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強化倍率∞ ~最弱の落ちこぼれ隊員は《兵装超強化》だけで怪獣大戦争を制した~  作者: 伝説の男前


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第1章

#### 第1話 転移


気づいたとき、遠くでサイレンが鳴っていた。


常盤ユウトは、乾いた土の上に倒れていた。頬に触れる砂の感触は妙に生々しく、それが夢でないことを教えてくれた。


上体を起こし、辺りを見渡す。荒野――としか言いようのない場所だった。ひび割れた道路の跡、朽ちた鉄骨、そして遥か遠くの山際に、見慣れない編隊のプロペラ機と、ジェット機らしき機影が飛び交っている。


数分前まで、自分は自室の机に向かっていたはずだった。締め切り間近のレポートと、開きっぱなしのノートパソコン。それが最後の記憶だった。


「……ここ、どこだ」


声に出してみても、答えてくれる者はいなかった。


そのとき、大地がずんと震えた。一度、また一度。振動は次第に近づいてくる。ユウトは反射的に音のする方角――遠い稜線に目をやった。


そこに、山がゆっくりと「立ち上がった」。


いや、山ではない。鱗に覆われた巨躯が、稜線の向こうから身を起こしたのだ。体長は目算で百メートルを超えている。喉の奥から低い唸り声のような音が響き、それだけで空気そのものが震えた気がした。


ユウトは声も出せず、ただその場に座り込んでいた。


恐怖よりも先に、奇妙な感覚が胸の奥に湧き上がってくる。目の前の巨大な影を見つめながら、頭の片隅で、誰かに囁かれたような直感が生まれていた。


――理解すれば、応えてくれる。


何を、が抜け落ちたまま、その言葉だけがやけにはっきりと響いた。ユウトにはまだ、それが何を意味するのか分からなかった。


遠くで、迎撃部隊と思しき編隊が巨躯へと向かっていく。爆発音、閃光、そして轟音。ユウトはその光景を、ただ呆然と見つめ続けることしかできなかった。


やがて、土煙の向こうから複数の人影が近づいてくるのが見えた。迷彩服に身を包み、銃を構えたその人々は、倒れているユウトを見つけると、鋭く声を上げた。


「生存者だ! こっちに一人!」


意識が遠のいていく中で、ユウトは思った。


――昭和四十一年。怪獣大戦争時代。


まだ名前も知らないその時代の中に、自分は今、放り込まれたのだと。


---


#### 第2話 保護


目を覚ましたのは、簡素な野戦テントの中だった。


天井には裸電球が一つ。傍らには点滴の管が伸び、遠くから発電機の低い唸りと、無線機のノイズ混じりの通信音が聞こえてくる。


「気がついたか」


声をかけてきたのは、白衣を着た軍医らしき男だった。


「ここは……」


「対怪獣特殊技術隊、通称・特技隊の野戦キャンプだ。お前さんは怪獣掃討作戦の直後、廃道の近くで倒れているところを保護された。身元は分からず仕舞いでな」


ユウトは自分の記憶を辿ろうとしたが、この時代について語れるものは何一つなかった。名前と、それまでの記憶――それだけを頼りに、辛うじて事情を説明することしかできなかった。


軍医は淡々とカルテに何かを書き込みながら続けた。


「記憶混乱、目立った外傷なし、と。まあ、この時代にはたまにあることだ。怪獣騒ぎのショックで記憶が曖昧になる者は珍しくない」


数日後、ユウトは特技隊の基礎体力測定を受けさせられた。結果は、隊内最低クラス。反射神経、筋力、持久力――どれを取っても平均を大きく下回っていた。


測定官はため息交じりに記録用紙をめくった。


「これは……前線には向かないな。戦力としては期待できん」


その言葉に、ユウトは何も言い返せなかった。反論できるだけの実績も、自信も、持ち合わせていなかったからだ。


「配属は後方の物資管理班にしておく。せめて弾薬の在庫管理くらいはできるだろう」


そう言われて連れて行かれたのは、基地の片隅にある物資庫だった。埃をかぶった木箱と、使い古された装備が所狭しと積み上げられている。


ユウトの、この時代での日々は、そこから始まった。


---


#### 第3話 錆びたナイフ


物資庫の整理は、単調な作業の連続だった。


木箱を開けては中身を記録し、使えるものと使えないものに仕分ける。誰もやりたがらない仕事だったが、ユウトにとっては、この見知らぬ時代の道具や兵器を知る、数少ない機会でもあった。


作業を始めて三日目、木箱の底から一本のナイフが出てきた。


刃はところどころ錆びつき、柄も一部が割れかけている。誰の目にも、廃棄処分にしか見えない代物だった。


「これは……もう使えないな」


そう呟きながらも、ユウトはなぜかそのナイフを手放せずにいた。刃の角度、柄の握り具合、鋼材の質感――それらを何気なく指でなぞっているうちに、頭の中に奇妙な感覚が広がっていくのを感じた。


まるで、ナイフの構造そのものが、脳裏に流れ込んでくるような感覚だった。刃先の角度がどうなっているか。鋼の中の粒子がどう並んでいるか。柄のどこに力が集中しやすいか――理解が深まるにつれて、その像はどんどん鮮明になっていく。


「この刃角なら……ここをこう研げば、もっと……」


無意識のうちに、そう口にしていた。


その瞬間だった。


手の中のナイフが、ほんのわずかに、淡い光を帯びた。


驚いて手を止めると、光はすぐに収まった。ユウトはしばらくの間、自分の手の中にあるナイフを、ただ黙って見つめ続けていた。


――何が、起きたんだ。


物資庫の中は静まり返っていて、答えてくれる者は誰もいなかった。


---


#### 第4話 切れ味×千


翌日、ユウトは試しに、そのナイフを近くにあった鉄柵に当ててみた。


深く考えていたわけではない。ただ、昨日の光が気になって、確かめずにはいられなかっただけだ。


刃が鉄柵に触れた瞬間、抵抗らしい抵抗もなく、まるで紙を裂くようにその一部が切り離された。


「――え」


ユウトは自分の目を疑った。もう一度、今度は別の廃材で試してみる。結果は同じだった。錆びついていたはずの刃は、まるで最初から精密に鍛え直されたかのような切れ味を見せていた。


物音を聞きつけた整備兵の一人が、怪訝な顔で物資庫を覗き込んできた。


「おい、何の音だ……って、お前、それ何をどうやったんだ!?」


「あの……すみません、ちょっと整備してみただけで……」


自分でも、それ以上うまく説明できなかった。整備、という言葉すら正確ではない気がしたが、他に言いようがなかったのだ。


整備兵はナイフを受け取り、まじまじと刃を眺めた後、信じられないというように首を振った。


「これは……ただの整備じゃない。素材そのものが変わったみたいだ」


ユウトは黙って、自分の手のひらを見つめた。


理解すればするほど、対象は「強く」なる。


まだ漠然とした感覚でしかなかったが、それが自分の身に起きていることの正体らしい――そう思い始めていた。


---


#### 第5話 追放判定


ナイフの一件は、瞬く間に基地内の噂となった。だが、その反応は、ユウトが思っていたものとは違っていた。


「ナイフ一本強化したくらいで何ができる。所詮は後方支援の小細工だ」


前線部隊の指揮官の一人は、報告を鼻で笑い飛ばした。特技隊は慢性的な人員不足に悩まされていたが、それでも「戦力にならない者」への評価は容赦なかった。


ユウトを最初に保護した哨戒班の一人――鬼灯ほおずきと名乗るその男は、あからさまに苛立った様子で言い放った。


「役立たずが妙な小細工で目立とうとするな。お前は後方支援すら怪しいレベルなんだよ」


その言葉に、周囲の隊員たちも同調するように顔を背けた。誰も、ユウトの味方をしようとはしなかった。


数日後、正式な通達が下った。


「常盤ユウトを、基地外れの廃棄物資置き場管理へ配置転換する」


体のいい追放だった。誰も口にはしなかったが、その意味は明白だった。使えない人材を、目に入らない場所へ追いやる――それだけのことだ。


荷物をまとめ、廃棄物資置き場へ向かう道すがら、ユウトは自分の手のひらをもう一度見つめた。


あのナイフの光は、確かに本物だったはずだ。それなのに、誰もそれを認めようとはしない。


――それでも。


ユウトは小さく息を吐いた。腐るには、まだ早い気がした。


---


#### 第6話 木の盾


廃棄物資置き場は、基地の中でも最も見捨てられた場所だった。錆びついた鉄骨、破損した車両の残骸、そして誰も手を付けない木箱の山。


だが、ここには一つだけ利点があった。時間だけは、いくらでもあったことだ。


整理を進めるうち、ユウトは一枚の木製バリケードを見つけた。前線で使われなくなり、放置されていた簡易防壁だ。表面には無数の傷がついているが、大きな破損はない。


ユウトは毎日、少しずつその木材に触れ、観察を続けた。木目の向き、繊維の密度、衝撃が加わったときの力の伝わり方――誰に教えられたわけでもないのに、なぜかそれらが自然と頭に入ってくる。


「木目の向きと、衝撃の伝わり方……ここをこう補強すれば、もっと力を逃がせる」


独り言のように呟きながら、ユウトは指先で盾の表面をなぞった。理解が深まるたびに、木材はほんのわずかに輝きを帯びる。それはナイフのときと、まったく同じ感覚だった。


数週間が経つ頃には、その盾はもう、ただの廃材には見えなくなっていた。表面の木目は変わらないのに、触れるとどこか硬質な、金属にも似た手応えがあった。


「これも……強くなってる、のか」


誰に見せるでもなく、ユウトはただその変化を確かめるように、何度も盾に触れ続けた。


まだこの力の全貌は分からない。だが少なくとも一つ、確信していることがあった。


理解した分だけ、目の前のモノは応えてくれる。


---


#### 第7話 衝撃波


事件は、何の前触れもなく起きた。


廃棄物資置き場から少し離れた谷間で、怪獣掃討作戦が行われていたのだ。ユウトはそのことを知らされてすらいなかった。


作戦中、対怪獣用の大型爆薬が誤作動を起こし、想定外の位置で炸裂した。爆風と衝撃波は、廃棄物資置き場のある一帯にまで及んだ。


「な……」


轟音が近づいてくるのを感じた瞬間、ユウトは考えるより先に体が動いていた。強化した木の盾を抱え込み、その場にしゃがみ込む。


次の瞬間、視界が真っ白に染まった。


耳をつんざく爆音、肌を叩く熱風、そして全身を突き上げるような衝撃――だが、それはすべて、盾の向こう側で止まっていた。


土煙が晴れていく。周囲の資材は吹き飛ばされ、いくつかの建屋は崩れ落ちていた。それなのに、盾を抱えたユウトの周りだけは、まるで時が止まっていたかのように、何一つ損なわれていなかった。


「……生きてる」


呆然と呟きながら、ユウトは自分の体を確かめた。傷一つない。息を切らしながら駆けつけた哨戒班の兵士たちは、その光景を見て言葉を失っていた。


「あの爆発の中で、無傷だと……? あの盾は、一体……」


誰かの呟きが、静かな置き場に響いた。


ユウトは、自分の手の中にある木の盾を、もう一度見つめた。


---


#### 第8話 噂


「廃棄物資置き場のあいつ、ただ者じゃないらしいぞ」


その噂は、瞬く間に基地内を駆け巡った。誤爆事故の生存者は他にもいたが、無傷だった者はユウト一人だけだった。


最初は誰もが半信半疑だった。だが、現場を検分した技術班の報告書には、「対象の防壁材、通常の木材とは異なる強度反応あり」とはっきり記されていた。


その報告書に目を通した一人の老人が、静かに席を立った。


「その隊員に、会わせてもらおうか」


とどろきと呼ばれるその人物は、特技隊の中でも一目置かれる技術顧問だった。長年、規格外の技術現象を追い続けてきた男でもある。


呼び出しを受けたユウトは、緊張しながら基地本部の一室へと向かった。そこで待っていたのは、白髪交じりの、鋭い目をした老技術者だった。


「お前さんが、常盤ユウトか」


「は、はい……」


轟は机の上に置かれた盾の残骸――正確には、爆発の後も無傷だったその現物を、じっと見つめていた。


「これを、お前さんが強化したというのは本当か」


「あの……多分、そうだと思います。でも、自分でもよく分かっていなくて……」


正直に答えると、轟は小さく頷いた。その目には、疑いよりも、むしろ確信に近い色が浮かんでいた。


「お前さんの力、ワシにはピンときた。ただの偶然じゃない。理解した分だけ、モノが応えとる――そうだろう」


その言葉に、ユウトは思わず息を呑んだ。


---


#### 第9話 配属変更


「戦えないなら、戦えるものを作ればいい。それがお前さんの戦い方だ」


轟はそう言うと、机の引き出しから一枚の図面を取り出し、ユウトの前に広げた。


そこに描かれていたのは、対怪獣戦車の設計図だった。複雑に入り組んだ機構、分厚い装甲層、大口径の砲身――見ただけで、途方もない情報量だと分かった。


「これを、理解できるか」


轟の問いに、ユウトはしばらく図面を見つめたまま、何も答えられなかった。ナイフや盾とは、明らかに規模が違う。それでも――


「……やってみます」


気づけば、そう口にしていた。


轟は満足げに頷くと、書類を一枚取り出し、その場でサインをした。


「今日付けで、お前さんを技術開発班に正式配属する。もう、後方の物置番じゃない」


数日後、ユウトの荷物は基地本部近くの技術開発班の宿舎へと移された。窓の外には、整備中の対怪獣戦車の巨体が見える。


かつて追放同然に送られた廃棄物資置き場は、もう遠い場所になっていた。


その夜、ユウトは窓辺に立ち、遠くの空を見上げた。地平線の向こうに、また新たな怪獣の影がうっすらと浮かび上がっている。


――理解すれば、応えてくれる。


まだこの力の全貌は分からない。だが、少なくとも今は、そう信じてみようと思えた。


こうして、最弱の隊員の物語は、静かに次の段階へと進み始めた。


*(第1章・完)*


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