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第12話 裏ごし

クリスさんと話が終わって、厨房に向かう。


新入りのくせに長いこと休んでしまったので非常に敷居が高い。どんな顔をして入ろうかなあと、入口のところで悩んでいると、スージーが現れた。


「こんなところで何をしているんだ?」

「ああ、ちょっと入りづらくて……」

「何言ってんだい。早く入ったらいいだろ」


中に入ると、みんなが笑顔で迎えてくれた。

「大丈夫かい?」

「無理したらダメだよ」

「今日くらい休んでも大丈夫だよ」


優しい言葉にウルウルしそうになった。私は職場に恵まれたなあ。


「スージー、ちょっと来い」

「へーい」

そこに、ジョン主任がスージーを呼びつける。


ああ、ジョン主任がスージーを呼びつけるときは、大体が間接的に私に何かを言うときなんだよねえ。私は職場に恵まれてないなあ。


さてはて何を言われるのかなあと、身を強張らせて待っていると、スージーが微妙な笑顔で戻って来た。


「で、今度は何?」

「なんでもね、今度の夜会の冷製スープを私たちで作ることになったって」


今度の夜会?

「今度の夜会ということは……」

「夏至祭だね」

「うわ〜」


夏至祭というのは、夏の短いドラフォレス王国において、最も盛り上がる夏のお祭りで、お城も国民の皆に解放されて、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎになるのだ。


例年、私の家も見栄を張って料理を振舞っていたが、やはり訪れる人数では、お城に遠く及ばない。何しろ、普段は遠くから眺めるだけのお城の中に入れるというだけでもプレミアム感漂うというものだ。


それだけの人数を満足させるだけの分量となると気が遠くなる。

しかも、冷製スープか……


「レシピ通りに作るから、分量や味付けで失敗することはないけどねえ……」

「裏ごしがなあ……」


まあ、時間はあるので、練習あるのみかな……


スージーと私はディナーの準備が終わった後、2人で残って裏ごしの練習をすることにした。ジャガイモを細かく刻んで茹でて裏ごしをする。冷める前に裏ごしをしてしまえば直ぐに終わるということなんだけど、どうにも上手くいかない。


「なかなか、上手くいかないねえ〜」

「そもそも冷製スープなんて、夏の間くらいしか作らないからな〜」


ぶつくさ言いながら練習に励む私たちの所にジョン主任が現れた。


「全く。貸してみろ」


ジョン主任がやると、あっという間にジャガイモの裏ごしが終わった。


「力があるんですね〜」と感心すると、

「そうじゃない。網の目全体を使うようにすれば、直ぐ終わるんだ」と叱られた。


ムッとしたが、確かにジョン主任のやり方を見ていると、網の目全体を上手く使っているし、それにヘラも上手いこと使っているように見えた。


なるほどと思って練習を続ける。


「なあ、眠いんだけど……もう帰っていいかなあ?」とスージーが泣き言を言いだした。

「もう少し、もう少しで上手くいきそうなんだ」と答える。

「じゃあ、申し訳ないけど、ちょっとだけ休ませてくれ。」とスージーは調理台に突っ伏して寝てしまった。


私も相当に眠いが、ジョン主任の見せてくれたイメージを忘れないうちに、コツを掴みたいんだよね……

それにしても眠い……



気がつくと、スージーが私の顔を見てニヤニヤしていた。

あれ、私も寝ちゃったのかな?

今は何時だ?


そして私の背中に男物の上着がかかっているのに気が付いた。


あれ?

これは?


スージーがニヤニヤしながら言う。

「ジョンには、一応お礼を言っておいた方が良いねえ。それから、ジョンに意地悪をされたときには、なんで髪を撫でてたんですか?と聞けば良いよ」


なんで髪を撫でてたんですか?

どう言う意味だろう?


「いやあ、悪夢を見たせいで起きちゃったんだが、おかげで良いものが見れたよ」

と言って、スージーは楽しそうに笑った。

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