第27話 ブムニジェルの称賛
続いてゴドバンは、照準を定めにかかる。
戦闘艇のように素早くは動かないし、図体もでかい戦闘艦だから、レーダーとコンピューターによる全自動砲撃でも命中する可能性は高い。だが、発射の直前に全速力での転進などをされたら、外れてしまうかもしれない。その兆候が有るか無いか、有るとしたらどちらに転進しそうか、などを敵艦の状態から見定めなければならない。
熱源や重力源の探知と、電場・磁場の測定等がそのヒントになるが、確定的なことは分からない。経験や勘が求められる場面だが、残念ながらゴドバンには、それがない。
確信は持ちきれないが、とりあえず照準は定めた。急転進しないものと仮定した敵の未来予測位置に、照準は固定された。
その直後に、データーの同期を確認したとの連絡が、全ての戦闘艇からもたらされた、が、それにも関わらず、1つの戦闘艇がプロトンレーザーの照射線上で、敵に向かっていく動きをしている。砲撃の妨害にも思える行為だが、ゴドバンはすぐに意図を察した。
「砲撃20秒前!」
ゴドバンが叫ぶ。声は届かないが、情報は戦闘艇に届いているはずだ。
叫ぶのは、必要ないと言えばないが、軍規でそうしろと決められている。そうしておけば、うっかりコンソールの操作ミスを犯していても、隣にいるホスニーに気づいてもらえる。
20秒も間を置かなくても、いつでも砲撃はできる。すでにチャージは完了しているから、発射ボタンを押せばプロトンレーザーは放たれる。急転進の隙を与えないためには、できるだけ早く撃った方が良い。それなのに、ゴドバンはあえて20秒待った。
妨害位置にいる味方戦闘艇が、散開弾を放った。と同時に、急速離脱の動きを見せる。
散開弾は炸裂し、金属片をばらまく。それらが、敵艦に打ち付ける。きっとこの瞬間には、敵艦は目つぶしを食らった状態になっている。急転進をするつもりがあったとしても、目つぶしを食らった衝撃で、その予定を失念していることが期待できる。
件の戦闘艇の動きは、散開弾攻撃で敵の意識に虚を作り出すことで、転進の可能性を低くし、ゴドバンの砲撃を援護するためのものだった。
ゴドバンはそれに気づき、それを成す間を作るために、砲撃を20秒遅らせたわけだ。
敵艦が金属片の雨を浴びた、まさにその直後に、プロトンレーザーは発射された。敵に転進の意思があったかどうかは定かではないが、転進しないことは確信できた。
目論見通り、プロトンレーザーは敵艦を捕らえた。磁場シールドすら、展開していなかったらしい。目つぶしの効果は、思いのほか高かったようだ。
磁場シールドで拡散させられたとしても尚、敵の重装甲を打ち抜ける距離での射撃だった。だが、少しでも狙いを外していたら、有効なダメージは与えられない。シールドで威力を弱められたプロトンレーザーは、敵艦の艦体の中でもよほど的確な場所を打ち抜かなければ、効果が低くなってしまう。
反撃の余力を残せば、今度はゴドバンたちが敵のプロトンレーザーの脅威に晒される。あと2発くらいは、敵の射程に入る前に撃てそうだが、この一撃で決めるに越したことはない。
敵が磁場シールドを展開していなかった事実は、砲撃が有効となる確率を、大きく高めてくれた。戦闘艇の援護は、それだけ意味が大きかったわけだ。
「よっしゃあぁ、貫いたぜっ!やるじゃないか、ゴドバン。一発目で、串刺しにまでしてみせるなんてな。上出来だぜ!」
「俺の手柄じゃないよ。あの戦闘艇が、気の利いたサポートをしてくれたからだ。敵の転進を防いでくれた上に、磁場シールドの展開まで阻止してくれた。そうじゃなきゃ、一発で貫通なんて、できなかった。」
貫通によって穿たれた二つの穴から、敵艦は火柱を吹き上げた。少し遅れて、他の部分からも火柱が上がる。内部での爆発の衝撃が、新たな亀裂を生じ、または既にある亀裂を広げ、火柱の数はどんどん増える。
気が付くとハリネズミのごとき様相で、敵艦は数多の火柱を林立させるに至る。もう、乗組員に生存者は、望み得ない惨状だ。
続いて、強烈な光の玉が、艦の内側から膨らんで来るのが分かる。圧力を持った光が、内部から敵艦を膨らませる。超合金の重装甲で覆われていることを疑わせるほど、ぐにゃりと曲げられ丸みを帯びた輪郭を、敵艦は見せる。風船と化した、とでも言えば良いだろうか。
そして、風船は破裂した。それでも膨らむ光球が、全てを飲み込んだ。光球は、反物質動力炉の暴走が呼び起こしたものだろう。天文学的なエネルギーの解放が、艦を数倍した巨大光球へと現象したのだ。
数十秒にわたって輝き続けた光球が掻き消えると、もうそこには、何もなかった。残骸どころか、塵一つですら、レーダーは検出していない。すべてが、原子以下にまで還元され尽くしたのだ。人命も、その亡骸さえも、残るはずがない。
「やったな、ゴドバン!見事な砲撃だったぞ。初めての本格的な戦闘で、これだけの手柄を上げたんだ、大したものだ。」
無邪気に喜ぶホスニーを横目に、ゴドバンは複雑だった。あんな光球に、ジャジリの命や体も、無に帰せられてしまったのだろうか。
その考えは、ジャジリを殺したエドリーたち「セロラルゴ」管区自衛軍への怒りへと変わったが、それと共に、彼が今殺した人たちの関係者にも、同じ怒りや悲しみを抱かせただろう、との思いも沸き上がる。彼の抱く怒りが、彼に向けられるであろう恨みの大きさを、思い知らせることになった。
敵中型戦闘艦が消滅すると、残った敵の小型戦闘艦は、すかさず降参の意思を伝えて来た。こちらが何も言わないうちに、非武装のシャトルに全乗組員を乗せて出て来て、艦は自爆させてしまった。とにかく命だけは助けてくれとの、切迫した思いが良く分かる行動だった。
戦闘では出番のなかった、ゴドバンたちの小隊に所属している中型1と小型1が、捕虜の収用などの作業を担当した。ゴドバンたちには、ひと時の休息が与えられた。
作業をしていた第2中央指揮室から、ラウンジへとゴドバンたちは場所を移した。紅茶を片手に、くつろいだ時間を過ごす。0.5Gになるような加速を実施するなど、艦長の気配りもあった。戦いの緊張で疲れた体には、有難い休息だった。
「お前が、ゴドバンか。新入りなのに、俺の作戦を無言の内に汲み取るなんて、大したもんだぜ。」
くつろいでいるところに背後からまくしたてられ、ゴドバンは思わず紅茶を吹き出しそうになった。ちなみに紅茶には、茶葉なんていう天然物は使われていない、化学合成だけで作られた人工の模造品だ。
「おう、ブムニジェルじゃないか。あの戦闘艇は、お前のだったんだな。」
「そうとも、ホスニー。戦場で咄嗟に思い付いた策を、新入りが一瞬で汲み取ってくれて、あんなにも爽快な撃破に繋げてくれたんだ。こんな愉快なことはないぜ。」
気圧されながら聞いていたゴドバンにも、ようやく事態が飲み込める。
「こちらこそ、助かったよ。あのサポートがなかったら、一発で敵を掻き消してしまうなんて戦果は、絶対にあげられなかった。砲撃手よりも称賛されるべき、気の利いた援護だったよ。」
「なんだよ。嬉しいこと言ってくれるなあ、新入りのくせに。『トラウィ』兵士だけで国を守り抜けず、一般王国民にまで手助けさせてるっていうだけでも情けねえのに、そんな俺たちを、こんなにも持ち上げてくれるんだからな。」
「俺もそう思うぜ、ブムニジェル。俺たち『トラウィ』に居場所を与えてくれ、俺たちの活動を税負担で支えてくれている王国民なんだぜ、ゴドバンは。その上に、兵員募集にも応じてくれて、こんな大活躍まで見せて、その上で、これほどに褒めてくれるんだ。感謝しなくちゃ罰が当たるぜ。」
ゴドバンを始めとした王国民に対する、「トラウィ」兵士のこういった低姿勢は、ベンバレクたちを彼に思い出させた。「トラウィ」兵士は誰も彼も、王国民のために尽くさねばという意識にあふれている。
「こうなったらゴドバンだけは、絶対に死なせるわけにはいかねえな。どんな厳しい戦場に投入されても、こいつだけは、生かせたまま連れて帰らなくちゃ。俺は、そのために命を張るぜ。」
ベンバレクからも聞いたようなセリフを、ブムニジェルは口にした。ベンバレクたちを殺された恨みを、ぶつけて来た相手からの言葉だ。
「そんなに守ってもらってばかりじゃ、ちっとも一人前の兵士になれないじゃないか。守るとかよりさ、もっと有効な戦術を研究して、確実に敵を撃破できるようになろうぜ。戦闘艇とプロトンレーザーの連携を密にすれば、色んな戦術が可能になるだろう?」
「おおぅっ、なんちゅう鋭いことを。本当に新入りか、こいつは!よし来た、戦闘艇団と砲撃管制担当で、定期的な戦術研究会を開こうぜ。座長はゴドバンだ、戦闘艇パイロットの野郎ども、全員ゴドバンの指示に従って、てきぱきと動きやがれ。まじめに参加しねえ奴は、このブムニジェルが許さねえからな。」
「あはは・・、そんなにおだてられたら、調子狂うな。もうちょっと、新入りなりの扱いを・・・」
艦長にも、ゴドバンは誉めそやされた。作業に復帰するや否や、通信でそんな言葉を伝えて来たのだ。
「艦長のエセディリだ。君は、ゴドバン二等兵だったな。一般王国民から参加して頂いているだけでも有難いところであるのに、先の戦闘では、素晴らしい戦果を挙げてくれたではないか。あの砲撃が、まさか新入りの手によるものだなど、信じられぬ思いだ。今後も、よろしく頼むぞ。」
「どうしよう、ホスニー。背筋が寒くなって来たぜ。」
頭を掻くしかなくなったゴドバンが、頭を掻きながらこぼした。
戦闘は、3日と空くことなく行われた。航宙民族の掃討が7割で、第2分王国とのさや当てが3割といったところだ。どれも、ゴドバンが命の危機を感じるような、激しいものではなかった。
航宙民族は「トラウィ」の軍から見れば、弱小と評するしかない者たちがほとんどだった。「ミカリ」族との戦闘でも、昔にどうであったにせよ、今では「トラウィ」族が圧倒的に優勢だ。王国の財力や連邦由来の技術力で、かつてとは比べ物にならないくらいに「トラウィ」軍は強化されているのだ。
だが、いくら航宙民族たちが弱小だといっても、のさばらせていたら、一般王国民に被害が出る。掃討作戦は、不断に実施されなければならなかった。
第2分王国とは、互いが互いの領内へと、定期的な進出をくり返していた。が、本格的な侵略や打撃を目的としたものではなく、威力偵察的な要素の強いものだった。
ゴドバンのいる小隊が、第2分王国領への侵入作戦に投入されることはなく、侵入して来た小規模な部隊を威嚇して早期に追い返す、という作戦ばかりが彼らに割り当てられた。比較的にだが、危険の少ない作戦だ。
一般王国民がいる部隊には、できるだけ安全な作戦を割り当てようという配慮が、見て取れた。とはいえ、一つ間違えば戦死する可能性は、常にある。航宙民族にしろ第2分王国軍にしろ、武装した相手に向かっていくわけだから、当然だ。国の存続と王国民の命の、両方を守らねばならない「トラウィ」王家の苦労が、見えるようだった。
ベンバレクたちの仇であると認識しつつも、ゴドバンは第1分王国軍の中で、一兵士としてのできる限りの努力を惜しまなかった。
戦闘艇パイロットたちを始めとして、仲間との呼吸もぴったりとなったゴドバンは、次第にベテラン「トラウィ」兵士と比べても遜色のない働きぶりを見せるようになっていった。身体能力で決定的に劣っている彼には、それは、でき過ぎの結果だと言えた。
艦長のエセディリに対しても、ゴドバンは厚い信頼を置くようになっていた。いつでも柔らかい物腰で紳士的に接してくれるからだけでなく、作業に対する管理レベルや責任意識の高さにおいても、尊敬に値するものを見せつけていたからだ。
「よう、ゴドバン二等兵!」
ダイニングエリアなどで、気さくに話しかけてくる。「昨日の作戦は、ご苦労さんだったな。小惑星帯に潜伏した航宙民族の追い出しに手間取って、君にも長時間の臨戦待機をさせてしまった。いつ飛び出してくるか分からん敵を、いつでもすぐに攻撃できるように準備したまま長時間待機するのは、骨が折れただろう。」
「ええ、まあ、そうですね、艦長。あれだけ長時間の緊張状態は、さすがに堪えましたね。でも、あそこに航宙民族が居座るようなことになったら、王国に深刻な被害が出るところだったから、苦しい作戦に臨んででも掃討しておかないと。と言っても、そう短時間で追い出すなんて無理な話だから、砲撃手が長時間臨戦待機させられるのも、仕方ないですよね。結果的に掃討できて、何よりだと思ってます。」
「そうか。作戦の意義を理解してくれて、助かるよ。君のような一般王国民が軍に仕官してくれて、本当にありがたく思ってる。これからも、よろしく頼むよ。」
少しわざとらしいくらい、ありがちで見え透いた誉め言葉だが、こうやって労ってもらうと疲れも癒えるというものだった。
「ところで」
と艦長が、話をつづける。「砲撃管制用レーダーの、艦外デバイス交換の作業も、順調に習得してくれているらしいじゃないか。忙しい任務の間に、よくやってくれているな。」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2021/4/3 です。
ゴドバンは、チヤホヤされすぎでしょうか?軍隊がこんな甘い組織であって、良いわけないでしょうか?「トラウィ」族の一般王国民への低姿勢という設定に加え、褒めて伸ばすタイプの軍隊なのさ、という言い訳を加えれば、どうにか正当化できるでしょうか?
褒めて伸ばすか、叩いて鍛えるか、作者はどちらかといえばほめて伸ばす方に賛同しますが、叩いて鍛える厳しさも、必要な場面はあるなと思います。失敗にも、一生懸命やろうとして何かを見落とした結果の場合もあれば、ちょっとした油断やズボラが原因の場合もあるでしょう。一生懸命やった人を厳しく叩いたのでは、やる気や自信を無くさせたり委縮させたりで逆効果になるでしょう。でも人には誰にでも楽やズルをしたい気持ち、油断してしまう心の隙はあるので、厳しく叩いてそういうのを少なくしていくことも必要でしょう。
作者自身の仕事での失敗にも、一生懸命やった結果の場合はあって、それにもかかわらず厳しく叩かれて、後から考えればそれで成長を遅らせられたんじゃないかとの思えるものはあります。でも、厳しさによって鍛えてもらったと実感している部分もあります。他方で、明らかにズボラや油断による失敗もあって、それなのにユルい反応しかなかったり、大した仕事をしたわけでもないのに妙に褒められたりして、こんなことで良いのか?と思った経験もあります。
ほめて伸ばすか叩いて鍛えるかは、どちらが良いとかではなく、バランスよく使いどころを見極めて使い分ける必要があるのでしょう。仕事を教えたり監督したりする立場に立ったこともあり、その難しさも実感させられています。
作品中でのゴドバンは、一応何事にも一生懸命取り組んでいて、その姿勢も認められた上であんな感じでチヤホヤされているのだとご理解頂ければ、作者としては有難いです。誰にでもあんな風にチヤホヤする軍隊ではなく、褒めて伸ばすと叩いて鍛えるを使い分けていることを、ご承知おき下さい。




