第63話 新たな魔道具
登場人物のおさらい
ガレス・ナミャズ
ナーラ王国軍団長。元平民でナーラ王国最強の男。ナーラ王に見出されたので忠誠心に厚い。
ルーク・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の次男。十五歳。人より神に近い超人。
マルス・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の長男。二十歳。軍の司令官。婚約者のマリア命の狂人。
マリオ
マルスに忠誠を誓っている技術者で、マルスが突然拾ってきた。魔道具や兵器の開発をしている。
マルコ・キュジラ
エドゥ王国キュジラ家の長男。軍人。マルスの婚約者マリアの兄。
マリア・キュジラ
エドゥ王国キュジラ家の長女。二十二歳。マルスの婚約者なので苦労人。
「さて、エドゥ王国のルーク殿が我が南部連合軍に加わった。早速だが、今後の計画について改めて確認を行おう」
各国関係者の集まる会議で、そう話し始めたのは、ガレス・ナミャズ。
元平民でナーラ王国最強の男である。
「まず、次に北が攻めてきたらルーク殿の現在の戦力を見極める為の作戦を行う。指揮は、エドゥ王国のマスル殿が行う。マルス殿……以前のように弟君一人を先攻させて、検証前に北の砦を破壊しないように気を付けて頂きたい」
「理解っているさ」
強面のガレスが、更に眼光を強めながらマルスをひと睨みするが、全く動揺すること無くマルスは、何を当たり前の事を、と言った態度で応えるので、傍に控えているエドゥ王国側の関係者全員が肩を落とす。
いつもの事だ。
「三ヶ月後、北からの留学生が訪れ、帰国する前日に予定通り、戦線を北上させる。予定では、エドゥ王国マギュロ領への留学生の訪問者は五名だったな? キュジラ殿」
北の奴隷で協力者である留学生イーサンの監視と、留学生の動向の監視も行っているマルコ・キュジラにガレスが問う。
「ええ。其の内二名は重要人物です。一人は、アイク。北の貴族のラファエル・ヘービに心酔しており、父親が北の大国、ネッコ王国の王子だと言われています。ラファエル・ヘービが、何か仕掛けてくるならこのアイクを利用するだろうと推察されるので、警備は徹底する予定です。二人目はイーサン。知っての通り、装着した魔道具で監視している監視対象です。イーサンには、同胞の奪還作戦を決行する事を知らせる予定となっています。それに伴い、ここで一つ新しい報告があります」
今日の会議は、殆ど決まっている事柄の確認のみだった事もあり、新しい報告と聞いて、皆が眉を顰め、周りを見回した。
「新しい報告とは?」
「イーサンに装着して貰っている魔道具だですが、音声と映像をこちらに一方的に送る事しか出来ないのは皆さん知っての通りだと思います。今後、作戦が決行された時に、出来るだけ囚われている同胞達の安全を確保していきたい。その為に、こちらから情報や指示をイーサンに知らせる事が出来ればと思い、魔道具の改良を出来ないかマルス殿に相談した所、可能であると今朝、回答を得ました」
「「おおっ!」」
会議室のあちこちから感嘆と驚愕の声が上がる。
そもそも、音声と映像を送る事だけでも、相当に衝撃的な技術革新であった為、それ以上の機能……こちらからも情報や指示を送る事の出来る目処が立ったのだとの報告は、更なる衝撃であった。
「つまり、端的に言うと、魔道具を通じて、イーサンと会話が可能だと言うことです」
「おお!」
「素晴らしい!」
マルコは、若干苦笑いをしつつ、マルスを恨めしそうに横目を向ける。
この要望をマルスの指示で技術者のマリオに作って貰う為に、今回も妹のマリアに無理を強いたのだ。
例の断罪後、マリアのマルスへの態度は徹底している。業務連絡以外取り合わないのだ。
マルスをこちらの思惑通り動かすのであれば、妹を餌にするしかない。
そこで、情けない兄だと自覚はあるが……マリアとの茶会を餌とした。
ちなみに、まだマリアの了承は得ていない……。
「その魔道具、北を攻める際にも使えないのか? 北も南部と同じくらいの広さだと聞く。各部隊が密に連絡を取ることが出来れば、軍としても連携や安全の面から捗るだろう。未だに整備が進まないこの魔道具の法律とやらも、流石に特例を作ったとしても優先するしかないだろうさ。な、どうなのだ? 量産して軍に行き渡らせることは可能か?」
ガレスが、期待を込めた目で見てくるが、強面なので、更に圧が掛かって強さが増したようにマルコは感じながら「ちょっとお待ちを」と言い、隣りに座るマルスの耳に顔を寄せた。
「マルス君、出来るかな? マリアとの茶会を更に二回設けて貰えるようにする。どうだろうか?」
コソコソとマルスに問い掛けながら、我ながら情けないとマルコは内心溜息を大きくする。
「お義兄さん! 出来ますとも!」
ギラついた目で将来の義弟が首をこちらに向けるものだから、マルスは咄嗟に仰け反りながら「ああ……頼むよ」と言い、ガレスに向き直る。
「……出来るそうです」
一応、小声でのマルスとのやり取りだったが、軍部の……特に此処に居る高官達は、マルスの事をよく知っている。なので、マルコが妹を取引材料に交渉が成立したのだと理解ってはいるが、表向きは知らぬ存ぜぬで……でも、苦労を知るだけに、マルコを労るように目線をそれぞれ向ける。
「そう言えば、この魔道具に何かわかりやすい名はないのか? 映像と音声を送る魔道具……いや、音声は相互に行けるようになるのか。長い名称だと作戦中呼び辛いからな」
「そうですな。短い呼称が良いでしょう」
「音声……映像…うーん……」
「情報をやり取りするものですから……情報魔道具? いや、違うなぁ」
「連絡し合うんで、連絡具はどうでしょう?」
「おお、短いな」
「でも、手紙でも連絡し合いますよ」
「ああ……それは勘違いしてしまいそうですねぇ。もう、映像と音声を送る魔道具を略して…映音具でいいんじゃないですか?」
軍人達は、この手の話が実は苦手だった。
適当な事を決めると、文官連中に後で色々と難癖を付けられることが多いからだ。
なので、軍内部のみで呼び合う呼称だと考えれば、略称が一番手っ取り早く、文官達から文句も出難い事を察する。
「うむ。それが良さそうだ。では、今後は“映音具”と呼称しよう。さて、この映音具を用いる事で、今迄より作戦の幅が広がる事となるだろう。各部隊の隊長格に持たせられれば尚良しだな」
「ガレス殿、一対の映音具でしかやり取り出来ない事を考えれば、映音具用の本部を用意し、一箇所に情報を集約。そこから指示を出す形が宜しいかと。なので、運用方法としては、専用の人員を確保すべきと具申します」
「なるほど。うむ、検討が必要だな。キュジラ殿、急ぎ、映音具の試作品の製作の指示をお願いする。試しながら運用方法を考えねば。それから……法整備については、エドゥ王国にまずは話だな。後で、俺からマギュロ殿に伝えよう。マギュロ殿からエドゥ王に話を持っていって貰うのが早い」
こうして、この世界初の相互通信機器が軍事作戦に用いられる事となったのだ。




