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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第13話 戦士の休息

「旗艦から、招集命令が発せられてるぜ。総大将のトラベルシンが、ひとまず全員集まれってさ。」

 通信担当の声は、面倒臭いのを懸命にこらえた感が色濃い。

「ええっ、じゃあ、また加速すんのか。重力が、復活しちまうな。」

 ゴドバンの声も、新たな面倒の発生に辟易(へきえき)した感だ。

「心配するな。戦闘が終わったからには、そんな強い加速はしねえさ。数分間の強めの加速重力は我慢してもらうが、その後は、0.5Gを超えねえくらいの穏やかな加速で、指定宙域に向かうとするぜ。」

 説明通りの加速重力で移動したのだが、それでもゴドバンには楽ではなかった。数時間後に指定宙域で重力から解放されると、さっきにも増した深いため息でそれを表現した。

「安心しろ、ゴドバン。数日間はこの宙域にとどまって、兵たちの疲労回復を図ってくれるのだとさ。話が分かってるぜ、トラベルシンの大将は。」

「当然さ」

 通信担当の報と評に、ティミムは得意気だ。「無責任で丸投げばかりだった自衛軍の将官とは、わけが違うさ。兵士1人1人の体調や気分にまで、ちゃんと責任をもって気を配るのが、我らの長トラベルシンなのさ。」

 自分も丸投げばかりだったことは、すっかり棚に上げた熱弁だ。しかし、正規軍と即席の素人軍団では、訳が違うのはみんな分かっている。ティミムの熱弁に横やりを入れる者は、その場にはいなかった。

「勝てねえのも、当然だったわけだな、自衛軍は『ザキ』族の軍に。」

「へへっ、そうさ。モノが違うんだ、奴らと俺たちじゃ。」

 満足そうに、ティミムが胸を張った。

「その強い『ザキ』族の戦いぶりも、だんだんと分かって来たぜ。戦闘が終わって、軍勢が再集結したことで、戦況に関する情報も出そろったみたいだ。どうやら彼我の戦力は、戦闘開始時には自衛軍側が、数的には相当優勢だったらしいぜ。こっちが兵力30万だったのに対して、あっちは50万を動員してたみたいだ。」

「え?ってことは、戦闘が始まる前には、相手の戦力は分かってなかったのか?」

 ゴドバンが驚きの顔になったが、索敵担当の次の言葉に、さらに驚きを大きくさせられる。

「相手どころか、味方の戦力だって、分かってはいなかったさ。自衛軍も『ザキ』族の軍もな。」

「ええ!? なんで?自分の軍の戦力が、分からないなんて・・」

「そんなもんなんだぜ。」

 ティミムが口を添える。「戦闘を目前に突然逃げ出す奴や、飛び入り参加してくる奴なんてのは、大勢いるもんだ。自衛軍は捕虜なんぞを大量投入していたし、正規兵の管理もずさんだった。誰が命令通り参戦して、誰が命令を無視して逃げ出すかなんて、誰にも分らなかったのさ。」

「自衛軍がそうなのは分かるとして、『ザキ』族軍の方も、分かってなかったのか、自軍の戦力が?」

「寄せ集めだからな、『ザキ』族軍にしたって。そうだよな?」

 ベンバレクの問いかけに、ティミムは不満も見せずにうなずいた。

「もちろん、一枚岩じゃないさ、『ザキ』族も。もとは別々の集団を成していた航宙民族が、何百年もかけて離合集散を繰り返した結果、今の『ザキ』族があるんだ。ここ数年で『ザキ』族に仲間入りした奴らだって、大勢いる。百年以上前から『ザキ』族を名乗っている奴らだって、かなり根深い独立した集団意識を維持していたりもする。戦闘への参加要請に誰が従って誰が従わないかは、始まってみるまで分からないものなのさ。」

「じゃあ、『ザキ』族の第1軍団とか第2軍団とかいうのは、もしかしたら、元々の集団ごとに分けられているのか?」

「まあ、大体そうかな。軍団と元の集団とが、完全に一致しているわけじゃなく、1つの軍団にいくつかの元集団がまとめられているところも無くは無いが、大雑把には、元の集団が1つの軍団を作っている感じかな。」

 事も無気に言うティミムに、ゴドバンは疑問を抑えられない。

「軍団ごとに独立性が高いっていうのは、それで説明がつくけどさ、戦力の大きさがそんなに分からないなんて状態にまで、なっちまうのか?各軍団から、どれだけの戦力を保有しているか、報告させれば良いだけだろ?」

「もちろん、報告はさせてるさ。だが、報告の内容と実態が合っているなんて、まずない。虚勢を張って多目に報告するやつらも、警戒されないようにと少な目に報告するやつらもいるからな。戦争に際しても各軍団は、なんだかんだと言い訳をしたり屁理屈をこねたりして、参陣をドタキャンするとか、遅れて参陣するとか、報告より少ない戦力しか率いて来ないなどは、いつものことなんだ。」

「そんなのは命令違反なんだから、懲罰を加えるとかすれば良いんじゃ・・?」

「ははは、それで懲罰なんて言ってたら、『ザキ』族のすべての集団が懲罰の対象になっちまって、ハチャメチャになっちまうよ。」

「そうなんだ、大勢力を誇る『ザキ』族っていっても、ずいぶん緩いというか、まとまり切れていない一族なんだな。」

「大勢力だからこそ、まとまり切れないし、無理にまとめようとすれば、返って反発が強くなる。ある程度ゆるめの団結の方が、長く一族を維持できるってこともあるのさ。

 だけど今回の戦闘では、『ザキ』族に含まれるほぼすべての集団が、可能な限りの、そして事前に報告してあった戦力を、この戦いにつぎ込んだと見ていいだろう。結果的にはって話だけど。

 それでも、これだけの戦力を結集できたのは、長であるトラベルシンの威光を証明するものだぜ。」

「そうか、終わってみて初めて、ちゃんと報告されてた戦力が結集していたことが、分かったんだ。じゃあ、戦う前には、戦力がそろってるかどうかも分からないまま、敵に突撃してたわけだな。本当に、つくづく無鉄砲で、命知らずなんだな。」

「いや、そうでもねえな。今回の戦闘の推移を詳しく見てみれば、戦力がそろっていようがいまいが、彼我の戦力バランスがどうであろうが、『ザキ』族の勝利って結果は、変わりなかったと思えるぜ。」

 通信担当が、受け取った情報を総合した結果を見て、そんな感想を告げた。

「どちらの軍隊も、この戦闘では最初から、いくつかに分けた軍団の配置や分担は出鱈目のままで、無秩序に接近して行った感じだ。そして、軍団ごとに見れば、どれもそれほど真正面からぶつかりあっているものは無くて、遠目から散開弾の応酬を繰り広げているだけとか、付かず離れずの距離を保って牽制し合っているだけみたいな、消極的な展開がほとんどだった。戦力にどれだけ差があろうが、全くなかろうが、こんなんじゃ、どちらも勝ちも負けもしないような展開だ。」

「そうだろうな。だが、トラベルシンの率いる直轄軍団だけが、全く違う動きをしてただろ?敵と味方の全ての軍団を合わせても、たった1つの軍団だけが、異質な戦いぶりを見せたはずだ。」

 ドヤ顔と評して良いほど、ティミムはニンマリとして断言した。

「まったくだぜ。トラベルシンの直轄軍団だけは、捨て身とも思えるくらいに、密集隊形で目の前にいる敵軍団のど真ん中に突入して行っている。周囲にいくつの敵軍団がいようと、自軍団の何倍の敵に包囲されようと、躊躇(ちゅうちょ)は見せていない。何度もそんな勇猛な突撃を繰り返し、敵の軍団を、瞬く間に混乱状態へと陥れたみたいだな。」

「そうさ。敵の方が数で勝っていようが、陣形や攻撃力がどうであろうが、関係なかったはずだ。迷うことのない神速の密集突撃戦法で、敵にパニックを起こさせる。攻勢に打って出た時のトラベルシン直轄軍団は、そういう戦いぶりを見せるのさ。」

「そうだな。そんな感じで戦いの前半は、直轄軍団だけが積極的に突撃し、残りの軍団は消極的な参戦に留まるっていう展開が、続いていたみたいだな。だが、敵がある程度撃ち減らされてくると、『ザキ』族側にあって消極的だった軍団も、触発されたように積極性を見せ始めた。

 そしていつしか、『ザキ』族が自衛軍を完全に包囲して、袋叩きにする展開になっていた。俺たちが参戦した時には、全軍の積極参加が始まった直後だったんだ。だから、素人だらけの戦闘艦でも、4艦撃破の戦果を挙げられたんだな。」

「いつも通りの勝ち方さ。『ザキ』族軍全体としては、あまり強い統率を行わず、各軍団の配置や役割もあいまいなままで、ふわっとした感じで敵にアプローチするんだ。で、その中で直轄軍団だけが異次元の、獅子奮迅で勇猛果敢な密集突撃を繰り広げるのさ。」

「つまり、無敵の直轄軍団だけがあれば、あとの軍勢はいらねえってことか?」

 少しあきれた口ぶりで、ヤヒアがティミムに尋ねる。

「いらねえってことはねえ。いくら直轄軍団でも、敵に至近距離で立体的な包囲陣を作られて、一斉に攻撃されたら、ひとたまりもねえさ。だが、無秩序でもいくつかの味方軍団が周囲にいれば、そう簡単に至近距離での立体包囲なんてされない。直接ぶつかり合う敵軍団を、一方向に限定できるくらいの距離は保てる。それさえできれば、敵の数や陣形に関係なく、トラベルシン直轄軍団は無敵なのさ。」

「そうだな。直轄軍団の各戦闘艦が見せた加減速や旋回速度は、並みの人間じゃ、航宙民族も含めても、決して耐えられねえくらいのものだ。そして、そんな動きの中でも、砲撃の命中精度は断トツで高い。なおかつ、激しく動き回っているのに極限にまで密集した楔形隊形は一瞬も、わずかたりとも崩れることがなく、連携攻撃も集中攻撃も常に息がぴったりと合っていた。そんな戦いぶりが、戦闘の記録からわかるぜ。確かに、この軍団は無敵だ。」

 通信担当の肩越しにモニターを覗き込んでいた、アブトレイカも感嘆の声を漏らした。

「そうか。そんなに強いんだ、『ザキ』族の長、トラベルシンの直轄軍団は。だから、命令違反に懲罰を加えたりしなくても、ちゃんと各軍団が可能な限りの戦力を引き連れて来て、彼とともに戦うんだ。」

「そうさ。常に先頭に立って圧倒的な強さを見せつければ、懲罰なんてけち臭いことをしなくても、集団は長に従うものさ。それに、普段の細やかな気配りが加われば、なお完璧だ。トラベルシンも、平時の集団全体への気配りは、ちゃんとしているんだぜ。末端の一兵卒に至るまで、決してないがしろにはしないんだ。」

 ティミムのどや顔は、ますます強烈を極める。自分とトラベルシンの区別が、ついているのかと疑いたくなるくらいだ。

「お、その最強のトラベルシンの艦から、新たな情報が来たぜ。エドリー・ヴェルビルスの乗っている敵の旗艦は、ずいぶん前に戦場を後にして、戦い続けている味方を放り出したまま、すたこらさっさと逃げ去っていたみたいだな。」

「逃げたって、どこへ?」

「ええっと、この座標からすると、『北ホッサム』族の占有宙域だな。『モスタルダス』星団のすぐ外で、最近奴らが強大な戦力を集結させつつある宙域だ。」

「なんだよそれ。『モスタルダス』星団を何度も侵略して、住民を恐怖に陥れ続けている奴らだぞ、『北ホッサム』族といったら。エドリーにとっても、敵と言って良い存在じゃないか。」

「表面的には敵でも、陰では内通しているなんて、よくある話さ。現状の『北ホッサム』族が強大な戦力を手に入れつつあるのだって、実はエドリーが、裏で何らかの協力をしていたのかもしれない。味方や仲間を侵略者に売って、自分の地位の安定や将来の繁栄を守ろうとしたのだろうさ。」

「くそっ!なんて奴だよ。みんなを拉致監禁して戦争に巻き込んだり、ジャジリを死に追いやったりしておいて、自分は安定も繁栄も手に入れようってか!? そのために仲間を裏切ったり、裏で敵と通じていたりすらもしていたっていうのか!ふざけるなっ!

 追いかけようぜ、あいつを。『北ホッサム』族の占有宙域に逃げ込む前に、血祭りにあげてやろう。ジャジリの一番の仇なんだ。そしてこの戦争の原因どころか、『モスタルダス』星団にあらゆる不幸を招く元凶みたいなやつでもあるんだ。生かしちゃおけねえ。許してもおけねえ。あいつだけは、確実に息の根を止めてやらなくちゃ。」

 息巻くゴドバンが、身を乗り出すようにして主張したが、それを台無しにする報告を通信担当が口にした。

「いや、旗艦からは、追撃は許可しないと言って来ている。トラベルシンの命令としてだ。逃げる敵は、そのままにしておけということらしい。」

「何でだ?逃がしたら、また態勢を整えて、攻撃してくるかもしれないじゃないか。将来の不安の種を、みすみす見逃すなんて。それに『ザキ』族の中にだって、あいつのために命を落としたり不幸な目にあったりした奴は、少なからずいるはずだろう。『ザキ』族にとっても仇なんだぜ。俺たち全員にとって、共通の仇なんだ、このまま見逃しにするなんて話は、ないだろう!」

「それなんがだな」

 ゴドバンを嗜める口調で、ティミムがバツの悪い顔を突き出す。「トラベルシンは、向かってくる敵以外とは、決して戦わない。逃げた敵は追わないし、無抵抗な相手にも手は出さない。先頭に立っての命知らずな突撃と同じく、我が族長が、ずっと貫いているやり方だ。」

「なんだよ、それ!そんなの、納得できるか。ジャジリを殺した奴を、許すなんて、逃がすなんて。ティミム、お前が口をきいて、何とかトラベルシンと直談判させてもらえないのか?」

「あ?じゃあ、会いに行くか、族長に。俺も報告のために、族長のもとに出向かなくちゃなって、思っていたところだ。」

 あっさりと言ってのけたティミムのこの言葉に、ゴドバンは面食らって、気勢を削がれてしまった。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2020/12/26 です。

 大規模な集団がぶつかり合う戦闘というのは、表現が難しいです。考慮に入れるべき因子が膨大で、その全てを一つの物語に盛り込むのは不可能でしょう。兵力や戦術で勝敗が決まるわけではなく、関ケ原の戦いの小早川秀秋みたいに、最期までどっちにつくのか分からない戦力も影響し得るし、表面的には命令に従っているようで、実は消極的な、遠くから自分たちには絶対に損害が出ない程度の攻撃しかしない、という戦力の影響もあり得る。同軍内での確執や仲たがいが影響する場合も、逆に敵軍に友人知人親族がいることが影響する場合もある。積極的で忠実な部下が、ちょっと勝気にはやってしまって拙速な攻勢を仕掛けたことが原因となり、優勢だった軍が敗れたりしたこともあるでしょう。

 どんな因子に注目するかで戦闘の描き方も無限に出て来るので、そこが面白いと言えば面白いし、難しいと言えば難しいです。

 そんな中で、従来のSF戦記ものではあまり注目されなかった点に目をむけた戦闘シーンを描こうとしたつもりですが、どんなものでしたでしょうか?作者の知識の不十分さで、いくらでも前例の有るものを描いてしまっているか、力量不足で描こうと思ったものを表現し切れていないか、てな感じになってるかもしれません。

 ですが、知識や力量は今後少しずつでも補っていくということで、これからも従来にない着眼点で物語を作って行くぞ、という意気込みだけは持っているので、長い目で見守ってもらえると有難いです。

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