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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第11話 捕虜の逆襲

 通信機から聞こえるクレティアンのけたたましい喚き声に対して、同じくらいけたたましい声が、ゴドバンの右隣で喚き返す。

「うるっせえなぁっ!そっちの判断で、勝手にやってくれぇ!」

 見よう見まねのティミム艦長は、戦闘艇団の運用もクレティアンに丸投げの構えだ。ザキ族どうしのためか、他の者に対するより言葉遣いが荒い。

「よっしゃ、行くぜ・・うっ、ぐぬぬ・・ぬぬぬぅ・・・・」

 電磁誘導式カタパルトでの発艦は、猛烈な加速重力で戦闘艇パイロットを苦しめる。艦から数万mも引き出されているカタパルトが、敵艦めがけて戦闘艇を押し出している。

「お?敵戦闘艇から、投降の意思が発信されたぜ。攻撃しに出て来たのじゃなくて、こっちに寝返るつもりで出て来たのか。」

「あっ、敵艦から、火柱が上がったぜ!・・2つ・・3つ、いや更に・・・5つだ。火達磨だぜ、攻撃もしてねえのに。」

「戦闘艇と、通信回線を開けるか?」

 慌てた感じのゴドバンが、右側にいる通信担当に食いつく勢いで訪ねた。

「・・・、良いぜ、呼びかけてみろ。」

「おい、その戦闘艇、ベンバレクじゃないか? 俺はゴドバンだ。この艦の、副館長に祭り上げられている。」

「おお、ありがてえ、坊ちゃんだったか。ご明察だ。俺は、ベンバレクだ。」

「俺はヤヒアだ。捕虜だったヤツらだけ引き連れて、戦闘艇に押し込んで逃げ出して来たんだ。6隻に16人も詰め込んだから、ギュウギュウだぜ。」

「俺もいるぜ。アブトレイカだ。さっきの散開弾で大パニックの艦内だったから、捕虜の俺たちが戦闘艇で出撃するって言っても、誰も止めなかったんだ。1回の散開弾攻撃で、あんなになるなんてな、お粗末な軍隊だぜ。おかげで、まんまと脱出できたんだがな。」

「ベンバレク!ヤヒア!アブトレイカ!良かった・・やったぜ。」

「おい、戦闘艇チーム、攻撃は中止だ。敵から出て来た戦闘艇は、敵ではなかったみたいだからな。ゴドバンの仲間を、攻撃するんじゃねえぞ。」

 ゴドバンの反応を見て、即座に艦長が命令を発した。返事も、間髪入れずに届く。

「そうか、戦闘はお預けか。目いっぱい暴れてやりたかったけど、相手がゴドバンの仲間だったのなら、仕方ねえな。」

「せっかく、きつい加速重力に耐えてもらったのに、悪いな。」

「まあ、いいってことよ、ティミム艦長。あんなのは、俺たちにはいつものことだからな。」

 クレティアンたちへの連絡が済んだのを見届けると、ゴドバンはベンバレクたちとの会話を再開した。

「3人とも無事なのか。あの爆発は、俺が隠しておいた爆弾を使ったのか?」

「応よ、坊ちゃん!あんたがせっせと作って仕掛けておいた爆弾を、有効利用してやったぜ。」

「坊ちゃんを殴ったり蹴ったり、踏みつけにまでしやがった野郎どもも、今頃は坊ちゃんの爆弾に、木っ端微塵の上に丸焦げにさせられちまってるだろうぜ。」

「おかげで俺たちも、追撃を受ける心配もなく、そっちに乗り移れるってもんだ。助かったぜ、坊ちゃん。」

「そうか。作った本人がすっかり存在を忘れていた爆弾が、こんな風に役に立ったか。とにかく、みんな無事で何よりだ。早くこっちに乗り込んでくれよ。一緒に『セロラルゴ』管区自営軍を蹴散らそうぜ。今の戦いじゃ、こっちの皆は気分が晴れねえみたいなんだ。」

「はははっ、そうか。上手くいきすぎるのも、考え物だな。了解だぜ、坊ちゃん。大至急でそっちに着艦するぜ。」

 手元のコンソールを操作して通信を閉じたゴドバンは、ティミムに目を向けた。

「そんなわけで、あの戦闘艇に乗ってるのは、投降して来た敵じゃなくて、敵から逃げて来た味方ってわけだ。受け入れてやってくれ。」

「もちろんだ。『トラウィ』族の軍で、戦闘艇パイロットをやっている連中なんだろ?頼もしい味方が増えるってもんだ。16人も引き連れて来たって言うなら、あの部屋で軟禁されてた連中は、これで全員が脱出に成功したことになるしな。いやあ、実にめでたい。ところで、ゴドバン」

 嬉しそうな眼をティミムは、面白がる眼に変えた。「お前、坊ちゃんって呼ばれてんのか?」

「え?・・あ、ああ・・」

「がっははははは・・」

「ぎゃはは・・・・」

 室内で、笑いが爆発した。あっちではディスプレイをにらみながら、こっちではコンソールを叩きながら、各担当が任務をおざなりにしないように苦労しながらも、腹を抱えて笑い転げている。

「い・・・いや、うう・・、くそっ、あいつら、だから、やめてくれって・・。い・・良いだろ、別に・・」

「も・・ははは・・もちろんさ。何も、問題なんか・・はは・・ねえぜ、坊ちゃん。あっはっはっは・・・」

「ああ、ぎゃははは・・。何も悪くなんてねえさ。悪くねえが、ぎゃっははは・・、ぼ・・坊ちゃん・・て・・・ははは・・」


 ベンバレクたちを収容した後ゴドバンの乗る艦は、3個の「セロラルゴ」管区自衛軍戦闘艦を撃破した。いずれも単独ではぐれてしまっていた艦だ。捕虜とされた者は乗っておらず、自衛軍兵士だけしかいないと分かった艦に対しては、攻撃を繰り出すのにも遠慮や情け容赦は、彼らには無かった。

 最初のは、味方だと思わせている間に、散開弾による反復攻撃で滅多打ちにした。表面構造物を残らず薙ぎ払われた敵艦に反撃の余地はなく、徹甲弾に切り替えてのミサイル攻撃にも、成す術がなかった。

 重くて硬い弾頭を備え、ロケット噴射の強加速で突進していく徹甲弾は、敵艦の重装甲を突き破って奥深くにまでめり込んで行く。内側からの圧力には簡単に砕けるように作ってある弾頭は、内部炸薬の爆発と同時に狂暴な金属片の濁流と化し、高熱の爆風と共に敵艦内を駆け巡る。

 そしてそこにある重要機器を破壊し、燃料の引火や弾薬の誘爆をもたらし、乗員を殺傷し尽くす。それが徹甲弾だ。

 健常な戦闘艦が相手ならば、滅多に命中なんてしない。最終加速に入る前にレーザーを照射することで、簡単に迎撃できてしまう代物でもあるから。

 だが、散開弾攻撃で表面構造物を薙ぎ払われ、弾の位置や運動状態を知るためのレーダー走査も、迎撃のためのレーザー射撃も、敵艦にはできなかった。破壊と殺戮を、無抵抗に受け入れざるを得なかった。

 徹甲弾でほぼ沈黙状態となった敵艦に、ゴドバンたちの艦はとどめのプロトンレーザーを食らわせた。反物質動力炉を撃ち抜かれた敵艦は、一挙に解放された天文学的熱エネルギーに焼き尽くされた。眩しく輝く巨大光球という姿を経た後には、塵さえも残さずに全てが、原子未満の素粒子にまで還元された。重装甲も、重武装も、幾百の人命も。

 2つ目の敵艦には、こちらが敵だと初めから気付かれていた。「セロラルゴ」管区自衛軍の識別信号を発してはいたが、先に撃破された件の艦から、連絡が伝わっていたものと見える。遠距離からの散開弾攻撃には、爆圧弾による防御を繰り出して来たし、先方からも、散開弾攻撃を見舞って来た。

「坊ちゃん、任せておけ。」

 これに対しては、ベンバレクをはじめとした「トラウィ」族や、クレティアンたち「ザキ」族によって編成された戦闘艇チームが、獅子奮迅の活躍を見せてくれた。

 敵の散開弾攻撃を爆圧弾で吹き飛ばして防御するのは、素人ばかりの即席軍団には、荷が重かった。絶妙な位置とドンピシャのタイミングで爆圧弾を炸裂させないと、敵の散開弾がまき散らした金属片群を上手く弾き飛ばせない。猛特訓を重ねた、プロの仕事だ。

 素人軍団を補うべく戦闘艇チームが、代わりに爆圧弾を発射して金属片を弾き飛ばし、艦を守ってくれた。その上更に、敵艦への攻撃までをも敢行した。

 戦闘艇に積み込むミサイルは、戦闘艦から放たれるそれらよりずっと小型で、威力も小さいものなのだが、彼らの巧みな戦術がそれを感じさせなかった。

 敵がばら撒こうとした金属片が広がり切る前に、急進肉薄して爆圧弾を炸裂させることで、母艦に向かうそれらの大半を排除してみせた上に、立体的に敵艦を包囲して放たれた攻撃ミサイルは、1回の一斉攻撃で敵を沈黙に陥れた。彼我の実力に決定的な差がなければ、あり得ない戦果だと言えた。

 攻撃ミサイルの弾種は、プラズマ弾だった。重装甲を誇る敵艦の奥深くに損傷を与えられる弾種ではないが、広範囲に広がるプラズマが作り出す灼熱と強力な磁場が、表面構造物の破壊だけでなく、内部の電子機器にも一時的なマヒ状態を強いる。

 沈黙させられ無抵抗な敵艦にならば、徹甲弾を打ち込むのは素人軍団にも容易だ。2つ目の艦も、徹甲弾に火達磨にさせられ、とどめのプロトンレーザーで巨大な光球に姿を変えられ、塵一つ残さずこの宇宙から掻き消されたのは、最初のヤツと同じだった。

 最後の敵も、こちらを敵と認識はしていたが、最初から無抵抗に近かった。別の「ザキ」族軍の戦闘艦に攻撃され、既にズタボロの状態だったようだ。戦闘艇を繰り出す反撃だけは見せたが、「トラウィ」族や「ザキ」族からなる戦闘艇チームの敵ではなかった。数ではやや敵が上回っていたのだが、たちまちにして蹴散らされ、こちらには1隻の損害もでなかった。

 宇宙での放浪経験が長かった航宙民族は、加速重力や宇宙線への耐久力が概して高く、戦闘艇パイロットとしての素質が抜きに出ている。定住型である「モスタルダス」星団土着の民族がほとんどを占めているのが「セロラルゴ」管区自衛軍だから、その兵士が駆る戦闘艇では、初めから太刀打ちはできなかった。

 エドレッド・ヴェルビルスが連れて来た銀河連邦軍の兵士なら、身体強化手術によって航宙民族以上のパイロット適性を誇示していたのだが、彼らはほとんどが既に引退している。今の自衛軍兵士は、最近「モスタルダス」星団内で募集された土着人ばかりなのだ。

 搭載していた戦闘艇どうしの決闘に圧勝した後は、ほぼ無抵抗な敵を一方的に打ちのめす戦いとなった。最後の敵艦もあっという間に、巨大光球を経て無に帰してやった。

 敵を識別信号で欺瞞(ぎまん)できることや、優勢を確保した「ザキ」族軍の側についての戦いである分を差し引いても、素人軍団にはでき過ぎと言って良い戦果だった。

「やっぱり『ザキ』族の兵士が艦長を務めると、強くなるもんなんだな、ティミム。」

「いやあ、そんなの関係ねえよ。戦闘艇チームが強かったんだ。『トラウィ』族や『ザキ』族が中心となったチームは即席でも、見事な戦いぶりだったじゃねえか。俺なんかより、あいつらの手柄だよ、今回の戦果は。」

「俺たちなんて、大したことしてねえぜ。『ザキ』族のニイちゃんよ。」

 戦闘艇からベンバレクが、通信を使って割り込んで来た。「守らなきゃならなかった坊ちゃんを危険に晒しちまった失態を、どうにか取り返そうともがいただけだ。手柄なんて言えるもんは、俺たちにはねえよ。」

「そう言うな、勇敢なる『トラウィ』族の兵士よ。動機が何であれ、あんたたちの戦いぶりがなければ、この戦果は無かったはずなんだ。」

 勝利の余韻の中で、彼らが互いを称え合っていた時に、通信担当がやや切迫した声の報を告げて来た。

「緊急の信号だっ!救援要請が来ているぞ!民間の商船からだな、こりゃ。戦闘の巻き添えになっちまって、民間船なのに戦闘艦による攻撃を食らっちまったヤツが、いるみたいだぜ。」

「何だって?」

 ティミムが眉を寄せる。「民間を巻き込まないために、『セロラルゴ』管区から離れた場所での決戦を挑んだはずなのにな。なぜこんなところで、民間の商船がウロついているんだ。」

「商船の船籍照合が、完了したぜ。オーナーは、ジャジリとか言う商人みたいだな。」

 通信担当の報告は、ゴドバンを戦慄させた。

「な・・なんだって!す・・すぐに救援に向かってくれ!ジャジリは・・この船のオーナーは、俺の大切な人なんだ。俺を連れ出してくれた、退屈な生活から広い世界に飛び出させてくれた、恩人なんだ。」

「い・・いや、気の毒だが、今から向かっても、もう・・」

 まくしたてた迫力に圧され、戸惑い気味の声が答えた。「援護できる距離に近づくのに、1時間以上かかりそうだが、それまでには敵に、とどめを刺されちまうだろう。それどころかこの商船の状態からすると、新たな攻撃を受けなくても、俺たちがたどり着く前に船体が崩壊しちまってる可能性も、高い。助けるのは・・・」

「そ・・そんな・・。」

「上手くすれば、通信くらいは、数分後には繋げるかもな。それまでに、とどめを刺されてなければの話だが。敵はあえて攻撃をせず、商船が崩壊するのを待っている様子だから、少し通信で言葉を交わすくらいなら、できそうだぜ。」

「くそっ!ジャジリを、なぶり殺しにして楽しんでいやがるのか。ちくしょうっ!」

 敵の態度にゴドバンは憤ったが、それによって彼は、ジャジリと最後の会話を交わす機会を得られた。数分後に、通信担当から声がかかる。

「繋がったぜ、回線が。」

「ジ・・ジャジリ、聞こえるか。」

 悲壮感に染められた声で呼びかける。

「お・・おお、その声は、ゴドバンか。よかった、無事だったか。安全なところに、いるのか?」

「俺は大丈夫だよ、ジャジリ。そっちは、何とかならないのか?」

「はは・・。俺は、無理だな。反物質動力炉からの、漏洩が始まった。あと数分もしねえうちに、大爆発さ。もう、助かる見込みはねえ。間抜けなことだ、あははは・・。」

「何で、商船の主なのに、あんたがこんなところにいるんだよ?」

 ティミムが、たまらずといった感じで口をはさんで来た。

「連中に、物資の輸送を強要されてな。戦場をうろつくハメになっちまったのさ。挙句に、ぼろ負けの『セロラルゴ』管区自衛軍に、一方的にスパイ容疑をかけられちまったのさ。負け戦に対する、腹いせのつもりだったんだろうな。」

「もしかして、俺のことを人質にして、脅迫されたのか?物資輸送を手伝わなければ、俺の命がないとかなんとか・・」

「へへ・・さあ、どうだったかな。」

 死の淵に至ってまで、ゴドバンを気づかうジャジリの態度に、ゴドバンだけでなく周囲の者たちも、押し黙って耳を澄ませていた。

「ご・・ごめんな、ジャジリ。俺のせいで、そんな目に。」


 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2020/12/12 です。

 宇宙のどこかに反物質があって、エネルギー源として利用できる、なんてのは宇宙SFではよく出てくる話らしいですし、現実にも可能性がないわけではないかもしれません。ですが、本物語においては、天然の反物質は見つかっていない設定としております。が、作り出すことはできて、エネルギー保管の有力な手段となっている、てな感じです。核融合などで作ったエネルギーを、反物質の生成に使うことで、高密度に高効率で保管・利用ができるエネルギーに仕立てている、ってのが、この物語のこの時代における「エネルギー事情」です。陽電子が現代でも作り出せているので、こんな反物質利用法は充分にリアリティーのある未来像だと、作者は信じています。

 ダークマターやダークエナジーなど、現代科学ではまだ良く分かっていないものが、当たり前に利用されている世界を描くのもSF小説の醍醐味だし、それを通じて宇宙や科学に関する好奇心を読者と共有するのがSFを書く魅力だと思うので、ストーリーを導く上では不要と思えるこんな記述ですが、これからもどんどん登場させていく所存です。面倒くさいと思われる読者様もおられるかもしれませんが、なにとぞご寛容下さい。

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