るときは壁の宝石を触ったからね。
それなら、と私もその宝石を触り聖剣の中に入る。先ほどの光球が浮かんでいる部屋に出た。アルベルト様は部屋で待っていてくれたようだ。
「君は、この光球を見たんだね?」
「はい……」
アルベルト様の問いに拙かったかなという想いが巻き上がる。
でも、見てしまったものはしょうがない。見るなとも言われていなかったしね。
「光球を見てはいけなかったのでしょうか?」
「いけなくはないと思う。ただ僕は見るなと言われていた。でも一度見てしまったんだ。僕が見たのは、魔王が呪いをかける場面だった……」
魔王が呪いをかける……
もしかして転生の呪法のことだろうか……
なるほど、聖女を助け出す部分を見落せば呪いをかけているようにしか見えないかもしれない。
私は、光球を見た内容をアルベルト様に伝えた。そして聖剣を壊さなくてはいけない理由も伝えた。アルベルト様はその一つ一つに頷いてくれた。
「レイチェル、君を信じるよ。さあ、壊そう」
でもどうやって?
疑問に思っていると、アルベルト様が光球が浮かんでいる台座に剣を刺した。
「さあ、これを押せば光球を支えることができなくなり聖剣は壊れる。押してくれ」
アルベルト様に壊れると断言されて逡巡してしまう。ドラフォレスをずっと守ってきた聖剣……
それはドラフォレスの歴史にも等しい……
だが、聖女が囚われていて良いのかと問われれば、それもやはり否だと思う。
でも……
でも……
私が迷っていると、アルベルト様が微笑んだ。
「なんなら、一緒に押そうか?」
全くの迷いも無い笑みを見て、私は不思議に思う。
何故だろう?
この人にとって聖剣は重い存在ではないのだろうか?
だが、この笑みが私の背中を押してくれたのは確かだった。しっかりとした足取りで、アルベルト様の刺した剣まで歩き、柄を掴み、力いっぱい台座に剣を刺した。
すると、浮かんでいた光球たちが光を失い、1つ1つと台座にぶつかり割れていく。
「さあ、出るよ」
最後まで見ていたい気もしたが、アルベルト様に促されて、壁の宝石に触れ、私たちは外に出た。
元の世界に戻ると、聖剣が塵のように消え去っていくところだった。跡形もなく……
それと同時に精神体だった聖女が実体を取り戻していく。潰れていた目も治ったようだった。
「汝はとんでもないことを……だが感謝する、レイチェルよ」
「本当に……でも、ありがとうね」
そういうと魔王と聖女の姿を黒い霧が包み込み、そして消えた。
******
「ふぁ〜」
大きな欠伸をした。
ドラフォレス国王の許可を得ずに聖剣を壊してしまったのは、やはり拙かったらしく家で大人しくしているよう言われているのだ。まあ、罰ではないので外出しても良いらしいが、外出中は兵士が何人か付いてくるので気軽に楽しめず、ずっと部屋でのんびりしている。
欠伸も出ようというものだ。
私と一緒に聖剣を壊したアルベルト様は、むしろ事件の首謀者だと思われたらしく、色々取り調べを受けているそうだ。
アン様は逃げ回っているところを兵士に捕まったそうだ。ただ、アルベルト様の進退次第では、アン女王誕生となる可能性もあるので、他国から兵を呼び込んだ罪は不問になりそうとのこと。
他国の兵たちは、風穴から逃げようとしたらしいが、仕掛けに引っかかって全員亡くなったらしい。アン様も流石に帰り道まで他国の兵に教えたりはしなかったらしい。
ジョン主任とスージーは、暇を持て余している私の家に、遊びに来てくれた。
いや、遊びに来たというか、報告に来たんだな……
なんでも夏至祭の日から付き合いだしたそうだ。
恥ずかしそうに顔を赤らめるジョン主任は初々しいというか……
一応、祝福はしておいた。なにしろ私は聖女様だからね。
******
「レイチェル、お客さんだよ」
ああ、色々、失敗したかなあ……と考えていると、父が私を呼びに来た。誰だろう?
また、ジョン主任たちかな?
なんだか、父がニヤニヤしているような……
ドアを開けた先には、なんと、アルベルト様がいた。取り調べは終わったのだろうか?
午後の柔らかな日差しを浴びながら、アルベルト様はのんびりと突拍子の無いことを言い出した。
「なあ、旅に出ないか?」
「旅って何処にですか? それより取り調べは終わったのですか?」
まったく何を言っているのだろう?
旅行どころか、自由に歩くことさえままならない状況なのに……
「取り調べは終わったよ。結局、僕1人が悪いということにしてもらった。君は無罪だ。そして僕への罰は国外追放だ」
まるでお伽話でも読んでいるかのように、のんびりと事の顛末を告げるアルベルト様……
「で、国外追放されるにあたって、従者を1人選べることになっているんだ」
「それに私を選んだ……という訳ですか?」
アルベルト様は嬉しそうに頷いて言う。
「そして結婚して欲しい」
いつも、思うのだけど、アルベルト様はもう少しロマンチックに求婚することができないのだろうか?
愛しているとか、一生幸せにするとか……
「君には全てを投げ出して逃げ出したくなるときない?」
いつもと変わらない笑顔のアルベルト様を見て、私は笑顔を返すしかなかった。
振り返ると、父と母が笑顔で手を振っていた。
ブックマークを付けてくださっている55名の方、まずは謝罪させてください。
女性向け小説の書き方のコラムを書いたところ、ちょっと本格的に書きたくなってしまい、書き始めたのが間違いでした。
女性向けの小説の難しさたるや、想像を絶しました。
何が難しいかというと、プロットを作っているときは、きっとここで泣けるはずとか、
ここでドキドキするはず、とか適当に考えていて、実際に書いて見ると、
あれ?
あれ?
ということが頻繁にありました。
作者の私でも、あれ?
という状況なので、皆様は本当に、???という状況だったと思いますが、
最後までブックマークを付けっぱなしにしていただけて、感謝しかありません。
ラストは、もう私の趣味です。
こういう終わり方が好きなのです。はい。
今後は、短編を思いつきで書いていこうと思っていますので、気が向いたら読みに来ていただけると幸いであります。
分量はたいしたことありませんが、長いこと、お付き合いいただき有難うございました。
今後ともよろしくお願いいたします。




