最弱の妖精憑き
妖精憑きリリィのことを調べて実の娘から、おもしろい話を聞いた。
「父ちゃんがアタシに、母ちゃんの妖精はどうだ、なんて聞いたんだ。だけど、母ちゃんには妖精なんて憑いてなかった。だから、母ちゃんが妖精憑きだなんて思わなかった」
「へえ、そうなんだ」
「アンタは、すごいよな。むちゃくちゃ妖精いるから、見えない」
妖精憑きであり、元は山のエリカ様にしたてられた女エリィは、俺に憑いている妖精の数に笑った。
「俺が聞いた話だと、相当、すごい力があるって話なんだけど」
「普通の母ちゃんだよ。山歩くと、怪我して泣いたりしてた。けど、食べ物見つけるのはうまかった」
「お父さんはどんな人」
「父ちゃんかー。父ちゃんって、あれ、人間じゃないよね」
「一応、記録があるけど」
「アタシが見る父ちゃんって、人間っぽくないんだよ。なんか、黒く光ってるの。夜中に起きると、母ちゃんの傍でずっと起きてるの。あれ、怖くて泣いたよ」
「そうなんだ」
リリィの夫・ダンの出生届の記録はある。村で、ダンのことを見たことがあるのは、エリィの夫のリクだけだ。一応、リクの証言で、ダンの人相書きを作ってみた。リリィはいらないだろう。エリィを見ると、リリィを知る人全てが、似ているという。
「へえ、父ちゃん、こんなんなんだ」
「朧げなんだけどな。あれ、エリィ、どうした?」
「父ちゃんさ、背中に羽があったんだよ」
エリィは綺麗な人相書きに、不細工な羽を加える。慌てて、男爵令嬢シリンは、最初から描きなおして、綺麗な羽がある人相書きを作ってくれた。
「そうそう、こんな感じ。アタシさ、男はみんな、羽があると思ってたんだぁー。そしたら、男は羽なかったから、あ、父ちゃんが人間じゃなかったんだ、てわかったんだ」
「なるほどなるほど、参考になった。お茶、ご馳走様」
「あんま、覚えてなくて、ごめんな」
「優しいお父さんとお母さんだった?」
「ああ、むちゃくちゃ優しい父ちゃんと母ちゃんだ」
「良かったね」
酷い目にあってばかりの山のエリカ様だが、記憶の中の両親は、とても優しい善人だった。まあ、これからは、王国が守るから、酷いことはあるまい。
シリンは部下に丁重に家に送り届けてもらって、俺は、リリィとダンが埋められたという場所に行った。貴族令嬢とそこの下働きなので、墓石すらない。掘り返してみたのだが、なんと、リリィの遺骨しか見つからなかった。ダンの遺骨は影も形もなかったのだ。
エリィの話を聞いて、なんとなく予想は出来る。多分、リリィは妖精憑きではない。だからといって、ダンが妖精憑きなわけでもない。
男爵家から、色々と話は聞いた。ダンの一族は、元は人となった妖精の子孫だという。
今、甥っ子が妖精と人の間に生まれた子どもを保護している。残念ながら、子孫を残せないそうだ。そういうものがなかった。
たまたま、ダンの一族は、子孫が残せたのだろう。子孫を残し、大恩ある男爵家に恩を返し続けている。それは、未来永劫続いているのだろう。
そんな一族の中に、たまたま、先祖返りのような子が生まれた。それが、ダンだ。ダンは、妖精の血を色濃く受け継いだ。そして、リリィを愛した。
リリィは妖精憑きではない。リリィはダンという妖精に愛されたのだ。
この結果を国王である兄上に報告しないといけない。面倒だなー、とは思う。しかし、国のためにも、男爵家とそれに仕える一族を野放しにするわけにはいかない。
「王弟殿下、まだですか?」
もう、二人目の子どもを頑張っている、ハインズが声をかけてくる。はやく帰りたいよね。侯爵邸には、可愛い奥さんと、見た目が好みの義兄と、ついでに子どもがいるんだから。
「ん、行こう。ねえねえ、アナ嬢は元気? 芸術の神様のお食事は、まだ大丈夫なの?」
「最近は、僕とカイトと第四王子様で満足しているそうですよ」
「え、俺、用無し?」
「いえいえ、王弟殿下は、エリカ様とせっかく一緒になったのですから、お邪魔してはいけない、と妻が気を利かせているんです」
「さすが、エリカ様を女神と崇める人だ。助かる」
とりあえず、俺は妖精憑きとして、未だに最強だし、頑張ろう。




