16、裁縫 元宰相
「テツだけじゃない。
同期兵の多くが戦死した‥。」
ミホは静かに話し始めた。
近衛直轄軍の新兵部隊が、
ヨン連邦国との最前線に到着する直前に、
敵国の精鋭部隊の奇襲にあった。
敵は深い紫色の姿の集団であり、
バイオレットバタフライと恐れられる
シラの戦士の傭兵団であったと推測さる。
近衛軍は、
あっという間に新兵のほとんどを失った。
知らせは早馬で師団本部に届いて、
戦死者名簿にテツの名があったと言う。
テツが死んだ‥。
罰が当たったんだ。
僕に内緒でアサと付き合って、
そしてアサを簡単に振った。
僕はそう思った。
しかし、
僕の目にも涙が溜まっていた。
本当は分かっている。
テツは何も悪くない。
僕が嫉妬していただけだ。
そして、生まれ故郷で一緒に過ごした
テツとの記憶を想い起こしていた。
子供の頃から身体がデカく、
力の強かったテツはガキ大将で暴れん方だった。
ただ僕とトシに対しては
何故か暴力を振るわなかった。
正直言うと、
子供の頃は喧嘩っ早いテツとは
余り関わりたく無くて避けていたが、
彼の方は、分かっていないらしく
時々話しかけてきた。
ある時、テツが僕にもう喧嘩は辞めたと言った。
僕はどうしてなの?と聞いたら、
この前、馬乗りになって殴り続けたら、
相手が血だらけになって
ぐったりしてしまったと言う。
こんな事はもういいやと思ったそうだ。
やっぱり、テツは怖い奴だ。
喧嘩の相手は誰だか知らないが
大丈夫だったのだろうか。
アマの山の大噴火後に、僕、トシ、テツ、ミホ、
親を亡くした僕ら四人は急速に仲良くなった。
仲良くなると、
テツは本当に頼れるいい奴になった。
僕らは一致団結して困難を乗り越えて来た。
でも力の強いテツがいなければ、
もっと悲惨な目に合っていただろう。
結局僕らは故郷を飛び出しアモの種の
試練を受ける事にしたが、
なんとか無事に四人で帝都まで辿り着けたのも、
テツのおかげだ。
「テツと、同期兵達の
冥福を一緒に祈ろう。」
僕らは目を閉じて祈った。
目的地の北門に到着し馬車が止まった。
「そこ、破れてるね。ちょっと待ってて。」
ミホはそう言い、
軍服のポケットから
小さな裁縫セットを取り出した。
そして僕の前に跪いて、
先程班長に切られた僕の洋服の腹の部分を触り、
そのまま、さっと縫い始めた。
「怪我は無さそうね。良かった。
動かないで。身体に針が刺さるわ。」
彼女はしゃべりながらも手際良く縫ってくれた。
「ありがとう。」
僕はお礼を言った。
「必ず生きて戻ってね。」
「もちろんだよ。約束する。」
僕らは馬車の中で指切りした。
ミホは一緒に馬車を降りて、
僕が北門の詰所の中に入るまで見送ってくれた。
僕は僅かな距離の間に三回振り向いたが、
その度に彼女は優しく手を振ってくれた。
絶世の美女に見送られる僕を
北門の衛兵はポカンと見ていた。
僕は同郷の四人でこの北門から
帝都に入った日の事を思い出す。
そして僕は、ここから新たな旅立ちを始める。
僕は詰所の別室に案内され、
まず裏の最高親衛隊員のコウと会った。
コウは見たところ、
僕よりは20才以上は年上に思えた。
「マサと申します。
師団長から聞きました。
今回の作戦の立案に関わっているとか。
よろしくお願いします。」
「コウです。
こちらこそ宜しくお願い致します。
マサ殿、失礼ですが階級は?」
「ここに来る直前に軍曹に任命されました。
ちなみに、そちらは?」
「私に階級はありません。
実は私は脱走兵です。
捕まって重い処罰を受けるところを、
特別に救われました。
表の顔は貿易商人をやっております。
11の数字を持ち、
影の親衛隊員としての序列ナンバーは33を
拝命しております。」
「私の序列ナンバーは30ですが、
新兵であり、
そもそも部隊を率いた事もありません。
いろいろ教えてください。」
「マサ軍曹殿。
私のことは、この先コウとお呼びください。
これから私達は用意した馬で
北部のとある領地に行きます。
そこで軍曹殿には建国の四勇者の一人、
元宰相の大侯爵に会って頂きます。」
「元宰相の大侯爵?」
「はい。
大侯爵は、齢90才を超え体が弱っており、
現在、領地別荘にて療養中であります。
元々大侯爵は、熱烈なロマ教信者であり、
死ぬ前にロマ教の感謝祭に合わせて
キリ聖共和国の首都であるマドの都に
聖地巡礼する事を望んでおります。
聖共和国側からも帝国建国の四勇者である
大侯爵の巡礼は、正式に承認されております。
今回、我々はその護衛団として同行し、
アイ皇女と、その二人の子を救出致します。」
僕はふと思った。
「ちょっと待ってください。
皇女達を救出した後は、
大侯爵も一緒に逃げるのですか?」
「いえ、違います。
作戦は大侯爵の護衛の傭兵団が、
勝手に単独で行動した事に致します。
大侯爵は現地に残ります。」
「でもそんな事したら、
残った大侯爵は殺されるかもしれません。
大侯爵はこの作戦をご存知なのでしょうか?」
「はい、存じております。
万が一の場合は、
大侯爵は死期の近い自らの命を
差し出す覚悟です。」
「差し出すって‥」
僕は黙り込んだ。
「北門の外に護衛団のメンバーが
既に控えております。
彼らは、足が付かないように
入隊1年未満の帝国軍傭兵部隊より
選抜されております。
彼らには危険な護衛任務としか、
伝えていません。
作戦の真の目的は私達、二人しか知りませんので
よろしくお願い致します。
ご準備はよろしいでしょうか。
では、早速出発致しましょう。
ご案内致します。」
僕は誘導され、
北門の外に出ると
馬が5頭繋がれていた。
コウはその場で休憩していた、
他の三人の選抜メンバーを紹介してくれた。
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