第14話
ちょっと遅刻して厨房に入った私は、いつも通りに、新人に割り当てられた雑用をこなしていった。野菜の皮剥きも慣れたものだ。これならジョン主任にも馬鹿にされないぞ。
仕事の合間にみんなが私の周りに集まって、昨日の特訓の話になった。
「昨日は随分頑張っていたみたいだな」
「はい、裏ごしがなかなか上手くいかなくて……昨日は遅くまで頑張ったんですけれど……」と言うと、
「レイチェルがなかなか止めないものだから、アタシなんか、途中で寝ちゃったよ。」とスージーが文句を言う。
「裏ごしか……裏ごしのコツは、網の目に対して対角線の方向にヘラを動かすことだな」
「それから少量ずつやるのもコツだな。一度にまとめて裏ごしをしようとすると、粘りが出てしまって、かえって時間がかかるし、味も落ちるんだ」
「へ〜、ジョン主任はそんなこと、教えてくれませんでしたよ」
感心して言うと、
「あいつは天才肌だからなあ。教えたり教わったりが苦手なんだよ」
と、得意げに教えてくれた。
まあ見るからに、ジョン主任は、教えるのが得意そうじゃないよね。
スージーも茶化して言う。
「確かに! おっちゃんは天才じゃないから分かりやすいわ」
「スージー!」
ワッハッハとみんなで盛り上がる。
基本的に料理をしているときは無言か指示を出しているだけだから、こうやって騒ぐことがあると、なんだか救われる。やっぱりみんな仲良くが一番だよねえ。
それから暫く、お互いに料理のコツを教え合った。意外だったのは、みんなそれぞれに工夫を凝らしていること、そしてお互いにそれを知らないことだった。
そうやって職場のみんなで騒いでいると、ジョン主任がじーっとこっちを見ていた。なんだか文句の1つも言ってやろうかどうしようかと悩んでいるように見える。
ヤバい。また叱られるかな、と身を強張らせていたが、結局、何も言われなかった。
こういうとき、黙っていられると、かえって不気味なんだよねえ。
楽しい仕事も終わり、宮廷魔術師のクリスさんを迎えに行く。なにしろ、父の将来がこれで左右されるかもしれないのだ。ちょっとドキドキする。父は今の仕事でもいいみたいだけど、やはり娘の私としては、もっと活躍してもらいたいというのが本音だ。
更に言えば、父の給料が上がって、父と母との仲がもう少し良くなってもらえると、娘としては、とても有り難い。
しばらく探すと、クリスさんが遠くにいた。長いストレートの銀髪がとても綺麗だ。手を振ると、ニコっと、いつものように笑顔を見せてくれる。
それなのに私は、遠くに見えるクリスさんの赤い目に、妙な違和感を感じていた。




