第13話
流石にこれ以上、裏ごしの練習をする気にもなれず、料理人の宿舎に帰ることにした。帰り道、スージーが言う。
「レイチェルは本当に努力するよなあ」
「努力というか、昔から、1つのことに集中するのが癖なんだ」
「見た目は、ほわほわのお嬢さんだから、ビックリしたよ」
ほわほわのお嬢さん?
何だ、それは?
「それじゃ、おやすみ」
「ああ、明日もあるしな」
スージーと別れて、寝る準備をする。もう遅いので少しだけ寝て、早朝、家に寄って、クリスさんの話をすればいいだろう。
魔王が現れた。もう私の夢には魔王が出てくるのが当然のようになってしまったな。
魔王は私の頭をトントンと軽く叩きながら言う。
「手間がかかることだ」
「何のこと?」
「汝のことだ」
答えになっているのか、なっていないのか……
所詮、夢だしねえ……
と、思って、これ以上聞かないことにした。
魔王に抱きしめられていると、なんだか落ち着くんだよねえ……
起きたら、もう日が出ていた。しまった!
スージーに頼む。
「ごめんなさい。今日はいったん我が家に寄らないといけないの。上手く誤魔化しておいて」
「ああ、いいよ。髪の件があるからジョンも文句は言えないと思うぜ」
と、フッフッとスージーは笑った。
それから急いで我が家に向かい、朝食中の父に言う。
「今日の夕方に、クリスさんがお父さんに会いたいと言うのだけど、いいよね?」
「クリスさんというのは誰だ?」
「この間の宮廷魔術師の人だよ」
「ああ、大丈夫だ。父さんが夕方にお城に行けばいいんだな?」
父は鷹揚に答えてくれたけれど、母が断固として言う。
「折角だから、うちに夕食を食べに来てもらいなさい。ジル、準備できるわよね?」
「おい、また面倒なことにならないか?」
「何を言っているの? これが縁で、真っ当な職に就けるかもしれないでしょ」
「真っ当って……俺がいつから真っ当じゃない職に就いていることになったんだ?」
また、喧嘩が始まった。こういうときは必ず母が勝つと決まっているので、クリスさんを我が家に招くのは決まったと思って良いだろう。ということで、結論は聞かずにそっと家を出た。
今度はお城でクリスさんを見つけ出し、我が家に招きたいと伝える。クリスさんは喜んで承諾してくれた。
「ところで、レイチェルの家はどの辺なのでしょうか?」
「ええと、私の仕事が終わったら案内します」
「そうですか。楽しみに待っていますね」
クリスさんは、これ以上無い笑顔になった。全く、クリスさんには癒されるなあ。
クリスさんの件が落ち着いたので、厨房に向かう。少し遅刻してしまったが、怒られたら体調がまだ完全ではないということで誤魔化そうと決めた。そーっと厨房に入ると、ジョン主任に見つかった。
「大丈夫か……」
ジョン主任が聞いてきた。あれ?
まあ、昨夜の上着のお礼を言うチャンスではあるなあ。
「昨夜は上着をかけていただいてありがとうございました」
「あまり、無理をするなよ。」
よく見るとジョン主任の顔が赤い。ジョン主任も体調が悪いのかなあ、と思った。




