表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強化倍率∞ ~最弱の落ちこぼれ隊員は《兵装超強化》だけで怪獣大戦争を制した~  作者: 伝説の男前


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/2

第2章

#### 第1話 技術開発班


技術開発班の宿舎は、これまでいた物資庫とはまるで違う世界だった。


壁一面に貼られた設計図、油とはんだの匂い、絶え間なく響く工具の音。棚には見たこともない計器や部品が所狭しと並び、隅の作業台では数人の技術者たちが夜通し何かを組み立てている。


「今日から加わる常盤ユウトだ。よろしく頼む」


轟の紹介に、作業員たちは一斉にユウトへ視線を向けた。歓迎ムードとは程遠い、値踏みするような目つきばかりだった。


その中でも、ひときわ露骨に舌打ちをした男がいた。


「爆風に耐えた盾一枚で、技術開発班入りか。ずいぶん出世が早いな」


がっしりとした体格の若い隊員だった。腕を組み、明らかに不満そうな顔をしている。


「剣持ガイだ。俺は前線の実技試験で選ばれてここに来た。お前とは違う」


自己紹介というより、牽制のような口調だった。ユウトは何と返せばいいか分からず、ただ小さく頭を下げた。


「よろしくお願いします……」


ガイはそれ以上何も言わず、背を向けて作業に戻った。轟は横で小さく苦笑していた。


「気にするな。あいつは腕はいいが、認めた相手にしか心を開かん質でな」


ユウトは頷きながら、改めて壁に貼られた一枚の図面に目をやった。対怪獣戦車――「マーサー」と呼ばれる、その巨大な設計図に。


---


#### 第2話 図面だけでは足りない


翌日から、ユウトは「マーサー」の設計図を読み込む日々を始めた。


装甲構造、砲身の口径、駆動系の配置――図面上の情報は膨大だったが、数日経っても、あのナイフや盾のときのような「像を結ぶ感覚」はやってこなかった。


「……分からない」


ユウトは図面を前に、思わず呟いた。刃や木材のときは、実物に触れながら観察していた。だが図面だけでは、対象の質感も、重さも、経年による癖も伝わってこない。


「頭でっかちになってるな」


声をかけてきたのは轟だった。


「図面ってのは、あくまで設計者の意図の記録だ。本当の理解ってのは、実物に触れて、動かして、壊れる寸前まで使い倒して、初めて手に入るもんだ」


「実物、ですか……」


「幸い、廃棄予定の旧型マーサーが一台、格納庫の隅で埃をかぶっとる。あれを好きにいじっていい」


その言葉に、ユウトの目に初めて力が戻った。


「やらせてください」


轟は口の端をわずかに緩めた。


「好きにやれ。ただし、暴走だけはさせるなよ。理解が浅いまま強化を急ぐと、対象は制御を失う。盾一枚ならまだしも、戦車でそれをやったら、ここら一帯が消し飛ぶ」


その警告は、決して大げさなものではなかった。


---


#### 第3話 旧型マーサー


格納庫の隅に置かれていた旧型マーサーは、想像していたよりもずっと大きかった。


錆びついた装甲、埃をかぶった砲塔、あちこちに残る戦闘の傷跡。かつて前線で使われ、退役した機体だという。


ユウトは毎日、その車体に張り付くようにして過ごした。装甲板を叩いて響きを確かめ、駆動部を分解しては組み直し、砲身の内側まで手を伸ばして構造を確かめる。


三日目、格納庫に一人の女性隊員が現れた。整った顔立ちに、鋭い目つき。動きやすそうな飛行服を纏い、腰には拳銃を下げている。


「あんたが噂の新人?」


「あ、はい。常盤ユウトです」


「鳳ミサキ。試験飛行と機体テストを担当してる」


ミサキはユウトの傍らにあるマーサーを一瞥すると、鼻を鳴らした。


「その旧型、テストで何度も乗ったけど、正直もう寿命よ。装甲は薄いし、旋回性能も悪い。今さらいじって何になるの」


「理解すれば、変わると思うので……」


「へえ。じゃあ見せてもらおうかしら、その『理解』とやらを」


挑発めいた口調だったが、その目には、わずかな興味の色も浮かんでいた。


---


#### 第4話 過臨界


その日の夜、ユウトは一人、格納庫に残って作業を続けていた。


装甲の分子構造、駆動系の負荷分布、砲身内部の摩耗パターン――理解が深まるたびに、車体はうっすらと光を帯び始める。ナイフや盾のときと同じ、あの感覚だった。


「よし……いける」


手応えを感じたユウトは、勢いのままに装甲全体への強化を一気に進めようとした。だが、その瞬間だった。


車体の表面に走っていた光が、急に不規則に明滅し始めた。装甲の継ぎ目から、耳障りな高周波音が漏れ出す。


「な……」


理解が追いついていない部分――駆動系の奥に隠れた冷却機構の設計思想を、ユウトはまだ把握しきれていなかった。中途半端な強化が、そこに歪みを生んでいた。


「離れろ!」


轟の怒声が響いた。作業に気づいた老技術者が、駆けつけながら叫んでいた。


ユウトは咄嗟に飛び退いた。直後、車体の一部から白い蒸気が勢いよく噴き出し、金属の軋む音が格納庫に響き渡った。


数秒後、暴走は自然と収まった。だが、装甲の一部は歪み、二度と元には戻らない損傷を負っていた。


「言ったはずだぞ。理解が浅いまま急ぐな、と」


轟の声は静かだったが、その分だけ重かった。ユウトは、自分の手のひらを見つめたまま、何も言い返せなかった。


理解の深さが、そのまま力の大きさになる。だが同時に、理解の「浅さ」もまた、そのまま危険の大きさになるのだと――ユウトは、身をもって思い知らされた。


---


#### 第5話 装甲×百万


失敗の翌日から、ユウトは方針を改めた。


一気に全体を強化するのではなく、一つ一つの機構を、順番に、徹底的に理解していく。冷却系、駆動系、装甲の継ぎ目――時間はかかったが、その分だけ理解には抜けがなくなっていった。


轟も、時折様子を見に来ては助言をくれた。


「焦るな。お前さんの強みは、力任せじゃない。理解の深さそのものだ」


二週間後、ユウトは再び、旧型マーサー――いや、もはや旧型とは呼べない何かの前に立っていた。


装甲の分子構造は隅々まで把握し、駆動系の負荷分布も、砲身の癖も、すべて頭の中で像を結んでいる。


「……いきます」


静かに、そう口にした瞬間、車体全体が穏やかな光に包まれた。今度は、暴走の兆候は一切なかった。


光が収まると、そこにあったのは、外見こそ変わらないものの、まるで別物のような重厚さを纏った戦車だった。


試験場での実射テストで、その差は誰の目にも明らかになった。かつては貫通されていたはずの対戦車砲の直撃を受けても、装甲にはかすり傷一つつかない。主砲を試しに発射すると、標的にされた遠方の岩山が、轟音と共に消し飛んだ。


「装甲強度、計測不能……主砲の出力も規格外です……!」


計測班の悲鳴じみた報告が、試験場に響き渡った。


その様子を離れた場所から見ていたミサキは、腕を組んだまま、小さく口の端を上げていた。


「……なるほどね。あんたの『理解』、本物だったわけだ」


---


#### 第6話 疾風II型


マーサーの一件は、基地内でのユウトの立場を大きく変えた。


だが、その評価をまだ素直に受け止められずにいたユウトのもとに、轟が次の課題を持ち込んできた。


「次は、これだ」


差し出されたのは、迎撃戦闘機「疾風II型」の設計図だった。プロペラからジェットへの過渡期にある機体で、既存の性能ではもはや大型怪獣の飛行速度に追いつけていない、という。


「戦車は地上戦向けだ。だが空の脅威には、空の足がいる」


図面を受け取ったユウトは、ふと不安を口にした。


「あの……戦車のときは、実物に触れる時間がありました。でも戦闘機は、操縦できる人がいないと、実際の挙動が分からない気がします」


「いい着眼点だ」


轟はそう言うと、格納庫の入り口に視線を向けた。そこには、飛行服姿のミサキが腕を組んで立っていた。


「試験飛行担当は、鳳ミサキ。お前と組ませる」


「私が、コイツと?」


ミサキは片眉を上げたが、拒否はしなかった。


「まあ、いいわ。マーサーの一件は認めてる。ただし――」


彼女はユウトに向き直り、まっすぐに指を突きつけた。


「機体の癖は、全部私が教える。その代わり、絶対に中途半端な強化はしないで。空の上での暴走は、地上とは比べ物にならないくらい危険なんだから」


「……はい」


こうして、ユウトとミサキの、疾風II型を巡る共同作業が始まった。


---


#### 第7話 空の理屈


ミサキとの作業は、これまでとはまったく違う種類の理解を、ユウトに要求した。


「機体を頭で分かっても意味ないの。空の上じゃ、気流の変化も、Gのかかり方も、乗ってみないと分からないことばかりだから」


彼女はそう言って、ユウトを実際の試験飛行に同乗させた。狭いコックピットの中、機体が上昇するたびに、身体が座席に押し付けられる感覚。旋回のたびに視界が傾き、胃の中身がせり上がるような浮遊感。


「うっ……」


「軟弱ね。これくらいで音を上げてどうするの」


軽口を叩きながらも、ミサキは丁寧に、機体の反応の一つ一つを言葉にして説明してくれた。旧式のエンジンがどこで息切れするか、翼のどの部分が失速しやすいか――それは図面には決して載っていない、生きた知識だった。


地上に戻ったユウトの中で、それらの情報が、次第に一つの像を結び始めていた。


「翼の失速特性と、エンジンの応答遅れ……ここを、こう補えば」


作業場に戻ったユウトは、来る日も来る日も、疾風II型の機体に向き合い続けた。傍らでその様子を見ていた剣持ガイは、複雑な表情を浮かべながらも、あえて何も言わず、ただ黙って作業を手伝うようになっていた。


---


#### 第8話 マッハ百


強化を終えた疾風II型の試験飛行当日、滑走路には基地中の視線が集まっていた。


「本当に、私が乗るのよ。おかしなことになったら承知しないから」


そう言いながらも、ミサキの目には、隠しきれない期待の色が浮かんでいた。コックピットに乗り込み、エンジンを始動させる。


轟音と共に機体が滑走路を駆け抜け、やがて宙へと舞い上がった。


無線越しに、ミサキの声が響く。


「上昇、問題なし……高度、ぐんぐん上がってる……速度、まだ余裕がある……!」


計測班のモニターに映る数値が、次々と更新されていく。音速を超え、さらにその何十倍もの数値へと駆け上がっていく様子に、地上の誰もが息を呑んでいた。


「マッハ、百……!?」


計測官の声が裏返った。かつての疾風II型では考えられない領域だった。


そのとき、無線に緊張した声が割り込んできた。


「試験空域に、未確認の飛行型怪獣接近中!」


ミサキの声が一瞬引き締まる。


「上等じゃない。ちょうどいい、実戦テストといきましょうか」


---


#### 第9話 ZERO


飛行型怪獣との遭遇は、あっけないほど短く終わった。


疾風II型の圧倒的な速度と旋回性能の前では、怪獣の攻撃はことごとく空を切った。ミサキは冷静に距離を取りながら弱点を見極め、一撃で怪獣を撃退してみせた。


「……これなら、いける」


管制室に戻ってきたミサキの声は、これまでになく弾んでいた。基地内には、ちょっとした歓声が上がった。


その一部始終を、少し離れた場所で見ていたユウトのもとに、轟が歩み寄ってきた。手には、埃をかぶった小型のドローンが抱えられている。


「次はこいつだ。旧型の偵察ドローン、ZEROという型式だが、制御AIが半分壊れとる。まともに飛ばんし、まともに考えもせん」


ユウトはドローンを受け取り、その内部構造にそっと触れた。配線、演算装置、破損した記憶素子――理解すべきものは、これまでとはまた違う種類のものだった。


「機体だけじゃなくて、中身も……理解できるのかな」


呟きながら、ユウトは静かにドローンに向き合った。


その傍らには、いつの間にか、ミサキとガイの姿もあった。誰からともなく、作業を手伝う流れになっていた。


窓の外には、次の任務を知らせる無線の音が響き始めている。だが、この物資庫にも、格納庫にも似た小さな作業場には、確かな手応えと、少しずつ芽生え始めた仲間意識があった。


*(第2章・完)*


---

ことを教えてくれた。


上体を起こし、辺りを見渡す。荒野――としか言いようのない場所だった。ひび割れた道路の跡、朽ちた鉄骨、そして遥か遠くの山際に、見慣れない編隊のプロペラ機と、ジェット機らしき機影が飛び交っている。


数分前まで、自分は自室の机に向かっていたはずだった。締め切り間近のレポートと、開きっぱなしのノートパソコン。それが最後の記憶だった。


「……ここ、どこだ」


声に出してみても、答えてくれる者はいなかった。


そのとき、大地がずんと震えた。一度、また一度。振動は次第に近づいてくる。ユウトは反射的に音のする方角――遠い稜線に目をやった。


そこに、山がゆっくりと「立ち上がった」。


いや、山ではない。鱗に覆われた巨躯が、稜線の向こうから身を起こしたのだ。体長は目算で百メートルを超えている。喉の奥から低い唸り声のような音が響き、それだけで空気そのものが震えた気がした。


ユウトは声も出せず、ただその場に座り込んでいた。


恐怖よりも先に、奇妙な感覚が胸の奥に湧き上がってくる。目の前の巨大な影を見つめながら、頭の片隅で、誰かに囁かれたような直感が生まれていた。


――理解すれば、応えてくれる。


何を、が抜け落ちたまま、その言葉だけがやけにはっきりと響いた。ユウトにはまだ、それが何を意味するのか分からなかった。


遠くで、迎撃部隊と思しき編隊が巨躯へと向かっていく。爆発音、閃光、そして轟音。ユウトはその光景を、ただ呆然と見つめ続けることしかできなかった。


やがて、土煙の向こうから複数の人影が近づいてくるのが見えた。迷彩服に身を包み、銃を構えたその人々は、倒れているユウトを見つけると、鋭く声を上げた。


「生存者だ! こっちに一人!」


意識が遠のいていく中で、ユウトは思った。


――昭和四十一年。怪獣大戦争時代。


まだ名前も知らないその時代の中に、自分は今、放り込まれたのだと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ