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ゾンビ世界でも慎ましく生きたい  作者: 小説書こう


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1日目 慎ましい生き方

「ハァハァ」


自分の目の前には"この手"でサバイバルナイフを突き刺した男が苦悶の表情で死んでいる。


9日前--


よおし、ええ、まずどこから話そうか、あっそうだった。まずは自己紹介だよな。俺の名前は前田五郎。職業は土木、いや、元土木作業員だ。

最近は全国にゾンビが蔓延って俺の仕事は無くなっちまった。まっ、そうは言っても田舎なんかで歩き回るゾンビは一つの街に三体程度、都市ではもっと多いだろうが自衛隊がどうにかしてくれている。それに加えて日本人の引きこもり体質もあいまってゾンビに咬まれるバカもほとんどいない。

まあ、そんなもんで引きこもって暇なんだ。だから俺の生活を紹介してみようと思う。


朝6時起床、この時間から俺の1日は始まる。

起きた時、窓から「アウアウ」聞こえてきた。もちろん犬なんかじゃあない。モノホンのゾンビだ。どうやら近いらしい。でも安全だ、俺が住んでいるのはアパートなのだが他に人も住んでいるし、パンデミックが起きた時、住民と一緒に家具や資材を積んでなかなかに強固なバリケードを作ることもできた。だが恥ずかしいことに俺は極度のビビり、ゾンビの声が聞こえて俺は布団にうずくまってしまった。数分後、やっとゾンビはどこかに行ったようだ。俺は起き上がり、朝の楽しみのニュースを見る。

こんなご時世でもやってくれるテレビに感謝!

そう俺は心で歓喜しながら、大好きなニュースキャスターを見る。「なんて癒されるんだ」と客観的に見たらキモいだろうことをつい言ってしまう。

だって可愛いんだもん

さて、今日の朝食だ。簡単に済ましてしまうのもいいが今日は少し凝ってみよう。


フライパンでベーコンを香ばしく焼き、その上に卵を落とす。

半熟になったところで熱々のご飯へ豪快に乗せ、仕上げに醤油とバターをひとさじ。


――ワンパンで作れる、ベーコンエッグ丼の完成だ。


ひと口頬張れば、ベーコンの旨味とバターのコクが広がり、そこへ醤油の香ばしい塩味が重なる。

とろけた卵が全体をまろやかにまとめていて、シンプルなのに箸が止まらない味だった。


さて、次は筋トレだ。ほんとうにほんとうに暇すぎる!自分の趣味はゲーム、プラモ、カードゲーム

しかしそれも大分飽きかけている。

なので筋トレを始め出した。これがなかなか悪くない

まず、筋トレってのは「暇つぶし」に見えて、実際はかなり生存に直結する。

ゾンビがいる世界になってから痛感したんだが、人間って案外すぐ体力が尽きる。ちょっと走っただけで息切れ、階段を上れば足が笑う、荷物を運べば腰が死ぬ。パンデミック前なら笑って済んだが、コンビニに行く時にゾンビに見つかったらそれが命取りになる。だから俺は毎朝、腕立て、腹筋、スクワットをやる。最初は地獄だったが

「こんなん続くわけねえだろ……」って床に寝転がってた。次の日なんか筋肉痛で便座に座るのすら苦戦したくらいだ。でも一週間、二週間と続けると変わってくる。まず、妙に身体が軽い。階段を上っても疲れにくいし、水の入ったポリタンクも楽に持てる。あと、気分が少し前向きになる。世界が終わってるのに前向きってのも変な話だが、身体を動かすと頭のモヤモヤが減るんだ。特にスクワットがいい。ゾンビ映画だとみんな上半身ばっか鍛えてザ・逆三角形な体型なイメージあるが、逃げる時に必要なのは脚だ。結局、最後に信用できるのは自分の脚力。逃げる、走る、飛び越える、全部脚だ。だから俺は毎日やる。

……まあ、とはいえ本格的なトレーニーみたいなことはしてない。


 「オラァ!!限界突破ァ!!」


とか叫びながらやるタイプじゃなく、ゾンビ解説の動画を見ながらダラダラやる程度だ。今日はスクワット百回。六十回を超えた辺りで太ももがプルプルし始める。


「うおぉぉ……キツ……」


情けない声を漏らしながら続ける。だがそこでやめたら負けな気がするのだ。


 九十回。


 百回。


 達成。


俺は汗だくになりながら床へ倒れ込む。


「ふっ……今日も生き延びた……」


たかが筋トレで大袈裟すぎるが、誰もツッコまないので好き放題言える。その後の日課の風呂ももちろん入った。

そうしてバスチェアに座りシャワーを浴びてると俺にとっての人生で1番の"問題"が起きた。

風呂の窓がガタガタと音を立てながら開き出した。

まずいまずい!

窓の鍵は閉まってるはずなのに!

窓の外はバリケード内のはずなのに!

(バリケードが突破されたのか!?、他の住人

は!?)

そう考えてると窓が完全に開けられ、おっさん顔のゾンビが顔を出し、浴槽に落下する、それに目を向けた

"瞬間"だった。


俺のいる空間がオフィスに変わった。


俺とおっさんゾンビはスーツ姿に変わり、互いに向き合い、椅子に座り、相手が話しかけてくる

始・ま・っ・て・し・ま・っ・た・よ・う・だ・

本当にまずい!こんな危険なタイミングで持病の幻覚と幻聴が始まってしまった。

とりあえず立ってみる。だが立った感覚だけで視界が動かない!俺は反射的に後ろへ下がろうとした。だが椅子がギギッと鳴るだけで、まともに動けない。


「っ、クソ……!」


オフィスの床に汗が落ちる。いや、違う。これは風呂場の汗か?どっちだ!?どっちが現実なんだ!?


すると、おっさんゾンビ――いや、サラリーマン姿の化け物が、机に肘をつきながら笑った。


「前田くん」


「あ?」


「君さぁ、“また”逃げるの?」

 

その言葉に、胸の奥がズキッと痛む。またか。仕事を辞めた時も。人付き合いから逃げた時も。ゾンビが出てから引きこもった時も。全部、“逃げ”だと思っていた。だから反論できない。すると怪物は、ニタァっと笑った。


「君は怖いんだよなぁ?」


「……当たり前だろ」


「だから目を逸らす」


「うるせぇ」


「見たくないものを、見ないようにする」


「黙れ」


「だから今も、現実から逃げてる…そうだろ」


 ――イラッとした。俺は気づけば机を蹴飛ばしていた。

バァン!!

書類が宙を舞い、コーヒーカップが割れる。


「逃げて何が悪い!!」


自分でも驚くくらい大声だった。


「怖ぇもんは怖ぇんだよ!ゾンビなんか見たくねぇし!死ぬのも嫌だし!ゾンビに噛まれるのも嫌だ!!」


肩で息をする。怪物は黙っていた。俺は続ける。


「でもなぁ……!」

「だからって、何もしねぇまま死ぬのはもっと嫌なんだよ!!」


その瞬間だった、オフィスの景色にヒビが入った。

ピシッとガラスみたいに空間が割れ、現実が見えてきた。

俺は即座に浴槽を見る。ゾンビおっさんどころか、風呂場の窓も空いておらず鍵は閉まっていた。

どうやら最初から幻覚だったようだ。


本当にこれは生死に関わるからどうにかしたいものだ。

だが俺はまた、1日、生き残ったのだ

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