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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第17話 王国の出迎え

 戦場から帰還して2週間が過ぎたころから、自衛軍に囚われていた者たちの移動が始まった。

 自前の宇宙船に「ザキ」族の負担で補給を施してもらった者たちもいたが、宇宙船そのものを「ザキ」族に用立ててもらった者たちもいた。自衛軍によって彼らの宇宙船が破壊されていたので、自衛軍所有だったものを「ザキ」族が代わりとして没収し、譲渡したのだった。

 ゴドバンも、乗って来たジャジリの宇宙商船が破壊されていたのだが、「ザキ」族に別の宇宙船を用立ててもらう必要は生じなかった。「トラウィ」王国が彼らを連れ帰るための宇宙船を、派遣してくれることになったからだ。

 先に旅立つ者たちを何度も見送っていたゴドバンだったが、「トラウィ」王国からの迎えが間もなく到着するとの報告を受けて、帰還の準備を急いだのだった。

 クレティアンやハムザなどの、自衛軍との戦いの中で知り合った者たちとの送別の宴を催したり、「ザキ」族から褒賞として与えられたいくらかの金で故郷への土産を買い集めたりして、迎えの宇宙船の到着に備えた。

 宴の席は毎回、涙混じりの別れの場となった。短い付き合いではあったが、一つの部屋に軟禁され、命すらも危ぶまれる苦境を共にした者たちとは、たとえようもない深い絆が生まれていた。最初のころにはわずかの弱みも見せまいと強がって、寡黙を装ったりしていた連中が、体面も無く泣きじゃくって離別の寂寞を吐露する姿をゴドバンの前に晒し、彼を戸惑わせたりもした。

 一方で買い物に関しては、ゴドバンには素晴らしく満足できるものとなった。ティミムの口利きもあって「ザキ」族が彼に施した褒賞は、少なからぬものがあったから。

 さすがに銀河連邦統治時代の影響を色濃く残している「セロラルゴ」管区の、更に中枢である「ラバジェハ」星系だった。そこにある円筒形中空建造物の中で開かれているマーケットには、ゴドバンには見たこともないほど高機能で高性能な機器や機材が溢れており、手ごろな価格のものも多くあった。

 人通りも盛んで楽し気に賑わっているマーケットは、うろつくだけでも気分よくさせられたのだが、それに加えて、星団中から集められて来た希少な食材やバリエーション豊富な衣料品等なども大量に入手できたのだから、ゴドバンは大喜びだった。

 そうこうして過ごした数日の後、円筒形宙空建造物の回転軸中心にあるスペースポートに、「トラウィ」王国からの迎えの宇宙船は入港して来た。ティミムはじめ「ザキ」族の兵たちと連れ立って、ベンバレクたちやその他の「トラウィ」王国出身者の十数人と並んで、ゴドバンは無重力のスペースポート施設内で、ふわふわと宙に浮かんで漂っていた。

 近くの隔壁に埋め込まれたモニターで、迎えの宇宙船の接近から入港までを見て取り、後は、迎えの人たちが船から降りてそこに来るのを、待つだけとなっていた。

 モニターに映るのは、レーダーがとらえた位置と運動状態を、無機的に伝える模式図だけだった。どんな人物がどんな顔で迎えに来るのかは、本人たちが登場するまでは分からない。

 スペースポートの中であるとはいえ、宇宙船の周囲は与圧されていない真空の空間だ。ゴドバンが漂っている港湾施設から伸びて宇宙船と繋がる、内部が与圧されているチューブを通って、迎えの人々はやって来るだろう。チューブの港湾施設側の端に扉があり、それが開くと、ゴドバンの目にも迎えの人々の姿が飛び込むはずだ。

 ベンバレクたちの同僚の兵士が現れるか、王の家来とか家宰とかいった連中が現れるか、などとゴドバンは想像を巡らせた。

 ベンバレクたちは、誰が迎えとして来るのかは、連絡を受けていて知っているようだった。尋ねれば答えてくれただろうが、あまり関心を持っていなかったゴドバンは、何も知らないままでここに至っていた。迎えが誰かなど、どうでも良いと思っていたから。

 登場を待つ今となって、多少の関心が出てきたが、わざわざベンバレクたちに尋ねる気になるほどでもない。すぐにも扉が開き、それは明らかになるのだから。

 特に、誰に来てほしいという期待も、ありはしない。淡々とした気分で、発生したばかりの疑問の解決を、ただじっと待つだけだった。

 扉が、開いた。驚いた。目を見張り、のけぞった。ぱくりと開いた口からは、声にならない声が漏れ出してしまう。絶世の美女が、現れたから。

 彼女を護衛する、筋骨隆々の巨躯を誇る「トラウィ」兵を何人も背後に従えていても、全く見劣りしないすらりとした長身だった。厳密に測れば、身長は兵士たちより低いのだろうが、全くそれを感じさせない。むしろ、彼女の方が大きく見える。強烈な存在感が、実際の寸法を無視して、そんな印象を演出している。

 すらりと細長い身体の上部には、探さなければ見つからないほど小さな、しかし均整の取れた輪郭の中の、切れ長な目を優雅に笑わせた、艶やかで愛らしい顔があった。

 顔や体格だけでなく、服装にも、度肝を抜かれた。殺伐とした軍用宇宙服の、黒一色の兵たちの前にあって、宇宙服も着けない彼女のドレッシーな装いは、場違いどころか神域を犯してしまった罪悪感をすら、見る者の心に植え付けた。

 深い紫色のロングスカートが、腰のところで極細に絞り込まれ、華奢で優美なラインとなって現前している。人間の内臓が、そんな細い部分に収まるはずがない、と思ってしまうくらいの柳腰だ。スカートの裾から腰までのシルエットは、百合という花を知る者には、それを連想させるだろう。

 柳腰の上にも、くびれを際立たせる逆三角形が、彼女の纏うドレスの深い紫色の布地によって描き出されている。逆三角の中央より少し上の部分には、遠巻きに見てさえ熱気と圧力と重量感を印象付けられる、豊かな胸の盛り上がりが主張している。谷間を指してさっくりと切れ込む襟元からは、まばゆいばかりの白い半球が2つ、なめらかな表面をのぞかせている。2つの半球の接触面は、宇宙よりも深いかと思えるやわらかな漆黒を成し、見る者の視線はブラックホールさながらの引力によって、不躾な凝視を余儀なくさせられる。

 だらんと、だらしなく口を開けた、呆けた面持ちの男たちの群衆から、ゴドバンも抜け出すことはできなかった。実際は数秒かもしれない。だが、数分間も、ただポカンと目の前に現れた美女に目を奪われていた。そんな気がした。

 見覚えのある顔だ、という考えが、遅れに遅れて頭に上った。誰とは思い出せないが、直接見たものではなく、ニュース映像とか壁面表示画像とか、そんなので見たような気がしたのだ。

「ソフラナ様。王女ともあろうお方が、直々にお迎えにお出まし下さるとは、恐縮でございます。」

 ベンバレクの、初めて聞くかしこまった声音(こわね)の発言で、ゴドバンにもようやく目の前の美女の素性が知れた。

「ソフラナ王女様・・って、『トラウィ』第3分王国の王、ゴアフマ様の次女の!? 」

「そうだ、国王陛下の御息女であらせられるソフラナ王女様が、わざわざ、われらをお迎えにお出で下さったのだ。」

「ふがいないわれらの後始末がために、王女様の手を煩わせてしまうなんて。もう、これは、恥じ入る以外にしようもない醜態だ。」

 ヤヒアとアブトレイカも、恐縮をあらわにした声だ。

 宙を滑るようにして、華やかな笑顔が近づいてくる。慰撫と安堵を与えるべく、あらん限りの慈愛を表出しようとの意気込みが、その笑みには窺える。任務にしくじった兵の傷心を知り、それをやわらげてあげたいとの王女の思いが、ゴドバンにも伝わってきた。

「何を、神妙な顔をなさっているのです?あなた方は、よく戦ってくださいました。今回の件は、『セロラルゴ』管区の実態やエドリー・ヴェルビルスの性格をよく把握せず、たった3人という過小な兵しか護衛につけなかった『トラウィ』軍上層部の、判断ミスが引き起こしたものです。あなた方が自責の念を負う必要など、ないのですよ。」

「い・・いえ、そんな・・」

 言いよどむベンバレクに、一直線に近寄るソフラナ王女。無重力での移動だから、一直線以外には動けないのではあるが、それにしても一直線が印象付けられる、王女の身のこなしだった。

「お・・王女・・さ・・ま・・」

 なおも言いよどむベンバレク。彼が言いよどんでいる姿など、一度も見たこともないゴドバンには、ベンバレクの恐縮の深さが実感された。

 細くしなやかな手が、戸惑う兵士の前に差し出される。触れるなど許されぬと、思わず身を引こうとするベンバレクに対し、逃れる隙を与えぬ素早さだった。「トラウィ」兵の大きく無骨な手が、今にも消えてしまいそうなほどに白くか細い手に、捕らえられた。

 片手で捕らえ、もう片方も添えられ、胸元へ、グイと引き寄せる。柔らかな2つの半球まで、2cmもあるかないかという至近距離だ。そして、両手で温めようとする仕方で、彼女は彼を包み込んだ。ベンバレクの心から、数々の痛みや傷を、まとめて吸い上げているようにも見える。筋骨隆々の彼が、見る見る縮んでいくようにさえ感じられた。

「わたくしたちの甘い判断が、あなた方に、大変な苦労と心痛を与えてしまいましたのね。申し訳なく思っております。この上は、一刻も早く国に戻り、ゆっくりと休息をお取りください。」

 真っすぐに、奥底を覗き込むように、ベンバレクの眼を見据える王女。手に、力ではなく熱を込めて、ベンバレクを励ました。

「も・・もったいないお言葉。任務をしくじり、護衛すべき商人を死なせてしまった、愚かなわれらであるのに・・・」

「もう、それは、おっしゃらないでください。さあ、迎えの船にお乗りください。荷物などの搬送も、わたくしの配下の者にお任せくださって結構です。さあ!」

 ベンバレクの背を押して、宇宙船の方に誘うような動きを見せた後、王女は、今度はヤヒアの手を捕らえにかかった。苦も無く捕らわれたヤヒアの右手。王女の両手に温められ、拳から雛が孵りそうなくらいだ。

「あなたも、ご苦労様でした。過酷な任務の疲れと傷を、じっくりと癒してくださいね。」

「お・・王女さ・・ま・・」

 アブトレイカの右手も、王女の両手に抱擁された。

「お疲れ様でございました。疲労の回復に努めてください。さあ、船へ。」

 ベンバレクたち3人以外の、王国民の護衛を任じられていた「トラウィ」兵士も、残らず王女の手で手を温められ、宇宙船へと送られた。

 その次には、王国民の面々に、王女の視線は巡る。

「皆様・・我が『トラウィ』王国民の、皆様。この度は、我が王家とその軍の不手際で、大変なご苦労や難儀をおかけしてしまいました。限られた王室予算で、どれだけのことができるかわかりませんが、皆様がこの度受けられた損害も、できる限り補填させていただくつもりでございます。ですが、まずは、皆様自身の御静養が大切でございます。我が迎えの宇宙船にて、是非、ゆっくりとおくつろぎ下さいませ。」

 言い終えるや、1人1人の手を握っていく。数十人もいる、戦乱に巻き込まれた「トラウィ」王国民たちを慰撫して回る。笑みを絶やさず、その中にも深い謝意のこもった眼差しを、その場の皆に注いだ。

 王女に手を握られた者たちは、もれなく高揚して顔を赤らめ、ドギマギを露にしている。女性の王国民も中にはいたが、男どもと同じドギマギを味わっているらしかった。全身を硬直させつつも、かれらの視線が王女の胸元に釘付けになっていることも、ゴドバンには明け透けなほど良く分かった。

 なんという不潔な視線を王女に向けているんだと、反発する気分にもなるが、しかし、そうなるのも無理も無いという共感も、同時に沸き上がっている。あれだけの存在感を持つものを、あんなにも露な姿で眼前に差し出されたら、そこに目を向けずになど、いられるはずがない。絶対的強制力で、王女の胸元は人々の視線を捕らえるのだ。

 その視線に気づいていないのか、気づいていて知らぬふりをしているのか、王女はずっと自然な微笑みのままで、穏やかに、王国民たちに接し続けている。あんな露骨な視線を前に自然に振舞える能力は、ゴドバンには、神の御業以外の何物でもないと思われた。

(絶対に、俺も見てしまう。胸元に、視線を釘づけにされてしまう。どんなに抗っても、他の部分に目を向けようと努めても、無駄なあがきに決まっている。絶対に、胸元を見てしまう!)

 それは、とんでもなく無礼であり、とんでもなくみっともなく、恥ずかしいことだと思えるのだが、避けることなど、できっこないとも思えた。一国の王女に失礼な振る舞いをし、恥を晒すことが決定的となってしまっているのだ。ゴドバンは、内心で悲鳴を上げた。

(・・逃げたい・・逃げたい・・逃げたい・・・)

 祈り続けたのだが、ゴドバンにも、順番は回って来てしまった。順番を待つ間は、待ち遠しいような気持ちも無くはなかったが、王女が指呼の間に迫った瞬間には、逃げ出したい衝動が爆発した。だが、身動き一つできず、石にでもなったように固まったままだ。

 差し出された手に、自らの手を持って行くことすらもできず、ソフラナが手を伸ばして彼の手を捕まえてくれるのを、ただじっと眺めているだけの有様だった。

 柔らかさや温もりを想像して待っていたはずなのに、手を握られている間の記憶は、脳が機能停止してしまったものか、全く残らなかった。どんな感触で、どんな温度だったか、さっぱりだ。

 いつの間にか遠ざかって行っていた王女の背中を見つめながら、胸元を見ることすら忘れていた自分に、ゴドバンの思いは至った。

 無礼で恥さらしな振る舞いを、しなくて済んだという安堵と同時に、ちゃんと見ておけばよかったという後悔も、脳を吹き飛ばしそうな勢いで炸裂した。

(見ないようにできて、本当に良かった、けど、なぜ、ちゃんと見ておかなかったんだっ!)

 矛盾した叫びがゴドバンの内心で轟いている時に、ソフラナは、王国民以外の人々の方を見回すようにして、次の言葉を発していた。

「我が軍の兵や王国民の方々と、ともに戦ってくださった皆様にも、心よりの感謝を申し上げます。」

 やや視線を上げ、声も高めていた。ティミムを始めとした「ザキ族」の兵たちが、その声を受け止めている。そして彼らも、ソフラナ王女の手の温もりを、順番に味わう幸運が与えられた。胸元で目を楽しまされたのも、きっと、同様だっただろう。余裕のあるものは、王女の両手の温もりだけでなく、胸元から発せられる温度も、包み込まれた手で味わっていたかもしれない。

「補給とかを済ませて、3日後に出航だってよ。だったら、こんなに慌てて乗り込む必要なんて、なかったな。王女様に促して頂いたんで、何も考えずに乗り込んじまったけど。」

 ベンバレクに話しかけられて、初めてゴドバンは、自分が迎えの宇宙船のラウンジにいることに気が付いた。

 今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、 2021/1/23  です。

 女性の美しさや魅力を描くのが、如何に難しいかを思い知った場面でした。古今東西数えきれないくらいの小説家が星の数ほどの描写を試みてきて、もはや斬新な表現など残されていないのかもしれませんが、それにしてもありきたりで陳腐な言葉しか出てこない自分に、呆れるしかありませんでした。

 それでも、ここでソフラナ王女を印象付けておかないと後が続かないので、最低限の目的だけは達せられるよう、粉骨砕身したつもりなのですが、いかがでしょうか?本文だけで十分な印象を持って頂けなかった読者様に、この後書きで印象を補足しようとする小説家としての反則行為を冒してでも、ソフラナ王女のことは覚えておいて頂きたいわけです。宜しくお願い致します。

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