表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

情報屋『十六夜の鴉』

 カランカラン


「いらっしゃいませ『十六夜の鳥』へ。

 ーー何名様でいらっしゃいますか?」




 此処は、大通りから外れた場所にある、喫茶店『十六夜の鳥』。

 落ち着いた雰囲気のこの場所は密かに、知る人ぞ知る名店と言われている。


 店のドアにある鈴が来客を知らせると、従業員用の通路からウエイトレスの女性が現れて接客を行う。

 彼女の名は、凉架(すずか)

ここ『十六夜の鳥』で働く、二十代に見える女性だ。

(実年齢は不明)



「…一人で。」


 訪れたのは、きっちりとスーツを纏った男。

恐らく三十代後半だろう男は、店内を軽く見回した。


「かしこまりました。お席の方は、どうされますか?」

「……南向きの、静かな席はあるかい?」

「ーー了解しました。こちらへどうぞ、お客様。

 一名様、『指定席』にご案内です」




 男を席に案内した凉架は、一礼してフロアに戻っていった。


「ーーご注文は、如何なさいますか?」

「!」


 凉架が去って、他の客とも離れた席に一息ついていた男は、突然かけられた声に肩を揺らした。

 男が声の聞こえた方向を向くと、そこに居たのは、「店長」と書かれたネームプレートを付けた、凉架よりも若く見える女性。

ネームプレートに書かれた名前は、朔良(さくら)


「……あぁ、これと、これを頼む」

「かしこまりました。『十六夜特製ビーフシチュー』と『コーヒーセット』ですね?」

「あぁ。……そうだ、ガーリックは抜いてくれ」

「ーーかしこまりました。少々お待ち下さい」


 朔良が下がると、男は一息ついた。


「……ここが、噂の情報屋か」


 小さく呟いた男の名は、貴島(きしま) (とおる)

現役の政治家であり、やり手の外交官だ。

 職務中に周りで噂になっていた、凄腕の情報屋がいるという喫茶店。

 やっと見つけ出したこの店は、確かに情報屋だった。


ーーこの国で、情報屋の居場所を知る方法は限られている。


 ……現在、多くの情報屋は、情報屋専用のネットワークに加入している。

その方が情報をやり取りしやすいなど、メリットが多いからだ。

そして、それはこの店も例外ではない。

 情報屋ギルド(名目上、こう呼ばれている)のメンバーは、情報屋ギルドのメンバーであると示す為、入り口に黒い(カラス)をモチーフとした何かを置く決まりがある。

 この店の入り口にも、翼を広げた黒い鴉の看板があった。



「……合言葉は、合っていたようだな」


 ほっと胸を撫で下ろした貴島は、合言葉を教えてくれた、自らの友人の姿を思い浮かべた。


ーー『獅子馬(ししま) 巳鳥(みどり)


 やたらと動物の名前が詰め込まれた、強いんだか弱いんだかよくわからない名前の男だ。

……勿論、性格の方も、だが。

飄々としてつかみどころがなく、常人の一歩先どころか、二歩三歩先を普通に見ている奴だ。

 やたらと情報通で、何かあると思えば案の定。

ひっそりとここーー情報屋『十六夜の(カラス)』の事を教えてくれたのだ。


「ーーお待たせ致しました。『十六夜特製ビーフシチュー』ガーリック抜きと、『コーヒーセット』になります」

「あぁ、ありがとう」

「いえ…。ごゆっくりどうぞ」


 朔良によって運ばれてきたものは、ほかほかと湯気を発していた。

思わずお腹が鳴りそうになる程食欲を刺激する匂いを発する、一口サイズにカットされた牛肉がたっぷり入ったビーフシチューと、いい香りのするコーヒーと柔らかいパンのセット。


「……いただきます」


 手を合わせた貴島は、スプーンを手に取りビーフシチューを一口。


「…………旨い」


 若干ヘブン状態に陥った貴島。

はっ、と正気に戻った後、猛烈な勢いで(しかし上品に)食べ始めた。

 それから貴島は、食べ終えるまで一言も発しなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ